護衛サリアは娼婦扱い 中編
信じられなかった。
「頼む! どうしても一発ヤりたい! 風俗に行かせてくれ!」
サリアの目の前には、金ぴかのスーツを着ながらに、床に額を擦りつける惨めな姿があった。平気で土下座ができることも信じられないが、ここまでして性欲を満たしたがる神経にも虫唾が走る。
「ありえない…………」
本気で引いていた。
何だ、この生き物は……と、本気の疑問を抱いていた。
「もし駄目だというなら、もう相手は君しかいないじゃないか!」
「頼むってば! こればかりはどうしても我慢できないんだ!」
「お前という奴は……」
サリアは心底引いていた。
欲望のためにここまで必死になる姿に、その浅ましさにこれ以上なく引き攣っていた。
「そ、そうだ! 下着を見せてくれるだけでいい! そうしたら勝手に出かけたりはしない! それならどうだ!? もちろん金だって積むよ!?」
「金などいらん」
金銭で身売りする気がないという意思表示も、この小太りには通用しない。
「金でないなら何だ? どうしたらいい!?」
「くっ、こいつは……!」
苛立ちに歯を噛み締め、サリアはますます男を見下す。
だが、こんな男であろうとロドスにとっては失うわけにはいかない人物であり、そんな重要人物が言うことを聞かない。勝手に出かける。そのために守る余地もなく勝手に死なれる可能性があるとあっては、さしものサリアも迷い始めていた。
(たかが下着でこいつの勝手を止められるなら安いのか?)
しかし、易々と体を明け渡すかのようでいい気がしない。
好いた相手を喜ばせるならいざ知らず、何らの好意も湧かない相手が喜ぶなど考えたくもない。
「こんなに頼んでも駄目ならね? やっぱり店に行くしかないよ! ああ、この部屋に誰か呼ぶのもいいね! 電話で呼べるサービスもあるからね!」
小太りはこれみよがしに端末を握り絞め、番号が頭に入っているのか、さっそくのように入力を始めている。
「よせ、いい加減にしろ」
サリアはそんな彼の手首を掴み制止した。
「だったらどうすればいいんだ!? ええ!?」
とうとう彼は怒り始めていた。
最悪だ。手に負えない。
褒められた人格ではないと聞いてはいても、ここまでな問題児だとは思わなかった。命を狙われていながら、それでも勝手に出かけたがり、挙げ句の果てにキレ散らかす。その最悪さにはいい加減辟易する。
(まったく、仕事を投げ出したくもなる)
サリアは本気で頭を悩ませた。
(……仕方ない)
不本意だが、本当に不本意だが、この男が死ねばそれはロドスの失態になる。サリア一人の失点では済むまい。企業同士の外交に関わる重篤な汚点を抱えるわけにはいかないだろう。
「下着を見せれば納得するか?」
そう尋ねた瞬間、小太りの目つきが明らかに変わった。
「え? え?」
見るからに期待の籠もった眼差しだった。
「どうなんだ」
「する! するとも! いやぁ、見抜きってやつをさせてもらうよ! ほんとね、私は動画とか画像ではどうしても駄目なもんでね? いや本当に助かるよ! まったくもってありがたい! 感謝する!」
あれほど顔を赤くして、頭を噴火させる勢いで怒っていたのに、ここまで清々しい切り替えには、もはや何も言えなくなる。
サリアは黙ってスカートをたくし上げ、下着を見せた。
そのスカートは丈が長く、和服で言うなら袴ほどになるだろう。それを両手の内側に少しずつ巻き込んで、持ち上げた中身を小太りの視線に晒す。
「おおっ? ほほほ」
彼は実に良いニヤけぶりだった。
下着だけとはいえ、良いものを拝めて実に満足な気持ちなのだろう。
「……ふん」
こういう展開など、当たり前だが想定はしていない。
誰かに見てもらうための下着など、任務中の着替えの中に含まれてすらいない。見た目やオシャレよりも、通気性や動きやすさを重視して、持ち合わせの全てがスポーツブラやスポーツショーツとなっている。
今のショーツはグレーの無地だ。
