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 今日未明――。
 悪の羞恥組織シェームズを名乗る武装集団が現れ、市内大学病院を占拠しました。

 ニュースアナウンサーが事件を告げ、その報道内容に耳を傾けた天利は、顔にマスクだけをかけて飛び出した。
 犯人達の要求はこうだ。
『一時間以内にユースティティアが現れなければ、十分ごとに人質を一人殺す!』
『制服で来い! あのスーツでは楽しめないことがあるからな』
 わざわざ服装を指定して、何を企んでいるのかはわからない。
 しかし、武装集団の狙いはユースティティらしい。
「お前達! 人質を解放しろ!」
 天利は制服のブレザーを着て現場へ駆けつけ、教室へと突入した天利は、シェームズのメンバーに声を荒げた。
 メンバー達は軍服に軍用ヘルメットを被った姿をして、全員が白い仮面で素顔を覆い隠している。両腕で銃器を抱え、胴体を縄巻きにした人質を一箇所に固めておき、数人体勢で人質の不審な行動を見張っているようだった。
「来たな? ユースティティア」
 メンバーの一人が、天利に一歩踏み出してくる。
 人質に銃を向けられては厄介だが、怪力を利用すれば一瞬で移動して彼らを倒せる。タイミングを見計らえば、なんとか全員救えるはずだ。
「今すぐに投降しろ。そうすれば手荒な真似はせずに済む」
「それはこっちの台詞だぜ?」
「何?」
「人質がここにいるだけだと思っているのか?」
 おもむろにメンバーの一人が部屋の電気を落とし、プロジェクターを使って大型スクリーンに映像を投影する。
「――――なっ!?」
 そこに映ったのは、同じく胴を縄巻きにされ、猿轡で声も封じられた女性の人質だった。画面の中にいる複数のメンバーが、いつでも射殺できるように銃口を向けており、怯えた女性達の狼狽しきった表情は、画面越しでもよくわかる。
「あの人質は十キロ以上先にある遠くに置いてあってよ。たとえ目の前にいる男の人質を救うことはできても、どこにいるかもわかんねぇ遠くの女までは手が届かない。そうだろ? スースティティアさんよォ」
「……くっ!」
「カメラスタッフがいるのがわかるだろう? カメラの前に立って、カメラ目線になれ!」
 軍服姿のメンバー達の中には、まるでテレビ撮影でもするようなカメラ機材やマイクなどを担いだ構成員がいて、それぞれ持ち場についてユースティティアを映そうと活動していた。
「これは一体……」
「それと、もう一つ面白いもんを見せてやる」
 映像のチャンネルが切り替わる。
 すると――。

 そこにはパンツ一枚で身体測定を受ける姿が映し出されていた。

 ちょうど赤面しきった剣崎天利が、身長計で背筋を伸ばし、頭上にバーを下ろされているシーンが流されて、天利は真っ赤になって動揺した。
「――なッ、なな、な、なんで! こんなァ!」
「おっと! 騒ぐなよ?」
 再びチャンネルが変わり、映像は人質の場面に戻る。画面に向こう側にいるメンバーの一人が、回し蹴りで人質女性の一人を蹴り抜き、蹴られた女性は即頭部を打たれて横転した。
「や、やめろォ!」
「だったら、余計な真似はするなよ? ユースティティア。お前が少しでも不審な行動を取ったり、ましてや俺達を倒そうなんてことをすれば、今度は蹴飛ばすだけじゃねえ。お前が抵抗するたびに一人ずつ死人が出ることになるんだぜ?」
「卑劣なことを……」
 居場所もわからず、ここから遥か遠くにいるらしい人質など、さしもの天利も助け出すことは不可能だ。
 チャンネルが、身体測定の場面に戻る。

『ほら、そのプリケツを計ってやるから、パンティに包まれたお尻を俺に向けろ』

 流されるのは、天利が中年教師に背中を向け、お尻をパンパンと叩かれている場面だった。
「ほほーう? よく撮れてんじゃねーか」
「うぅぅぅ――」
「あの生徒は誰かに似てるなァ? もしかして、ユースティティアの素顔なのか?」
「そんなことは……」
「まあいい。あの剣崎天利という生徒の盗撮映像を、ここにいる男性諸君でじっくり鑑賞してやろうじゃねーか」
「そんなァ――――」
 天利は震えた。
 数日前に学校校舎で悪意を感じ、送球に校舎内を見回ったが、実際には誰一人の悪人も発見できなかった。きっと、あの時から盗撮カメラは仕掛けられ、天利が気づくよりも素早く撤退していったのだ。
「さあ、みんなで鑑賞するんだ! そのための男の人質だけを残し、こうして悪の羞恥組織としての使命を真っ当しているんだぜ?」
「まさかそのためだけに?」
 武装者に先導された人質は、おそらく三十人以上はいるだろう。全ての視線が画面中の天利へ向かい、撫でられている尻を見つめる。もちろん生身の天利を直接見ているわけではないが、ショーツ越しの尻を視姦されている気分になり、羞恥心で腰が震えた。
「さて、改めて言わせてもらうが、あれがユースティティアの正体だ! ここにいるヒーローは学校では恥ずかしい検査を受け、こんなセクハラみたいな目に遭ってるのさ!」
 人質達へ向かって秘密の正体を発表され、男達のごくりと息を呑む音が聞こえた。
「ユースティティア。お前の正体をバラしたのは、今はここにいる連中だけだが、抵抗すれば全世界にバラす! そして、盗撮映像も全校生徒分のデータがある。お前が抵抗すれば、お前一人だけではなく、より多くの女の子の裸が世界にバラまかれるんだぜ?」
「……卑劣な」
 天利は憤りで拳を握り締め、何もできない悔しさから、ただただメンバー達を睨んでいた。
 人質、正体、盗撮映像。
 三重もの弱みを握られては、どんなに大それた力があっても、大人しくしている以外の道は失う。戦うことさえ出来ればこんなことはないのにという歯がゆさと、自分のパンツ一枚姿の映像を何十人にも鑑賞されている恥ずかしさが、胸の奥底で激しい感情の渦となって吹き荒れていた。

