前編 ゼーレの受ける機械調教

 地下の暗がりに街は広がる。
 木造建築の並ぶ景色を屋根の上から見渡して、ふと足元の地上に気づいた一人の少女は、それを見るなり「ふん」と鼻を鳴らしていた。
 地上のような光のない、この地下世界を照らしているのは、まず屋内の照明が窓から漏れ出た淡い明るさと、そこかしこの木箱に積まれた「地髄」である。
 地髄と呼ばれる黄金の鉱石は、エネルギー資源として採掘される地下の生命線である。その黄金の輝きもまた、暗い地下をささやかに照らす助けをしていた。
 地上と地下が封鎖された今、地髄の輸送ルートのみが繋がっており、地下が鉱石を送れば地上が物資を下ろしてくれる。いつか採石場から採り尽くし、資源が枯渇する未来がきたら、この地下世界の人間達は凍え死ぬことだろう。
 だが、そんな地下と地上の実態など今はいい。
 そうそう解消できない大きな問題よりも、今すぐに解決できる小さな問題が地上に転がっている。屋根から見下ろす地上では、少女と背丈の変わらない、一人の女の子が荒くれ者に追われていた。
「暇な奴らね」
 少女――ゼーレは屋根を飛び降り、その追われていた女の子と、追っていた荒くれ者のあいだに立つ。
 浸蝕によって家を喰われた流浪者が集まれば、中には喧嘩好きな連中が人様の物資を奪おうと暴れ始める。だから治安を守るための「地炎」があるのだが、その悪化はなかなか留まってはくれないものだ。
 いくら喧嘩や衝突に軽犯罪を取り締まっても、ふと目を離している隙に、またどこか別の場所では別の小競り合いが起こっている。
 ゼーレは目前に並ぶ三人の荒くれ者を見据えた。
 見るからに人相の悪い連中だ。元から暴力沙汰を起こすことに躊躇いのない人間か、さもなくば家を失い、他人の物資に目が眩み、いつしか他者を傷つけることに抵抗がなくなってしまった手合いだろう。
 どちらにせよ、年端もいかぬ女の子を辱め、楽しもうとする連中に容赦はしない。
「女の子一人を追い回すなんて、なかなかの紳士がいたものね」
 ゼーレは呆れたため息をつきながら、肩越しに女の子を振り向いた。
「逃げなさい」
 そう伝えると、女の子はこくりと頷き、素早くその場を去って行く。みるみるうちに小さくなっていく背中を見送ると、ゼーレは鋭く細めた視線を改めて荒くれ者に向けるのだった。
「それで? この落とし前はどうつけるのかしら?」
 そう言い放った時、三人の荒くれ者たちはそれぞれニヤリと、妙に口角を釣り上げる。人を品定めするような目で、顔から爪先にかけてまで、あからさまに視姦していた。
「落とし前だぁ?」
「それをつけるのはお前さんの方だぜ?」
「なんたって、あんたのおかげで獲物を逃がしちまったんだからなぁ?」
 荒くれ者たちはゼーレへと迫り始める。
「……そう。やろうっていうのね」
 勢いよく歩んで来る三人組を前にして、即座に心を切り替えて、ゼーレは戦闘のために身構える。
 負ける相手ではないと思った。
 この手の小競り合いは何度も経験してきており、一人で複数の喧嘩好きを倒したことも、一度や二度の話ではない。その経験則から、彼らごとき敵ではないとする判断は、間違いではないはずだった。
 本来なら――。
 彼らが未知の兵器さえ持っていなければ、有象無象の荒くれごときにゼーレが破れるわけがなかった。

