第4話 性器の診察

 しかし、いつまで続くのか。
 ブラジャーを脱いでから、乳房への触診がもう十分以上は続いていないか。さすがのさすがに、もう終わってもいい頃ではないのか。
 ところが――。
(ええっ!? 乳首?)
 終わるどころか、指先が乳首に絡んだ。
「うーん、感じちゃうのかな?」
 中年医師の人差し指が真っ直ぐ伸びて、その上下が乳首を刺激していた。
「え、いや、感じるっていうか、その……。んっ、んぅ……ヘンなカンジ……」
 これ、診察なんだよね?
 と、どうしても疑問が湧いて、思わず口を開きかけるのだが、それを遮るように中年医師が話を被せた。
「痛みではないね?」
「うん、痛みじゃないよ」
「やっぱり、感じてるんだね?」
「え、あのさ……」
「うんうん、正常な反応って事だよ。触られたら硬くなるのが普通だからね」
「あっ、はは……。うん、だよね」
 チェンは本当に困ったように苦笑していた。
 先ほどから妙ではないか。
 下着姿を晒した時も、お尻の触診を受けた時も、疑問らしい疑問を抱く事はなかったが、ここに来て中年医師の目つきが怪しく見える。
 困るといえば刺激も困る。
「んっ……」
 チェンは唇を噛み締めた。
 指の上下に嬲られて、甘い痺れが止まらない。揉まれるよりもさらに快楽が走るので、肩がモゾモゾと蠢く挙動を抑えきれずに、胴もどこかクネクネとしてしまう。
 さらには摘ままれた。
 指の間に挟み込まれて、程良い指圧で乳首が揉まれた。軽く引っ張る力もかけられて、それら刺激でますます甘い痺れが巡り、チェンの表情はさらに強張る。
「……ねえ、お医者さん? これは、なにやってるの?」
 不安になってチェンは尋ねた。
 まさか不要な行為をしていないだろうか。触診はもうとっくに済んでいて、診察は次のステップに移れるはずが、楽しむために触り続けている。などという事はないかと不安になり、尋ねずにはいられなくなっていた。
「先っぽもね? しこりとか炎症とか、そういうったものが出る場合があるから、なるべくきちんと確かめようとね? 少し時間をかけているんだよ」
「だよね、うん。そりゃそうだよね」
「それにしても、やっぱり乳首は気持ちいいのかな?」
 チェンはきょとんとした。
 何を言われたのか、呑み込みかねていた。
「え? え? いや、そりゃ……。感じるのは、正常な反応なんだよね?」
 そして次の瞬間には狼狽に近い面持ちとなり、顔を背けがちにしていた。
「そうだよ?」
「……うん。正常な反応はしてると思う」
 快楽について答えるのは恥ずかしい。聞かれるたび、答えるたびに頬から火が噴き出して、自分がどんな羞恥の表情を晒しているかもわからない。
「じゃあね? チェンちゃんの乳首は『正常な反応』を示しているって事で、そろそろ次へ移っていこうか」
 中年医師の口にする『正常な反応』の、少しばかり強調された感じに恥辱を煽られ、チェンは薄らと顔を歪める。
 だんだんと文句を言いたくなっていた。
 どんなに不快でも我慢しよう、きちんと診察を受けようという気持ちで臨んできたが、ここ十分前後の間に言動や目つきの怪しさが目立っている。
(そうだね。次はなんか言ってやろう)
 心の中で密かにそう決めて、そんなチェンへと告げられる次の診察内容は、いよいよ今まで以上に恥ずかしい。
「今度はね、ショーツを脱いでもらおうかな?」
「うっ……」
 また一瞬だけ、中年医師はほくそ笑む。
 さっと生真面目な表情に立ち戻り、ただ仕事だからそう要求しているに過ぎない風にしているが、それは単なる仮面なのではないか。
 確かに、男性が女性の裸を前にするのだ。
 いいオッパイだ、そんな気持ちが心の中には沸いてしまうものなのだろうが、事務的な表情を装う仮面の裏は、果たして本当に、男性だから仕方ないの一言で済むものなのか。もっと最低な欲望や、具体的な目論見を潜めていないか。
 チェンはその不安を抱いて立ち上がり、ショーツの両側に指を差し込む。疑念の分だけ、それでなくとも恥ずかしさで脱ぎにくいのに、抵抗感が尚更のものとなっていた。
(あれ? ちょっと待って? 胸の診察が終わってるなら、上はもういいんじゃない? 上は服着てさ、裸なのは下半身だけでいいんじゃないの?)
 そんな疑問を浮かべるなり、中年医師もまた立ち上がっては急かしてくる。
「ほらほら、早く脱いじゃおうね? もうね、さーっと脱いですぱっと終わらせちゃおう!」
「う、うん。すぱーっとね」
 勢いに押されるままに、ついつい流されていくチェンは、まるでそうするべきタイミングを失ったようにして、着衣について言い出す事なくショーツを脱ぐ。
 下半身の肌にゴムを滑らせ、今まで性器を守り続けた一着を手放すと、チェンの顔はさらに赤らむ。額から顎にかけ、ほとんどまんべんなく朱色となって、心許ない感覚もより強烈な域に達していた。
「でね? チェンちゃん。改めて肌の確認をするから、気をつけしてみよっか」
