まずは客席の周囲をぐるりと一周して、それから通路の真ん中を通っていく。
四つん這い歩行のロウェルミナは、これ以上ないほどの屈辱を味わっていた。
「耳と尻尾まで付けて、本当に犬っころみたいだ」
「言えてるぜ」
そんな風に感嘆とする声が聞こえてくる。
視姦も辛い。
歩行中の尻には大量の視線が絡まる。歩きによって脚が前後し、それに伴い可動する尻肉の動きは、男にとってよほど面白いものらしい。
(フサフサの尻尾)
(まるで本物みたいだ)
肛門から生やした犬の尻尾が割れ目に沿って垂れ下がり、尻たぶを二つに切り分けている光景も、ある種の見栄えとなっている。
膝と手の平を地面に付け、進んでいく。
視界の位置も四つん這いの姿勢に合わせて低まるから、ロウェルミナの目に映るのは、観客達の腰よりしたばかりである。ズボンの膨らみなどいくらでも目に入り、自分を見て勃起している男が嫌というほど確認できてしまう。
自分の姿勢が低い上、丸裸で歩いている。それに対して全ての男が服を着て、きちんと両足で立っているのだ。まるで奴隷以下の身分に成り下がり、見世物として扱われているかのようである。
(実際、見世物ですよね……)
乳房もたぷたぷと揺れていた。
進んでいる際、地面に向かって垂れ下がる胸はかすかに揺れる。それを見るためにしゃがみ込み、低い位置から覗き込もうとしてくる男もいた。
そして、クリトリスに感じる微妙な感触である。
糸をリード代わりに結びつけ、ウェインはそれを引いて歩いているのだ。ほどけないようにい、すっぽ抜けないように、扱いはやや慎重だが、ロウェルミナの動きが遅いと微妙な力で引っ張ってくる。
「んっ」
すると、媚薬のせいか甘い痺れが迸り、お尻をピクっと跳ね上げてしまうのだ。
「おっ、何か反応した」
「可愛いー」
「見惚れちゃうぜ皇女殿下」
様々な声を浴びられ、そのたびにロウェルミナは顔を歪めた。
(もう……無理っ、嫌ですっ、早く解放して…………)
浴びる視線の全てが間近だ。
手を伸ばせば触れることも可能な距離から、ロウェルミナが通過しきっていくまでの光景を余すことなく見ようとしてくる。顔をジロジロと見ながら視線で出迎え、通り過ぎれば見送ってくるのだ。
そんな視線が絶えることなく続いている。
自分がどんな表情なのかもわからずに、こんな状況で顔を見られることが恥ずかしいと感じてしまい、目が合うたびに顔を背ける。恥じらいに満ちた顔付きだけでも、せめて隠しておきたい心理が働いていた。
ところで、ロウェルミナには気づいていないことがある。
(利尿剤、そろそろ効いてるんじゃないか?)
ウェインは肩越しに振り返り、ロウェルミナの様子を窺った。
舞台裏での休憩時に、ロウェルミナには飲み物を与えているが、そこに利尿剤を混ぜているのだ。その効果が出てくれば、そろそろオシッコを我慢していてもおかしくない。
(ま、まずいです……)
ロウェルミナは実際に危機感を覚えていた。
(なんで? どうしてなの? こんな時に!)
尿意そのものは、もう少し前からあった。
ただそれは、まだ効果の薄い時点のもので、その気になれば向こう数時間は耐えていられそうな軽い尿意だった。それが急速に強まって、いよいよ漏れる心配を始めている。
(冗談じゃありませんよ!? こんな大勢の人の前とか本当にありえませんよ!?)
もはや気を緩めれば簡単に出てしまう段階に至り、ロウェルミナは下腹部や太ももを強く強張らせていた。歩くペースが早すぎれば、そのせいで漏れることも心配して、ロウェルミナの歩行は明らかに遅くなる。
しかし、ゆっくり歩くということは、視線もゆっくり浴びるということだ。
(そ、そうですよねぇ! 我慢すればゆっくり鑑賞されて、でも早く歩きすぎると……!)