 …………
 ……

 朦朧としていた意識が徐々に覚醒に近づいていく。
 まだ頭が重く、脳やまぶたにいくらでも眠気が残っている。ばっちりと目覚めることができるまで、まだしばらくかかりそうだと思ったゼーレは、頭の片隅で不意に気づいた。
 そもそも、自分はいつから眠っていたのか。
 ベッドに入った記憶がなく、だから一体いつの間に自分は眠り、そして目を覚まそうとしているのかがわからない。頭がはっきりしてくれば、その程度の記憶はすぐに戻ってくると思ったが、脳の重みが薄れていき、覚醒すればするほどに、ゼーレは表情を強張らせ、心身を戦慄させていた。
 何かを思い出すよりも、その状況に意識がいった。
「なに……これ……!」
 ゼーレは四肢を拘束されていた。
 まず最初に気づいたのは、尻や背中に触れるシートの感触だった。自分は椅子に座っているのだとわかった直後、さらに手足にも意識が及び、身動きが取れない状況を初めて悟る。
 背もたれが少しばかり倒れている。
 その上で両腕とも頭上に縛られ自由が利かない。手首に触れる金属の感触から、その拘束具は手錠とわかる。鎖が背もたれの裏側の、フックに引っかけられるか何かで固定されてしまっているために、鎖の長さが許す範囲でしか、腕を動かすことができないのだ。
 ちょうど後頭部の裏側に鎖は繋がれ、両腕の自由はせいぜいもぞつかせる程度のものだ。
 そして両脚がアームに乗せられて、ベルトで固定されていた。
 どうやら、分娩台に乗せられているらしい。
 脚を締め上げるベルトは、足腰をじたばたと暴れさせ、抵抗してみる程度のことでは外れない。かなり丈夫な革製で、上がることのない脚をそれでも上げようとしたところで、ベルトがそのまま皮膚に食い込むだけの話だ。
「なんなのよ! このふざけた状況は!」
 言うまでもなく、脚はM字にさせられている。
 恥ずかしいポーズに固定され、身動きの取れない状況に抗おうと、ゼーレは改めて足腰に力を入れ、腕や肩も駆使して暴れてみるが、椅子がガタガタと揺れる以上の成果が出ない。
 それに暴れてみた感覚で気づくのは、この分娩台が床にそのまま植えつけられていることだった。椅子の足、板の裏側に生えるポールが床と一体化しており、そちらは揺れすらしていない。
 どう暴れてみたところで、アームや背もたれの部分だけが揺れ、それでパーツを破損させられそうな気配もない。
 女の身で囚われて、四肢の自由も利かない状況では、貞操にまつわる危機感が湧いてくるのは当然の話である。
 このままでは犯される。
「冗談じゃないわ」
 ゼーレの記憶はようやく鮮明なものとなり、自分が何故、どうしてここにいるかを思い出す。荒くれ者三人の前に立ちはだかり、追われていた女の子を逃がしたまでは良かったが、彼らの所持していた道具が予想外のものだった。
 何か球体を投げたと思いきや、たちまち煙が噴射したのだ。
 その白い煙の役割を、てっきり目眩ましだと思ったのは、噴射の勢いのあまりに荒くれ者自身も巻き込んでいたからだ。使った本人も煙を吸うのに、毒や睡眠薬だとは想像もしなかった。
 だが、こうして囚われた結果を考えれば、即効性の睡眠薬だったのだろう。荒くれ者たちは事前に抗体か何かを打っていて、自分たちだけは薬が効かないようにして、睡眠薬の煙玉を使ったわけだ。
「息は止めたつもりだったのに……」
 唇を引き締めて、呼吸も即座に停止した上、煙の中から飛び退いた。距離を置いた上で呼吸は再開したのだが、少量を吸っただけでも効果としては十分だったわけだろう。
 いやらしい顔でニヤニヤしながら、迫り来る三人組を前にして、視界がみるみるうちにぼやけて暗くなる。やがて意識が途切れるというのが、ゼーレの持つ最後の記憶だ。
 そして、目覚めた時にはこうなっていた。
 皮膚感覚に意識をやったり、視界に収まる限りで自分自身の身体に視線をやれば、着衣すら奪われていることがわかった。
 残されているのは、普段から着ている中でも、黒いブラジャー状の衣類と、白いレオタード状のものだけだ。ブーツやグローブは全て外され、心許ない薄着の状態にさせられている。
「とにかく、状況を把握しないと……」
 自分をこんな目に遭わせた連中に、大いに腹は立つのだが、ひとまずゼーレは周囲に視線を走らせる。背もたれが邪魔になり、振り向くことは出来ないが、上下左右を見てみるだけでも、ここがとんだ密室であることは把握した。
 壁も床も天井も、硬いコンクリートに覆われている。
 冷たい灰色に取り囲まれ、天井に取り付けられた照明は、ランプの寿命が近いのか、たまにチカチカと点滅している。どこかの建物の、地下室だろうかと想像するが確証はどこにもない。
 考えてもみれば、眠らされてから目が覚めるまで、どの程度の時間が経ったのか。数時間なのか、一日以上なのか。さすがに数日はないだろうが、自分が最後にいた地点から、どれほどの距離にまで連れ去られたことになるのか、これでは想像すらつけようがないわけだ。
 そして、その時だった。

