第5話 星の悪夢

 ぼーっとした時間を過ごす。
 どれだけのあいだ、自分は放心しきったままでいたのか。白紙に染みが少しずつ広がるように、真っ白だった心の中には、本来の星が戻って来る。

「おはよう?」

 それを待っていたように、挨拶の声がかかってきた。
 人が放心しているあいだ、まさかずっと見守りでもしていたのだろうか。見知らぬ他人にそこまで執着されて感じるのは、ストーカーに愛されてしまったような気持ち悪さだ。
「まだするの?」
 さすがに飽き飽きした顔で星は問う。
 アソコにも肛門にも、好きに扱われた余韻が未だ残っているものの、今なお快楽の虜になったつもりはない。自分は自分、この女性のものになどなる気はない。
「いいわねぇ? まだそういう目が出来るところ、とってもいいわよ? 私はそういう、経験はないけど意思の強い子が一番の好みなのよ」
 女性は真正面から覆い被さってくる形で、急に顔を近づけてきた。未だ足首にはリングがかかったまま、開脚状態で固定されている星なので、男性が相手であれば、肉棒の挿入を警戒するところだろう。
 だがそれを持たない女性を前に、星が抱く警戒心は、またもや唇を奪われることについてであった。
 しかし、そんな気配もなく、さっと顔は遠退いていく。
 ひとまずキスはされないようで、その一点だけに関して安心しつつ、不安が和らぐことはない。唇ではないのなら、他の部位に対する辱めが待っている。より大きな恥辱へと、早々のうちにステップが進んだのだ。
 胸にせよ、アソコにせよ、肛門にせよ、恥部を好きにされるのと、唇だけで済むのとなら、キスをしてもらった方が良いのだろうか。
 もっとも、それだけで済むということはない。
 今この場にある状況は、キスをされた上で恥部をやられるか、キスだけはされずにやられるか、どちらかだった。
 だいたい、一度はもうキスをされている。
 そもそも、唇だけが無事で肉体は犯されて、それが一体どこまで慰めになるだろうか。少なくとも、それであっけからんとしていることはあり得ない。
「これを使うわ」
 リーダーはバイブとアナルビーズをそれぞれ握り締め、自慢げに見せびらかしてきた。右手に、左手に、それぞれ持った棒状の器具の、バイブの方にはイボが生やされていた。
「そんなものまで……」
 星は思った。
 確かに相手は男性ではない。股に生やしたものがない以上、その挿入こそないものの、棒状の物体そのものは、こうやって目の前に現れている。
 貞操への辱めに変わりはない。
 ただ本物ではないだけで、男性器に酷似した形状そのものは、これから星の中に入ってくる。これまで指以外のものは入ったことがなかった穴にそれは潜って、星の処女を散らすのだ。
「ほら、こうなってるのよ?」
 これみよがしにバイブのスイッチを、アナルビーズの方さえオンにして、どちらも振動を開始していた。機械的な駆動音が無機質に鳴り響き、それが内部に入ってきた時、果たしてどんな刺激を受けることになるのかと、星が感じるものはひたすらに不安であった。
「楽しみねぇ?」
 わざとらしく、顔に二本を近づける。
 顔を背けたかったが、右の頬にも、左の頬にも、どちらの頬にもそれぞれが接近しているせいで、目を瞑ってしまうのでなければ、見ないようにすることなど出来なかった。
「強さはどう? 強め? 弱め?」
 親指が動き、振動が切り替わる。
 すると駆動音はより大きく、振動による揺れ幅も広がって、星は恐怖すら感じていた。異物の侵入になど慣れていないのに、穴の内側でこんな風に暴れられたら、星が想像するのは快感よりも痛みであった。
 そんなものを入れられては敵わない。
 女性はそして、まずはバイブの方から入れようと、一旦はスイッチを止めたものを近づける。亀頭に酷似したフォルムの、先端がぴたりと触れた時、星は力いっぱいにもがいていた。
「あらぁ? 今になって抵抗?」
「無理、そんなもの入らない」
「やってみないとわからないわよ? それに痛みがあったとしても、どうせすぐに慣れるわよ?」
「慣れるとか、どうでもいいから」
 そればかりは避けたい思いで、星はどうにか腰を動かす。膣の位置さえずらしていれば、狙いを定めての挿入に、彼女は手こずると考えての、この状況で可能な精一杯の抵抗だった。
 それがいかに不利な抵抗か、星にはわかっていた。
 こうして胴体をくねり動かす体力がなくなれば、それで一巻の終わりである。
 こんな下らない抵抗など、そう長く続くものではない。