どちらにしろ地獄だ。
だが、観衆の前で放尿するのと、少しばかり長めに視姦されるのなら、一体どちらの方がマシなのか。
(どちらも選びたくありませんけど、さすがにオシッコは……)
ゆっくりと歩く方がマシに思えた。
オシッコを漏らすリスクの方が恐ろしかった。
ロウェルミナの気持ちが伝わってか、どうなのか、心なしかウェインの歩みも緩んでいる。
太ももをしきりに擦り合わせ、モジモジとするようになっていた。
「お尻可愛い!」
「今フリフリしたぜ!」
(ああああ! ちょっと!? どうすればいいんですか!)
我慢しようと擦り合わせた動作は、後ろから見ればお尻をフリフリと動かす仕草となり、それが随分と可愛く見えたらしい。
だが、それでもロウェルミナはしきりに引き締め、どうしても太ももを擦り合わせずにはいられなかった。油断すれば漏れそうな感覚は切実で、嫌でも我慢のための挙動を優先するしかなかったのだ。
(これって、このままゆっくり歩いていたら……)
我慢の時間も延びてしまう。
かといって、早く歩き過ぎることで決壊の時間が縮まれば、そのせいで漏れそうなのだ。
(手詰まりじゃないですか! どうするんですかこれ!)
ロウェルミナは一人戦慄していた。
利尿剤を飲まされた事実は知らないため、ロウェルミナは今の自分の尿意を純粋なものだと思っている。この歳にもなってトイレの管理を誤って、ピンチに陥ってしまったかのように思っている。
見ている男達は、ロウェルミナの切実な思いを知らない。
ロウェルミナが我慢を強め、アソコ周りの強張りを強めれば強めるほど、それが腰やお尻の動きに現れてくる。妙に左右に振りたくり、上下に振り動かすかのような、かすかな動作が増えてくるのだ。
それを見た男はこう喜ぶ。
「もしかしてサービスなのか?」
「我々のために、色気を披露なさってくれているのだ!」
「ケツエロい!」
「ぶち犯してぇ!」
勝手な解釈をした挙げ句、汚い言葉まで浴びせられ、ますます屈辱的だった。
(犯したいとか冗談じゃありませんから!)
ロウェルミナは本気で引き攣っていた。
その時だ。
ペン!
「ひっ! なにするんですか!」
客席の誰かがロウェルミナの尻を叩き、尻たぶにはひりっとした余韻が残る。
ロウェルミナは咄嗟に肩越しに振り向くが、それを男の視点で見たらどんな構図となっているか。鋭い視線で睨んで来るが、しかし尻尾を生やした可愛い尻がセットになっている。いかにも滑稽に見える構図のせいで、叩いた犯人はロクな反省や後悔の念も抱かず、素知らぬ顔で視姦に耽る。
「どうした。行くぞ? ワンちゃん」
ワンちゃん呼ばわりしながら、ウェインは早く進めと急かすだけだ。
「今叩かれたんですけど!」
「それは災難だったな」
「ウェイン王子! ちゃんと注意してくれませんか!」
「それもそうだ。おい、皆の者! お尻ペンペンはいかんぞ? お尻ペンペンは」
大して本気ではない、「これこれ、まったく仕方のない奴だなぁ?」程度の感覚で行う注意であった。
「あの!? もっと真面目にですね!?」
「吠えすぎだぞ? そこの者、一発だけ叩いてやれ」
注意を求めているのに、ウェインはたまたま目についた一人を適当に指名して、逆に叩けと命令する。
「ちょっとぉぉぉ!」
ぺん!
一発分、平手打ちの衝撃が尻に染み込む。
それも、オシッコを我慢している最中に受けた衝撃だ。
(あぁぁ……! 嫌っ、まずいですけど!)
一瞬、本当に慌てた。
今ので本当に漏れたかと思って戦慄したが、尿道口から出て来たのはただの一滴、それはワレメの隙間に染み渡り、実際には外に流れ出ることがなく済んでいる。
しかし、ロウェルミナは相当に焦ったわけだった。
(まずい! まずいです! 本当にまずいです!)
こうなったら、伝えるしかない。
今までトイレに行きたい旨を伝えずにいたのは、ならば皆の前でしてみせよと、今のウェインなら言い出しそうな予感がしたからだ。いくらなんでも、それだけは勘弁願いたく、ロウェルミナは我慢の道を選んでいた。
それがここまで尿意が強まり、我慢の限界がすぐそこに迫ったのでは、もうなりふり構っていられない。
「ウェイン王子! トイレに行かせて下さい!」
「ほう?」
ウェインは立ち止まり、振り向く。
同時に客達がざわめいた。
「……聞いたか?」
「トイレ! トイレって言った!」
「そうか! 皇女殿下はトイレに行きたいのか!」
「オシッコか?」
「そうだろ! さっきからあのモジモジした感じ!」
「トイレか! トイレに行きたがっているのか!」
(なぁにが嬉しいんですかぁ!? 意味がわからないんですけどぉ!?)
ロウェルミナの尿意は一瞬にして客席全体に広がっていた。
人の危機感で盛り上がる男達に腹が立ち、ロウェルミナは本気で怒り、歯軋りをして周囲を睨み飛ばしてしまう。それだけ鋭い視線を送っても、クリトリスにリードを繋がれた全裸の犬だ。いくら皇女殿下の怒りでも、それは滑稽なものとしてしか受け止めてもらえない。
「仕方がない。ではトイレに行かせてやろう!」
ウェインは高らかに宣言する。
「よ、よかった…………」
ロウェルミナは安心していた。
てっきり、皆の前でしてみせろと、そう言われかねない恐怖ばかりがあったのだ。これできちんとトイレに行けると思い込み、ロウェルミナはホッとしていたわけなのだが、次の瞬間にその安心感は覆される。
「犬といったら、木とか柱とか、建物の影なんかに小便をする! ならば、今のロウェルミナ皇女も当然そうすべきである!」
高らかな宣言だった。
「…………」
ロウェルミナは絶句していた。
客席が熱狂し、様々な声を上げて盛り上がる中、ロウェルミナは数秒に渡ってむしろポカンとなって放心していた。
ぱっと目覚めたように放心から立ち戻り、ロウェルミナは声を荒げる。
「なぁにを言ってるんですか! そんなことするわけありません! ふざけてないで、早くトイレに行かせて下さい!」
ロウェルミナは必死に食い下がった。
「さーて、トイレはどこかなー?」
ウェインはわざとらしく周囲をキョロキョロとし始めて、この場のどこにもないトイレをあからさまに探し始める。
「ウェイン! ふざけないで下さい!」
ロウェルミナは本気で声を上げていた。
こうしているあいだにも、どんどん尿意は強まって、今にも決壊しそうで焦っているのだ。
「おっと! いいところに柱を見つけた! あそこがトイレだ!」
「なにを言うんですか! 冗談じゃありませんよ!?」
「できないというなら、この場で誰か適当な者に尻を叩かせる。我慢ができなくなる瞬間まで、たっぷりとペンペンさせるが?」
「うううううううううう!」
「どうする? ど真ん中でするか、きちんとトイレでするか」
ウェインが問いかけてくると同時である。
「皇女殿下がまともにトイレも行けないなんてことはありえない!」
「そうだそうだ!」
「幼児ではないのだ! こんなど真ん中でする者か!」
「ロウェルミナ皇女なら必ずやトイレを使いこなせる!」
「きちんとトイレに行けるんだ!」
「そうだ! きちんとトイレに行ける!」
(何がきちんとトイレに行けるですか! どう考えても人を馬鹿にしてるじゃないですか!)
噴飯ものの侮辱である。
怒りと羞恥、どちらで顔が真っ赤かもわからないほど、ロウェルミナの頭はカッと熱くなっていた。顔から蒸気が出ているといっても過言ではない。触れれば熱いほどに怒りと羞恥の熱は上がっていた。
しかし、限界は限界である。
「さあ、どうする? 皆の言うように、きちんとトイレでするか。それとも……」
ウェインは選択肢を突きつけてくる。
トイレなどと言いつつ、柱にさせる気でいるのだ。それでは人前ですることには変わりない。根本的なところが変わらなくては意味がない。
かといって、今から逃げ出したとしても、トイレに駆け込むのに間に合うかどうか。
(選択肢なんてないじゃないですか……)
こんな屈辱は今までの人生で一度もない。
ロウェルミナは悔しさに震え、床を握り絞めんばかりに指を突き立て、歯を食い縛ることで顎を震わせていた。
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