第3話 羞恥の視触診

 下着姿になってから、チェン・センユーは薄らと頬を染めたまま、落ち着きを失い全身をそわそわさせていた。腰のくびれを摩られる時も、背中を向けて尻への触診をされる時にも、男性の手が生肌に触れる緊張感で顔がどことなく硬くなり、足腰のそわそわとした挙動を帯びていた。
(うわぁ、やっぱり恥ずかしいなぁ……)
 チェンはとにかく、恥じらっていた。
 ショーツの上から尻たぶが掴まれて、表面を撫でるか指を食い込ませるかのタッチが続き、チェンの頬に浮かんだ赤みは濃さを増す。拳がやけに開閉を繰り返したり、瞳が上下左右に泳いだり、体中で落ち着きを失う部分が増えていく。
 だが、触診なのだ。
(我慢しないとね。うん、我慢我慢)
 チェンの脳裏には、中年医師から見せてもらった症例写真の強烈な印象が焼き付いている。黒く腐敗したような、形も爛れた胸や性器という、人によっては気絶するほどショッキングなものを見た上で、そのウイルスに感染したとあっては、羞恥心の事より治療が大事だ。
 女性的な部分ばかりが患部になるので、診察の箇所も自然とそこになってくる。そんな事は覚悟していて、ベタベタと触れられる不快感を堪え抜く前提で、チェンはここにこうして立っている。
 中年医師の指遣いに不審な点は感じない。
 医学には精通していない、触診の作法も何も知らないチェンなのだが、楽しむために触るというより、機材の点検のような気持ちで、調べるために触っているのが肌に伝わり、だからきちんと我慢しよう、といった気持ちを貫いていた。
 だが、ショーツのゴムがずらされた。
 納得がしやすいように、今の触診で何がわかるのか、それを教えてもらおうとした時だ。
「簡単に言うと――」
 説明を始める際、中年医師はショーツの布を内側に寄せ、尻の割れ目へずらし込んだのだ。
(やっ、ちょっと……!)
 まるで皮が剥かれるように、下着の布から生肌が暴かれて、今度はショーツ越しではなく、直接触られる形となり、体中の落ち着かない感じが一層のものとなる。
 炎症やしこりの有無など、血液検査や唾液の採取では判明しない、触診でしかわからないものを調べていると、中年医師はそう語った。
(にしたって、もうちょっと手心っていうか……。いや、やっぱ治療が大事!)
 生尻に指が食い込み、指圧によって肉の形が変形する。そうして手の平の温度を感じたり、揉まれる感覚にお尻が晒され続けていると、背中の辺りがそわそわしたり、肩がしきりに動こうとしてしまったり、とにかく落ち着いていられない。
 手の平全体がべったりと、どちらの尻たぶにも張り付いた。
(ううっ、手心……! いや、治療治療!)
 二本の親指がどちらも中央に向けられて、掴むような形に両手が尻たぶへ張り付くと、それら二箇所にスライド往復が行われた。手の平全体で圧するように力をかけつつ、上へ上へと滑り動いて、手が骨盤のラインを越えた辺りで、今度は下へ下へと滑るのだ。
 まるで素手でパン生地を伸ばすかのように、圧力をかけた動作によって、這うように位置を下げていく両手は、やがて太ももにまで至っていた。親指と人差し指の、さながら「?」の形で尻たぶを持ち上げる形となって、腿と尻の境目のライン、尻のタレ目にあたる曲線がぐいっと上げられ、そしてそのまま上へ上へと、また手の平が骨盤を通過する。
 そんな上下の往復で、中年医師は皮膚の奥まで調べてくる。
 その途中、痛みやヒリヒリする感じなど、何か違和感はないかと聞かれた。
「今のところ、なさそうかな」
「なら大丈夫かな? 念のため、あと一分ぐらい我慢してね」
 答えると同時に指遣いが変化して、急に何やらおかしなような、単に揉みしだくだけに思える手つきになった。
(あれ?)
 たった今まで、触られる場所はお尻であっても、メカニックはメンテナンスを行うような気持ちの接触だと、チェンはそう感じ続けていた。ただ、そうであっても部位が部位なので、どうしても抵抗は感じていて、それを診察だから我慢していたわけなのだが、そのチェックや点検といった感じ突如薄れた。
(あれ? なにこれ、揉んでる? 普通に揉んでる?)
 チェンは内心で困惑した。
 五指が踊って尻肉が捏ねられて、あまり触診のようには感じられない、ただ揉んでいるだけに思える感覚に、一層のこと背中がざわつく。
(いや! ないない! っていうか、あたしに触診とかわかんないし、たぶんちゃんとやってるんだよね?)
 ただ揉んでいるだけに思える手つきも、やはりしこりや炎症の有無を見落とさないためではないか。触り方にそれらしさがあるかどうかの違いだけで、手つきが変わっても触診の意図まで変わったわけではないはずだ。
(相手はお医者さんだし、これも診察のはず)
 だから耐えよう。
 どんなに困った気持ちがしても、抵抗感が強くなっても、命に関わるものに感染した以上、きちんと診察を受けるべきなのだ。
「ちょっとね、もう少し詳しく診ておきたいから、前屈をしてもらえるかな」
「前屈? あっはは、困ったカンジになっちゃうなぁ……」
 それにしても、さらに恥ずかしい状況になるとは思わなかった。
(しょーがないかぁ……)
 必要だからそう指示したのだろう中年医師のため、チェンは体を折り曲げ前へと倒す。すると、足を肩幅程度に開き、自身の足首を掴むようにも言われるので、それらに従い尻をしっかり高らかに、しまいには尻尾を横に垂らしてまで、生肌を中年医師の目に晒す。
 差し出している感覚だった。
 目的は診察、治療、欲望のために触らせるわけではないが、お尻をぐっと突き出す姿勢の上に、ショーツのゴムが割れ目に食い込んだままなのだ。Tバックと化した布の形で、尻たぶが丸出しなのが恥ずかしさを助長して、チェンの頬に浮かんだ赤らみは、やがて熱を帯びつつあった。
 ぺたっ、と。
 剥き出しの尻に手が置かれ、すりすりと撫で回される。肌と肌を擦り合わせた音が鳴り、それが静かな診察室で延々と奏でられ、恥辱感を堪えるためにチェンは下唇を噛み締める。
(けっこうキツイっていうか、嫌だけど……。これもまあ、診察のはずだし……)
 チェンはとにかく、診察とは無関係な事など求めてはこないはず、命に関わる話でふざけている場合ではないと信じて、ぐっと堪えて中年医師の行為を受け入れる。
 体勢を変更すれば、骨や筋肉の形が変わる。
 現在の姿勢の尻を撫で、より入念に症状の有無を確かめる目的なのだろう。
 手の平は這い回る。
 二つの尻たぶに対して、二つの渦を同時にえがいているように、ぐるりぐるりと這った両手から、肌と肌の間の摩擦音が続いている。

 すり、すり、すり、すり、すり、すり、すり、

 何を塗られているわけでもないが、既にペンキでまんべんなく染められて、そこに今なお色が足され続けているような、お尻の皮膚や細胞に何かが浸透していく感覚があった。
 チェンはその感覚に我慢を強いられ恥じらっていた。染まった頬に熱を宿して、表情にゆがみを帯びさせていた。
 あと、どのくらい我慢すればいいだろう。
 スリスリスリスリスリ――――。
 と、続く摩擦とその音に、いつまでも辱めを感じていると、やがてようやく手が離れた。
「はい、お尻はこのくらいかな?」
 中年医師がそう言うなり、チェンは直ちに姿勢を戻し、割れ目の中からショーツの布を引っ張りだした。こんな下着姿ではあるが、せめて布面積の及ぶところまで、今すぐにお尻を隠し直しておきたかった。
「ごめんね? チェンちゃん。だいぶ我慢させたでしょう」
 そして椅子に座り直すと、中年医師はとても申し訳無さそうな顔をしていた。
「いやまあ、そりゃ我慢はね。でも診察なんでしょ? 治すことを考えたら、遠慮されるよりいいと思うし、あんまり気にしないでよ」
 感染を放っておけばどうなるか、症例写真が告げる未来をチェンは恐れていた。ああはなりたくない、問答無用でそう思わされる写真の強烈さと、命と恥ずかしさならどちらが大事かという問題が、チェンにそのような答えを出させていた。
「チェンちゃんは本当にいい子だね」
「またまたぁ、そんなこと言って、どうせまだ診察は残ってるんでしょ?」
 明るく振る舞うチェンの頬から赤らみが引いていない。椅子に置いたお尻には、そのショーツの内側には、今の今まで触られ続けた余韻がべったり深く染み込んでいる。
「そうだね。今度は胸かな」
「そっかー、胸かー」
 笑ってみせるチェンの頬に、目尻に、引き攣るような力みがあった。やはり恥ずかしい時間に続きがあってそのせいで、ピクっと一瞬だけ力がこもっていた。
「すまないね。まだまだ我慢させる事になるけど、乳房への触診になってくるので、改めて辛抱してもらえるかな」
「ホントはムリって言いたい気もするけど。お願いね、お医者さん」
「では失礼するよ」
 両手が迫る。
 尻を長らく触られて、今度は乳房の番なのだと、迫る指先に身構えて、チェンは体と顔を硬くする。彼の両手とブラジャーとの、距離が縮めば縮むだけ、警戒心のような何かが体の中で膨らむものの、かといってこれは診察なのだ。払い退けるわけにはいかない、症状について見極めるための指を受け止め、チェンは瞳だけを横に背けた。
(ああもう、触られちゃってるなぁ……)
 ブラジャーのカップが手に包まれ、指の蠢きによって揉みしだかれる。本当は触らせたくない、嫌だ嫌だと細胞が叫んでざわめく感覚が一気に広がり、しかしチェンは静かに堪える。
(我慢、我慢だってば)
 そう自分に言い聞かせていた。
「なるほどねぇ?」
 中年医師は神妙な顔をしていた。
「どうなの? お医者さん」
「うん、この辺りに違和感はない?」
 何かわかった風にするので尋ねてみると、中年医師は右手の人差し指を突き伸ばす。その指先でブラジャーのある一点、横乳の下弦あたりをぷにっと押し込むと、神経に何か走ったような、痛いというほどではない、しかし痛みと呼ぶべき刺激が薄ら駆け抜け、チェンは思わず目を丸めた。
「んっ、なんか謎の痛みみたいな? えっ、これ、あたしもたった今気づいたよ?」
 昨夜の入浴で自分自身の胸に触っているのに、チェン自身では気づかなかった。この薄らとした感覚の存在を、しかし中年医師は見抜いたのだ。
「触診の結果、内部の炎症っぽいものを感じてね。おそらく、皮膚にはまだ何も出ていないんだけど、進行するとだんだんと症状が成長して、皮膚にも発疹が広がって、っていう事になっていくかな」
 中年医師はその箇所に指を突き刺し、ぷにっと一点を押し潰しているままに、左手では相変わらず揉んでいた。口が動いている間中、カップを揉み潰す指遣いが止まらずに、そのせいで全身がそわそわと落ち着かず、チェンはそれを始終気にしながら、医者としての言葉に耳を傾けていた。
「ねえ、お医者さん。ってなるとさ、なーんかイヤな予感がするんだけど、あたしの予感って当たってたりする?」
 乳房の中、皮膚の内側に炎症のような何かがある。一つでも発見がある以上、より詳しく調べることにならないか。ブラジャー越しの触診以上に詳しく診察するとなったら、やはりそういう話になるのではないか。
 当たらないで欲しい予感について中年医師は首肯した。
「ブラジャー、外してもらえるかな?」
「あー……。やっぱりそうなっちゃうか。ホント、外さなくても診察が出来たらよかったのに」
 それが出来ないから外して欲しいのだろうと、そう信じ切っているチェンは、何の疑いもなく両手を背中に回していた。指先でホックを探り当て、すぐにでもそれをパチリと外し、かといって羞恥心はある以上、ブラジャーを脱ぐ手つきには大いに躊躇いが宿されていた。
(いやぁ……やっばあ……。胸? オッパイ? 出すってさ、なんとかなんない? でも、ちゃんと診察してもらわないとだし、拒否ってわけにはいかないよね)
 恥ずかしさのおかげで、命を守る事と天秤にかける思いが何度も何度も、止まらない泡のように湧いては消える。ショッキングな症例写真が脳裏をチラつき、自分の体がそうなる恐怖でやはり肩紐を片方ずつ順に下げ、抵抗感はあれどもチェンはブラジャーを脱ぎ切るのだった。
(ここは諦めの境地っきゃない)
 乳房を出したその瞬間、頬に含まれる熱が上がった。
 残るはショーツだけの心許なさで、中年医師の視線が真正面から胸へと注がれ、それが診察のための眼差しと、視診のものだとわかっていても羞恥心が煽られる。
 だが、隠そうとはしなかった。
 本当は両手で我が身を抱き締めて、ぎゅっと乳房を押し潰してしまいたい。視線から守り抜き、一刻も早く元の服装に戻りたい。
 しかし、診察なのだ。
 恥ずかしさより、命の方が大事ではないか。
 天秤にかける心理がまた働き、それがチェンの両手を真っ直ぐだらりと下ろさせていた。
