前の話 目次 次の話




 美紀は亜由美を含めた生徒四人を引き連れて、病院の受付を済ませて待合席に座ってしばらく待つ。呼び出しのアナウンスで番号札の番号を呼ばれる形で、美紀はその診察室へと足を踏み入れた。
 丸椅子で待ち構えていた肥え太った例の校医は、やはり見るからに清潔感というものに欠けている。ただ容姿が悪いだけでなく、汗にまみれて今にも体臭が漂いそうなところなど、不潔な印象を感じてしまう。
 第一印象で女子が引くのも、正直無理もない話じゃないだろうか。と、美紀とて本心ではそう思うのだった。
「おやぁ? 男子生徒もご一緒ですか?」
 校医は三人の男子を見やる。
「ええ、まあ。彼らは医学部志望の子達で、どうしても見学したいというので仕方なく」
 美紀はおおまかに見学の旨を説明し、校医は了解したように頷く。
「ま、検査に支障が出なければ何でも構いませんよ? ただちょっと、教師ともあろうものが生徒にお尻を見せちゃうっていうのが意外だったもんですから」
(こいつ……!)
 無神経な言葉に美紀は顔を歪める。
「せっかく先生が自ら体を張ってくれるんだから、私達も一秒たりとも目を逸らさないようにして、よーく見てあげましょうね?」
 亜由美が男子三人に語りかける。
「そうッスね。先生、校医さんも。よろしくお願いします」
 純が軽く会釈する。
「お願いします」
「お願いします」
 高志と浩二も、それに続けて会釈した。
「ではさっそく脱いで頂いて、診察台にあがりましょうかね?」
 校医のいやらしい目が、美紀の肢体のつま先から頭のてっぺんまでを舐め回す。ニタニタとした気持ちの悪い笑みだった。
「わかりました」
 なるべく平静に、美紀は用意されていた衝立に囲まれた脱衣スペースで、隠れてタイトスカートを脱ぎ始める。ストッキングとショーツを下げ、下半身を丸晒しにした姿で脱衣カゴに脱いだものを畳んでおく。シャツでアソコを隠しながら衝立の中から出て、美紀はすぐに診察台に這い上がった。
「では四つん這いに、お尻をたかーく持ち上げて?」
 まるでテレビ番組の司会者か芸人でも演じるような、妙に演技がかった喋り方には地味に腹が立つ。しかし指示通り、生徒の前で内心抵抗を感じつつも、美紀は尻を突き上げた姿勢になって下腹部の全てを晒した。
「良いですねぇ。きちんと膝をベッドの端ギリギリに置いて、先生は開脚までして下さっています。非っ常に見やすいでしょう?」
 校医はさも誇らしげに、自慢の宝でも見せびらかすかのように、ペチペチと美紀の尻たぶを打ち鳴らす。四人の視線が集中し、美紀は一気に屈辱に苛まれた。これでは大事な部分がただの見世物扱いだ。
「みなさん? この素晴らしいお尻に是非とも感想を述べて上げて下さい」
「デカくて最高です」
 高志が即答する。
「まさに巨尻といった膨らみ具合で、興奮を抑えるのが正直大変です。佐倉先生のお尻はいつもプリプリ揺れていたっていうか、履いているのがズボンとかだとパンパンに張っていたんですよね。お尻の部分が。あれってやっぱり、お尻が内側からズボンを押し上げていたってことなんだなと、この巨尻を見て実感しました」
 浩二が長々と、熱く語った。
「こ、浩二君! そこまで語らなくても……」
「先生? いいじゃないですか別に。せっかく見てもらうんですから、あなたも生徒の気持ちをしっかり把握しましょうよ」
「ですがこれは……」
 美紀は反論しかけるが、校医の言葉に遮られる。
「えー、君はどう思う?」
 浩二への問いかけだ。
「そうですね。色合いもまさに白桃って感じで、美白感ある素肌に薄っすらと赤みが乗っているのがツボですね。こんなにいやらしいケツをあくまで診察対象として見なくちゃいけないってところに、医師って仕事の大変さを感じます」
 自分のお尻の品評会でも開かれているようで、美紀は激しい羞恥に陥った。感想を長々と聞かされて、既に細かい部分までしっかり見られているのが伝わってくる。ならば性器や肛門も既に凝視され尽くして、二つの恥部に対しても、これだけの長々と語る感想を男子三人はそれぞれ抱いているに違いないのだ。
(――見ないで! そんな――そんなに細かく見ないで!)
 今すぐにでも隠して逃げたい衝動に駆られるが、そうはいかない。検査を受けるのは義務であること、神崎亜由美と約束したこと、それらが鎖のようになって美紀を縛り、沸きあがる衝動を絶えず封印し続ける。
「とっても大きくてプリップリのお尻ですねぇ? 性的な魅力がたっぷりです。だからといって欲情してはいけないわけですよ」
 言いながら、校医もベッドに這い上がり、美紀の背中に腰を下ろした。
「こ、校医さん!?」
 さすがに声を荒げた。
 四つん這いで尻だけを突き上げた姿勢の上に、校医は平然と跨ってきたのだ。膝立ちで重心こそかけてはこないが、背中が校医の脚に挟まれ、腰あたりに勃起した一物が触れてくる。
「なんですか?」
「さすがに女性の人格を無視しすぎていませんか? 座るなんて……」
「人格どうこうではありません。見学なわけでしょう? 普通に診察したんじゃ、様子がわかりにくいじゃありませんか。だからこうして上になって、上から診察しようってわけです」
 だからといって屈辱だ。
「駄目です! 降りて下さい! 普通にお願いします!」
 美紀は声を荒げて喚くが、聞き入れられることはなかった。
 むしろ、

 ペチンッ、

 と、肌を打ち鳴らす尻太鼓が部屋全体に響き、叩かれたショックで美紀は一瞬で沈黙した。お尻を叩かれたのだ。もちろん打診などではなく、わがままな美紀に対して、ちゃんと言う事を聞きなさい、とでも言わんばかりの体罰的な尻叩きだ。
 教師ともあろうものが、生徒の見ている前で体罰を受けた。この事実だけでも泣きたいほどに悲しくて、美紀は激しく顔を歪め、歯を深く食いしばった。
「いいですか? 先生。そもそもお尻の検査自体、数々の女性がお尻を差し出してきた歴史の上に成り立っています。患部を見ないことには病気は調べられませんからねぇ?」
 校医が説得にかかってくる。
「そうでしょうけど、それとこれとは……」
「当時は治療法がなかった病気が治るようにと思えばこそ、女性は検査を受けてきたんじゃないですかね。みんな未来を想っていたんです。そして今、あなたは生徒達の未来を考えて見学を許しているわけでしょう?」
「しかしこれは……」
「医療現場の実態を、あなたが身を持って教えてあげるんですよ。ここで身を捧げることで、ここにいる生徒達は将来大物になるかもしれません。いつかお尻を見せなくても良い方法が開発されるかもしれない。生徒の未来を支えることに抵抗がおありですか」
 そんな言い回しをされても困るが、生徒の未来を考えないなどと思われては侵害だ。
「そこに抵抗はありません! 私はあなたの行動に驚いただけで、本当に人の人格を無視しようって気持ちはないんですね? それだけは確認させてください」
「ええ、ありませんよ?」
 校医はケロっと答える。
 どうも信用ならないが……。
「わかりました。生徒のために受け入れましょう」
 どの道、お尻を見せる覚悟はあった。
 ただ、少しばかり思っていた形式とは違っただけにすぎない。さほどの問題ではないと美紀は自分に言い聞かせた。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA