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 そして、診察は一日では終わらなかった。
 後日経過を見たいからと、必ずもう一度来るように言われた後、処方箋を出された瑠璃は、薬局で薬を受け取った。訴えた症状は全て虚偽、本当は何もないのに受診したはずなので、飲んでしまって良いのか迷うところであった。
 翌日には動画サイトを確認して、例の投稿者が瑠璃の動画をアップロードしてはいないか確認する。しかし、その日は一本の投稿もなく、それはそれで安心するが、池山信夫の容疑を最後まで確定しきれない。
 ただ、既存の動画で病室の風景を確かめるに、やはりかなりの一致度だ。これで医師の顔でも映っていれば満点だが、残念ながら医師に限って顔にはモザイクがあり、それに周りの風景にすら、たまにモザイクはかかっている。
 机に置かれた備品、窓の景色、棚にある本のタイトル――瑠璃の見た病室と、動画の中の病室が、確かに同一であると判定しやすい、肝心な情報に限ってモザイクがあり、おかげで一致度が高い以上のことが言えない。
 ここまでクロに近いのに、最後の確定ができないことがもどかしい。
 もう一度病院に行けば、動画は投稿されるかもしれない。
 やはり、その可能性に賭けることとなり、瑠璃は再び足を運んで、早速のように診察室に案内される。
 最初は問診から入るが、その時点で既に落ち着かない。
 一度は乳房や性器を見られ、写真まで撮ってきている相手と、膝を突き合わせる気持ちといったらない。きちんと服を着ていても、相手の頭の中にはこちらの裸があるかと思うと、それだけで体中がそわそわした。
 薬を飲んでから調子はどうか、痛みや違和感はないか。
 体調や症状の有無について尋ねられ、その受け答えをしていくうちに、やがて医師は告げてくるのだ。
「胸、出そうか」
 そんな指示に続けて医師は、今回は脱ぎきる必要はない。内側のブラジャーだけを外して、たくし上げてくれればいいと言ってくる。瑠璃にはその本意がわからない。男の性的趣向に詳しければ、セーラー服と乳房の組み合わせが見たいのだと、そんな想像がついたかもしれないが、瑠璃はただただ、わけもわからず従った。
 シャツを脱がずに、内側のブラジャーだけを外すテクニックは心得ている。
 脱衣カゴにブラジャーだけを置き、たくし上げての乳房を出すと、早速のように視触診は始まって、瑠璃はその羞恥心を静かに堪える。先日のおかげで慣れてしまってか、過剰な恥じらいは湧いてこないが、頬が薄らとは染まっていた。
 しばらくの視診の後、医師の両手は伸びてくる。
 揉まれることの恥辱感をぐっと堪え、乳首すらやられる気持ちにもまた耐え忍ぶ。スカートの太ももに置いた拳を固くして、背中の強張ったまま刺激を受けて、やはり甘い電流は生じてしまう。
 乳首は簡単に突起した。
 快楽の証拠を見られるようで、単に乳房を見られるより、突起状態を知られる方が、もう少しだけ恥ずかしかった。

     *

 そんな乳房の視触診もほどなく終わり、セーラー服を元に戻して良いとの許可を貰う。
(今日は裸じゃないんだ)
 その方がいいに決まっているわけで、その一点に関しては安心するが、胸が終わった次にあるのは、下半身の診察なのである。
 医師が何を言ってくるかは、さすがにわかりきっていた。
「じゃあ、スカートとパンツ、脱いじゃおっか」
 さも平然と言ってくる。
「はい。それでは……」
 瑠璃は素直に立ち上がり、スカートのホックを取り外す。サイドファスナーを下ろしてから、すぐに脱ぎ去ってみせるのだが、平然とそうしているわけではない。乳房を丸出しにするよりは、ショーツの方がまだマシというべきか、クラスの男子に見られても、何も感じなかったりもしているが、この医師に関しては話が違う。
 ショーツだけでなく、その中身も見せることになっている。
 だからこそ、その未来がぐっと迫ってきたことでの、頬の桃色が浮かんでいた。
 今日の下着は薄ピンクだ。
 ちょうど、今の頬と似たような色合いの、どこか薄らとした桃色は、どちらかと言えば白に近い。刺繍とフロントリボンも付いており、この前のショーツに比べれば、まだいくらか可愛らしいものだった。
 もちろん、この医師を喜ばせたいがためになど、下着を選んできてはいない。
 単に無難なものを選ぼうとした結果、かといって派手なものは最初から持っていないので、まあこれでいいかと穿いてきたという、それ以上でもそれ以下でもない。より地味でつまらない下着があったら、それを選んでいたかもしれない。
 ショーツも脱ぐ。
 医師のまじまじと見ている前で、ショーツのゴムに指を入れ、下へ下へと下ろしていく。ストリップを鑑賞して、さぞかし楽しいだろう、などと内心では非難がましい気持ちを抱きつつ、瑠璃は脱いだショーツを脱衣カゴの中へと置く。
 下半身は裸となった。