「チェンちゃん、当然ながらね? 診察のため、表皮の状態を確認する目的で観察するからね? だとしても恥ずかしいものは恥ずかしいだろうけど、どうにか辛抱して頂戴ね」
「まあ、なんとか?」
 そう答えるなり中年医師の体が前へ傾き、その両目が一気に乳房へ近づいた。至近距離から肌を見つめて、じっと観察してくる眼差しには、やはりいやらしさは感じない。プログラマーが文字列の中からバグの原因を探す眼差し、メカニックが故障の原因を見つける目つき、チェンが浴びているのはそういった種類の視線である。
(気にしなきゃそれまでだけど、ああもう! もう二十分くらいは恥ずかしい格好のままなんだし、そろそろ慣れちゃいたいのに!)
 こんなに恥ずかしいくらいなら、裸を見せることにさっさと慣れて、あっけからんとした顔が出来るようになりたい。胸を見せるくらい、今すぐ平気になってしまいたかったが、そうは羞恥心が引いてくれない。
 赤らみが続いたまま、いつまでも頬が熱されている。引くどころか赤面の範囲が広がり、染まるのは頬だけでは済まなくなっている。
「さっき指でわかったのはこの一点だね?」
 中年医師の人差し指が、彼から見れば右側の、チェンに取っては左の乳房の、横乳の下弦へと突き刺さる。皮下に炎症が隠れたらしい部分を押されれば、ちょっとした刺激が確かに走るが、今はそれ以上に生肌を直接触られた事の方が気になった。
(オッパイ、じかにツンってされちゃった)
「見た目はね? 赤らんだりとか、特に変色はなさそうだし、乳房全体も現状では健康的に見えるかな? もちろん感染している以上、放置してステージが進行すれば、綺麗な見た目ではなくなっていくわけだけど、まあ治療はするわけだから」
 今度は両手が共に迫ってきた。
 指先が脇へと及ぶ。
 最初の触診は手の平の四指を束ね、奥から手前へスライドさせるものだった。二の腕の隙間に指先は潜り込み、そして引っ張り出すように指圧しながら滑らせる。脇下の肉から横乳にかけてのタッチが繰り返され、いよいよ乳房に触られている状況に、チェンは一層のこと赤らんでいた。
 押し込むような指遣いが皮膚を滑って、チェンの乳房は外から内へと寄せられる。よほどの巨乳であればそれで谷間のラインが作られるが、茶碗より少し大きな程度の半球ドームは、中央でぶつかり合う様子もなく、しかし外から内へと寄っては元の形状に立ち戻る。
 そうしたタッチがしばし続くと、触診は次の方法へと切り替わった。
 下乳が持ち上げられた。
 四指で掬い上げる形で少し浮かされ、そこにもう片方の手が被さる。上下に挟み込むサンドイッチ状の指圧でぷにぷにと、指の強弱がかけられていた。
 四指と四指、指で作った板の間にプレスされ、潰れた乳房に手首を震わすような動きが加わる。振動を与えられる刺激と共に先端の乳首が震え、それがしばし続けば今度はもう片方の乳房が同じく潰れる。
 やはり調べるための手つきであった。
 それらプレスが済んだ次には、下乳や横乳、上端のカーブなど、あらゆる部位に指を押し込む行為があった。決まった一点だけを摩り続ける行為があった。
 だがやがて、単に正面から鷲掴みに、指の強弱によって捏ねられる時間が続く。五指の蠢きによって延々と変形して、チェンは唇や頬を硬くしていた。
(妙に長くない? いや、念入りにやってるだけ? やっぱり見落としとかマズイだろうし、見落とされるくらいなら、いっそ入念の方がいいかもだし……)
 チェンの心境は複雑だ。
 あまり揉まれていたくはない。乳房への触診はもう何分も続いているので、さすがに終わって欲しいところなのだが、何かの見落としが取り返しのつかない事態を招く、という可能性が少しでもあるのなら、いっそ長々と揉んでもらった方が今後のためとも思う。
 命や健康問題が絡む怖さで何も言えず、しかしながら本当に長々と接触が続くので、だんだんと何か言いたくなるような、少しは疑いたくなるような、そんな気持ちがなくもない。
(っていうかさ。あんまり揉むから、もう乳首が……)
 揉みしだく刺激によって、頂点に血流が集中していた。乳輪が少しだけぷっくりとミリ単位で盛り上がり、そのさらに中心にある乳首が硬さを帯びて、感度が着実に増していく。
 どうも気持ち良かった。
(ああもう、なんか刺激が!)
