部員の一人である少年は、肛門を中心に筆を走らせる。
裸体の少女を、それも以前から顔や名前を知っていたニニム・ラーレイを描ける事実に興奮しつつ、その隣にいる友達は、ロワ・フェルビスの肛門を中心に描いている。画面一杯に皺を描き込むため、皺の本数すら観察している二人の眼差しは、目の前にある下腹部にじっと視線を注いでいた。
じーっと、細やかに観察していた。
少年とその友達のポジションは、それぞれニニムとロワを真正面に迎えている。四つん這いのその尻を、ちょうど目の前にする形で、放射状の窄まりと、そのすぐ下にあるワレメをキャンバスに形成している。
二人の色塗りは着実に、そして早すぎる域で進んでいき、もう既に具体的な形になり始めている。最初の段階では色をべったりと塗り広げ、人からすれば汚いシルエットに見えかねないところから、それがみるみるうちに人間の肌と化し、肛門と化し、性器と化す。
色をべったりと塗り広げただけの画面で、細やかな調整が繰り返されることにより、だんだんと人間の皮膚が生まれていた。
もうとっくに、人間の絵として成立している。
描いている本人達からすれば、まだ細かな描き込みが足りておらず、だから着色を続けているが、それが完成度を上げているのだ。
人間の肌を織り成す微妙な赤み、血色による色合いの移り変わり、肛門の黒ずみ具合や性器の微妙な隙間から見える桃色が、時間を追うごとに写実的になっている。現実の景色を切り取って、そのままキャンバスに反映した域に近づいている。
しかし、絵というのは止まった存在だ。
さも動いているように見せる表現も存在するが、本当に動く絵などなく、あくまで止まった存在である。少年はただただ目の前の景色を絵という形で記録して、キャンバスに保存しようとしているだけで、思想や物語性の反映などはない。
神話の神々を描く芸術では、どの逸話の場面を絵にするかで、その一枚の中に何らかの物語性を反映する。
だが、今ここで描いているのは、景色の記録だけに過ぎない。
それ以上でもそれ以下でもないが、女体の切り抜きである。男の見たがるものを、現実の景色そのままに描くことで切り取っている。いわば切り抜き自体が、男の需要を満たす絵画たりえるだろう。
ただ残念なのは、少年の持つ技術では反映できないものがある点だ。
(本当に我慢してるな)
オシッコである。
尿意を堪え、本当はトイレに行きたくて仕方がないのを、下腹部に力を込め、漏らさないように我慢している。その我慢の力み具合は見ていてひしひしと伝わるもので、尻全体の落ち着きのなさは挙動にも現れている。
微妙に、フリフリしている。
堪えようと力んでいる結果として、どことなくそわそわと、ふりふりと動いている。
この細やかで、よく見ていないと気づかないかもしれない程度の、本当に小さな動きは頻度が高く、我慢の雰囲気は見てさえいればよくわかる。その我慢の感じを出せればよかったが、少年にはそれをどうすればいいかもわからずに、ただ記録だけを目指して景色の切り抜きを行っている。
それにしても、彼女は一体どう感じるだろう。
少年は皺の描き込みを増やすため、暗い色で溝を塗り、見栄えをしっかりさせている。つまるところ、絵に対してとはいえ、少年は肛門を筆先でくすぐっている。これを彼女が気づいていれば、本人はどう感じるか。
(いや、それどころじゃないかな)
今にもトイレに行きたくて溜まらない――早く、早く、と、訴えかける気持ちが伝わってくる。そわそわとした焦燥に満ちた感じから、尿意がどんどん切実になっているのがわかる。
それにプラグが、膨らみの部分が大きくなっていた。
ニニムの尿道口に刺さった器具は、少年の目にも見えている。ワレメの隙間から生えた突起物として、P字の曲線部分だけを出した形で、そして姿勢の関係で下向きに、内股の影がかかって見えている。
そのプラグ――いや、スポイトの、袋状になった部分が膨らんでいる。我慢できずに放出してしまった僅かな量は、その小さな袋を膨らませている。
そうだ、それどころじゃない。
ニニムはきっと、自分のどの部位が描かれている最中か、なんてことを気にする状況にはいない。そんなことより尿意との戦いで、ニニムは下腹部を力ませたり、そわそわと落ち着きのない挙動を披露することばかりに忙しいのだ。
それとも、そんな我慢の状態にありながらも、肛門まで見られている恥ずかしさはあるのだろうか。
一方の、隣の友達が描いているロワの裸は、乳房まで網羅していた。胸の大きなロワを描くにあたって、四つん這いの股を覗き見たとき、内股の向こう側に見える南半球まで描き起こし、尻とアソコと胸の全てをキャンバスの中に配置している。
尿意の様子がないロワの方が、きっとある意味では恥じらう余裕があるはずだった。
◆◇◆
ロワの前には完成品が並んでいた。
一通りの絵が終わり、ニニムと二人並び立った目の前には、美術部員達が仕上げた作品群がずらりと展示されている。というより、弧を成すように微妙にぐるりと、絵によって二人のことを包囲していた。
ロワにとって、ひたすら恥ずかしいばかりであった。
(な、な、な、な…………)
頭が爆発しそうだった。
(なんなんですかこれはぁ!)
自分自身の裸が並んでいる。
直立不動だった時のもの、M字開脚、四つん這い、それら絵の数々は、角度それぞれにキャンバス上に描かれている。一枚一枚が綺麗な仕上がりで、胸や性器の形がはっきりとわかるのだから、顔まで描いた絵については、当然のようにロワの顔だとはっきりわかる。
(ああ、胸が……アソコが……あぁぁぁ……!)
