第2話 囚われのアグライア

 深い眠りの底から少しずつ意識が浮上して、まだ重みのあるまぶたを薄ら開く。重い雲が頭を支配していたが、しかし自分の状況に気づくなり、その衝撃で瞬時に眠気が吹き飛んだ。
 アグライアは丸裸で拘束されていた。
 分娩台のアームに足を乗せられ、ベルトで固定されてしまっている。股を閉じる自由がなくなり、腕にも手錠がかけられている。頭の後ろに手が回り、背もたれの後ろ側、頭のあたりのフックか何かに手錠の鎖はかかっており、腕を適当に動かすと、鎖がそれを引っ張り背もたれを軽く揺らした。
 この拘束の事実こそが眠気を吹き飛ばした。
「そうですか、このように扱いますか……。あの者たちも見下げたものです」
 座面には穴が空いている。トイレのアームに近い形の、しかしもう少し面積のあるU字のおかげで、お尻を下から覗き見できるというわけだ。
 そもそも、この股が持ち上がった姿勢は、腰が少々前へと滑り出ているので、肛門の位置も上がっている。下半身にある二つの穴は、どちらも丸見えなのだろう。
「どうも、私は無力化されているようですね」
 肛門に入れられた薬を思い出す。
 あれにそのような効果があったのか。それとも、気を失っている間に、また別の薬を盛られたのか。いずれにせよ、今のアグライアには拘束を破って脱走する力がない。
「いいザマだな、アグライア」
 背後から、カイニスの声がかかってくる。
「いらっしゃったのですね」
「もうじき目覚める頃だと思ってな。気分はどうだ?」
「気分ですか、確かに屈辱的ですね。この私の抱く感情が、あなたの期待に添えるほどのものかはわかりませんが」
「その惨めな姿で十分に面白いぞ? アグライア」
「そうですか。それで、私を拷問でもしますか?」
「拷問? いいや、するのはもっと、面白いことだ」
 カイニスの愉悦に浸る声を聞き、男に乳房を揉まれた事やアソコの中を調べられた事、肛門に錠剤を挿入された事にかけてを思い出す。
「そうでしたね」
 これから始まるのも、性的な辱めなのだろう。
「そろそろ時間だ。来るぞ? 男達が」
 カイニスの言葉に合わせ、ちょうどドアの開く音が聞こえた。続いて何人もの足音が幾つも重なり、目の前にぞろぞろと現れる。
 彼らのうちの一人は、キャスター付きの台を手押しして、いくつもの器具を籠入りにして運んでいた。ちらりと見えた限りでも、目に付いたのは電気マッサージ器やピンクローターにディルドなど、そういう目的である事は明らかだ。
「ではカイニス様、始めても構いませんね」
 一人の男がそう尋ねる。
「構わない。始めなさい」
「では……」
 了承を得た男は、アグライアの性器を真っ直ぐ見つめ、顔を随分と近づけてくるなり、指で小陰唇を広げて覗き見る。肉ヒダや膣口を観察される恥ずかしさに頬が染まり、しかし赤らみを除けば平静を装っていた。
(まったく……)
「ほう? これはこれは」
「なにかいいものでも見えたか」
 カイニスが男に尋ねる。
「ええ、それはもう――まさか、あなたが処女だとは」
「それが喜ばしいわけですか」
 アグライアは呆れてみせた。
 だが、冷淡な態度一つで男の興奮が止まる事はなく、彼は嬉々として口走った。
「性的な活動に興味がありませんでしたか? もしそうなら、これからたっぷりと、興味をもたせて差し上げますよ」
 随分な早口だった。
「自信がおありのようですね」
 睨むとも蔑むともつかない眼差しで、やれるものならやってみろとばかりにアグライアは考えていた。彼らの行う辱めで屈辱こそ感じるだろうが、まさかこんな形を通して、性的好奇心が育つはずなどない。
「ふふっ、では本格的に始めていきますよ?」
 男が隣へ手を出すと、仲間が彼にジェルを手渡す。彼はそれを指にまぶすと、肛門に指を置いて沈め始めた。
 また、皺の窄まりへの接触である。
 見られるのも恥ずかしい部分に触れられて、耐え難い恥辱が胸に溢れる。それを表に出してみせ、カイニスを必要以上に喜ばせるつもりもなく、アグライアはひたすら平静を保って唇を閉ざしていた。
