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「なかなか大きい胸だなぁ?」
「うぅぅ……」
「こういうプルプルが男を誘うんだぞ? 男を」
「うぅ――――」
 スリーサイズの測定順がまわった天利は、今度は両手を頭の後ろに組むように指示を受け、測定が終わらない限り隠すことは許されなくなったていた。
 当然、まじまじとした視線が向けられる。
 中年のスケベオヤジとでも言うべきこの先生は、冗談めかした笑顔を浮かべ、何の遠慮もなしに天利の乳房を眺めていた。
 見せるためではなく、測定だから隠さないようにしているのに……。
 天利が自分を抑える努力をして、つい怪力を使ってしまうことがないように、必死に恥ずかしさを我慢しているのに、そんなことを知る由も無い中年教師は、女子高生のおっぱいを自由に眺めることができて、お得で嬉しい表情を浮かべていた。
「お前のオッパイはクラスで一番なんじゃないか?」
「そんなこと……言わないで下さい…………」
 いやらしい言葉をかけないで欲しいのは、至極真っ当な意見に過ぎなかった。
 しかし、この中年教師にとっては気に障る意見らしい。
「何を言っているんだ。いいか? これはお前達生徒のためにやっていることだ。剛寒市の治安の悪さは知っての通りだろ! どこかで虐待を受けていないか。悪い仲間を作って、刺青でもしていないか。麻薬の変な注射跡はないか。そういうことを確かめるため、我々教師には全生徒のパンツ一枚姿を確認する義務があるんだ」
 説教を始めた中年教師は、スリーサイズの測定をそっちのけにして、天利に対してくどくどと言い聞かせる。
(この先生も、これで悪意がないというの?)
 説教ばかり続くなら、せめてそのあいだだけでも胸を隠していようと、天利はそっと両腕で胸を覆う。
「こら! 何隠してるんだ!」
「……す、すみません」
 悲しい思いで頭の後ろに両手を組み直す。
 ――どうして私が謝っているのだろう……。
 中年教師は腰を屈め、わざわざ顔を乳房に近づけながら、至近距離で観察しながら長々と話を続ける。
「剣崎天利! 文句を言ったのはお前だけだぞ? 確かにプルンプルンのでかいオッパイを見せびらかすのは恥ずかしいだろうが、みんなきちんとしているだろう! 貧乳だろうと巨乳だろうと、恥ずかしいのはみんな一緒だ。自分だけわがままを言って、おっぱいを見せるのが恥ずかしいなんて許されないぞ!」
 声を荒げる中年教師の口からは、汚いツバが飛び散って、天利の乳肌にかかってくる。ゾッとするほど不愉快だったが、こうして怒られている状況で身を引いたり、嫌そうな顔をすることはできなかった。
(私はただ、セクハラみたいな言葉をかけるのはやめて欲しいと言いたかったのに……)
 物凄く、悲しくなった。
「もう一回謝りなさい!」
 どうして、自分が謝るのだろう。
 天利が悪いのだろうか。
 そんなはずはない。
 はずは、ないが……。
 ここで反論を繰り返しても、中年教師はますます怒り、測定の後がつかえてクラス全体の迷惑に繋がる。天利が謝らない限り、この場は収まりそうになかった。
 だから、謝ることにした。
 おかしな理屈だとは思っていても、我慢しながら謝罪の言葉を喉の奥から搾り出した。
「……はい。申し訳ありませんでした」
 天利の胸に敗北感が満ち溢れた。
 ただおっぱいを隠したり、真っ当な言い分を口にしようとしただけで、ここまで理不尽な説教をされる機会など、この身体測定をおいて他にないだろう。天利の謝罪を聞いた中年教師は、満足そうな勝ち誇った顔を浮かべて、納得したように一人で何度も頷いていた。
「よし。じゃあ計るからな?」
 中年教師がメジャーをまわし、わざわざ乳房の上で目盛りを合わせるようにして、ぴったりと巻きつける。
(か、顔が近い……)
 目盛りを読むため、中年教師は乳房にぐっと顔を近づけていた。
「90センチ!」
 必要以上の大声だった。
(そんな、みんなに聞こえるように言わなくても……)
「こんなにプルプルのけしからんサイズだから恥ずかしいんだな。いっそ貧乳だったら、みんなみたいにきちんと我慢できるのになぁ?」
 巨乳だろうと貧乳だろうと、恥ずかしいのは一緒だと言ったばかりで、この中年教師はもうそんなことを言い出していた。
(この先生は……!)
 天利は憤り、歯軋りの音を鳴らす。強く歯を食い縛り、組んだ両手の肩から指先にかけての筋肉を緊張させることにより、懸命になって自分の暴発を抑えていた。
「さて、次はこのセクシーな腰だな」
 中年教師はくびれのカーブをひと撫でする。
「――――ひッ!」
「なに可愛い声を出してるんだ? さっさと計るぞ?」
 ウェストにメジャーが巻かれ、ヘソの近くで目盛りが合わさる。
「60センチ! 60ジャストだ!」
 やはり、大きな声で読み上げられた。
「そんな大声で……」
 つい、口答えしかけてしまう。
 当然、中年教師は良い顔をしなかった。
「なんだ? また何か文句でもあるのか」
「い、いえ……ありません…………」
 ここは潮らしくなるしかない。
「そうだ。そうやって大人しくしてればいいんだ」
(本当に我慢していていいんだろうか。本当はもっと、問題のある教師として糾弾していくべきなんだろうか)
 これでも悪意が察知できないということは、この中年教師はこれで自分が正しいと信じているのだ。自分こそが正しくて、いちいち口答えをする女子の方が悪い。この先生の頭の中ではそういうことになっているのだ。
「ほら、そのプリケツを計ってやるから、パンティに包まれたお尻を俺に向けろ」
「……はい」
 天利は中年教師に背中を向け、すると先生は遠慮も無しにお尻を叩く。