 かぁぁぁぁ……!

 アソコを晒せば、さすがに胸よりも恥ずかしい。
「おっ、今日もツルツルだね」
 しかも、医師はわざわざ、しなくてもいい言及をしてくるのだ。
「お見苦しいものを見せては、余計に恥ずかしいので……」
 それが半ば以上本心だった。
 毛むくじゃらは見せたくない、数ミリ伸びた頃合いのジョリジョリも見せたくない。深い理由は特にないが、陰毛を見せるのは恥ずかしいことに思えた瑠璃は、だから事前に剃っておき、始めから一本も生えていないような、つるりとした状態にしてきたのだ。
 先日はツルツルだったのに、今日は伸びているね、などと言われる方が、もっと恥ずかしい気もしたのも理由の一つだ。
「そうだね。その方が綺麗かもしれないね」
 どちらにしろ、性器に対する言及は耐え難い。
「あの、早く診察を……」
 耐えかねたように瑠璃は言う。
「さて、それでは」
 医師はまず、前のめりに顔を近づけ、ペンライトで照らしてきた。閉じ合わさったワレメや、本当なら生えているはずの、ツルツルの陰毛地帯に視線を走らせ、じっくりと視診行為を行ってくる。
 瑠璃はじわじわと赤くなり、その変色は早速耳まで及んでいた。
「昨日は肛門をあまり診てないからね。後ろを向いてもらえるかな」
 背中を向けることになり、身体を反転させる。
 それから、腰を少し突き出すようにも言われ、微妙にくの字に折ったところで、後ろから尻に手を置かれた。左の尻たぶを鷲掴みに、指でぐにっとワレメを伸ばされ、顔の迫る気配もわかる。
 先ほどと同じく、肛門もペンライトで照らされているに違いない。
(お、お尻の穴……こんな風に見られるなんて……)
 頬が火を噴くほどに恥ずかしい。
 くの字の姿勢に重ねて、瑠璃は微妙に下を向く。うなだれた顔から前髪が垂れ下がり、腹部で彷徨う二つの拳は、もじもじと指を絡め合わせる。
 顔中の皮下を熱が延々と漂っていた。
 一度高まった熱は下がる気配がなく、自分で自分の額に触れれば、もしや熱いのではと思えてくるほど、瑠璃の表情は赤熱に近づきつつあった。
 左の尻たぶに食い込む指は、肛門を診るためなのだから、ちょうど肛門の位置を引っ張っている。皺が伸ばされている感覚は、一体どこを集中的に観察されているかの実感を増してきて、それが羞恥心をより煽っていた。
「なるほどねぇ? 君、お尻の穴も綺麗だねぇ?」
「えっ、いえ。あの、すみません……そんなことを言われても……」
「ああ、すまないねえ。とりあえず、向こうで四つん這いになってもらっていもいかな?」
「は、はい……」
 医師が言うのは、もちろん診察台だ。
 四つん這いという指示を聞き、靴を脱ぎつつよじ登った瑠璃は、恥ずかしながらのポーズを取るのだった。

