前の話 目次 次の話




 そして、ロウェルミナが次に披露するのは犬の散歩であった。
 舞台裏でしばしの休憩を得られたはいいが、入れ替わりでフィッシュがまったく同じ目に遭っている。乳房をプルプルと上下に揺らし、だんだんと客席の熱気を高めていきながら、マイクロビキニを上下順番に外すストリップだ。
 オナニーの披露も同様に行って、最後には媚薬を塗られて一時的に退場する。
 フィッシュが戻って来れば、またロウェルミナの順番だ。
 こうして、次の題目として犬の散歩を言い渡されるのだが、ただ四つん這いで歩かされるだけではない。
 犬のカチューシャを渡されて、犬耳を頭に付けることになったのだ。
 しかも、肛門に差し込む形で、犬の尻尾を生やすことまでさせられて、しかも首輪まで巻く徹底ぶりだ。
 こんな格好で舞台に出るだけで屈辱的だ。
(もう死にたいのですけど!?)
 そんな風に心が荒ぶるのも無理はない。
 これに加えて、リードをクリトリスに結んできたのだ。突起した肉芽に器用に巻きつけ、糸のように細い紐をリード代わりに繋げられ、ロウェルミナは舞台へと進んでいった。
 最初は普通に立って歩いていたが、それでもリードを引かれる形でウェインの後ろに着いて来たのだ。
 まるで奴隷の身分になったかのような恥辱感で、顔がひどく引き攣り、歪んでいく。
「おおおおお!」
「ロウェルミナ皇女!」
「待ってたぜー!」
「ワンちゃん可愛い!」
 客席の前に姿を現し、途端に男達は大盛り上がりだ。
(なんなんですか!? ずっとこの調子なんですか!?)
 信じられない。
 フィッシュの時間にも、控え室まで熱狂が伝わる勢いだった。未だ疲れを知らずに歓声を上げ続け、飽きもせず期待や盛り上がりの言葉を投げてくる。
「ではこれより! 皇女殿下による犬の散歩を披露する!」
 まるで演目の開始直前のように、拍手が広がっていた。
 そして、ウェインの視線がロウェルミナを向く。
「ねえ、本当にやるのですか?」
「やってもらう」
「本当にですか?」
「もちろんだ」
 再三の確認に、ウェインは即答し続ける。
 卑しい奴隷の扱いを受けるかのようで、本当に惨めで仕方がなかったが、ロウェルミナは膝を突き、四つん這いとなっていく。
「おおおっ! 皇女殿下の四つん這いだ!」
「すげーぜ!」
「こんなの二度と見る機会ねー!」
「最高最高ォ!」
 盛り上がりがやむ気配などありはしない。
「では出発だ!」
 ウェインはそう宣言して、リードを引きながら歩き始める。
(くぅぅぅぅ! ありえないわ! 私がこんな! あぁぁ! ありえないありえない!)
 四足歩行などをやらされて、これではペット扱いだ。
 自分をどこまで辱めれば気が済むのか、ロウェルミナはしきりに恨めしげな視線を向け、ウェインの背中を目で貫く。
 舞台の端から端まで歩き、このまま一体何往復するのだろうかと思った時だ。
「…………えっ!?」
 ロウェルミナは戦慄した。
 なんと、ウェインは階段を降り始めたのだ。
 この舞台の段差は低く、だから階段の角度も浅い。四つん這い歩きで降りていくのに、大した危険はないのだが、そういった問題ではなかった。
「ちょっと待って下さい! 客席へ降りるのですか!?」
 ロウェルミナは声を荒げた。
「そうだが?」
「なぁにを言ってるんですかぁ! こんな! こんなですよ!? 犬扱いなんかを受けるだけでも、どれだけ我慢してると思ってるんですかぁ!?」
 犬の散歩は舞台上の話だと思っていたのだ。
 舞台の上を行ったり来たり、ぐるぐると、何往復かすればいいと思っていたら、客席に降りろなどと言うのである。
 これにはロウェルミナも反発した。
「おや、どうもワンちゃんは大声で吠えている!」
 ウェインは大仰に肩を竦めた。
「吠えているじゃありません! いくらなんでも、客席なんて降りませんよ!?」
 客席と舞台、見えない区切りがあるからまだ良かった。
 いや、ちっとも良くはないのだが、客が手出ししてくることのない、全ては安全な領域でのことのように思っていた。
 客席に降りてしまったら、一体その先はどうなるのか。
 手で触れられたり、皇女を犯したいあまりに暴動を起こす輩が出ないかと、ロウェルミナは本気で心配していた。たとえそこまでの心配が不要だったとしても、あの人数の中へ降り立ち、何十人いるとも知れない人数から、至近距離での視姦を受けるなど、想像すらしたくはなかった。
「それは困った。散歩コースは客席の周りと決めていたのだが」
「決めないで下さいよ!」
「しかし、ではいかがする? ここまで努力したにも関わらず、あの話が無しになるとあっては、ナトラへの訪問も無駄足になると思うが?」
「くぅぅぅ……!」
 それを言われると弱い。
 だが、身の安全を考えると、どうしても降りたくない。
「お願いします! 何か別のことを考えて下さい! 客席へ降りる以外なら……」
 なんでも、と言いかけて、そんな言質を与えるのは直前になって避けていた。
「なんとも聞き分けのないワンちゃんだ」
「ワンちゃんじゃありません!」
「ではこうしよう」
 ウェインはおもむろにロウェルミナに迫り、隣に腰を下ろしてくる。間近に接近されることで緊張感が高まって、自然と床を握り締めていた。
(なにを……する気なんでしょうか……)
 不安がるロウェルミナへと、ウェインは腕を振り上げる。
「お? まさか?」
「え? マジ? マジなのか?」
 それを見た観客は、期待感を高めていた。
(なに? なんなんですか?)
 客席の様子を見て、困惑するロウェルミナへとそれは起こった。