ゴムの部分だけは黒い、生地全体には何の柄もプリントもない、おそらくはつまらない下着のはずなのだが、小太りの男は嬉々としてズボンを脱ぎ、トランクスまで放り投げ、大喜びで逸物をしごき始める。
「こんなことが嬉しいのか? 俗物が」
「お? いいねぇ、その言葉!」
その瞬間、サリアはますます引き攣った。
「まさかと思うが、貶されて喜んでいるのか? そんな歪んだ性癖まであるとはな」
「いいよ? もっと言って!」
「黙れ、これ以上その口を開くな……蹴るぞ?」
「はいはい! 黙ります!」
嬉しそうに口を閉ざし、興奮の眼差しで下着を視姦する。
そして、正座にも似た形で座り込み、その股のあいだで逸物をしごいているが、彼は一向に射精の気配を見せてこない。すぐそこにティッシュまで用意しながら、いつになったら満足するのか。
室内には壁掛けの時計があった。
何気なく時間を眺めているうちに、もうじき十分は経とうというのに、小太りはまだ肉棒を弄んでいる。せいぜいカウパーを拭き取ることがあるだけで、きちんとした射精を未だにしないのだ。
「いつまでかかる」
「ああ、そのね。なんていうか、もうちょっと面白みがあればいいんだけど」
「面白みだと? これでも十分に仕事の範囲外の要求に応えているはずだが?」
仕事の範囲外、という言葉をサリアは露骨に強調していた。
ありえない要求に応えてやっているのに、まだ満足できないお前が悪いと、サリアは言外に訴えていた。
「うん、別にね? このままでも、いずれは出すものを出すんだけどね? ただ、例えば少しくらい中身が見えた方が、多少は早く終わるかもって思ってさぁ」
「……チッ」
サリアはいかにも仕方がなさそうに、苛立ち気味にショーツをずらす。性器のワレメを出すことで、その上にある陰毛まで露出した。
心底、不本意だ。
しかし、たかが見せる程度で済むのなら、いつまでもたくし上げていることより、少しでも早く切り上げてもらう方を選びたかった。
「ぬぉおおおお!」
小太りはあからさまにしごきのペースを上げ、一心不乱に右手を動かす。そんなに勢いよくしても平気なのかと、思わず気になってしまうほどの素早さに目を見開くが、ほどなくして青臭い香りが漂うので、サリアはその不快感に目を細め、頬をかすかに強張らせた。
*
その翌日からは、車での移動になる。
途中で襲撃を受けたものの、賞金稼ぎや野党による金品や食料目当ての攻撃で、そのことごとくをサリアは問題なく蹴散らした。銃弾は盾で弾き、ナイフや棒きれのみの相手なら、アーツを使うまでもなく素手で応じた。
野党ごときは何とでもなる。
問題なのは、野宿続きの関係上、車の荷台に布団を敷いたり、排泄はどこかその辺りにしなくてはならない点だ。トイレという常識が身についている中で、あまり気持ちの良いものではない。
清潔を保つため、ウォッシュペーパーなどは大量に用意している。さほど不潔にはならずに済むが、できるだけ早く次の町に到着したい。
トイレの際に付きまとう不安といえば、一時的とはいえ護衛対象から目を離さなくてはいけない点もある。さすがに風俗店などどこにもないので、勝手に遠くに離れることはないだろうが、安全の観点から必要以上に離れるわけにもいかない。
木陰や物陰に隠れ、数メートルの距離は取ったりするが、せいぜいそれくらいが限度である。
こんな時、せめて二人以上で守っていれば、交代で安全を見張っていられるのだろうにと、もはや悩んでも仕方のないことを何度も思う。
(大丈夫だとは思うが……)
そう、風俗店などありっこない。
現在の地点は荒野の真ん中、岩すら転がっていない平地に枯れ木がポツポツと生えているくらいだ。見渡す限り平面続きの大地であり、周囲に敵の気配がないのは明らかだが、やはり必要以上の距離は取らない。
「用を足す。待っていろ」
ふとした拍子に車を停め、サリアは放尿のために車を離れる。
もちろん、振り向けば男の様子が視界に収まるように、数メートルだけの距離を取る。身を隠すための影もないので、平地の真ん中に座り込む。本当なら岩陰でも見つけるまでは我慢したいところだったが、それがいつ見つかるかもわからないまま時間が経ち、さすがにこれ以上は我慢を続けるわけにはいかなかった。