     *

 ドクン、と。
 心臓は弾んでいる。
 顔中に広がる熱気は、やはり引く気配などなく蠢き続け、耳からさえ炎を噴き出す。汗をかいているわけではないが、毛穴から何かを放出してしまっている感覚が瑠璃にはあった。
「では士堂さん」
 その声は真後ろからだ。
 四つん這い、それも下半身裸になっての尻の向こうに、医師は今まさに立っている。この四つん這いのポーズなら、顔を下に向け、自分の股を覗いてみれば、太もものあいだから白衣の一部が確認できるはずだった。
 ふと、そんなことを意識した瑠璃は、何となく引かれるように頭を下げ、実際に白衣の腹を目にしていた。すると、まだ診察台から離れていた医師が、ギリギリまで迫って来る様を目撃できてしまった。
 また、肛門を診られるのだ。
 つい先ほど、たった数十秒前までそうされていたように、改めて顔や目が近づいて、至近距離から覗き見られる。
「ちょっと頭と胸を下げてもらえるかな? そうそう、お尻だけ高くなるようにね」
 より細かなポーズの指示に従うが、もう本当に情けない。
 瑠璃は下に頬を押しつけて、言われるまま尻だけを高らかにするのだが、相手が真後ろにいる状態でこの形は、まるで下半身を差し出すかのようである。
 あまりにも無防備だった。
 これから何をされてもおかしくないのに、無抵抗でいなくてはならないような不安を煽られ、瑠璃は自然と拳を硬くする。
 ぺたり、と。
 まずは左の尻たぶに手が置かれ、その直後には顔の気配が迫るので、先ほどと同じくじっくりと、至近距離から観察されているのが伝わってきた。

 じぃぃぃ……

 と、集中的に観察される。
 見られる部位の恥ずかしさは同じでも、ポーズを変えてあるせいか、顔が火を噴く火力が先ほどよりもやや強い。頬の温度がいくらか上がり、噴き出す熱も増していた。
「一見健康なようだけど、ちょっと気になるね」
 嘘だ、嘘に決まっている。
 下半身も気になるようなことは、最初の問診でも言ってはいるが、それは虚偽の発言なのだ。痒み、痛み、違和感、そういったものを感じた覚えが何もない。
「症例写真、撮っておこうか」
 だというのに、医師は症例と言い出している。
 カメラを用意するために、一旦は後ろを離れる医師は、すぐまた元の位置に戻ってくる。カメラを握った姿こそ、体勢の問題で見てはいないが、尻に近づく気配で何となく、瑠璃にはイメージできてしまった。
 微妙な前屈みでカメラを構え、レンズを肛門に近づけている。皺を細かく観察できてしまうほど、画質の高い写真を撮ろうとしている。そのカメラマンさながらの姿が脳裏に浮かび、瑠璃の表情は歪みを増す。

 パシャッ、パシャッ、

 その音が苦悶を煽った。
 ただでさえ、顔から火が出るほどに恥ずかしい最中に、それをかき混ぜられている。噴き出る火が渦を巻き、火炎の竜巻に近づくように、瑠璃の羞恥心は増幅している。

 パシャッ、パシャッ、

 瑠璃の肛門が画像として残されている。
 そして、どこかに隠された盗撮カメラには、この様子を俯瞰したものが映っているに違いなかった。

 パシャッ、パシャッ、

 あと二回のシャッター音声が鳴ったところで、どうやら撮影は終わったらしい。
「じゃあ、軽く直腸検診をしてこうか」
 しかし、肛門への検査が終わったわけではなく、一度カメラを置きに動いた医師は、その手にビニール手袋を嵌めて戻って来る。その様子を耳だけで感じ取る瑠璃は、ジェルのまぶされた指先が近づいて、肛門に触れようとしてくる状況にさっと強張り、全身で身構えてしまっていた。
 ぴたりと、指先が当たって来る。
 放射状の皺の窄まり、その皮膚に触れて来たジェルの指は、ほんの少しひんやりしている。その冷気のせいか、それとも指が触れたこと自体に対してか。尻がぴくっと反応して、微妙に動いてしまっていた。
「動かないでね?」
 指が押し込まれる。

