第4話 星の調教

 女性が笑っている。
 この獲物を一体どうしてくれようか、どんな風に苛めてやろうか、それを楽しく悩んでいる表情で、実に愉快そうに人の裸体を眺めてくる。
 星としては気が気でない。
 この身動きが取れない状況で、次はどこを狙ってくるのか。胸だろうとアソコだろうと、一切の抵抗ができない今の星には、ひたすら耐え忍ぶこと以外の道がない。
 生きた心地さえしなかった。
 まな板にでも置かれた身で、どう料理しようかと迷う人間を前にしているようなものだった。
「うーん。どうしよっかなー」
 人の周りをぐるぐると歩き始めて、その足取りさえ楽しげである彼女の目は恍惚としている。この女性にとって、誰かに辱めを与えることは、この上ない快楽なのだ。
 人がどんな屈辱を感じようとも、それだけ彼女は大喜びする。
 その楽しみを奪おうと思ったら、何の反応もない人形にでも徹するしかないのだろう。
(もう余計な反応は……)
 どこをやられても、次は感じてやるものか。
 そんな意地を密かに抱く。
 そしてその時、彼女は真正面で立ち止まった。
(やだ……)
 改めてアソコに顔を近づけてくるために、だから狙いは性器だと思っていた。外側なのか、膣内なのか、クリトリスか。そのいずれかと思って身構えていた星なのだが、しかし意外な点を突かれることで、大きく目を丸めることとなる。