(ホントに必要でやってる? だ、大丈夫?)
 チェンは言いたい事を言えない性格などしていないが、どうしても症例写真のショックが焼き付いている。命と恥ずかしさを天秤にかける心理が働き、医者の言うことは聞いておこうとする感覚が先に立つ。
 真正面から、胸に視線が注がれた。
 続けて中年医師は膝を突き、アソコを真っ直ぐ見つめてくる。最も恥ずかしい部分を観察され、チェンの頬からふつふつと、沸騰のように熱が噴き出す。
「綺麗なアソコだね? チェンちゃん」
 感想を言われた。
 それがまた恥じらいを呼び起こし、チェンの頬からより高い熱が噴き出る。
「ね、ねえ、そういうコトはさ――」
「はーい、横になってね?」
「お医者さん? だから、さっきの――」
「はいはいはいはい、そこの診察台に横になって、ぐいっと足を開いてもらうからね?」
 先ほどの言葉について、体つきへの感想はやめて欲しいと言いたいのに、チェンが口を開けば開くだけ、中年医師はそれを何度でも遮り勢いに任せてくる。
 仕方なくそれに流され、チェンは丸裸で横たわった。
「あのさ、お医者さん。胸にタオルとか――」
「ほら、開脚開脚。恥ずかしいと思うけど、アソコをしっかり見せてもらわないとね?」
 やはり言葉は遮られ、衣服どころかタオルを求める暇すら与えてもらえず、チェンは開脚を強いられる。両膝を持ち上げ左右に開き、形をM字に近づけて、アソコが目立てば目立つだけ、チェンの赤面は耳にまで及ぶ。
 とうとう全てを晒していた。
 性器をあけっぴろげにするポーズで、腰の裏から真っ直ぐに伸ばした尻尾を半ばから、診察台から床へと垂らす。乳房を覆う物も貰えず、そしてアソコまで晒したチェンの、頬から噴き出る熱は勢いを増していた。
 もうすぐ頭が沸騰する。
 そんな予感がするほど恥ずかしくて、顔中が力んで歪みを帯びる。
「うーん、やっぱり綺麗なアソコだね? ここにもね、視診と触診がそれぞれあるから、どれだけね? 恥ずかしいと思っても、ぐっと堪えてもらうからね?」
 早速のように指が触れ、肉貝の膨らみをなぞられる刺激と緊張で一気に固まる。全身を強ばらせ、表情も硬くして、頬から湯気が噴き出る勢いの赤面で、チェンはその視診を受け止めていた。
(ああもう! 恥ずかしさで、なんか言うどころじゃなくなってくる!)
 男性の顔が性器のすぐ近くに迫っているのだ。
 ふー、ふー、と、静かな部屋で呼吸が目立ち、その音が聞こえる上に、生温かいものが当たってくる。息遣いが肌に触れれば、中年医師の視線がいかに至近距離から注がれて、どれだけじっくり観察されているかが実感できて、それがますますチェンを辱める。
 恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい――。
 苦悶のチェンの性器へと、中年医師の指先は這っている。触診のための指遣いで、指圧を帯びて滑り抜き、幾箇所にも先端を押し込むタッチが皮下を調べる。
 そして、開いた。
 両手の指がそれぞれ置かれ、右へ左へアソコの扉は引っ張られ、閉じ合わさっていた肉貝の、桃色の中身が中年医師の視線に晒された。
 その瞬間、顔から炎が噴き上がった。
「やっ……だっ…………!」
 チェンの苦悶は激しくなる。
 肉ヒダが視線に晒される恥ずかしさで、思考がぶくぶくと沸騰して、まともにものも考えられない。顔中を歪めて羞恥に悶え、ただ真っ赤に染まり続ける事しか出来ないチェンに、追い打ちのような観察が行われた。
 ぐっと顔が近づいていた。
「綺麗だねー」
 言葉までかけられていた。
 たった数センチの距離からの観察と、綺麗と評するコメントに、チェンは首を左右に振りたくった。
「触診するからね? 我慢しようね? さて、チェンちゃんのナカをチェックしていくよ?」
 今度は指が突き立てられ、緊張で腰から背中にかけて固まった。次の瞬間には膣口に潜り始めて、秘密の部分を目でも指でも探られる恥ずかしさと、居心地の悪さによっても背骨がそわそわと落ち着かず、肩や腕にも挙動が増えた。
 日記か何かのプライバシーが人の手に渡ってしまい、それを目の前で読まれているような、そんな居心地の悪さがしてならなかった。
「温かいね? ナカはまだ健康的かな? 症状が進行していると、炎症の腫れた感じとか、ぶつぶつが出来た感じとか、そういうものがあるんだけどね? 今のところは、特に何もないのかな?」
(診察……これは診察、診察……! だって婦人科とか、アソコを診る医療は元からあるし)
「しかし、締まりのいいアソコだねぇ?」
(診察、診察、診察……!)
 もう嫌な目つきや言葉に対して、ああだこうだと考えている余裕がない。恥ずかしさを堪えることで精一杯で、温かいだの締まりが良いだの、明らかに医療上不必要な言葉をかけられても、そんな事より目と指で探られる恥ずかしさで堪らない。
 顔中が熱かった。
 こんなにも屈辱なら、いっそ殺せという発想すら頭に浮かぶ。