スカートをたくし上げ、下着を脱いでしゃがみ込む。
「まったく、こんな野ざらしの場所でする機会など、二度となければいいのだが」
体育座りの、しかし尻は地面から浮かせた姿勢で、股はM字気味に左右に開く。アソコを剥き出しにした姿勢で放尿を始めると、そこそこの勢いが乾ききった大地に染み込む。水溜まりとして広がる様子もなく、乾燥によって生まれた亀裂に流れ込む。
どうせ、後ろから見ているのだろう。
小太りの男に対する信用はなく、紳士的に目を逸らしてくれている可能性など期待すらしていない。
しかし、車のドアが開く音が聞こえ、その次には足音まで聞こえるなど、さしものサリアも様相外だった。
「……悪趣味な」
小太りが目の前にしゃがんできた。
人の放尿を眺めてニヤニヤするため、わざわざ正面に回り込み、言うまでもなくアソコを視姦してくる。そのニヤついた視線に対する不快感をあらわにして、サリアは彼を激しく睨みつけるが、その満面の笑みが変わることはない。
「いやぁ、一人だと不安なもんでね? だって一応襲撃はあったわけだし」
「よくこんなことが出来るな。まともな頭を持ち合わせていないのか?」
彼の安全を守るのはサリアである。
いわばサリアが命を握っているのに、よくぞ人の機嫌を損ねたり、非常識な接し方をしようと思えたものだ。どこかの屋敷のお嬢様のように丁重に扱え、などとは微塵も思ってはいないものの、放尿を見られて何とも思わないはずがない。
サリアのワレメから飛び出る黄色い直線は、乾燥した大地に染み込みながら、周囲にほんの少しの飛沫を広げている。水気を吸った円状の染みの周りに、かすかな滴の痕跡が残っている。
やがて直線の勢いは緩み、残る何滴かをポタポタと垂らしたところで、サリアは排泄を終了する。ウォッシュペーパーでアソコを拭き、ゴミ袋に入れたところで、サリアはすぐさまショーツを穿き直し、肩を怒らせながら車に戻る。
「ゴミのような変態が」
こんな行動を取る男が金と権力を握っているなど、その事実だけでも薄ら寒い。
いっそ、排除すべき敵であったなら、一体どんなに良かったかとさえ思ってしまう。
しかも、見られたのは排尿の様子だけではない。
着替えの際もジロジロ見て来る。
距離を離しすぎるわけにはいかない点は仕方がないが、サリアが着替える際は背中を向けたり、といった気遣いが彼にはない。ここぞとばかりにニヤニヤと顔を緩めて、執拗に眺め回してくる。
車の荷台に上がり、自分の荷物を漁って下着を取り出す。
そして着替えを始めると、男もいつの間に車を降りて、荷台の様子を見学してくる。
(チッ、見るなら見ていろ)
苛立ちながらに下着姿となっていき、スポーツブラジャーをたくし上げる。わざわざ乳房を見せてやる気は起きず、背中を向けて脱ぐのだが、着替えを手に取った瞬間だ。
「へえ、白なんだね?」
「白ならどうした」
「いいや? 別に?」
「……ちっ」
顔など見ずとも、ニヤニヤとした表情が目に浮かぶ。
「ところで、明後日には町に着くよね」
「そうだな。それがどうした」
「いやね? 次の町にも、ソープとか色々あるんだけど、今度こそ風俗に行きたいな」
「戯れ言を」
「駄目だっていうなら、今のうちに……」
(……仕方ないか)
少しは相手をしなければ、またいつ勝手な外出を試みるかもわからない。特に睡眠とトイレは避けようがない。サリア一人で護衛を務める状況では、彼の逃げ出す隙は必ず生まれる。渋々ながら了承すると、小太りは性器の弄り合いを求めてきた。
サリアは穿いたばかりの白いショーツを少し下げ、小太りの方もズボンを脱ぐ。
お互いに性器を出し合うと、サリアはこれ以上なく顔を顰めた。これから汚物と触れ合わなくてはいけないのかというほどに、ひどく引き攣った顔をして、詰め寄る小太りの肉棒に手を触れる。
(最悪の気分だ)
彼もまた、サリアの性器に触れて来た。
