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 保健室へ移動して、内科検診の順番を迎える際、天利はほけんだよりに書かれていたお知らせの内容を思い出していた。
 心臓、皮膚、貧血、脊柱側弯の有無――。
 それらを即座にチェックするとかだった。
(こ、これも何だか……恥ずかしいィ………!)
 胸の真ん中に聴診器を受けた天利は、医師の指が乳房に触れかけそうになっていて、緊張に身を強張らせていた。
(うゥゥゥ…………)
 裸の方が雑音が入らないため、正確な診察ができるとは聞いたことがある。皮膚の視触診ということもあり、同じパンツ一枚の姿でも、やれ身長計だのスリーサイズなんかで意味もなく肌を出すより、まだしも必要性に納得がいく。
(男の人からの診察だし、恥ずかしいけれど……)
 我慢、我慢、我慢。
 医者であれば、女の裸など見慣れているはずだ。
(何も感じることはない。あのセクハラ教師よりはずっとマシ!)
 膝の上で丸めた拳をきつく握って、じっと堪えていた天利だが、不意に乳房を持ち上げられた時には驚愕した。
「――――――――イィッ!」
 驚きに引き攣った天利は、まるで虫嫌いの女子がゴキブリを見て慌てて悲鳴を上げたような、全身で身を引くような動きで身体を後ろに引っ込め、触れてきた医師の指から全力で逃げてしまっていた。
「だ、大丈夫ですか? 剣崎天利さん」
 医師も目を丸めていた。
「は、はい! すみません」
「心尖という箇所を聴診するため、胸が大きい場合はこうして持ち上げることがあります。これも診察ですから、どうぞリラックスして下さい」
 こんな格好で男の人の前なのに、リラックスと言われても困る。
 しかし、過剰に恥ずかしがってしまって、医師の人まで驚かせて、逆に天利の方が申し訳ない気持ちになっていた。どうして触る必要があったのか、説明の手間までかけさせて、随分と面倒をかけてしまった心地がした。
 それにだ。
(……もう少しでやってしまうところだった)
 気が動転した天利は、危うく力の調整を忘れかけていた。もし本当に怪力を暴発させてしまっていたら、医師や周りの子達に痛い思いをさせたかもしれない。
 もっと、自分を抑える必要がある。
(これは診察で、胸に触るのにも理由があって、相手は普通に真面目な医師。さっきのセクハラ教師なんかとは違うのだから、何も感じてはいけない。何も感じては……)
 再び胸に手が伸ばされ、医師の指先が下乳を持ち上げようと迫ってくる。ただこれから乳房を持ち上げられるだけのことが、さも絶体絶命の危機のように思えてきて、肌中の産毛が逆立った。
 ゆっくり、ゆっくり……。
 接近してくる医師の手が――

 むにっ、

 天利の乳房を持ち上げた。
(ひぅぅっ! さ、さ、さ、触られ――触られて――! 嫌ァァァァ!)
 頭が茹で上がるほどの熱と羞恥が沸き起こり、表情を激しく歪めた涙目になっている。全身の筋肉が強張るあまり、痙攣のように肩から脚までプルプル震え、あくまで仕事としか思っていなかったさしもの医師も、天利を気の毒に思う表情を浮かべていた。
(ひぅぅぅぅぅ――!!!)
 右乳房の下が終わると、左乳房も持ち上げられ、聴診器が当てられる。
(――し――しっ、診察! た、た、ただの――診察ッ!)
 必死なまでに天利は自分に言い聞かせる。
 そうしなければ、自分を抑えているのは不可能だ。
 しかし、背中の聴診は後ろを向いていられるため、せめて一時的には乳房を視線から守れることが天利にとって救いになった。生の背中に聴診器がペタペタ動き、その都度深呼吸をして肺の音を聴いてもらうと、そこで聴診は終了した。
「えーっと、視診しますからね? 立って下さい」
「……はい」
 次の行われるのは、皮膚の色合いから栄養状態を確認したり、胸郭の形態などから各種疾患を確かめる視診行為だ。
 つまり、ジロジロ見られた。
 直立した天利のボディを上から下まで、それこそ嘗め回すようにくまなく観察して、医師はあくまで診察を行っている。
 乳房を至近距離から眺め込み、肋骨や腹のあたりまで確かめる。
 リンパ触診のために内股へ手を差し込み、揉むようなことまで行われ、天利の顔は既に極限まで赤くなっている。
(……うううっ、こんなァ! こんなァ!)
 今すぐにでも泣き喚きたいほど恥ずかしい。
「後ろを向いて下さい」
(――早く終わってェェェェ!)
 終わらない。
 脊柱側弯症についての診断を行うため、医師は天利の背中をじーっと見ていた。髪が長いためどけるように指示が出て、背中でじっくりと視線を浴びた。
 医師のさらなる指示で、両手を真っ直ぐ前へ伸ばし、手の平と平を重ね合わせた状態のまま前へ前へと前屈していく。左右の肩の高さに違いはないか、背骨に歪みはないかなどのチェックがなされ、前向きでも同様の指示がでた。
「最後に乳房を触診します」
(そ、そんなァァ……)
 医師の両手が乳房へ伸びた。
(うぐゥゥ――嫌ァァァァ――――)
 張りのある丸い膨らみに手を這わせ、表面の形状をじっくり確かめていくような、皮膚だけを撫でる手つきが両胸で動きまわる。
 次に十指が蠢いて、天利の胸を揉みしだいた。みっしりと詰まった肉が、医師の手の中で形を変え、弾力が指を押し返す。左右を鷲掴みにして、指に強弱をつけたり躍らせるようなも見方で、医師は自分の指に意識を集中していた。
(こんなに揉まれて……嫌ァァァ…………)
 両手とも片方の乳房に触れ、右乳房のあらゆる箇所をつまんだり、指を押し込むことを繰り返して、医師は疾患の有無を探している。両手の平でプレスをするように圧したり、ポイントごとに指を置くまで押し込んで、左の乳房にも同じことを繰り返す。
 再び両胸を鷲掴みに揉みしだき、沈められた指が乳肉に埋まって隠れていく。乳房に埋まった指が蠢き、乳峰が揉み捏ねられ、天利の胸は柔らかな変形を披露した。
(お願い……もう終わってェェ…………)
 天利の果実は揉まれ続けた。

 もみ、もみ、もみ、もみ、もみ、もみ――。
 もみ、もみ、もみ、もみ、もみ、もみ――。

 執拗なまでの触診の末、やっと手が離れたかと思うと、今度は指先が乳首をつまんで捏ね始め、最後に強く引っ張った。
(お、終わった……長かった……)
 ふと、壁掛け時計を見た。
(あ、あれ? これで二分しか経っていなかったなんて……)
 恥ずかしいことほど長く感じる。
 天利にとっての二分間は、一時間にも二時間にも匹敵するほど濃密なものだった。


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