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 ハジィが説明する『パンツ当てクイズ』のルールはこうだった。
 まずはハジィが天利のスカートの中身を覗き込み、柄や色に関するヒントを少しずつ出していく。答えのわかった人質が挙手をして、天利のパンツを言い当てる。色と柄を両方とも言い当てる必要があり、例えばイチゴパンツであれば「ピンクの生地にイチゴの刺繍」といった具合に答えなくてはならない。
 正解者が出れば、女性の人質を何人か解放するつもりらしい。
 そして、もしも正解者が一人もいなければ、ランダムに一人殺害する。
 男性陣に与えられるチャンスはたったの三回。三回の回答で三回とも不正解となった場合、誰かの命が犠牲となる。
 この恥ずかしいゲームには人の命がかかっていた。
(恥ずかしいけど、このゲームではパンツだけ……)
 頬を朱色に染めた天利は、肩を羞恥に震わせながら目を伏せる。
(もし人質を解放するのが本当なら、一人でも多くの人を助けないと)
 心を決めた天利は言う。
「い、いいだろう! この状況では仕方が無い。答えがわかったら遠慮なく挙手をして、私のパンツを言い当てるんだ!」
 しかし、その声は震えがかっていた。まるで喉笛が振動して、そこから上ずった声が絞り出されたような、恥じらいの篭った声だった。
 パンツなんて見せたくない。
 だいたい、色と柄を言い当てるゲームだなんて、女の子を遊び道具のように扱いすぎだ。
 しかし、人質の命を考えると、パンツを見られて恥ずかしいだなんていう気持ちは、一体どれだけ軽いものだろう。
 どの道、選択肢はない。
 決心するしか、ないのだ。
「ではユースティティアさん! 皆さんから答えが見えないように、こちらの教壇の裏へ移動して下さい!」
 本来なら大学講師が授業を行うための教壇へ回り込み、人質男性陣の角度からは、スカートさえも視界から隠される。
 しかし、中身を覗いてヒントを出すという役目のあるハジィと、ユースティティアの恥じらい姿を撮るカメラスタッフは、天利と一緒に教卓まで移動してきていた。
「さあ、ユースティティアさん! そのスカートをたくし上げ、私にあなたの可愛いおパンツをお見せ下さい!」
(制服で来いというのは、こんな趣向を凝らすためだったのか)
 カメラスタッフは方に大型カメラを担ぎ、床に片膝をついた姿勢で天利のスカートあたりの高さにレンズを向けている。
(……これでパンツを見せてしまったら、カメラにも写される)
 緊張に震えた手つきでスカート丈を両手に握り、恥ずかしさを堪えながら、溢れんばかりに湧き出る羞恥を抑えながら、天利はスカートを持ち上げ始めた。
「今、両手に握られたスカート丈が、ゆっくりゆっくりと持ち上がり、まずはその太ももがしだいに姿を現します」
(じ、実況!?)
「おっ、手が止まった! あと1センチ! あと1センチほどでパンツが見えそうな位置で、ユースティティアは恥ずかしさからか手を止めてしまいます。握り締めた拳に力が入り、手首の先がプルプル震える。随分と恥らっておいでですねぇ?」
 人を小馬鹿にするような語尾の口調が、天利の屈辱を煽っていた。
「くぅ……! そんなことは……!」
 歯を食い縛り、天利はスカートを持ち上げる。
 ハジィは舐めるような視線で天利のパンツを眺めつくし、遠慮ないニヤけた表情で天利のことを見上げている。
「さあ、見えました! これは良いおパンティですねぇぇぇぇぇぇぇ?」
(お、おパンティって……)
「ユースティティアちゃんな何年生でちゅか~? こーんな可愛い動物の柄入りなんて!」
(そんなことまで言われなくてはいけないなんて……)
 天利は羞恥に固く目を閉ざす。
「色は? さて、可愛い色だ。一般的にはエロい色、いやらしーい色ともされますねぇ?」
 あまりにもわかりやすいヒントは、答えがピンク色だと教えているも同然だ。自分の履いている下着の色が知れ渡り、ますます恥ずかしい思いに駆られ、スカート丈を握る拳をさらに強めた。
「そんな可愛い色の上には、動物のマークが十二個ありますねぇ? まだ答えのわかる人はいませんか?」
 天利のことを煽りつつ、ハジィは衆人環視に向けても尋ねていた。
(……そうだ。みんなが私のパンツを想像してるんだ)
 誰かが正解を言えば、女性の人質が何人かは解放される。逆に三回のハズレによって一名を殺害することが予告され、この場にいる人質男性全員が、天利のパンツを『真面目に』想像しているに違いなかった。
 さながら、合格のかかった受験生が必死に頭を捻るような気持ちで、本当に真面目に……。
「さて、人質男性の数は三十五人。つまり、三十五人が想像するユースティティアの可愛いパンツが、それぞれ頭の中にある状態ってわけですねぇ?」
 天利に向かって、煽るように言ってきた。
 ……恥ずかしい。
 しかし、人の命がかかっている。
 どんなに恥ずかしくても、人命を最優先に考えるべきだと思った天利は、羞恥に震えきった上ずり気味の大きな声で、男性達に向かって言い放った。
「こ、こ、この人の言う通りで――可愛いとされる色がベースで、そ、その――動物の柄マークが入っている! い、色と、どど動物の名前が一致すれば、せ、せせ正解だ!」
 何度も言葉をつっかえながら、天利は言った。