 星自身、わかっている。
 わかっていても、処女を守りたい思いから、そうせずにはいられなかった。せめて処女だけは奪われず、仲間の助けがやって来ることに一縷の望みに賭けていた。
「仕方ないわねぇ」
 女性は一旦、アナルビーズを手放した。
 どちらか片方の挿入に集中すれば、どうにかできると思ってか。空いた手を性器に置き、最初にそうしたようにピースの形で、星の肉ヒダを開帳された。
「…………っ!」
 羞恥心が吹き荒れて、星は顔をきつく歪める。
 膣口を目視できるようにして、より正確に挿入を狙ってくる女性によって、とうとう先端が埋まり始める。どうにか胴体を暴れさせ、触れてきたものを弾こうとすることで、それまで阻止を続けてきたが、それがついに収まっていた。
 ひと思いに亀頭まで一気に埋めて、そのまま押し込もうとする力を維持する腕のため、もう阻止など成立しない。胴体をどうくねらせても、握り拳の中でバイブの角度が左右に動くだけの話であった。
 淡い希望は失われた。
 あとは押し込まれる一方で、どう抵抗を試みても、少しずつ少しずつ、それは膣内に埋まってくる。その半分も収めれば、女性が手を離しても、抜けることなどなくなっていた。
「んっぐ……」
 星は悔しげに汗を噴き出す。
 指二本分を上回る太さによって、穴が広がっている痛みは破瓜のものだ。初体験の感覚はこんな形で消費され、星は今この瞬間、もう既に処女ではなくなっていた。
 そして次に入ってくるのはアナルビーズだ。
 星はやはり胴体を動かして、穴の位置をずらし続けはするものの、最後には先端が埋まってきた。いくら手こずったところで、挿入の試みを決してやめない女性の手は、いつしか狙いを合わせきり、力強く押し込んでいた。
 一度先端が入ってしまえば、手を離しても抜けないような半分ほどまで、一気に挿入されていた。
「あーらら、入っちゃったわねぇ?」
 実に愉快そうにした声音であった。
「どんな気分? 玩具で処女を失って、今のあなたは一体どういう気持ちなの?」
 優越感にすっかり浸り、調子に乗った顔をして、人の喪失をからかってくる。その悪魔のような楽しげな姿を前に、星は恥辱を滲ませていた。悔しげに睨み返して、瞳の中には恨めしさをいくらでも宿していた。
「さあ、最後までいれましょう?」
 女性は上下の棒をどちらも握り、だんだんと少しずつ、数センチずつ埋めてくる。
 まだしも細いアナルビーズは、指に比べて楽ではあるが、数珠つなぎの棒が刺激となって、甘い痺れがいちいち走る。そしてバイブに関しては、小さなアソコの穴に対して、どうしても痛みの方が先に立ち、いきなり気持ち良くなる自分など、とてもでないが想像がつかなかった。
 どちらの穴にも十分なところまで挿入して、女性は最後にスイッチを入れて手を離す。
「んぅっくぅ……んぅ…………」
 体内で駆動音が鳴っていた。
 イボ付きのそれとアナルビーズの、それぞれの振動が内側の肉を直接揺らし、その刺激を感じることで、痛みと快楽を同時に味わい苦悶する。アソコは痛く、しかしアナルビーズの方では快楽がはっきりと現れていた。
「ふふっ、擬似的な子作りね」
 女性の気持ち悪い言葉に星は引き攣る。
「なんなの……あんた…………」
「母乳が飲みたいわぁ」
 そんなことを言い出して、女性は前から覆い被さる。股が開いている星に対して、上からやって来られれば、自然と正常位が脳裏を掠める。
 女性は乳房に吸いついてきた。
 乳首に舌を絡めてベロベロと舐め回し、そして吸いつきちゅぱちゅぱと、音を立てて引っ張り始める。吸引力を駆使して持ち上げて、乳房がほんの少しでも伸びた直後に離すことで、ぷるっと揺れる乳房の様子を彼女は楽しんでいるのだった。
(母乳なんて、馬鹿みたい)
 出るわけがない。
 そう当たり前に考えていた星は、乳房の内側に妙な感覚に気づいていた。まるで尿意のようにして、溜まったものが外部に出ていこうとする感覚が、何故だか乳首に現れて、星はまさかの予感に囚われていた。
(そんな……はず…………!)
 母乳など出るはずがない。
「薬を飲んでもらったわ」
 それが答えだとでもいうのか。
 乳首の先から何かが搾り出されていた。その感じに気づいた直後、唇を使った吸引の力がより強まる。それを飲もうとする彼女の意思に戦慄して、星は頬を引き攣らせた。
 いつの間に妙な薬まで飲ませ、そうまでして母乳を飲んでみたかったなど、彼女は想像以上にマニアックな人間なのだ。