「ところでね? 膣分泌液の採取が必要なんだ。チェンちゃんには、今から自慰行為をしてもらうよ?」
 指が抜かれていくと同時に、より恥ずかしい展開がチェンを待ち受けていた。
「そんな、ちょっと待って? それって、あたし……お、お医者さんの目の前で……!?」
 チェンは狼狽していた。
「これも君自身のためだから、ね? チェンちゃん。採取、させてもらうからね」
「そんなこと言ったって、じ、自慰行為って……!」
「命が大事でしょ? 健康が大事でしょ?」
「そう……だけど……! そうだけど……!」
「ここまで我慢できたんだから、このまま最後まで診察を済ませようね?」
「うぅぅ……! もう死にそうってくらいなのに……!」
 悲痛を顔に浮かべたチェンは、震えた右手をアソコへ伸ばす。恐る恐ると指を置き、もうそれだけで羞恥心が爆発して、頬の筋肉が強烈に強張った。唇が激しく形を歪め、ついに耳まで真っ赤に染まり、顔全体が熱を噴き出していた。
「治療のためだよ? チェンちゃん」
「う、うん……」
 チェンは苦悶しながら指を動かす。自らの縦筋をなぞって刺激して、しかしこうも緊張と羞恥心に呑まれた中ではそうそう濡れず、すぐには分泌液など出て来ない。
 じぃぃ……と、中年医師の視線が注がれる。
 人前で自慰行為を行う恥ずかしさで、気がどうにかなりそうだった。いっそ早く濡れてしまえば、かえってその方が自慰行為を切り上げられるのに、その濡れる気配がないから余計に困る。
 だが、続けるしかない。
 チェンは震えた指で性器を慰める。
「ホント、なんだろ……この状況…………」
 アソコが濡れる気がしない。
 いつまで触ってみたところで、一向に感じる気配がなく、ただ恥ずかしさの地獄が続くばかりのチェンは、いつまでも苦悶していた。
 一分、二分と、たどたどしい指遣いで刺激して、顔の筋肉が疲れてくるほど強張り続け、なおも濡れる様子のないアソコのワレメに、それでも上下の摩擦を繰り返す。
 さらに数分――。
 ようやく少しは濡れてきて、一滴の水を塗り伸ばしたような、本当に薄らとした水気が性器の皮膚に染み込んだ。その時はそれっきり、それ以上は出て来ないが、反応を起こしている以上は分泌が機能して、やがては愛液が滴っていた。
 チェンに感じた自覚はなかった。
 緊張や動揺に、そして恥ずかしさばかり感じて、いかに快感があったところで、チェンは自慰行為の気持ち良さに気づいていなかった。自覚する余裕のなかった刺激に、指で愛液を塗り広げる形に至って初めて気づき、その時になってようやくチェンは快楽の存在を悟っていた。
 今の今まで、ずっと気持ちいい事をしていたと、急に気づいたようにアソコに刺激を感じていた。
「濡れたねぇ?」
 そして、中年医師の口角が吊り上がった。
「チェンちゃん、オナニーで濡れたねぇ? うん、これで採取が出来そうだよ。さあ、チェンちゃんの愛液を採らせてもらうからね?」
 目つきと声音が怪しかった。
 性的ないやらしさを存分に感じさせてくるような、警戒心を煽る中年医師の面持ちに、チェンは背筋をぞくりと震わせ引き攣っていた。
「ねえ、お医者さん? ちょっと顔が怪しいっていうか……」
 狼狽え気味に、そう口にせずにはいられなかった。
「ごめんね? チェンちゃん」
 謝りつつも、その謝罪の声音がねっとりといやらしいまま、中年医師は綿棒での採取を始める。先端に吸収させて、成分を調べるために一時的にこの場を離れ、チェンは丸裸のまま診察台で待たされていた。
 数分後には戻る中年医師の、相変わらず怪しげな顔つきに身構えながら、チェンはその分析結果に耳を傾ける。
「チェンちゃんのオナニーした愛液にも、Wウイルスが含まれていたよ」
「そ、そっかぁ……。そりゃマズイんだよね?」
 言い方がいかにもセクハラチックというべきか、事務的な堅い言葉に変換して欲しいところを『オナニーした愛液』とは、しかも声音がどこかベタベタと、粘り気のせいで鼓膜から糸でも引きそうな、本当に嫌な喋り方をしてくるので、耳で辱めを受けた気持ちになる。
「でね? あとは画像検査もやりたいから、写真を撮らせて欲しいんだようね」
「しゃ……!」
 チェンは絶句した。
「もちろん検査のため、治療のためだよ? というわけで、また足を開いてもらうよ?」
 中年医師はカメラを手にしていた。撮られるとわかって開脚するなど、本当に抵抗があってならない話だが、感染している立場では、治療のためと称して押されると弱い。自分の命に関わる以外にも、治さなければ人に移しかねないのだ。
 本当に困り果てたような悲しげでもある眼差しで、チェンはゆっくりと足を開いて、また改めてM字開脚のポーズとなるのであった。
(やっぱ恥ずかしい……)
 顔中が熱を宿して、額も耳も必要以上に温かい。
 レンズが迫り、シャッターに指が置かれている。指先一つで大切な部分が撮られる状況に、ぐっと全身が強張るばかりか頬の筋肉まで極限まで硬くなり、表情筋が痙攣のように震え始める。