「ハイ! 色はピンク! 柄はクマです!」

 一人の若い男性が、挙手をしながら答えを述べた。
「不正解! 残念! ああ、色は当たっているのに柄がハズレです! 惜しい! これは実に惜しいです!」
 ハジィはわざとらしいテンションで、必要以上に騒ぎ立てた。
 そして、回答者の若者に向かって問いかける。
「あー……。それにしても、あなたはユースティティアさんのパンツがクマだと想像していたわけですね?」
「は、はい」
「具体的にはどういうクマさんのおパンツを想像しましたか? クマさんのお顔マークを浮かべたのでしょうか。それとも、全身を描いたシルエットなどでしょうか」
「あの……その答えも必要――」
「答えて下さい。でないと、人質が暴力を受けますよ?」
「わ、わかりました! 答えます! 具体的には可愛い色合いのピンクで、顔型のシルエットが散りばめられたものだと想像しました」
 脅迫を受けたことで、彼は自分の想像をきっぱりと口にした。
(そうだったんだ……)
 回答者の抱いていたイメージが明確に伝わって、そこまで具体的なパンツを想像されていたのかと痛感した。
 三十五人が、他にもそれぞれのイメージを抱いている。
 ブタ、パンダ、イヌ、ネコ。
 はたまたは、もっと別の動物だと読んでいる男もいるはずだ。
「ヒントが足りないようですので、もう少しだけサービスしましょう。ユースティティアさんは背中向きになって、私にお尻を向けるようにして下さい。教壇に手をついて、なるべく突き出すような姿勢をお願いしますね?」
 あらゆる弱みを握られて、スカートの中身まで拝まれている天利は、従順なまでにお尻を差し向け、ポーズを変えてやるしかない。
 スカートが後ろから捲られて、下着に包まれたお尻がハジィからは丸見えになった。
「マークを数えましょう。いーち」
 数のカウントを始めたハジィは――

 プニッ、

 と、指先でつつくようにして、真っ直ぐに立てた人差し指をお尻の肉に埋め込んだ。
 その瞬間だ。

「――嫌ァァァァァァァァァァァ!」

 思考の吹き飛んだ天利は、つい加減を忘れてしまい、両手の怪力で教壇の板に圧力をかけてしまう。上から真っ二つに割るようにして、天利は教壇を破壊してしまっていた。
「――しまった! つい!」
「いやぁぁぁ! やってしまいましたねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! そんなに恥ずかしかったんですかぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
 ハジィは大喜びで勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「ち、違う! 今のは抵抗の意志ではなく、見られるだけだと思っていたのが、急に触られたからつい……」
「言い訳ですかぁ? 人質がいるって、わかっていましたよねぇぇ?」
「だから私は――――」
「まあいいでしょう。人質の命は勘弁しますが、かといって脅しも足りていない。少しばかり立場を学んでいただきましょうか」
 ハジィがチャンネルを切り替えると、女性の人質がいる先ほどの中継映像が映し出され、そのうち一人がカメラ正面に立たされていた。シェームズメンバーが女性の腹に鉄拳を叩き込み、殴られた女性は痛みに呻いてうずくまる。
 きっと、同じ大学の生徒なのだ。
 映像を見た人質男性三十五人は、その生々しい悲鳴を聞いて、かなり騒然としていた。
「やめろ! その人に罪はない!」
「これでわかったでしょう? ユースティティアさん。ついじゃ済まないんですよ。ついとか、びっくりしてとか、そんなことでスーパーパワーを使っちゃったら大変でしょう? 今回はおまけで命は取りませんが、次からはあなたのせいで一人死にますよ?」
 その脅迫が天利には効いた。
「……わかった。もっと自分を抑える努力をする」
「謝罪して下さい」
 こんな奴らに謝るだなんて、一番悪いのは武力で大学占拠を行うシェームズだ。元凶である悪の組織に頭を下げるなど、それ以上の屈辱があるだろうか。
「……も、申し訳ありませんでした」
 敗北感に心をえぐられながら、天利はしっかりと頭を下げた。
「ではゲームを続行します」
 改めてスカートが捲り上げられ、下着越しのお尻が視線を浴びる。カメラも一台ではなく、パンツを映せる位置にいるカメラマンと、天利の顔を正面から映せる位置のカメラマンと、複数の撮影者が重い撮影機材を担いでいる。
「いーち」

 ぷにっ、

 指が、お尻に押し込まれる。
「にーい、さーん、しーい、ご、ろーく――」
 動物柄の個数をカウントしていくごとに、マークのプリントされた尻の位置が、その都度指先で押されていた。