直立不動の裸体を見れば、鏡の前にでも立っているようにして、自分自身の肉体がよく見える。胸の大きさはどのくらいで、アソコはどんな風であるかがしっかりと、正確に把握できてしまう。
M字開脚の裸体を見れば、その時はポーズの恥ずかしさも相まって、表情の歪み切っていた自覚がある。それだけぐにゃりと唇が変形して、熱の噴き出た真っ赤な顔を、自分自身で確かめる気分といったらない。
人の目から見た自分の姿がわかるのだ。
鏡でも用意しないと見えない形で、人の目に映った場合の自分が、絵という方法を介して見せつけられている。
アソコの具合を自分では確かめにくいが、絵として見れば、薄らとした僅かな半開きは、桃色の小さな小さな亀裂として描かれているのがわかる。アソコの部分の毛並みの良さ、ぷるっと瑞々しい乳房の張り具合、その全てがロワ自身に確認できる。
芸術として見れば、官能美がないでもない。
ナルシズムに酔う余裕と性格があれば、自分に酔い痴れていられただろう。
そのくらいに絵は上手く、ロワの姿は綺麗なものだが、顔は赤く描かれている。自分が一体どんな風に恥じらって、どのくらい顔を歪めていたのかが、はっきりと認識させられる。過去の景色を映した鏡が並んでいるのと同じであった。
(こんな……せめて、もうちょっと下手でもいいのでは……)
上手いというのが逆に辛い。
(嘘っ、お尻の穴まで!?)
四つん這いを描いた絵の、肛門を画面に大きく配置して、内股から覗けて見える南半球すら形にしているキャンバスは、特にロワの目を引いた。これだけ細かく描けるということは、つまりそれだけ深く観察されていたに違いないと、ロワはそう気づきながら恥じらいの熱を上げ、蒸気を噴き出す勢いだった。
(あぁ……そんな……ま、待って下さいよ……こんな……クオリティ……!)
肛門の皺の一本一本、M字開脚の絵を見れば、アソコの中身も詳しく描かれている。見れば見るほど、自分がどれだけ正確に観察されていたかがよくわかる。これが一人や二人でなく、何人も、何人もの目で……。
「いい出来映えじゃないか」
などとウェインは言う。
「な、何がいいんですかぁ? どうするんですかこんなに!」
こうも何枚もの絵、今更だが本当にどうするのか。
だいたい、皇帝血族であるロウェルミナの裸が出回ることにでもなったら、一体どんな騒ぎになることか。
「なに、生まれてしまったものは仕方がない。過去のことより未来について考えようじゃないか」
「その未来について聞いてるんですけどぉ?」
「ま、それは後々に回すとして」
「後々!?」
「お? これはニニムだな? アソコしか描かれてないが、クリトリスを見ればよくわかる」
ウェインがそんなことを言い出すので、ロワの意識は隣へいく。
ニニムが未だ尿意を我慢している。我慢に震え、「早く行かせなさいよ! 早く……早く……早く早く早く……」と、言ってはいないが、そういう怨念を隣に立っているというだけで感じるのだ。
心の底から切実な感じは、ロワにもひしひしと伝わっていて、お願いだから早くトイレに行かせてやって欲しいと、ロワからも訴えかけをしたくなる。こうも怨念すら感じては、そのせいで自分が裸でいる恥ずかしさを忘れそうになっていた。
そして、忘れていた恥ずかしさをひょんなことから思い出すのは、自分を囲む男子の群れの、そのうちの一人とたまたま目が合うという、実にちょっとした理由のせいだった。今まで引いていた気がする赤らみが、ロワの頬には再度広がっていた。
「いやぁ、本当だね」
ストラングも笑顔で絵の隣に立ち、描かれたクリトリスをこれみよがしに眺めて見せる。
「俺にもわかるぞ? 本当にわかりやすいからな」
グレンまでもが二枚の絵を見比べる。
アソコだけで画面を占めた肉ビラの、それぞれに視線を走らせ、クリトリスのサイズによって判別をつけてみせている。
(み、見比べ過ぎでは? 何が面白いんですか? 本当に何が面白いんですか?)
恥辱感があった。
陳列棚に並んだ商品として、比較でもされている感覚は、やはり奴隷として売りに出されているようで惨めでならない。ロワ自身が感じている恥辱もそうだが、ニニムのしている我慢がいよいよ気になって仕方がなかった。
「うぇ、ウェイン……お願い……そろそろ…………」
弱り切った声で、懇願すら始めていた。
「お? 大丈夫か? ニニム」
「見ればわかるでしょう? もういい加減……」
ニニムは腰をくの字にして、両手でアソコを押さえることまでしている。太ももを引き締めて、ぎゅっと閉ざした内側では、手の平を折り重ねたものでワレメをぴったりと塞いでいるのだ。
ひょっとしたら、その手の内側に水気があっても、もうおかしくない。
ウェインはニニムのアソコに何やら刺し、尿道口を塞いでいたが、その塞がった隙間から滲み出て、手の平はまるで汗ばんだようにでもなっていないか。などというのはロワの想像で、本当にそうなっているとは限らないが。
「まだまだニニムならいける。絶対に大丈夫だ」
そして、ウェインの応援はわざとらしい。
「いけなくていいわよ……」
「え? トイレに行けなくていいの?」
「ち、違うったら……だから、本当に……お願い……早くいかせて……」
「そうだな。よし、そんなニニムの願いを叶えるためにも、次のゲームをしよう」
ニニムは見るに騒然としていた。
横顔を見ただけですら、絶望の光景でも見せつけられ、もう固まるしかないような、凍りきった表情で停止していた。
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