「ひっ…………!」

 声さえ出してしまった。
「いい鳴き声」
 出したからには案の定、女性はそれに耳を傾け、頬さえ染めてうっとりと喜んでいた。

 肛門に触られたのだ。

 外部からの異物には、アソコ以上に慣れていない。より締まりの強い皺の窄まりに、それでも指を押し込んで、力ずくでも挿入しようとしてくる力によって、穴は強引にでも拡張される。
「んぅ――」
 痛みが走った。
 皮膚が無理にでも伸ばされて、裂けようとする種類の痛みであった。
「んぅ――んぅぅ――――」
 苦悶に顔を歪め、思わず歯を食い縛って耐え忍ぶ。
「ふっくぅ……んくぅ…………」
 それでなくとも、物を挿入してみようなど、考えてみたことすらない。だから自分の指すら入れたことのない、完全な初体験の痛みによって、目尻には涙の粒が膨らんでいた。
 それが女性をより興奮させたらしい。
「いいっ、いいわその顔!」
 ぐっと、迫って来た。
 勢いよく顔を近づけ、至近距離から人のことをまじまじと見つめた挙げ句、目尻に舌まで這わせてきた。頬に触れた舌先でなぞり上げられ、涙の粒が舐め取られた。
 苦しんでも、痛がっても、それは彼女にとって、この遊びをより面白いものにするエッセンスに過ぎない。子供のように泣きじゃくっても、身体的な苦痛を訴えても、女性はそれを面白がってくるのだろう。
 顔が離れて、女性は改めてピストンに集中していた。
「んっぐぅ……んぅ……んぅ…………」
 チラチラと、人の耐え忍んでいる顔を楽しみながら、指の出し入れを行っている。皺の部分、指と接している箇所は、秘部が出ていくにつれて外へ捲れて、入ってくるにつれて内に捲れる。
「んぅぅぐぅ……んっぐぅ…………」
 微妙にぬかるみの感触を帯びているのは、自身の唾液でもまぶすか、指が愛液を纏っているか、あるいは両方が使われているのかもしれない。
 痛いばかりだと思っていた。
「…………っ!」
 だが前触れもなく頭にビリっと、何かが弾けるような、熱が一瞬通ったような電流を感じていた。
 まずい、感じてしまった。
 肛門を使ったプレイが存在すると、知識的には知っていた星は、まさか自分に素質があったことに驚いていた。肛門で感じた気配には、もちろん女性も気づいていて、口角の吊り上がった表情は見るまでもなく目に浮かんだ。
 つい釣られたようにして、たった一瞬でも股に視線をやった時、そこにあるのは想像通りの邪悪さを帯びた笑顔だった。
「今のはどこ? ここ? それとも、もうちょっとこっち?」
 弱点でも探るようにして、内側に潜り込んだ指をくねくねと動かしている。指先でかき混ぜられる感触は、そのまま調べられている感触だ。どこかに触れられてはいけないポイントが存在して、それを今にも発見されかねない危機と不安を星は抱かされていた。
「…………っ!」
 また、感じた。
 声は出ずとも、出そうなだけの反応をあらわにしてた。女性を面白がらせるだけなので、感じた素振りを出来れば表に出したくない星なのだが、意識こそしていても、そうそう我慢をしきれるものではないのだった。
「見つけた」
 ぞくりと、背筋に悪寒が走る理由は、その一言だけで十分だった。
 握られた。
 秘密を知られた。
 バレてはまずい、重大な機密情報を漏らしてしまったような、大きな失態を感じた次の瞬間、女性は早速のように見つけたらしいポイントを攻めてきた。
「んっ!」
 声が漏れ出た。
「んぅ――んぅぅ――――んぅぅ――――――――」
 直後、星は歯を食い縛り、唇も引き結び、喘ぐまいとするものの、喉まで上がってくるものを完全には抑えきれない。
「んぅ……んぅぅぅ…………」
 それでも耐えた。
 いっそ叫んだ方が楽だとしても、苦悶が滲み出ている顔は、自然と歯を食い縛り、声を抑えることこそを選んでいた。
「んぅぅ……………………」
 抑えられるのは、声だけだった。
「…………」
 どうにか無言になりきって、何の声も出すことなく、顔には苦悶だけを浮かべる星だが、快楽を遮断できるわけではない。肛門の中身をなぞられて、くすぐられ、そうして生じる甘い痺れはどうにもできなかった。
(まずい……また……)
 予感がした。
 つい先ほどまで、それは自分に何が起こるかがわからない、未知の体験に対する不安や危機感を煽るものだった。不安で不安でならないあまり、やめて欲しい思いがより一層のこと膨らみすらしていたほどだ。
(来る……ま、また……もうすぐ……)
 だが、もう未知ではない。
 たった数分前に体験して、また再び現れた兆候が、絶頂への接近であることを、今の星は知っている。
 だから今度は、具体的な未来を見ての危機感を抱いていた。
(ま、また――駄目、これ以上は――――)
 眼差しには懇願を浮かべてしまうが、女性はそれに気づいたところで止めなどしない。むしろ喜び、苛めがいがある獲物のことを、より深く味わおうとしてくるだろう。
(まずい……まずい…………)
 表情にみるみるうちに滲み出て、どうしても浮かび上がってしまう焦燥と危機感は、どうしても堪えきれなかった。やめてください、どうかお願いします。そんな思いが溢れ出て、無駄だとわかっていながらに、懇願の眼差しを星はしてしまっていた。
「可愛いわねぇ?」
 そして、おもむろに向いた視線で、表情に気づかれてしまうのだった。
 それによって得たのは確信だ。
(――――イカされる)
 もしもの話、星のイキそうである状態に気づいていなければ、せっかくのチャンスとも知らずに指を引き抜き、次の行為に移っていたのかもしれない。
 だが、彼女は気づいた。
 星がどんな苦境に立たされているか、顔を見ることで見抜いてしまった。
 だからもう、イカされずに済むような、万が一の話など消えてなくなり、それでなくとも強く感じていた未来は、完全な確定した未来となった。
 イカされずに済む可能性など、ただの一パーセントもなくなって、彼女の指は星を追い込むために活発化した。弱点をより激しくくすぐって、人の追い詰められる様子を大いに楽しみ始めていた。
 そんな指先が、しかし途中で急に緩んだ。
 そのままの活発さで続けられれば、おそらくはあと数秒でイっていたのに、あえて愛撫を緩めるのは、きっと狩りを楽しむためだ。逃げる獲物の様子をあえて楽しみ、遊び半分の時間を堪能した上で、やっとトドメを刺すつもりでいる。
 そのためだけに、向こう数分はゆったりと、淡い刺激だけを与えるような愛撫が続く。
 簡単にはイカせないわよ?
 と、顔が言っていた。
 わかっていて、あえてイカせずにいることが、その眼差しからいくらでも伝わってきた。
 その焦らしも、やがてはトドメを刺すための指遣いに変化する。改めて活発に、執拗なまでに弱点を狙ったくすぐりが始まるなり、星は声を抑えられなくなっていた。
「あぅっ、んっ、あぁ……あぁぁ………………!」
 もう駄目だ。
 限界を迎えた星は、自分があと何秒でイってしまうかの未来を悟り――。

「あぁぁぁ――――――――――――」

 再び、潮を巻き上げた。
 一度目の絶頂よりも、さらに高らかに舞い上がった滴は、既に濡れていた下腹部への付着を増やす。内股にも、テーブルにも、パラパラと降り注ぎ、そしてようやく指は引き抜かれた。
「はぁ……はぁ………………はぁ…………………………」
 頭の中は、しばらくは真っ白だった。
 そこには何の思考もない。
 完全な無に陥り、そんな星のことを女性はニヤニヤと、楽しそうに見下ろしていた。
 この時の星は、だらしなく脱力していた。
 みっともない顔を見られても、それがどうでも良くなってくるほど気力が抜け、そんな状態で肛門には余韻を感じる。つい先ほどまで指が二本も挿入され、その太さに合わせて拡張されての、無理に広がる裂けそうな痛みも残っているが、それ以上に星はしばらく、間の抜けた顔でぼーっと、まるで魂を失ったような顔で壁を眺めているのだった。