 指はだんだんと埋まってくる。
 無意識に――いや、反射的に締め付けて、閉じるような抵抗をするのだが、ゆっくりと押し込む男の指の、ジェルの滑りのせいで意味がない。入口を閉ざす事にも、埋まった指先を閉め出す事にもならず、潤滑油の効力で順調に潜り込み、第一関節まで入って来る。第二関節まで入って来る。ついには根元まで埋まり、拳の部分が当たっていた。
「始めたといっても、まだ準備です。こうやってほぐしてやり、器具を挿入しやすくしているのですよ」
 男は指を出し入れする。
 皺の部分にそれが擦れる。
 このピストンによって、愛撫を行っているつもりなのだろう。アグライアが感じるものといったら、こんなところに物を入れられる異物感、それによる違和感ばかりで、快楽というには程遠い。
 しばらくすると、男は指を追加する。二本目の指が入って、その太さの分まで肛門の穴が広がる感覚に、ますます違和感が強くなる。皺の部分にかかる圧力も強くなり、そして今のところ快楽は感じてない。
「どうですか? 今のお気持ちは」
 ピストンしながら尋ねてきた。
「どうという事はありません。拷問するでもなく、このような可愛い悪戯をなさるのなら、痛みに耐えるよりも随分マシな話ではないでしょうか」
 より正直に答えるなら、違和感や異物感について答える事になるわけだが、そんな具体的な感想を語ってやる気持ちなどアグライアにはなかった。
「そう思われますか? でしたら、そのままどうぞ、楽をなさってください。最後の最後まで、同じお気持ちでいらっしゃるかはわかりませんがね」
 含みのある笑みを浮かべてピストンを継続して、時間が経つと三本目の指が入ってくる。三本も束ねていればそれ相応の太さなのだが、これだけ穴が広がっても痛みがなく、どうやら順調にほぐされているらしい。
「そろそろ、良いのでは」
 カイニスが言う。
「わかりました。では」
 男がさらに仲間へ顎で指示すると、ピンポン球かゴルフボールほどの白い球体が隣から彼へと手渡され、男はそれを受け取り肛門に押しつける。
 アグライアの肛門には、指から皺へと移ったジェルがたっぷりと付着している。その滑りのおかげでにゅるりと、ひどくあっさり穴は広がり、こんな所に挿入するには大きいはずの球体が、それでも中へと入ってくる。
 しまいにはアグライア自身の肛門の締まり具合がそれを直腸に閉じ込めて、内側にキープしてしまっていた。好きで封じ込めているわけではないが、指でぐいぐいと押し込まれ、奥へ奥へと入ったせいか、自然と閉じ込める形となっていた。
「なにを入れましたか」
「お薬ですよ? あなたの抵抗を封じる効果と、それにもう一つの効果も……っと、これは実際に効果が出てからのお楽しみにしておきましょう」
「そうですか」
 いかがわしい効果でもあるというのか。
 先程の妙な自信も、この薬があるからだろうか。
 こんなに大きな、それも球状の薬剤を挿入して、それからどうするのかと思ってみれば、正面の男やカイニスはしばしの間ただ見つめた。薬の溶ける時間を待つためか、手を触れるでもなく、言葉をかけてくるでもなく、思い思いに視線を走らせるばかりの時間を過ごし、やがてまた次の球体が仲間から彼へと手渡されていた。
 なるほど、時間が経てば追加らしい。
 改めて肛門に押しつけられ、大きく広がる皺の窄まりの中へと埋まっていく。強烈な異物感に、痛いわけでも快楽があるでもなく、ひたすら違和感という理由一つで顔が歪んでいきそうだった。
 球体が奥まで入りきり、そのまま指が埋まってくる。内部にそれが収まる事で、閉じ合わさった肛門の皺は、そうして指を締め付けていた。男は少しでも奥に押し込もうと力をかけるので、まだ溶けきっていない一つ目の球体と、入りたての二球目が腸の中でぶつかり合った。
 そこから、さらに時間が経てば三つ目だ。
「さあ、念のためです」
 薬としては随分と大きなものが、これで三球分も腸の中で溶けている。最初の一球目が一番小さく、入りたての三球目はまだまだ元の大きさで、いずれにしても三つも詰め込まれているおかげで、さすがに内側からの圧迫感が強かった。
