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 翌日だった。
 集めた情報について聞きたければ、次の日に同じ場所まで来いと、指定の時間通りに、アニエスは娼館跡地を訪れていた。
 部下達には顔を覚えられているようで、用件を伝えるまでもなく、アニエスはすぐさまリーダーのいる部屋へ通され、改めて情報屋の男と対面した。
「何かわかりましたか?」
 早速、尋ねる。
 元はソープだったこの場所の、娼婦が男女で入浴していた部屋の中、ベッドを隣にしながら対峙して、アニエスは毅然と尋ねていた。
 情報のため、目的のためにも、弱さは見せたくなかった。
 相手は人格者ではない。
 隙を見せれば、付け込むだけ付け込んで、アニエスの方は何の利益も得られず終わるだろうと、昨日のうちに嫌というほど感じている。
「さて、どう思う?」
「約束のはずです。昨日はあんなに……そちらの要求には、十分にお応えしたと思います。ですから、わかったことがあれば教えて下さい」
「そうだな? わかったことはある」
「本当ですか?」
 アニエスはすぐさま反応した。
 時間が経つにつれ、いつ暗闇の奥へ消え、二度と追いかけようのない場所まで、曾祖父の遺品が行ってしまうかもわからない。その焦りを抱えたアニエスは、少しでも不安を晴らしたいとばかりに情報を欲していた。
 喉がごくりと鳴るほどに。
 それこそ、昨日はあんな目に遭ってまで、情報料を支払ったのだ。痛い目に遭わされたから、金での取引には応じてやらない。体で払えと腹いせのような要求で、これでもかというほど胸で遊ばれ、感じさせられ、アソコが濡れたことまでからかわれた。
 一連の出来事を思い出すだけでも、心の中には屈辱が蘇り、顔には赤らみが戻って来る。
「だがな。思ったより苦労したんで、情報を聞きたければ追加料金を払ってもらうことになる」
 聞くにアニエスは身構えた。
「追加って、もしかして……」
「安心しろ、本番は無しにしてやる」
 浮かんだ不安は直ちに打ち消されるものの、その恐怖が本当の意味でなくなることはない。昨日のところは約束通り、本番無しというルールを守ってくれたが、非合法すれすれの男がどこまで律儀でいてくれるか、アニエスには想像がつかない。
 今回も挿入されずに済むのかは、かなりの不安となっている。
 そして、されずに済む保障があったとしても、だから安心といった気分になるはずもない。せっかくお金はあるのに、金銭では応じてくれないことへの恨めしさも、やはりアニエスの中には漂っている。
「それなら……。ですが、またですか? もう散々……」
 アニエスは彼から目を背ける。
 それまで平和な日常に浸り、表の世界でやってきたアニエスには、胸だけで済んだにしても、かなりの辛い時間であった。
「昨日も話したよな。マフィアと半グレ、両者の取引の場に警察が踏み込んで、そのどさくさの中で第三の何者かが遺品を持ち去っていると」
「……ええ」
「その第三の何者か。そいつが誰なのかを教えてやる」
「……っ!」
 大きな情報に目を見開き、アニエスは逸らしていた視線を彼へと向ける。
 そして、飛びつきたくてたまらない宝物には、アニエスにとって実に厳しい条件が待っている。
「もちろん、俺にいい思いをさせたらだ」
「……わかりました。できれば、今回も胸だけで済ませて頂けると嬉しいです」
 また、揉まれる。
 いくらでも揉み尽くされる。
 不安が一気に四肢を支配して、表情も暗くなる。
 本当は体ではなく、やはり金銭での取引に応じて欲しくてたまらない。
「そうだな。ま、上だけでいい。全部脱げ」