 ずにゅぅぅぅ……

 と、滑りを良くしてあるためにあっさりと、指は先からだんだん埋まってくる。先端が窄まりを押し開き、埋まるにつれて瑠璃の肛門は、その埋まり具合に合わせてリング状となっていく。まるで指輪に向かって指を押し込んでいるように、しだいに侵入してくる指は、やがて根元まで達していた。
 指の根元まで入ったことで、拳が尻にぶつかっていた。
「さて、どんな具合かな?」
 内部で指が回転する。
 医師の指先は腸壁を探り回して、微妙なピストンを伴いながら調査を進める。触れた感じで患部を見つけ、症状を特定しようとする動きでもって、瑠璃の肛門は掻き回されていた。
 ちゅぷっ、にゅぷりと、ジェルが微妙な水音を立てている。
 恥ずかしいことこの上なかった。
 それに肛門に指が入っている状態は、まるで心臓でも掴まれて、弱点を握られているような不安を煽る。惨めで情けのないポーズによって、下半身を差し出す真似をさせられ、その上で握られる恥辱感といったらなく、胸に沸き立つ激しい思いは、瞬く間に沸騰へと近づいていた。
 しばしの回転やピストンを経て、肛門から指は抜かれる。
 しかし、抜かれてなお、指の感触は余韻として残っていた。あまりにも如実で濃い余韻は、挿入時の感触を皮膚上にそのまま再生して、追体験でもできそうなくらいである。想像だけで全ての感触が蘇り、二度目の指挿入が行われたと、錯覚しそうですらあった。
 とはいえ、肛門はこれで終わりだと思っていた。
 まだ性器の診察は残っているが、肛門に関していえば、これ以上の惨めな思いはしないはずだと、瑠璃はてっきり思っていた。
「ま、とりあえず肛門はこのくらいかな? あ、拭いちゃうから、動かないでね」
 だが、まだネタは残っていた。
 なんと肛門にガーゼを押しつけられ、付着したジェルが拭かれているのだ。
(やだ……お、お尻を拭かれるなんて……こんなの……)
 あまりにも最悪な体験だ。
 恥ずかしさがそのまま悪夢であった。
 ガーゼを介して、ぐいっと押し込まれてくる指の動きで、拭き取られている感触がよくわかる。皺の皮膚に残ったぬかるみが、綺麗に拭い取られているのがわかる。
 こうして肛門を拭かれる気持ちは、そのままトイレの世話でもされているような、幼稚扱いの屈辱そのものだ。
 だが、今度こそ――。
 ここまで終われば、今度こそ肛門に関しては終わりのはず。

「次はアソコを見るから、仰向けで脚を開いて頂戴ね」

 M字開脚の指示が出る。
 次の恥ずかしい展開が待っているとはいえ、肛門が終わったことで、一つの試練が過ぎ去ったように感じていた。地獄から脱出するための、悪夢のコースを一つは抜けたと、また次を同じく耐えれば終了すると、そんな風に思っていた。
「はい、見てご覧」
 しかし、写真を見せつけられたのは、まさにその時であった。
「えっ、あの――」
「よく撮れてるでしょう?」
 医師はデジタルカメラを裏返し、モニター部分に映った肛門を瑠璃の顔へと近づけてくる。少しでもよく見せようと、眼鏡から数センチの距離にまでやってくる。
「やっ、いや……あ、あの……そんな……見せないで下さい…………!」
 本当に最悪だった。
 見せつけられるだけでも嫌なのに、一体何を考えて、わざわざM字開脚を取らせた上で、そのポーズの最中に公開してくるのか。
「これをね。毛穴までわかるくらいの画質で、パソコンで大きく拡大しながらね? より細かい観察をやって、症状の有無を確かめるんだ。士堂さん、君のお尻の穴を、後でゆっくり、時間をかけて診察するからね?」
 そういう診察方法であるように言いつつも、瑠璃にとってはそんな風には聞こえない。
 お前の画像を後で楽しむ。
 そう言われたようにしか、感じることはできないのだった。



 
 
 

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