 ぺん!

 尻たぶたひりっと痺れると同時である。
「ひゃん!」
 驚きながら、ロウェルミナは背中を反り上げていた。
「おおお! マジか!」
「やりやがった!」
「さすがウェイン殿下ー!」
 お尻を叩かれたショックで頭は一瞬真っ白に、それからすぐにロウェルミナは肩越しに振り向いてウェインを睨む。
「なぁにをするんですかぁ!? なぁに叩いてるんですかぁ!?」
 ロウェルミナは頭を沸騰させながら声を荒げる。
「何って、聞き分けのないワンちゃんに躾をしているだけだが?」
 当然のことをしているだけなのに、一体何がおかしいと言わんばかりに、ウェインは再び腕を振り上げる。

 ぺん! ぺん!

「ひゃっ! ひゃあ!」
 平手打ちに合わせた悲鳴で、ロウェルミナは二度にわたって背中を反り上げる。その挙動が乳房を上下にぷるんと揺らした。
(なんですかこれ! お仕置きってことですか!?)
 聞き分けのない犬を躾けるための仕打ちに、ロウェルミナは心身共に打ちのめされる。

 ぺん! ぺん! ぺん!

 お尻がひりっと痺れるたび、平手打ちの衝撃によって、尻たぶはプルプルと弾けるような振動を繰り返す。
 小さな子供が受けるようなお仕置きだ。
 幼児年齢でしか受けることのないような、こんな仕打ちをこの歳で受ける屈辱は計り知れない。単に裸を見られるのとは違う、「おいおい、一体いくつだよ!」と、そうからかわれてもおかしくない状況の恥ずかしさが大きく大きく膨らんでいく。

 ぺん! ぺん! ぺん!
 ぺん! ぺん! ぺん!

「ひゃっ、いやぁぁ! ちょっとぉ! 勘弁して下さい!」
「なら客席に降りるか?」
「それはちょっと――」

 ぺん! ぺん! ぺん!
 ぺん! ぺん! ぺん!

 今度はぐっと歯を食い縛る。
 全身を縮こまらせ、必死になって耐え忍ぶ。

 ぺん! ぺん! ぺん!

 尻はほのかに赤らんでいた。
「どうする? 皇女殿下」
「……あ、あのぉ……どうあっても、客席の散歩ですか?」
 ロウェルミナは涙目で肩越しに振り向いて、震えた顔で恐る恐る訪ねていた。
「その通りだ」
「拒み続けたらどうなりますか?」

 ぺん! ぺん! ぺん!
 ぺん! ぺん! ぺん!

 言葉で答える代わりに叩かれた。
 こうして心を打たれ、ロウェルミナはついに観念する。
「……わかりました。何かあったら、絶対止めて下さいよ?」
「もちろんだ。皇女殿下の身に何かあっては、困るのはうちの方だからな」
「もう十分に色々とありますけど……」
 スパンキングによって反論の意思を打ちのめされ、ロウェルミナは客席のあいだを散歩することになる。
 リードを引かれ、共に階段を降りていった。




 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA