第5話 まるで罪人のようにして
しかし、レーナを待っていたのは、着用許可どころか次の指示だった。
「面談があるから、このまま着いて来て欲しいんだ」
「面談って……えっ、なんで……わたし、まだ服が……!」
「さあ、早く」
強く言われて、その瞬間にまたしても、頭の中に命令遵守の文字が反芻する。抗議しようと思う気持ちが内側から掻き消され、どうしてこんなことを言われてまで、自分は命令を受け入れようとしているのか、レーナ自身にもわけがわからない。
ショーツ一枚のまま、廊下を歩かされていた。
腕を掴まれ、無理にでも引っ張られ、廊下に出されてしまったレーナは、必死になって両腕で胸を守って、恥じらいを堪えながら歩いていた。
もうやだ!
心の叫びが吹き荒れる。
もうやだ……なんで……早く帰りたい……そんな切実な思いでいっぱいに、祖国である共和国に居ながらに、帰りたいとすら思っていた。シンや他のエイティシックス達が待つところへ、一刻も早く戻りたい一心だった。
「なんだありゃ」
「どういうわけだ?」
すれ違う男達の、容赦のない視線が肌に痛い。
レーナはずっと下を向き、床だけを見ながら歩いていた。何人の男と、何回すれ違い、何を言われているのか。どんな目を向けられているか。その全てを心や感覚の中から遮断して、断ち切りたい気持ちでいっぱいだった。
我が身を抱き締める両腕に力が籠もり、乳房を視線から守ろうとするあまり、内側で押し潰す勢いにまでなっていた。
レーナが連れられていく先は、大きな執務室の中だった。
やっとのことで行き先の部屋へと着いて、もう誰ともすれ違うことがなくなると、その一点に関しては安心しようとした直後、レーナは激しく引き攣っていた。
コの字のようにテーブルを並べた部屋には、軍部高官がずらりと並んでいた。
憂国騎士団を名乗る見覚えのある顔ぶれも混ざっての、やはり男だらけの中に引き立てられて、もはや罪人の扱いである。
犯罪者には服も着せない。
裸のまま裁判官の前に立たせて裁きを下す。
もう、これはそんな扱いにしか思えない。
「なんなんですか……」
いくら何でも、レーナは声を上げずにはいられなかった。
頭に反芻する文字を押し切ってでも、レーナは男達に問いかけていた。
「わたしが……何かしたっていうんですか……」
こんな目に遭わされなければいけない、一体何の理由があるのか。
レーナにはわからなかった。
「いやいや、レーナちゃんは大きな武勲を上げているからね。その報告をみんなに聞かせてあげて欲しいだけの話だよ」
「だったらこんな格好……! こんなの……おかしい……!」
「いいからいいから、早く済ませよう。ねえ、皆さん」
「で、でも……!」
「命令遵守だよ?」
「うぅ…………」
その瞬間から、これだけ荒げた声をレーナは自ら押し止め、何故だかもう抗議をしようとすらしなくなっていた。
なんで……。
本人にもわからない。
頭の中に見えない拘束力でも働いているように、マイアーレの口から命令遵守と聞かされた瞬間に、反意が締め上げられてしまっていた。
「ではヴラディレーナ・ミリーゼ大佐の面談調査を開始する」
一人の男が荘厳な声を上げ、いかにも険しい顔付きで言い出した。
「まずは、気をつけ」
まるで相手の身体を操作する魔力でもあるように、言われた途端にレーナはそのように動いてしまっていた。こんなにも力強く抱き締めて、自分自身の腕で押し潰していたはずの乳房を解放して、レーナは背筋を伸ばした気をつけの姿勢を取っていた。
もう、これで何人に見られているのか。
初めて裸になるのはシンの前だと思っていたのに、たった一日で十人以上には胸を見られた。
「ここ最近の戦況について尋ねるが、戦艦型の<レギオン>を相手にしたそうだね」
最初は海での戦いについて聞かれるが、質問自体におかしいことは何もない。戦況レポートについて、現場を見ている指揮官の見解を得ようとしているだけだ。
そう、こんな格好でなければ。
何もおかしいことはない――はずだった。
「では次だが……」
と、男は繰り返し<レギオン>との戦いについて尋ねてくる。
そのあいだにも、彼らの視線は乳房にあった。
真正面のテーブルに座る横並びの男達に、左右のテーブルからも横乳に対して、全員からの視線が恥ずかしい部分に突き刺さる。レーナよりも一歩後ろに立ち、背後に控えるマイアーレからは、尻をじろじろと見られていた。
レイドデバイスのうなじ部分に嵌めこまれた青い結晶体が、じん、とわずかに熱を帯びる。物理的な熱ではない。知覚同調で活性化した神経系が感じる、幻の熱だ。
指揮の際など、日頃から感じる慣れた熱でもある。
しかし、マイアーレが作った新型バージョンであるせいか、この幻の感覚はうなじだけではない。尻にも何かじりじりと、レーザーで焼かれるような、熱いような痛いような、それとも痒いかのような感覚があり、それが視線なのだとわかる。
レイドデバイスから伝わる同調相手の感情を、おそらく脳がそのように処理している。
気づいてみれば、テーブルに居並ぶ全員の首に、レイドデバイスは装着されていた。
じぃぃぃぃぃ………………!
一人一人の視線がわかってしまった。
実際に照射されているわけではない、幻のレーザー熱が乳房やショーツに殺到して、皮膚がまんべんなく焼かれる感覚がしてきていた。
「やだ…………」
小さな悲鳴がこぼれた。
顔中が熱くなり、耳まで染まり上がっていく。脳が羞恥で熱せられ、いよいよ沸騰に近い泡を上げ始める。それほどまでに恥じらう気持ちも、レーナから男達へと伝わるのだ。
しかも、質問がプライベートなものへと変わった。
「ところで、シンエイ・ノウゼンと交際を始めたとか。それは事実かな?」
「え、なんで……」
どうして急に、人の交際関係について尋ねてくるのか。
混乱した挙げ句、こんな恥ずかしい質問にきちんと答える必要があるのかと、たった一瞬でも嘘をつこうと思った瞬間だ。虚偽の発言を本当にする気が、ではなくて、実行するしないに関係無く、そういう思いつきが浮かんだ時点で、レーナの頭の中では文字の反芻現象が起こっていた。
虚偽発言禁止――虚偽発言禁止――虚偽発言禁止――虚偽発言禁止――虚偽発言禁止――虚偽発言禁止――虚偽発言禁止――虚偽発言禁止――
「……はい」
恥ずかしかった。
きっとこの質問は、こんな格好でなくても、赤くなってしまっていた。
「ほう? では続けて尋ねよう。どこまでした?」
「それは……キス、まで…………」
「肉体関係はないと?」
「……はい」
「なるほど。ところでオナニーはしたことがあるのかな?」
完全に、おかしい。
交際関係についてだけでも、プライベートに踏み込んだ質問だ。それをどこまでしただの、肉体関係の有無だの確かめるのは、完全にプライバシーを傷つける。
平気で答えられる質問では、決してないはずなのに。
「…………あ、あります」
オナニーの質問にすら、レーナは素直に答えていた。
「ほう? では生まれて初めてのオナニーは?」
「つ、つい最近……シンに、告白されて…………」
「エイティシックスの分際で告白とは。しかもミリーゼ大佐、それを受け入れたのかね?」
「その時はそのっ、キスはしましたけど……言葉での返事は……」
答えた瞬間、周囲がざわつく。
みんなが非難がましい目を向けてきていた。
「キス? キスで答えた?」
「まったくはしたない」
「共和国の軍人ともあろうものが」
「エイティシックスとくっつくだけでもふしだらなのに」
「返答がキスなど、ロマンス映画の中だけにしてもらいたいものだ」
右から、左から。
はしたない、ふしだらと言ってくる声が耳に届いて、レーナはそれらの評価に苛まれる。
なんで? おかしい。
そうまでして、特別にいやらしいことではないはずなのに、みんながレーナをふしだらだと言ってくる。レイドデバイスで伝わる気持ちのおかげで、それはからかって楽しんでいるだけとわかるが、それもそれで最悪だった。
こういうことで人をからかって楽しむなんて。
「続けて尋ねるが、告白をきっかけに興味を持ち、オナニーを始めたということでいいのかな?」
「……はい」
「で、それ以前には一度も試したことはないわけだね?」
「試すだけなら……で、でも、指を入れたりとか、痛いんじゃないかって、怖くて…………」
「ほう? すると、交際相手が見つかる前から、ただやっていなかっただけで、そういう興味自体はあったわけだ」
「そ、そうなります…………」
おかしい、おかしい、絶対におかしい。
こんな質問が平然と繰り返されるのも、答えてしまっているレーナ自身も。
「それで? 現在はどうなのかな? 指を入れたりしているのかな?」
「…………はい」
どうして、なんで答えてしまうのか。
いくらなんでも、ありえない。
もしかして、わたし……。
レーナは一つの予感に駆られた。
レイドデバイスは脳神経に影響を及ぼすことで成り立つ。ではもし、その影響を自由自在にコントロールできたとしたら。そんな技術が完全に確立したら、そもそも都合よく洗脳できるはずではあるけれど。
だとしたら、今はまだそこまで進んでいない。
しかし、いつかはその領域に辿り着く。
今のレーナが受けている影響は、現時点での技術が及ぶ領域。
わたし……嘘がつけなくなってる……。
この首に付けているマイアーレ製のレイドデバイスで、虚偽の発言ができなくなっている。
いや、ありえるのだろうか。
そうだ、試しに嘘を。
まだオナニーについて聞いてくるなら、今度こそ嘘をつこう。
「一番最近したオナニーはいつかな?」
「昨日、です……え…………」
違う、嘘をつくはずだった。
正直に答える気なんて、今回はなかったのに。
やっぱり……嘘がつけない…………。
言動をコントロールされる恐怖に、レーナは自らの首に手を触れる。
こんなもの、外したかった。
「おっと、気をつけのままだ」
その瞬間に飛び出た言葉に、レーナの腕はしっかり下へと伸びていた。
嘘……そんな……。
洗脳でも、完璧な操作というわけでもないが、コントロールされている。レーナ自身の意思に反して、こうして体が動いたのも、嘘をつけなかったのも、どう考えてもおかしい。
「オナニーでは何か妄想をするのかね?」
言いたくない。
今度こそ、何も喋りたくない。
せめて沈黙を守ろうと意識してみて、しかしレーナの口は動いていた。
「し、シンと……その……する妄想を…………」
恥ずかしすぎる。
もう死にたい。いっそ殺して欲しい。
羞恥心のあまり、命さえ投げ捨てたくなってくる。
「まったく、ふしだらな奴め。本当に処女なのかどうか、これは確かめる必要がありそうだ。そうは思わないか? マイアーレ」
男の言葉に、マイアーレが前へ出る。
「そうですね。ここは一応、確かめましょうか」
マイアーレがレーナの真正面に立っていた。
「な、なにを……」
確かめるだなんて。
嘘をつけない以上、肉体関係がまだなのは、わかりきっているはずなのに。
「回れ右」
その言葉の通りにレーナの体は動いてしまう。
マイアーレに背中を向けて、出入り口のドアに目をやる。相手の顔や姿が見えない状態で、背中だけに視線を浴びる不安に、レーナは口元を強張らせた。
一体、次は何を指示してくるのか。
処女の確認というなら、もしかしたら……。
いや……いや…………。
その予感に、レーナはかすかに首を振る。
それだけはやめて欲しい。
せめて、それだけは……。
だってまだ、胸とか、下着姿だって、シンに見せていなかったのに。
これ以上なんて……。
「前屈しなさい。自分で自分の足首を開くんだ。あ、足は肩幅くらいにね」
嫌だ、そんなポーズは取りたくない。
命令を無視しようと思ってみても、何故だかレーナの身体は動いている。命令通りに稼働して、上半身が下へ下へと動いていく。身体を折り畳み、前屈に近い形で尻だけを高らかにして、レーナは言われた通りに足首を掴んでいた。
「いやぁ……やめてください…………」
とうとうレーナは懇願した。
こんなポーズ、きっと服を着ていたって恥ずかしい。
それをショーツ一枚なんて、もう頭が沸騰し始めていた。
「やめても何も、君が勝手に言うことを聞いているだけだと思うけどね」
ぺたりと、尻に手が置かれた。
「いや……助けて………………」
シンの顔が頭に浮かぶ。
シンどころか、セオにクレナにライデンにアンジュまで、それからシデンやその隊の顔ぶれが次々と浮かんで来る。こんな時、必ず味方になってくれるはずの、エイティシックス達の顔ばかり。
それに比べて、ここにいる男達は何なのか。
同じ共和国人で、人種だってレーナと同じで、なのに味方でも何でもない。
「さあ、レーナちゃん。君の処女をこの目で確認させてもらうからね?」
尻が撫で回されていた。
右手の置かれた尻たぶがぐるぐると、思いのままに触られているというのに、レーナは自分の取ったポーズのまま動けない。恐怖や緊張のせいなのか、それとも命令のせいなのか、自分でもわからなかった。
もう片方の手が置かれる。
そのまま指がゴムの中へと入り込み、ショーツが下ろされ始めた時、ただでさえ真っ赤なレーナの顔は、より完璧な真紅を目指して一層のこと染まり上がった。
かぁぁぁぁぁぁ…………!
と、耳まで燃え上がる勢いだった。
「いやぁ……やめて…………!」
じりじりと視線を感じる。
ショーツが膝まで下げられて、剥き出しになった尻に直接突き刺さってくることで、肛門を視姦されているのがわかる。マイアーレの視線の先がレイドデバイスから伝わるせいで、視線の感触を脳が処理して、何か焼かれているような、熱っぽいような感覚として、表皮に現れてきてしまう。
「へへっ、これがレーナちゃんのお股かぁ」
マイアーレが興奮していた。
鼻息を荒くして、目も血走っているはずなのが如実に伝わっていた。
「アソコが可愛いね? うん? 綺麗なワレメだ。毛はカットしてあるのかな? 薄らしていて整ってるね?」
下半身についての言葉にされて、見られているだけでも恥ずかしいのに、余計に羞恥心が膨らんでいた。
「やだ……やめて……言わないで…………!」
「ではアソコの中身を見てみようか」
ワレメを左右に広げるための指が来る。
「やぁぁぁ…………!」
レーナは目を開けていられなかった。
ぎゅぅっと、まぶたの力だけで眼球を押し潰す勢いで、力いっぱいに閉ざしきり、顔の筋力が許す限り全力で、額も頬も顎も、どこもかしこも硬化させていた。表情筋を強張らせ、固くなり得る箇所の全てが石のようになっていた。
マイアーレの目がアソコの中に直接降り注がれている。
イメージの共有が発生していた。
レイドデバイスのテストに付き合い、図形や写真を思い浮かべた時のようにして、今はマイアーレの脳裏にアソコがくっきりと浮かんでいる。見ている景色をそのまま脳にありありと像にして、それがレーナの脳にも伝わっていた。
自分自身の目で見ているわけではない。
そもそも、まぶただって閉ざしているのに、レーナの脳裏のはそれでも自分自身のアソコがはっきり浮かぶ。
薄桃色の、染み一つない肉ヒダの、まだ男性器の入ったことが一度も無い、初々しい膣口がまぶたに漂う。小さな穴の幅を少しばかり狭めるように、白い膜の張ろうとしているそれこそが処女膜だった。
「ヴラディレーナ・ミリーゼ大佐は確かに処女のようです」
そして、マイアーレは見たままを発表する。
「では大切な記録になるので、今のうちに撮っておきましょう」
しかも、胸のポケットからカメラまで取り出して、レーナのアソコにパシャリとシャッターが押されてしまう。
と、撮られた――。
ということは、マイアーレだけでなく、他の人達にもアソコを見られることになる。
「いやぁぁぁ…………!」
想像しただけで頭が燃え上がった。
羞恥がもたらす熱だけで、脳が発火してしまいそうだった。
だいたい、今のうちに?
その引っかかる言い回しが意味するのは、きっと恐らく………………。