 十分、辛い命令だった。
 出来るはずのない、無理難題の試練を突きつけられた気持ちになるが、そこにあるのは心理的な障壁だ。服を脱ぐという動作には、物理的な難易度は欠片もない。
 アニエスはまず、ブレザーを脱いだ。
 上半身を白いワイシャツのみにして、脱いだものはベッドへ放ると、次はネクタイの結び目を解いていく。首の上からそれを引き抜き、そしてボタンを外し始めた。
 下から上へ一つずつ、順番にボタンを外すにつれ、肌の露出へ近づいている。ただボタンを外すだけでは、意外にも隙間は出来ず、あまり中身は見えないはずだが、上半身裸という段階には、着実に近づいている。
 昨日も晒したばかりの乳房だ。
 しかし、昨日の今日ですぐに見せ慣れるはずもなく、まるでたった今、生まれて始めて異性に晒そうとしているような、深い緊張感に囚われながら、アニエスは指を動かしている。
 腹部にあった両手は上へ上へと、ボタンを外すにつれて上がっていき、もう鳩尾を通過する。乳房によってカーブを成した、山の部分のボタンを取って、残りの数は着実に減っていた。
 残り三つ、二つ。
 もう、あと一つ。
 深い無念の表情でボタンを外しきったアニエスは、ワイシャツの肩を掴んで、手首へと引き下げる。皮でも剥いて見せるようにして、まずは片方の二の腕を剥き出しに、もう片方の腕も出し切ると、脱いだワイシャツはやはりベッドへ放っていた。
「今日はピンクか? 可愛くていいじゃねーか」
 色について指摘され、アニエスの顔はさらに赤らむ。
 ブラジャーを晒しているだけでも、十分に恥ずかしい中で、アニエスは両腕を後ろにやり、指先でホックを探っていた。それをぱちりと外した瞬間の、まるで何かの本番の直前にでも立たされたような、妙な緊張感をアニエスは味わっていた。
(おじいちゃんの……それに、集めないと…………)
 肩紐を一本ずつ下ろしていき、あとはカップをどかすのみになったところで、アニエスはひどく躊躇っていた。
 だが、もう一度は見せてしまっている。
 それも、三人もの相手に。
 あれだけ触られ、乳首もやられた後なのだから、また再び見られたところで変わりはしないと、アニエスは心を決めてブラジャーを手放した。
 下着すらベッドへ投げて、上半身裸となったアニエスは、しかしやはり赤らんで、俯きがちに顔を横へと逸らそうとしていた。
「やーっぱ、デカいなぁ? アニエスちゃん」
 ねっとりとした視線が絡みつき、アニエスは自然と身構えながら、これから起こることに対して覚悟を決める。
「それで、どうするのでしょう」
 羞恥心で赤らみながら、アニエスは気丈に振る舞う。
「今日は少し趣向を凝らす。こいつを使わせてもらう」
 情報屋の男が用意するのは手錠であった。
 見るなり、アニエスは身構えていた。
 拘束具が出て来たことで、いざという時――本番無しの約束を破られそうになった時、抵抗不能になることへの躊躇いで、アニエスは固まっていた。
「それはどうしても、ですか?」
 できれば、両腕は自由にしていたい。
 その気持ちから、アニエスは小さく尋ねる。
「従えないなら、脱いだだけ損して帰ってもらう」
「…………」
 アニエスは奥歯を噛み締め、実に仕方なく、他にどうしようもないので諦めてしまった気持ちで、不安ながらに両手を差し出していた。
 手錠がかかってくる。
 犯罪をやって、自首をするわけでもないのに、自ら差し出した両手が拘束され、手首に固い金属が触れてくる気分といったらない。
 一体、手錠をかけて何をするのか。
 これもまた、プレイを楽しむための、趣味趣向の一つのようだった。