 ぷにっ、ぷにっ、ぷにっ、ぷに――。

(これに耐えているしかないなんて、悔しすぎる……)
 歯を食いしばった顎が、力むあまりに震えをきたし、力の入った握り拳も爪が手の平に食い込んでいる。
 そして、そんな屈辱に耐える姿を衆人環視が見守っていた。
 天利を正面から映すためのカメラが、悔しさに全身を震わせる姿を撮影していた。

「なな、はち、きゅう、じゅう! じゅういち! じゅうに!」

 ぷにっ、ぷにっ、ぷにっ、
 ぷにっ、ぷにっ、ぷにっ、

 十二個全ての動物マークが全てつつかれ、やっとのことで、天利のお尻は指先の責めから解放された。
「動物さんのマークは前と後ろで合わせて二十四個です!」
(……それではヒントにならない)
「うーん。毛の白いイメージですかねえ? 白い種類が多いと思いますよ?」
 このヒントなら、誰かが答えを当ててくれるだろう。
 しかし、もしまた答えを外せば、チャンスは残り一回となる。最後の答えも不正解なら、シェームズは宣言通りに女性の人質を殺害するに違いない。
 誰もが慎重だった。

 じぃぃぃぃぃぃぃぃ――――。

 慎重なあまり、全員の視線が天利のスカートに突き刺さる。中身を透かさんばかりに必死に見つめ、誰もが文字通り血眼だった。

 じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――。

 透視でもしたいのかと思うほど、三十五人が集中力の限りを尽くし、あまりにも全力で天利のスカートを――その内側にあるパンツを凝視していた。
(すごく見られている……こんなに…………)
 肌が熱さに炙られているかのようで、ただ視線を浴びているだけで、太ももや下腹部の皮膚がヒリヒリするような気がしてきた。
 なんだか隠したくなってきて、スカートの上から太ももを手で押さえる。
「足が速い動物ですよ?」
 ハジィがさらなるヒントを言う。
 すると、先ほどとは別の若者が手を上げた。
「ウサギでしょうか」
 真剣な顔でそう言った。
「それはどんなウサギのパンツですか?」
「はい。ピンク色の生地にウサギの顔をプリントして、大小様々なサイズを散りばめることで、前と後ろで合計二十四匹になっているものです」
「正解! 大正解です! いやぁ、大当たり!」
 ハジィは大げさなまでに褒め称え、拍手までして正解を祝福する。人質のためとはいえ、この場にいる全員にパンツを正確に知られたのは、天利には耐え切れないことだった。
(悔しい……恥ずかしい……)
「それではユースティティアさん! 正解のおパンティを皆さんに確認して頂きましょう!」
「――――くぅっ!」
 悔し涙を溜め込んだ涙目の表情で、震えながらスカートをたくし上げる。
「さあさあ集まって! みんなで鑑賞して下さい!」
 天利を囲む男性達の群れは円を縮めて、ウサギパンツを覗こうとする視線の距離も縮まる。
(お願い……見ないで……)
 請うような視線を皆に向けると、男達は遠慮がちになって目を逸らすが、前にいる人ほど目の前のパンツをチラチラと気にかけている。
「ほら、どうしたんですか? みなさんがきちんと撮影に協力頂ければ、最終的には女性の人質は全員解放します。もちろん、あなた達も役目が終われば解放すると約束しますよ?」
 これが証拠だと言わんばかりに、ハジィはスクリーンに映る映像をテレビニュースのものに切り替える。すると、現場中継のアナウンサーがマイクを握り、たった今女性の人質が解放されたことを早口で伝えていた。
(本当に? シェームズは本当に約束通り人質を解放するつもりがあるというの?)
 だとしたら、みんな命は惜しいはずだ。
 そうすれば解放されると、連中に約束を守る意思があるのなら、ここは従うべきだと天利だって考える。
「じゃあ、じっくり拝んでいいんだな?」
 まるで免罪符を得たかのように、人質の中でも一人だけニヤけていた金髪男が、我先にと顔を近づけ視姦してきた。耳と唇にピアスをはめ、ガラの悪そうな顔つきをしているあたり、彼はもともと不良学生なのかもしれない。
「おい、見えないだろ?」
 もう一人の不良が、スキンヘッドの凶眼の男が、ニヤリとしながら金髪男と前後を変わり、天利のウサギパンツを眺めてきた。
「なあ、ユースティティアさん。俺達はじっくりねっとり、アンタのウサギパンツを視姦するべきなんだよなァ?」
(あ、悪意……! いやらしい悪意だけれど、他の善良な人達だって助かるのだし、ここで首を振るわけにはいかない……)
 天利は悲しげに頷いた。
 すると、良識を持って遠慮していた人達ですら、まるでそれが使命であるかのように目を見開き、痛いほどの視線を送って天利のパンツを凝視してきた。
(本当に何もできないというの? 従っているしかないというの?)
 せめて、女性の人質さえなんとかなれば、この場にいる人質だけなら守りきることができるかもしれない。
 戦うことができれば、きっと全てを救えるはず。
 しかし。

 じぃぃぃ…………。

 今の天利にできるのは、ただみんなにパンツを見せることだけだった。


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