 チェンはピクピクと蠢かすように肩を跳ね上げ、小さく上下させていた。落ち着きを失いそわそわと、そんな挙動をあらわにするだけ快感が出てきている。
 指の食い込む加減は絶妙で、しかも手の平と乳首の間に絶妙な隙間がある。腕の微妙な動きによって、延々と掠れ続ける刺激で上半身が丸ごと焦燥に駆られたように、胴が左右に小さく動く。
 チェンの赤らみが広がった。
 頬だけを染めた恥じらいから、もう少しだけ赤い面積を広げた困った風な表情で、チェンはその刺激を堪えていた。
(感じてるって、もうバレちゃってる? ヤダなぁ、バレてないといいんだけど。バレてたら余計に恥ずかしいもん)
「ところで、感じているかい?」
 まさに不安を抱く真っ最中に、中年医師がそんな事を尋ねてくる。
「え? なにそれ。いやぁ、感じるとか聞かれても、はてなんのことやら」
 チェンは目を泳がせた。
「チェンちゃんね、ちょーっと体がモゾモゾしてるから。痛みとかではないよね?」
「ああ、うん」
 指の力が強くて痛むのでも、しこりや炎症があってそこに力が加わる刺激で痛むのでもなく、チェンの体がモゾつく理由は、やはりどうしても快楽なのだ。
 強いて言うなら、最初に彼が見つけた一点だけには、ごくごく薄らとした痛みはあるがそこだけだ。
「確認のためでね。痛みとか、違和感とか、そういった感覚とは関係ないのか、答えてもらえるかな」
「ない? かな、うん。ないない」
「なら、性的な快楽かな?」
「それを聞かれると困るけど……」
「ごめんね? はっきりとした答えがわかった方が、色々と判断しやすくて」
 あくまで知りたいとしてくる中年医師に追い詰められ、チェンはすぐに観念した。
「うーん……! わ、わかった! 診察のためだもんね! 白状するから。あたし、ちょっと感じてるかも」
 そう口にしてみれば、やはり余計に恥ずかしく、頬からより一層の熱が噴き出す。
 しかも、その時だった。
「へえ? 感じてるんだねぇ?」
 口角が吊り上がっていた。
 その怪しげな唇に、背筋に一瞬の寒気が走る。
「あれ? お医者さん? 今の笑い方、ちょっと怪しく見えたから気をつけよう?」
 ついつい、そう口にしてしまうほどだったが、次の瞬間には元の生真面目な表情に立ち戻り、申し訳無さそうな目をしていた。
「ああ、ごめんね? チェンちゃん」
「いやいや、とにかく早く進めちゃってよ」
「そうだね。もうちょっと続くからね」
 まだ乳房から手が離れず、あと何分続くかもわからない触診をチェンは堪える。
(うーん……。気のせい?)
 先ほどの怪しげな表情に首を傾げて、そしてすぐにそんな事よりも、揉まれ続ける恥ずかしさで心が忙しくなっていた。どうしても薄ら快感で、感じていると知られた上で続くのが、より一層の羞恥に繋がっていた。