 真後ろで鍵の外れる音が聞こえた。

 正面や左右にドアはない。
 ならば後ろにあったのだろうドアの鍵穴に、誰かが外で鍵を差し込み、解放する音が響き渡った。カチャリとロックの外れる音は、静寂の漂うコンクリートの室内に、よく反響するのであった。

 ぎぃぃ……

 と、ドアの開く音は妙に軋んで、金属の擦れ合いが耳に伝わる。正体の知れない、しかし確実に誰かが入ってくる気配に、体中から警戒信号が発せられ、ゼーレの顔は強張る一方だ。
「よお、お目覚めか?」
 聞き覚えのある声だった。
「誰よ」
 もっとも名前など知らないので、ゼーレは険しい顔をして、敵意を込めた低い声でそう尋ねる。
「女を捕らえて調教する仕事人さ」
「ふん。落ちぶれたものね」
「そんな口を利いているうちに、今度はあんた自身も落ちぶれることになる。ま、ひょっとしたら地上の誰かに買い取ってもらえるかもな」
「地上? 買い取るって、まさかそんなルートが? ありえないわよ! そんな取引が入り込む余地なんて――」
「ま、信じようと信じまいと、俺はあんたを感じやすくて喘ぎやすい女に改造する。なに、改造っつっても手術みたいな話じゃない。ちょいと媚薬を使ったり、調教マシンで愛撫してやるだけの話さ」
 男の語る内容に、ゼーレは大いに怖気を感じる。
「十分に最悪じゃない。そんなことで商品価値がどうこうなるっていうわけ?」
「そういうことだ。せいぜい気持ち良くなってればいい」
 調教マシン?
 女を愛撫するための機械というのが、一体どういうものなのか、ゼーレにはその想像がつかない。思い浮かぶものがあるとするなら、せいぜいバイブやディルドくらいなものである。
 しかし、後ろに意識を傾けると、何度かの足音の末に、キャスター付きの機材が搬入されるタイヤの音が聞こえてきた。手押しによって運び込まれるその機材は、すぐにゼーレの視界に入り込み、股の真正面に置かれていた。
「何よそれ」
 見た目だけでは、なおもどんな機械であるかの想像がつかない。男は何を企んでいるのか、自分はこれからどんな目に遭わされるか。
 まったく予想がつかず、警戒心だけが高まっていく。
 肉体への辱めであることだけはわかりきっているのだが、その機材で何をどう辱めるのかがわからなかった。
 ドーム状というのとは少し違い、錠剤のカプセルの形状によく似て、それをそのまま巨大化した形状の機材なのだ。バイブでもディルドでもない、そんな形状のマシンによって、一体何をどうするつもりでいるのか。
 拘束のせいで自由が利かず、その全容を視界に収めきることはできない。いわば上半身は見えていても、下半身はゼーレ自身の股やシートに阻まれ見えないのだ。
 ゼーレの目で確認できるのは、カプセル状の上端部分だけだったが、その透明なカプセルの内部に様々な機器が収まっていた。
 カメラのレンズらしきものが格納されていることから、もしや動画でも撮られてはいないかと、そんな嫌な予感にゼーレは冷や汗を浮かべていた。
「んじゃ、起動するぜ?」
 その傍らに立つ男は、スイッチを押したのだろう。ゼーレからは見えない位置に手をやるなり、カプセルの内側にある機器の一部が赤いランプを点滅させ、そして次の瞬間だった。