     *

 情報屋の男はアニエスの肉体を視姦して、あからさまにニヤニヤと表情を歪めている。お前の乳房を楽しんでやっているぞ、と本人に伝えんばかりの、それも辱めの一つであった。
 今のアニエスに、乳房を隠す手段はない。
 手錠をかけたあと、その鎖をフックで吊し上げ、アニエスの両腕を天井へ持ち上げたのだ。
 腕を下ろすことの出来ない、胸を隠す手段をそもそも持たないアニエスは、嫌でも視姦を堪えているしかない。
「いい眺めだぜ?」
 と、言ってやる。
 すると、アニエスはきつく唇を引き締めたかと思いきや、静かにまぶたを閉ざしていく。
 そうやって、耐えるつもりらしい。
 彼はまず、真っ先に乳首を見た。
(ほーう? いい調子じゃねーか)
 アニエスに飲ませた媚薬は、数日は効果が続くものである。さすがに一晩あれば薄れているだろうが、既に早速のように乳首は硬く突起して、メロンのような瑞々しい張りの中央で、こちらに向かって突き出ている。
 そんな乳房で遊んでやるため、情報屋の男はとある小瓶を用意していた。
「それは、なんですか?」
 実に警戒した顔で、恐る恐ると尋ねてきたものである。
「こいつも媚薬でな。ま、せいぜい気持ち良くなるんだな」
 情報屋の男は蓋を開け、中身を手の平に垂らしてやる。粘度の高い透明なローションは、実にゆっくりと糸を引き、瓶の口から手の平へと、やっとのことで到達する。
 やがてコインサイズの円となり、なおも垂らし続けることで、手の平にはだんだんと、それは山なりに育っていく。
 情報屋の男は手の平を擦り合わせて、アニエスへと躙り寄った。
「さーて、それじゃあ」
 両手で乳房を掴む。
「んっ…………」
 その瞬間、アニエスの顎が強張った。
(おうおう。立派に耐え忍んでるってか?)
 情報屋の男はまず、ローション状の媚薬を塗り広げた。手の平をすりすりと、乳房全体に這い回らせ、量が足りないと思ったら、小瓶の中身を足してまた広げる。
 塗れば塗るほど、アニエスの乳房は輝いていた。
 まずは皮膚がしっとりとして、潤いに満ちた上から、さらにローションを塗ったり足したり、そうするうちに表皮には、透明なぬかるみの層が何ミリもの厚さとなって出来上がる。
「んっ、んぅ……んっ、んぅぅ…………」
 ローションを纏った乳房の、どの部分に触れたとしても、その粘性から糸が引く。
 彼が乳首に指を置き、ボタンのように押し込んでから離した時、数センチは糸が伸び、そして途中で千切れて消え、山なりに引き上がった部分が垂れ下がった。
 糸を引こうと山なりに引っ張られ、その一点だけを変形させたローションの層は、ちょうど乳首の先端から、ぐにゃりと糸を垂らしていた。
 アニエスの顔はしだいに赤く染まっていく。
 羞恥の赤らみだけではない、全身が火照り始めての、熱気のような朱色が浮かび上がっていた。
「んっ、はぁ……あっ、んぅ……はぁ…………」
 呼吸も熱っぽく、そして荒っぽいものへと変わりつつあり、見ればスカートの内側では、妙に太ももを擦り合わせ、もぞもぞとさせている。
「効いてきたみたいだな? 薬がよ」
 情報屋の男は両手によって食らいつき、激しさを帯びた手つきで揉みしだく。
「んんっ」
 すると、アニエスはその一瞬だけ、ビクっと高く肩を跳ね上げていた。
 乳輪をなぞった。
 指先で何周も、どちらの乳輪も同時に回り、そのぐるぐると回転を続ける愛撫によって、ローションを掻き取っていく。ぬかるみの層が陥没して、指先によってぐるりと抉り抜かれて、掬い取ったものが指先には残される。
「んぅ……んっ、んぅ…………」
 アニエスは唇を固く結んでいた。
 余計な声など出すまいとしているような、抗う意思を顔中から滲ませている。屈指はしません、とでも言い出しそうに見えてくる。
「何をそんなに我慢してんだ? ええ?」
 情報屋の男はさらに乳房を弄んだ。
 下乳を持ち上げて、ぷるぷると揺らしてやる遊びによって、わかりやすい玩具扱いをしてやることで、アニエスに辱めを与えてやる。
 それが効いてか、アニエスは下唇を口内に丸め込み、歯で噛み締め、顎の皮膚を伸ばしていた。
 さらに揉む。
 手の平で押し潰し、中央に乳首の硬さが触れてくるのを感じながらの、目一杯に行う揉みしだきで、アニエスの乳房を捏ねまわす。たっぷりと変形させ、指の狭間に盛り上がる乳肉の、ローションに濡れた光沢を拝んで楽しんだ。
「んっ、んぅ――んぅぅ――――」
 アニエスが堪えているのは、見られたり、触られたりする状況だけではない。
 快楽も堪えている。
「んっ、んぅ――」
 唇を引き締めながら、頭上に吊り上がった両腕は、やけにモゾモゾと動いている。肘が左右にくねくねと、そして手錠のかかった両手でも、鎖をじゃらつかせている様子である。
 乳首への責めに集中した。
 乳輪をなぞり、乳首を弾き、そんなタッチを繰り返すと、手首の動きはより活発なものとなる。電流で弾けたように反り返り、手の形はグーになったりパーになったり、指の開閉すら忙しく、さらに太ももをぎゅっと引き締める挙動も、より目立つようになっている。
 そして、その時だった。