 パン、パン、

 まるで孫でも可愛がっているように、軽い力でペチペチとやりながら、そっと撫でさえしてきている。明らかな痴漢行為にすら悪意はなく、つまり中年教師本人の気持ちとしては、女子生徒の成長を誇らしげに見守っているに過ぎないのだ。

 パン、パン、
 パン、パン、

 天利は耐えているしかない。
「リンゴ柄のパンティか。見たことあるぞ? 前に蔵明銀行で銀行強盗が出た時に、ユースティティが履いていたのと同じ柄だなぁ?」
(……それは私だ)
「あの時のニュースにばっちり写ったパンティは最高だったが、あれと同じ柄のが目の前にあるのは、男にとっちゃあ奇跡だよ。一度興奮したパンティを、まさか生徒が履いてきれくれるなんでなぁ! ハッハッハッハ! いいよいいよ! いや、最高だ!」
 本人からしてみれば、人の下着をダシにこんな話をして、可愛がるような撫で方まですることが、軽い世間話と同じなのだと本気で思い込んでいた。

 ナデ、ナデ、ナデ、ナデ――。

 尻たぶにべったりと張った手の平が、左右に蠢くようにお尻を撫でている。
(くぅぅぅぅぅぅ! この先生! 自分がセクハラ魔だという自覚がない! ここまでデリカシーのない男がいるとは!)
 堂々と触られている事実に顔がカァァァと熱くなり、頭から湯気すら立ち上るほど、天利の顔は羞恥に激しく歪んでいる。目に涙を溜め込んで、今にも恥ずかしさで正気を失いかねないほどに、天利は恥じらいに震えていた。
「さーて、計るかねえ。俺の予想ではケツも同じく90なんだが、さてさて、どうだ?」
 まるでプレゼントを貰った子供がラッピング包装の中身を楽しみにして、ワクワクとした気持ちで箱を開いてみるような、中年教師はそんな気持ちで天利のお尻にメジャーを巻く。尻たぶに合わさった目盛りを読むため、ぐっと顔が近づいてくる気配がよくわかった。
(……これで終わる。やっと終わる! あとほんの少しの辛抱!)
「87! いやぁ、外れた外れた。けどまあ、俺の予想は当たらずとも遠からず。デカパイが90センチでプリケツが87センチなら、全くのナイスバディってことだな。偉いぞ? お前の体はいい体だ!」
 巻かれていたメジャーが解かれ、天利のスリーサイズ測定は終了した。
(……これでこの先生から解放されたんだ)
 俯いた天利は、涙ぐんだ目元を手で拭って、その場をヨロヨロと離れていった。


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