二人立ったまま、抱き合うかのような距離感で触り合う。サリアは実に適当に、やる気などないと言わんばかりにしごいているが、彼の方は実にねちっこくワレメを弄る。触れるか触れないかといった具合の絶妙な加減で表面をくすぐって、思わぬ快感を与えてきた。
(なんだ……こいつ……)
気持ち良かった。
こんな男の指で感じてやるなど癪でならず、少しでも感じるとわかった途端にサリアはきつく歯を食い縛る。鋭い視線で見下しながら、小太りとの距離感に対する不快感も抱いていた。
ただ抱き合っていないだけで、膨らんだ腹がサリアの身体に当たっている。
サリアよりも少しばかり背が低く、顎の高さに来る頭で、ニヤニヤと人の顔を見上げてくる。
目が合うと不快感が強まって、サリアは思わず目を背けた。こんな男と視線を重ねてなどいたくはなかった。
「へへっ、サリアさん? 気持ちいいんだね?」
小太りの男は得意げに言う。
「ふん、どうだろうな」
サリアは少しも顔色を変えていない。
強いていうなら、不快感や嫌悪感から顰めることがあるだけで、その目は気持ち良かったら何だと言わんばかりだ。
「だんだんヌルヌルになってきているよ?」
「よかったな」
「なぁに、もっと良くしてあげるよ?」
「必要ない」
「いいんだよ? 遠慮しなくて」
「何が遠慮だ」
小太りの指遣いが活発になっていき、サリアの性器はしだいに水気を帯び始める。滲み出てしまった愛液は、やがて皮膚と指のあいだに糸を引く。さらに小太りはクリトリスを集中的に愛撫してくるようになり、股に走る刺激は強まった。
「……ふん」
確かに気持ちいい。
だが、サリアは顔色一つ変えず、むしろ頬を強張らせる。
自分の状況は悟っていた。こんな男の愛撫だろうと、生理的な反応は引き出され、徐々に予兆が見えてきている。アソコの奥で見えない何かが膨らむような、来たるべき瞬間の前触れに、サリアは強く歯を食い縛る。
わざわざ声を出してやったり、感じた表情を見せてやるつもりはなかった。
「――――――っ!」
ただ頬が強張るあまりの、筋肉のピクっと弾む反応だけを顔に浮かべて、サリアは絶頂しているのだった。滴る愛液の量は明らかに増え、同時に太ももにへばりつく生温かい感触は、小太りの出した精液に他ならない。
こんな男にイカされた上、精液までかけられたことに対する気分の悪さを胸にしながら、それでもサリアは膝をつく。腰から力が抜けていくあまり、膝立ちの気力さえ失って、そのまま正座へと姿勢は変わる。
「……ちっ」
我ながらの反応に舌打ちした。
男に対して苛立ったのか、自分自身に対する苛立ちか、自分でもわからなかった。
「へへっ、サリアさんに膝をつかせるだなんて、まるで自分が勝者になった気分だよ」
「下らん。勝手に言っていろ」
睨め上げると、未だ元気な肉棒が眼前に聳えていた。
正座の姿勢にまで腰を低めたことで、ちょうど肉棒を見上げた形となり、その棒状の影がちょうどよくサリアの顔にかかっていた。
小太りはニヤニヤと、勝ち誇った顔で穂先を近づけ、サリアの唇に押しつける。亀頭とキスをするかのような形となったその瞬間、サリアは直ちに顔を背けるが、小太りは構わず頬に押し当てる。
「サリアさん。あなただって、少しは体を持て余すんじゃないかな? 禁欲的すぎるのも良くないと思うんだ」
「……黙れ」
サリアはしかし、肉体の興奮で息を乱す。
「じゃあ、勝負しませんか?」
「……なんだと?」
「私があなたをイカせたら、今度はフェラしてよ」
「誰がそんな賭けに乗るものか」
「だったら、ソープ行きたいなー」
「……ちっ、ゲスな男め」
それを言われると、勝負に乗らざるを得ない。
仕事への責任感から、サリアとしては小太りに生死の危険を近づけたくない。そして、守って欲しいという張本人が無警戒に出かけてしまう。それを完全には阻止できない以上、サリアの心境からすれば、小太りが自分自身を人質に取ってきているようなものだった。
本心ではこんな人格の持ち主の安否などどうでもいい。
かといって、ロドスの失態で重要人物が死亡、などということにはしたくなかった。