 ちゅぅ――ちゅぱ…………。

 その吸引に搾り出されて、自身の体内から、それも乳房から出て来たものが、女性の口内へと取り込まれる。
「あなたも飲んでみる?」
 などと言い、その口でキスをしてきた。
「んぅ……!」
 口移しだった。
 唇を閉ざそうとする星だったが、下半身の刺激のせいで喘がずにはいられない。おかげで開いてしまう口へと舌が入って、甘い味を星は感じた。
 本当に飲まされてしまった。
 直後、優越感に見た表情が星のことを見下ろしていた。
「とっても甘くて、いい味ねぇ?」
 恍惚とした声だった。
 酔い痴れた顔さえしながら、彼女は改めて乳房にしゃぶりつき、ちゅぱちゅぱと音を鳴らして吸い上げる。
「んくぅ……んぅ……んぅぅ…………」
 刺激は当然あった。
 胸に走る快楽に、そしてバイブやアナルビーズのこともあり、星は呼吸を熱っぽく乱していた。先ほどまでは痛かったはずのバイブからさえ、時間と共に馴染みでもしてきたのか、迸るものは快楽に変わっていた。
「んっ、んぅぅ……!」
 頭が痺れるほどの、星は快楽に見舞われる。
「ふふっ、いいわぁ……あなた本当にいいわぁ……」
 女性は夢中だった。
 熱のこもった眼差しで、丹念に乳房ばかりをしゃぶりつつ、しかしその途中で股に手を伸ばしていた。胸に食らいつくことをやめないまま、下へとやった手によって、彼女はどうにかスイッチを切り替え、バイブとアナルビーズの振動は順々に強まるのだった。
「んぅぅぅ………………!」
 ますます強い刺激が走る。
「んあっ、あぁぁ……あぁぁ………………!」
 アソコが、肛門が、その大きな振動に反応して、どちらもきつく引き締まった。電流が走っているせいで、きゅっと締まろうとする筋肉がどちらも締め上げ、だから星自身の反応のためにより、バイブやアナルビーズに対する密着度合いが増している。
「あっ、あぁぁ……!」
 絶頂が近づいていた。
 膣壁にイボが食い込み、そしてそのイボが震えている。バイブの表面にいくつも生えた丸っこさが柔らかに突き刺さり、暴れ具合によって引っ掻かれ、膣壁は今や快楽電流に満ち溢れていた。
(ま、また……イっちゃう…………!)
 その時はもう、迫っていた。
 予兆に気づいた女性は、その時になって両手で頬を包んできた。自分を向かせようとしてくる彼女の意図は、きっと絶頂時の顔を拝むことに違いない。
 嫌だ、見られたくない。
 ここまで辱めを受けて、羞恥心も味わわされ、おまけにイク時の顔まで晒すなど冗談じゃない。
 抵抗感を抱く星だが、もはや振りほどく暇すらなかった。首を左右に振りたくり、その両手を振り払う考えが一瞬は頭に浮かんでも、それを実行するより先に、頭が真っ白になる瞬間は訪れていた。

「あぁぁぁぁぁ……………………!」

 眼球の奥で火花が弾ける。
 ビクっと胴体は跳ね上がり、星はこれで三回も絶頂したことになる。
「いい顔……!」
 女性の顔が狂喜に染まっていることに、もはや気づく余裕もない。そんなことより頭の中に激しい痺れが走っている。まともにものなど考えられず、イった直後の星は向こうしばらく、やはり放心することとなる。

     *

 そんな星を見下ろして、女性は軽く驚いた顔をしていた。
 拝んでみたかったイキ顔を確かめて、満足しながら体を起こすと、バイブやアナルビーズがテーブルから落ちていたのだ。
 よほどの強い締め付けで、押し出されたのだろうか。
 振動の強さで物自体がひどく暴れて、外へ外へとずれ動きもしていたのだろう。
 きっと、そうして抜けたのだろう二本を拾い、未だ放心している星の中でと入れ直す。今度は押し出されることがないように、テープまで用意して、穴を塞がんばかりに固定した。愛液で粘着力が弱まるとは思うのだが、ある程度の時間は持つだろうと彼女は考えているのだった。

     *

 それから、星は何度でも絶頂した。
 放心から立ち直り、目が光を取り戻すのをわざわざ待って、その上で愛撫を再開する女性により、四回でも五回でも絶頂へ導かれ、回数が重なるあまりに体力を削られ尽くし、最後には気を失うこととなる。
 そして、失神した星が次に目を覚ますのは、彼女の私室の中だった。
 もちろん、そこでも弄ばれた。
 延々とイカされ続け、やがてはまた失神して――

 …………
 ……

 星が性奴隷である期間は、実に数週間にも及ぶこととなる。
 やがて丹恒となのかが居場所を突き止め、星を救出することになるのだが、その頃には一体どれだけ絶頂を繰り返したのか、もはや数え切れなくなっていた。
 何週もかけての調教で、一日に複数回の絶頂は、きっと百回を超えている。
 それだけ嬲られ続けた星の体は、だから変わり果てていた。
 ことあるごとに快感を思い出し、アソコや肛門には道具の感触が蘇る。組織のリーダーである女性の顔も、声も、日常的にフラッシュバックして、星はその悪夢に悩まされる。
 解放されても、陵辱された事実は心の奥深くに刻み込まれて、永遠に残されてしまうのだ。
 それはまるで、決して消えない精神の烙印だった。