第3話 星の絶頂

 好奇心に満ちた眼差しが迫っている。
 閉じることの出来ない股へと、愉快そうな顔が近づいて、星は至近距離からの視姦を受けていた。
「うぅ……」
 余計に恥ずかしい。
 全裸でいること自体の恥ずかしさも大いにあるが、性器に顔が迫っていては落ち着かない。弱点を覗き込まれているような、それとも弱みを握られているような、対等さを欠いた状況に置かれた気持ちへと、ますます心は傾いていく。
「処女かしらぁ?」
 彼女はそんな質問を行ってきた。
「……さあ、知ってどうするの」
 ぶっきらぼうに、星は答える。
「言ったでしょう? 大事な大事な取り調べの最中だって」
 その時、指が置かれた。
 ぴたっと、指の腹で肉貝の膨らみが軽く潰され、とうとう性器に触られてしまったことで、星はひどく強張っていた。初対面の、名も知らぬ女性によって、大切な部分を許可なく触られているショックで、動悸が収まってくれそうにないのだった。
 しかも、指は二本である。
 束ねられた指が置かれたことで、星のワレメの線は、ちょうど挟まる位置に入っている。大陰唇の右側と左側の、それぞれに指のある状況は、次の瞬間、一体何が起こるかの予感をもたらすには十分なものだった。
 案の定、ワレメが開かれた。
 桃色の肉ヒダが公開され、性器の中身が彼女の視線に晒されたのだ。
 顔が激しい熱を帯び、耳の持つ赤らみが濃さを増す。
「処女みたいねぇ?」
 嬉しそうに上擦った声で、彼女は確信を持ってそう呟く。
「だから……何…………」
 処女、非処女。
 プライベートな情報を暴かれた上、それを愉快そうな声音で指摘され、面白いわけがない。覗き見られた気分の悪さと、何よりも恥ずかしさに襲われて、顔を歪めずにはいられなかった。
「とっても可愛いアソコちゃんね? それにお尻の穴も、とっても綺麗よ?」
 それら感想によって、ますます恥じらいの火は高ぶり、星の顔は赤らむだけでは済まなくなった。頬や唇に力がこもり、羞恥によって歪みが生じているのだった。
「お顔もなかなかね?」
 星の様子に、当然気づいていたことだろう。
 人の表情にまで目を向けて、気ままに楽しんでくる彼女の、なんと良い身分なことか。
 足に力がこもる。
 股を閉じたくて、無駄だとはわかっていても、自然と反射的に動いていた。太ももが少しだけ、その閉じようとする気配を示していた。
「こんなに可愛い処女を貰っていいだなんて」
「な、何を言って……!」
 悪寒が走った。
 貰っていい?
 許可を与えた覚えはないのに、自分が貰ってもいいことに、彼女の中ではなっているのだ。
「当然でしょう? あなたは今、私のものなんだから」
「勝手な……」
 相手は女だ。
 男性器を持つ存在でないのなら、星が受ける陵辱は、せめて手や指による行為のみで済みはしないかと考えていた。それは甘い考えで、きっと後からアダルトアイテムが登場する。
 器具の挿入でもして、処女を喪失させるつもりに違いない。
「だけど頂戴する前に、味を確かめてみちゃったりして」
 手が離れる。
 肉ヒダはワレメの中に隠れるものの、その次に走るのは、ぺろりと舌が走る感触だった。唾液を帯びたぬかるみに撫でられて、水気の残った表皮がひんやりとしていた。
「ふふっ」
 舐めているのだ。
 彼女は再び口をつけ、舌から上へと、べろっと舐め上げる。その繰り返しがワレメに唾液を塗り込むことで、星の股には刺激が走っていた。
「何をして……んっ、んぅ…………!」
 抱くのは嫌悪感だ。
 見ず知らずの人間の、唾液が体に触れている。舌でベロベロと舐められている。そんな状況を歓迎する趣味はなく、鳥肌が広がっているはずの体に、それでも甘い刺激が走っていた。
「ほーら、出て来た」
 もう、その味を感じているらしい。
「濡れている理由が、私の唾液だけじゃなくなったわ」
 自分でもわかっていることを、こうやって声に出して指摘されれば、それ自体が恥辱となった。ひどく辱めを受けた気になって、星は表情を硬く歪めた。
「いい味だわ。あなたの汁なら、いつまでも舐めていられそう」
 味の感想まで聞かされるなど、普通は誰が思うだろうか。
「もうちょっと確かめようかしら」
 刺激は続いた。
 ぺろっ、ぺろっ、と、繰り返される舌の愛撫で、背筋は冷え込んでいるはずなのに、膣壁は愛液を分泌している。熱っぽく疼いた膣壁から、染み出たものが彼女の舌に付着して、だから舌と表皮のあいだには、それなりの糸が引くようになっているに違いなかった。
「んっ、あぁ……んぅぅ………………」
 自身の股に目をやれば、アソコに顔の埋まってくる光景が目に入る。前髪が垂れ下がり、腹にかかってくる上での、ペロペロと舐め続ける女性の頭頂部に視線が及ぶ。
「んぅ……くっ、んぅぅ…………」
 見たくなかった。
「あっ、うっ、んぅ……あぅ…………」
 自分の身に起こっていることの直視を避け、星はすっと横向きに、壁だけに視線を注ぎ始めた。
 そして彼女は、星が視線を外そうと外すまいと、お構い無しに舌を使い続けた挙げ句、今度は指の挿入を試みていた。ようやく舌が離れ、その行為は終わったかと思いきや、次の行為が始まるだけだった。
「んっ……」
 今度は指の腹ではなく、先端がワレメに置かれる。それも膣口のポイントに、女性は真っ直ぐに押し込んできた。その突き立てた指が沈み始めて、星はまず第一関節までを膣壁で感じていた。大切な穴の中へと、とうとう侵入が始まっていた。
「ちょっと固いようね」
 女性は穴の具合について言ってくる。
「柔軟性がないというか、押し返されそうな感じかしら?」
 とは言いながら、彼女は指を一本増やす。
 顔を背けたままでいる星は、だから女性がどの指を入れているかなど、いちいち見てはいなかった。どの指であるにせよ、本数が増えた分だけ、穴の幅を広げようとしてくる内側からの圧迫感は増していた。
「んっ、んぅ…………」
 星は顔を歪める。
「本当に狭いわねぇ? 二本で入りにくいだなんて、あなたは自慰行為をしないのかしら?」
 またしても、とんでもないプライベートについて触れてくる。
「そんなの……どうだって……」
「するとしても、一本しか入れたことがないのかしら? この分なら、外側しか触ったことがなくても、不思議はなさそうね」
 自分の秘密が解き明かされ、知られたくないものが着実に握られていく最悪さに、星は無念で歯を食い縛っていた。
 膣壁の感触だけで、こうも自慰行為について考察してくるとは思いもしなかった。しかもそれは当たっており、確かに星は一本しか挿入したことがない。
 その一本すら、いつも入れるわけではない。
 外側への愛撫だけで済ませることがほとんどで、基本的には中には入れない星の膣口は、外部からの侵入に慣れていない。
「あぁ……くっ、つぅ…………」
 指二本で成り立つ太さにすら、穴を拡張してくる圧迫感に、いくらかの痛みと共に苦しさを感じていた。
 だが、濡れていたためなのだろう。
 ゆっくり、ゆっくり、数センチの挿入に何十秒もかけるペースによって、着実に収まってくる二本の指は、時間をかけてようやく根元まで到達していた。
「んぅぅぅ………………」
 指が入っている。
 体内に収納されているものの存在に意識が傾き、星の脳裏には女性の指の形状が浮かんでしまう。意識などしたくないのに、それでも膣は指を読み取り、脳裏に形状を生み出していた。
 入ったからには、当然のように出入りが始まる。
「んぅ……あっ、んぅ……んぅぅ…………」
 徐々に引き抜かれていき、数秒かけてようやく指の第一関節のラインまで出ていくと、また今度は収まり直す。前へと進む指により、閉じた膣壁が改めて開かれていた。
「んぅ……んぅ…………」
 もっぱら、苦しかった。
 慣れない本数によって広げられ、出入りしてくる感覚は、星にとってどうしても慣れないものだ。まして自分の指ではないために、秘密の領域を他人に侵されている不快感は強烈だった。
 この内心が顔にいくらでも出ているのだろう。
「あなたがどう思っていようとね? この場所はたっぷりと愛液を分泌しているし、おかげで滑りもいいのよ?」
 読み当てた心に向かって、女性はそんなことを言ってくる。
「んぅぅ…………」
 そしてピストンに応じて抜かれた指は、必ず前に進み直して、膣内に再度収まる。その押し込まれている時の、出て行くことでせっかく閉じた膣壁の、また開いて行く際の感覚で、星は愛液の働きを感じていた。
 乾いていれば、そうはいかないだろう。
 だが濡れてしまっている膣内は、その滑りの良さのおかげで、多少きつくとも指を迎え入れてしまう。
「んぅ……んっ、んぅ…………」
 快楽は皆無ではなかった。
 慣れない以上、痛みや苦しさの感覚の方が目立って、快楽を感じている余裕はあまりない。脂汗でも出そうなほど、無理に広げられている苦悩は顔に浮かんで、だから出てしまっている声も、苦しいせいによるものだった。
「んぅっ、くぅ……」
 星の顔には苦悶が滲み出る。
 しかし、その時だった。
「んぅ…………!」
 痛みよりも、今度は快楽が目立った。
「あら?」
 そして今の声音を聞いた女性は、わざとらしい疑問符を意地悪く添えていた。
 腹の内側を擦られたのだ。
 指の腹を天に向け、Gスポットを狙った集中的な愛撫が行われた。敏感な一部分ばかりを擦り、刺激してくる愛撫は、これまで以上の電流を生じさせ、星は苦しさだけでなく、快感によっても息を乱し始めていた。
「んっ、はぁ……んはぁ…………」
 思わず、下腹部に力を込める。
 膣壁に力を込めて、女性の指を圧迫する行為には、彼女の指を文字通りに締め出したい思いが宿っている。それで望みの結果になることはなく、だから指による愛撫は止まらなかった。
 それどころか、ペースが上がる。
「お汁が増えているわねぇ?」
 女性は煽ってきた。
 出し入れを少しだけ活発に、指で愛液を掻き出しながら、嬉々とした声音を投げかけてきた。
「う、うるさい……」
「あなた十分に感じているみたいね?」
「そんな……こと……んっ、んぅ…………」
 妙なことを言われたせいか、急に快感が強くなり、逆に痛みは薄れたような気がしていた。気のせいかとも思ったが、止まることを知らない出し入れで、紛れもない快感が繰り返され、さすがに星は悟っていた。
 アソコが指に慣れ始めている。
 そして慣れてしまったら、あとはもう痛みも苦しみもなく、ただ気持ち良さだけが待っている。望んで体を許しているわけではない、この不本意な状況で、今よりも感じた声を引き出され、感じた顔をさせられる。
(そんな……冗談じゃ…………)
 この女性がいかに勝ち誇った顔をするだろうかと、想像してしまっての拒否感を星は抱いた。
 しかし、どんなに拒否したくとも、それを許さないための拘束で、星には足を閉じる自由もない。股に現れる反射的な挙動も、ただ閉じたがる気配を見せるだけが精一杯で、それ以上の可動はできなかった。
「んっあっ、あぁ……!」
 さらにペースが上がっていた。
「いいわねぇ? 慣れてきたわねぇ?」
 痛みが薄れ、慣れていけばいくほどに、女性の声音は上擦ったものとなる。彼女の興奮が嫌というほど伝わって、自分の反応がいかに彼女を喜ばせているかの実感が膨れ上がった。
「……くっ、んんぅっ」
 きゅっと、不意に膣壁を反応させてしまう。
 快楽の電流を感じるあまり、股の筋肉に力を込めて、無意識のうちに締め付けていた。先ほどの締め出したい気持ちとは違う、刺激のせいで起こった反応は、もちろん彼女の指を追い出すことなどなく、むしろ彼女に歓喜をもたらしていた。
「あらぁ? そんなにいいのぉ?」
 大喜びだった。
 そのテンションが上がる勢いに任せてなのか、指のピストンはますます早く、愛液がかき混ぜられるまでに至っていた。そんなに気持ちいいのなら仕方がないと、まるで言わんばかりであった。
 くちゅくちゅと、アソコから水音が聞こえてくる。
 聞けば聞くほど、その音の存在は、お前はこれだけ感じているんだと、証拠を突きつけると共に言われているような気がして嫌だった。
「んっ、んぅ……あっ、んぅぅ…………」
 喘ぐ星は、頭にすら痺れを感じていた。
 体にスイッチでも入ってしまってか、気がつけば乳首が硬く突起していた。クリトリスにも血流が集まっていた。どちらも敏感に成り果てて、触れられれば感じてしまう自分が残念ながら想像できる。
 胸は最初に揉まれたきり、クリトリスには触れられてすらいないのに、体が敏感になっていく勢いで、それだけ星の体は火照っていた。
 しかも、何か予感がする。
 体の中で見えないものがせり上がり、どんどん大きく膨れ上がっているような、未知の何かが弾ける予感に、星は言い知れない不安に駆られた。
(これ……一体…………)
 何か、来る。
 その感覚を星は知らない。
 生まれて初めての感覚だ。
(なに……これ、なに……!?)
 このままではまずい焦燥感に駆られ、星は思わず呟いていた。
「も、もう……んっ、やめ…………!」
 それは切実な思いであった。
 これ以上の愛撫が続けば、自分がどうなってしまうのかがわからない。大きな大きな不安を顔に浮かべて、どうかやめて欲しい懇願の思いすら星は抱いた。
 だが、女性は止まらない。
 むしろ人の焦った様子が面白いようにして、ピストンのペースをかえって上げてくる始末だ。
「んっ、あぁ……あっ、あぁ……あぁぁ…………」
 きゅっと、アソコが引き締まる。
 それは感じるあまりの、快楽電流に筋肉が反応して、自然と収縮しての反応だった。
「あらぁ? いい締め付けねぇ?」
 それを指に感じたことで、女性は声を上擦らせた。
「どう? 感じてる? 感じちゃってるわねぇ? だって、ますますアソコがヨダレを垂らしているもの。こんなにも、たっぷりとね」
 饒舌になりながら、さらに少しばかりペースを上げる。
 やがて、限界が来た。
 もうまずい、これ以上は――一向にピストンをやめてもらえず、焦燥だけが積もりに積もり、その最後にはビクっと体が跳ね上がった。
 胴が持ち上がっていた。

「あぁぁぁぁ――――――――――――――」

 バネに弾かれでもしたように急激に、ビクっと跳ね上がった胴体は、背筋の力だけでブリッヂを作ったようだった。
 頭を真っ白に染め上げながら、脚をビクビクと震わすように開閉させ、潮を撒き散らしていた。その巻き上がった水滴が、星自身の下腹部に何滴か、パラパラと振り撒かれているのだった。
 何も考えられなかった。
 本当に真っ白だった。
 自分に何が起こったのかを理解できずに、しばし呆然としたまま深い呼吸を繰り返す。
「はぁ……はぁ……」
 大きな呼吸だった。
 全力疾走のあと、息切れを起こしたような、必要以上に荒っぽく、落ち着きのない息遣いで、肺を大きく膨らませていた。そうして胸を上下させ、衝撃に丸まった眼差しは、いつまでも天井に突き刺さっていた。
「いま……今のは…………」
 理解出来ず、星はそう呟く。
 未知の体験に対して、無意識の言葉を漏らしていた。
「あらぁ? イったのねぇ?」
 そんな星に向かって、彼女は猫なで声だった。
「い、イったって……」
「絶頂よ? オーガズムよ? 初めてだったかしら?」
 答えをはっきりと聞かされて、今になってようやく自分に起こったことを理解した星は、より大きな屈辱の渦で胸中を荒らしていた。
 イカされた。
 今のがイクということだったのだ。
 玩具のように面白おかしく、思い通りの扱いを受けた挙げ句に、その手で絶頂にまで導かれた。
 ここまでいいようにされてばかりの悔しさに、歯をきつく食い縛らずにはいられない。
「どう? ご感想は?」
「別にそんなもの……」
「気持ち良かったでしょう? 虜になっちゃったりして」
「そんなこと……ならない……」
 なるものか。
 彼女が自分をどうしたいのか、星はより明確に理解した。この女性は気に入った女の子を調教して、どん底まで貶めたいのだ。快楽の虜というように、無理にでも与えられた気持ち良さに囚われて、抜け出すことが出来なくなるようにしたいのだ。
「ならない……絶対……」
 星は胸中に決意を抱く。
 絶対に、この女の言いなりにはならない。思う通りの人形になど、なってやらない。
 強い意地を張る星は、無意識のうちに女性のことを横目で睨む。
「ふふっ、まだまだ可愛がる楽しみがありそうね」
 そして女性の方は、そんな星の眼差しを見ることで、怒るでも不機嫌になるでもなく、むしろ面白そうに笑っているのだった。