 パシャ! パシャ!

 二回ほど、シャッターの音が鳴らされ苦悶した。ピクッ、ピクッと、その鳴った音に応じて眉間や頬の筋肉が弾んでいた。
「次は中身を開いてね?」
「え……そんな…………」
「ほら、治療のためだから」
「うぅぅ…………」
 チェンは自ら指をやり、両手によって左右に開く。自ら中身を晒す恥ずかしさで、いよいよ耳すら熱くしながら、瞼を力強く閉ざしていた。

 パシャ!

 また、シャッターが鳴らされる。
「本当に綺麗なアソコだねぇ? それにオナニーした時の汁が残っているよ?」
「や、やだ……」
 感想を言われるばかりか、愛液の存在すら指摘され、ますます苦悶するチェンのアソコに、もう何度かのシャッターが押されていた。

 パシャ! パシャ!

 これで性器が相手のカメラに収まった。
 撮られて、しまった。
「は、はは……なんかもう…………はは………………」
 急に力が抜けていく。
 ここまで恥ずかしい思いをさせられては、もはや笑うしかなくなっていた。恥辱のあまりの壊れた笑みで、チェンは力ない声を発していた。
 そんな彼女の顔が改めて激しく赤らみ、勢いよく火を吹き出すのは、撮れた写真を見せつけられての事だった。
「こんな感じだよ?」
「やっ……!」
 カメラの裏側、モニター部分を見せつけられ、そこに映った肉ヒダに、チェンは一気に頭を加熱させ、顔中から蒸気を噴き出す勢いとなっていた。
 しかし、その後は逆に吹っ切れた。
 ここまでくれば気にするのが馬鹿らしくなるような、もう何を見られてもどうでも良い境地に至っていた。そして、今頃になってその境地に達しても、もう恥ずかしい診察は終わってしまい、羞恥心を堪える場面は過ぎ去っているのであった。