「んぅっ、んぅぅ――――――!」

 肩がビクっと跳ね上がり、顔は逆に下へ向き、抑えようとはしている声の、その一瞬だけ大きな喘ぎが聞こえたことで、情報屋の男は確信した。
 肘すら、ピクピクと動いていた。
 その反応は、それしかない。
「胸だけでイったか?」
 ニヤニヤと勝ち誇った笑みを浮かべて、わざとらしく尋ねてやる。
「……知りません」
 恥辱のあまり、目も合わせられない顔をして、アニエスはその視線を横へ背ける。
「なら確認してやるよ」
 情報屋の男はスカートの前へしゃがみ込み、そして指先で持ち上げる。
「やっ……」
 アニエスは咄嗟に太ももを引き締めて、隠したがる素振りを見せるも、それで隠れきるようなものではない。
 捲った丈の内側から、はっきりと見て取れた。
「あるじゃねーか。イっちまった証拠がよ」
 そう指摘してやることで、アニエスの羞恥をより煽る。
「あ、あまり見ないで下さい……そんなところ…………」
 いかにも恥ずかしそうに声を震わせていた。
「オッパイを見られ放題、触られ放題の状況で、パンツなんかが恥ずかしいのか? ええ?」
 丈をより高く捲ってやると、それに合わせて太ももが持ち上がる。クロッチの濡れた部分を隠そうと必死になって、健気に擦り合わせているのであった。
「なあ、アニエスちゃん。アンタは挿入したらどんな顔をするんだろうなぁ?」
「本番はしないと――」
「ああ、約束だったな。だがこれは言葉攻めだぜ? なあ、アンタに挿入して、ガシガシ突いてやったら、そのオッパイもさぞかしぷるんぷるん揺れちまうんだろうなぁ?」
 そんな言葉を聞かせてやりながら、情報屋の男は立ち上がり、顔を近づけ視姦する。
「情報は確かに頂きますからね」
 横へ背けきった横顔から、固い声音でアニエスは言う。
「ふん。そろそろ時間か」
 情報屋の男は、その時になって、壁掛け時計の針に気づいた。
 この上質な肉体は、部下達にも分けてやることになっている。昨日は二人に分けてやったが、今日はまた違う顔ぶれを呼び出して、乳房を好きにさせると約束している。

「リーダー。そろそろいいんですよねぇ?」
「俺ら待ちきれませんよぉ」
「しっかし、挿入禁止ってのも生殺しだよなぁ」

 今回は三人ほどの男が、新たにアニエスの乳房へありつきに現れた。
「こんなに……」
 アニエスは表情を硬くして、深く俯いているのだった。



 
 
 

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