 だが、それも時間の経験につれて緩んでいく。
(これは……)
 アグライアは感じていた。
 ……体が火照る。
 確かに球体状の薬には、体をおかしくする効果があるらしい。触られてもいない乳首が疼き、膣壁も妙に何やら引き締まり、性感帯に必要以上の意識がいく。気になって気になって、できる事なら手で触れて、自慰行為にでも耽りたいような、性的な気持ちがこんな状況なのに湧いてくる。
 もし愛撫を行ったら、どれほどの刺激が走るのか。
 彼らはこうして人の体をチューニングして、遊んで楽しい玩具に近づけているのだろう。
 この性感帯の気になる感覚で、あまり性的な気持ちが高まり過ぎれば、カイニスや男達の思い通りだ。
「アグライア、これはまだ始まりに過ぎないぞ?」
 カイニスが前に立ち、尻に手をやって来る。座面の裏を撫でるように差し込んで、上向きの手の平をべったり当てて五指を使い、嫌な手つきで揉みしだいてくるのであった。
「随分と長い始まりですね。プロローグに何時間かかるご予定ですか」
「ああ、アグライア……。いつまで、その態度でいられるか、本当に見物だ」
 カイニスの指が肛門に触れてくる。
 すると、電流でも巡ったような強い刺激が拡散した。
「あっ……!」
 まるで指から何か流し込まれたようにして、皺を伝ったさらに周囲の尻肉にかけて甘い感覚が迸り、アグライアは反射的に――きゅっ、と、皺を引き締めていた。この肛門括約筋の動きを指で感じてか、カイニスは案の定ほくそ笑み、満足そうに肛門を揉んでくる。
「いい反応をしたな? アグライア」
 嬉しそうに活発に、肛門に対して指を蠢かせていた。
 さらに今度は性器にやたらと視線を注ぎ、もしやと身構えてみれば、予感の通りに膣へ指が挿入される。それも二本分の太さで穴を広げて、ゆったりと出し入れを行うのだ。
「あっ……んっ…………」
 呼吸が乱れるほどの刺激が生まれ、じわっと愛液が分泌される。自身の股に目を向けると、ピストンによって見え隠れしている指の表面は、べったりと光沢に覆われていた。
「名器、だったか。なるほど? 半神に相応しい性器だな。この男が夢見る穴でもって、慰み者となる姿を拝んでみるのも面白いが、今日は色々と趣向を凝らしてあってな」
 カイニスが指を引き抜く。
 ジェルなど塗っていないのに、指先と膣のあいだに数センチの糸が伸びていた。すぐに細く伸ばされて、質量が消えゆくように薄れていくが、やはり彼女の指には愛液が纏わり付き、皮膚がぬらぬらと輝いていた。
 そしてカイニスは言う。
「お前たちも、具合を確認してみるといい」
 周りの男たちに向かってそう告げて、カイニスはアグライアの正面から体をどかす。すると直ちに、一人の男が入れ替わりで前から迫り、性器に顔を近づけニヤニヤと視姦して、指を突き立ててくるのであった。
「我々も具合を確かめさせて頂きますよ?」
 縦筋を押し潰し、そのまま膣口に潜り込む。埋まってきた一本の指は、本当に感触を確かめるだけの目的だったのか、ピストンするでもなく抜き去られた。
 だがその男がどけば、すぐにまた別の男が現れる。同じように突き立て挿入して、人の膣壁に意識を傾けものの数秒で引き抜いた。
 アグライアはその都度下腹部に力を入れていた。侵入を拒みたい思いで膣壁を閉じ合わせ、少しでも穴を狭くしようとしてみるも、意味を成さないように力ずくで入ってくる。アグライア自身の愛液が滑りを良くして、どうしてもあっさりと迎え入れてしまうのだ。
 また別の男へと入れ替わる。
 今度は二本だ。
 カイニスよりも太い指で、より大きく穴の幅は広がった。内側から拡張される圧迫を感じてすぐに抜かれて、まだまだ順番が続いているように、次から次へと男が指を挿入する。
 良い気などしなかった。
 物のように扱われ、好き勝手に穴を探られる事により、アグライアはプライドを削られていた。
 男たちの指に愛液は付着している。
 まるで蜜を配布する列に対して、快楽の証拠を配ってしまったかのようだった。