 触手が鎌首をもたげていた。

 まるで潜んでいた蛇が急に起き上がってきたように、触手は目の前に現れたのだ。
「何を……する気よ……」
 不安と警戒心をゼーレは高める。
「どうもこうも、調教っつってんだろ?」
 男はジェルの詰まった容器を握っていた。その蓋を開け、中身を手の平に取り出すなり、触手の先端から半ばにかけてまぶし始める。
 触手がひとしきりぬかるみを帯びた時、男はさらに他のボタン操作を開始する。
 それに伴い触手は動き、ゼーレの股へと向かってきた。
「なっ、やめ――――!」
 戦慄に顔を染め、咄嗟に身悶えするものの、足腰をどう揺すってみても、大した抵抗になどなりはしない。シートを揺らす以上のことはできずに、挿入の危機は迫る一方だった。
 タイツ状の白い布がずらされる。
 その内側にある穴に潜ろうと、頭部をぐりぐりと押しつけて、蠢き暴れる触手に対し、ゼーレもまた足腰を振り動かす。脱出など不可能とはわかっているが、少しでも暴れることで、延々と穴の位置をずらしつづけて挿入を阻止しようと、ゼーレは苦心しているわけだった。
 だが、そんな抵抗も永遠には通用しない。
 体力が続かないという理由もなくはないが、それ以上にいつかはぴったりと位置が重なり、上手いこと入り込むタイミングが訪れてしまうのだ。
 数分――あるいはもっと、時間を稼ぎ続けはしたものの、最後の最後には先端が穴に触れ、内部へと埋まり始めていた。
「やっ! 抜いて! 抜きなさいよ!」
 声を荒げるゼーレに対して、触手はそのまま進行を続けていた。先っぽから徐々に埋まって数ミリずつ、着実に入り込む有様を見ることで、男は勝ち誇った笑みでゼーレに投げかけているのであった。
「んっ、んぅぅ…………!」
 しかも狙いは肛門だった。
 先ほどから先端を押しつけて、入り込もうと蠢いてきたその部位は、そしてとうとう挿入が始まっている箇所は、皺の窄まりに閉ざされた穴なのだ。
「あっくぅ――」
 苦しかった。
 異物を出し入れしたことのない、ごく普通の排泄経験しか持たない穴は、受け入れるための柔軟性を帯びていない。
 慣らそうとした経験が一度もないので、そのように皮膚が伸びていない。拡張もしていない穴を押し広げ、無理にでも侵入しようとしてくる触手は、ゼーレに対して内側から拡張される圧迫感と、それによる苦しみを与えてくる。
 とうとう収まるだけ収まって、ピストンまで開始した。
「はぁ……ぐっ、んぅ……ぐぅぅ…………!」
 ゼーレは必死に歯を食い縛り、苦悶しきった顔で男を睨む。
「お? 随分と怖い顔だな」
「よくも……よくもぉ……!」
「そう睨んだところで、あんたはもうアナルを開発される運命にあるんだよ。抵抗なんて意味ないっての」
「んぐぅ――んっ、ぐぅぅ…………!」
 ゼーレは両目に憎悪を宿す。
 もしここで、急に拘束が解けるようなことがあったら、彼女は直ちに男へ飛びかかり、そして調教機材も破壊して、少しでも溜飲を下げようとするだろう。
 だが、どれだけ両手でもがいても、手首に金属の輪が擦れるだけだ。持ち上がることのない脚を持ち上げようと、無理に力をかけたところで、太ももにベルトが食い込むに過ぎない。
 抗う術もなく、ゼーレはただ無力なまでに肛門を犯される。
 調教はまだ、始まったばかりであった。