『87! いやぁ、外れた外れた。けどまあ、俺の予想は当たらずとも遠からず。デカパイが90センチでプリケツが87センチなら、全くのナイスバディってことだな。偉いぞ? お前の体はいい体だ!』

 中年教師の発する大声は、映像を介してさえも男たちにスリーサイズの情報を伝え、おそらくこの場にいる全員の耳に胸とお尻のサイズを知られてしまった。
(先生のバカ!)
 ここにはいない教師を恨めしく思いながら、両の拳を握り締める。恥ずかしさに顔を上げていられなくなり、顎が鎖骨にくっつくほどに下を向き、ただ大人しく震えていた。
「ユースティティアのスリーサイズは、上から90・60・87だ!」
 いつの間にかマイクまで握り締め、メンバーの一人がノリ良く声を上げていた。
(私の秘密がこんなに大勢に……)
 スーツを作るために必要だから、今までは丸藤円太だけに教えてあった情報が、こんな形で十数人にも知れ渡った。
「では内科検診での様子を見てみよう!」

 もみ、もみ、もみ、もみ、もみ、もみ――。
 もみ、もみ、もみ、もみ、もみ、もみ――。

 乳房を触診され、真っ赤に染まり上がった表情が、極限まで羞恥に歪んで涙ぐみ、今にも泣き出しかねない顔が映った。

「――イヤァァァァァァ! やめて! こんなことォ!」

 天利は悲鳴を上げ、その場にしゃがみ込んだ。
「おおっと! 今は服を着ているのに、やはり映像を介していても、おっぱいを揉まれる姿を見られるのは恥ずかしい! ユースティティア! しゃがみ込んだぞォ!」
 マイクを握るメンバーは、まさしく実況者になりきって、天利がしゃがみ込んだたった今の様子を楽しげに実況した。
「では! ここで恥ずかしがっている表情をじっくりと見てみましょう!」
 映像の一時停止。
 恐る恐る、天利は自分の映るスクリーンを振り向いた。

 そこには涙の溜まった目尻を強張らせ、頬も眉も唇も、全ての顔のパーツを歪めて恥らう天利の顔が、画面いっぱいのアップで映されていた。

 あの日の自分は、ここまで恥ずかしそうな表情をしていたのかと、こんなにまで赤面しきって耳まで赤くしていたのかと、天利は強い衝撃を受けた。
「あ、あれが――あれが――わ、わた、わたしの――顔――――?」
「いい表情ですねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 馬鹿にしているような、関心しているような、下品な笑みを浮かべている。

 ――ハハハハハハハ!

 武装メンバー達にも、笑いのどよめきが広まった。
「ここで我々シェームズの目的を明確にしよう!」
 実況者は語る。
「悪の羞恥組織シェームズは、本物の羞恥映像を製造・販売する闇のAV業者である」
(え、AV!?)
「脱ぎなれたAV女優は一切使わず、羞恥心の強い女だけをターゲットにして、恥ずかしい目に遭わせていき、映像を高値で取引することが目的なのだ!」
(まさか! 私はAVの出演者にさせられているということ?)
 TV撮影ばりのカメラスタッフが天利を包囲しているのも、ギャラリー役として人質男性を使おうとしているのも、天利をアダルト撮影に起用するためなのだ。
 そして、盗撮映像を本人に見せつけ、それを何十人もの男達で同時に鑑賞。乙女の羞恥を煽るようなシチュエーションが、既に撮影されてしまっている。盗撮映像自体も売れるなら、今さっきしゃがみ込んだ天利の様子も、その手の羞恥マニアにとっては見応えあるワンシーンとして、将来映像の買い手となる男達の心をくすぐるのだろう。
(そんな! そんなの嫌ァ!)
 自分の映像が不特定多数に発信される未来を想像して、天利は羞恥にガタガタ震えた。
「これから、人質の皆さんには、衆人環視の中で恥らうユースティティアというシチュエーションの撮影に協力して頂きます!」
 高らかに告げた実況者は、司会まで兼ねてこう告げる。
「拒否権はありません! ここにはいない女性の人質達は、あなた達男性諸君にとっては友達であったり恋人であったり、それぞれ大切な人のはず。まさか女の命を見捨てたりなんてしませんよね?」
 彼は悪辣な笑みで男性陣を脅迫していた。
 ここにいる人間達は、みんなシェームズには逆らえない。
「さて、私の名前はハジィです。もちろん本名ではありませんが、実況及び解説・司会などは全てこのハジィが担当致します!」
 ハジィは言う。
「人質の皆さんは、ユースティティアの姿がよーく見えるように、周囲を取り囲むようにして下さい! 従わなければ女性の人質が犯されるなりしますからね?」
 脅迫を受けた人質男性約三十人は、ぞろぞろと立ち上がり、天利の周囲を円で囲むような形で集合する。四方八方を包囲され、これだけの男に囲まれた天利は、ただそれだけで不安と恐怖にかられていた。
 人質だけでおよそ三十人前後なら、撮影スタッフや武装したメンバーも含めれば、一体何人の男がいる計算になっるだろう。
 五十人? 六十人?
 人数なんてわからないが、それだけ多くの男だけがこの部屋には収容され、天利はその中でただ一人だけの女の子なのだ。
「では、これから楽しいパンツ当てクイズを始めましょう!」
 ハジィの高らかな宣言により、シチュエーションAVの撮影は開始された。


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