次に待っているのは脱がし合いだ。
順番に相手の服を脱がせていき、脱がしっこによってお互いに裸を目指す。一日目なので下着姿でいいそうだが、相手の服に手を触れて、それを脱がせることの緊張感は、一体どれほどのものだろう。
まずは佐藤が法子の服を脱がすという。
トレーナーの決めた順番に従って、佐藤は法子の制服に手を伸ばし、たどたどしく脱がそうとしてくるが、すぐに気まずそうに目を逸らす。近づいて来た指先は、リボンに触れる直前に数センチほど引っ込んでいた。
やりにくいに決まっているだろう。
全裸訓練の場だから許されるとはいえ、付き合ってもいない女の子の服を脱がせるのは、本当なら捕まる行為だ。痴漢をやるような悪い人間ならともかくとして、悪いことのできない性格なら、本来は駄目なことだという思いが頭をよぎり、手が止まりやすいはずだ。
佐藤の感じているやりにくさを、法子も何となくだがひしひしと感じていた。
「あの、失礼します」
しかし、今度は自分自身で、法子が何かを言う前からリボンに触れた。
「お、佐藤くん。いい感じだよ」
てっきり、その都度その都度、毎回言う必要があると思ったのだ。
平気だ、大丈夫、怒ったりしない――そういう言葉がなければ、佐藤は安心してメニューをこなせないのではないかと思っていた。
何も言うまえからリボンに触れ、リボンから外そうとしてくるのに、ちょっとした成長を感じないこともない。佐藤自身、いつまでも法子の言葉に頼ってばかりでは駄目だと考え始めているのだろう。
「あ、リボンはね――」
留め具になっている部分の場所を知らずに、人の首で両手を苦戦させ続ける佐藤に対して、法子は外し方を教えてやる。すると、まずはリボンから抜き取られ、ならば次に行うのは、ブレザーのボタンを外すというものだった。
「ヘンな感じだね。なんか」
「う、うん」
「人に脱がせてもらうって、ないからねー」
目の前から人の手が伸びてきて、その手によってボタンが一つずつ外される。着替えを人の手でやってもらうのは、一人では着替えが出来ない幼児期の年齢まで遡ることになる。そんな遠い記憶を新鮮な状態で維持しているはずもなく、ほとんど生まれて初めてやってもらっている感覚だった。
気恥ずかしいが、まだ肌や下着が見える段階ではないので、それ自体が本当に羞恥心を煽るわけでもない。奇妙な居心地の悪さの中で、ブレザーのボタンは外れきる。前が左右に開かれると、両手によって引き下ろされ、袖が腕から離れていった。
脱がせたものは机に畳み、次に脱がせるものを決めようと、手を伸ばしかける佐藤なのだが、急にまた躊躇いを強めていた。
次からは下着が見えるのだ。
ワイシャツを選んでも、スカートを選んでも、上下どちらかが出ることになる。それに対する遠慮がありありと現れて、いかにもやりにくそうにしている佐藤のために、法子はその手で手首を掴む。
「ね、佐藤くん」
掴んだ手首をシャツの元まで導いた。
「あ……」
「恥ずかしいけど、そういうトレーニングなんだもん。やりきろうね」
「……はい」
照れ臭そうに赤らみながら、佐藤はワイシャツのボタンに指を絡める。スカートの内側に入った部分を引きずり出し、下から順に外していくと、一つが外れるにつれて露出度は上がっていく。まずはヘソ周りが外気に晒され、すぐに鳩尾のあたりにまで到達する。
無難な箇所を外すあいだは、佐藤の手は止まることなく動いていた。
それがブラジャーの見えそうな領域に迫るにつれ、見るからに遅くなっていき、膨らみの箇所に触れる際には、間違っても指が乳房に当たらないようにと気をつけ始めていた。布を少し手前に引っ張り、内側に空間が出来るようにしながら慎重に、乳房の領域にあるボタンを外していた。
さすがにブラジャーが見え始める。
二つのカップを繋いだ部位が、次には南半球の部分が外に出て、しだいに全身があらわとなっていく。下着が全て丸出しに、ボタンが外れきったところで、佐藤は顔を背けてしまっていた。
見ないように目を瞑り、手だけでワイシャツを脱がしていた。
そうして、上半身は下着のみとなったところで、次に佐藤の手が伸びるのはスカートとなるわけだが、躊躇いの気配は明らかに強まっていた。ワイシャツを脱がすだけでも遠慮や抵抗感と戦っていたのに、スカートとなるとますます躊躇い、指先が震えてすらいる様子である。
「失礼……します…………」
佐藤の様子も、どんどんぎこちなくなっている。
顔を横向きに背けてはいるものの、背けたままではやりずらく、だから視線をチラチラと、必要な分だけ向けつつも、あまりブラジャーが視界に入りすぎないようにと、佐藤は気を遣い続けていた。
(佐藤くん……)
本人なりの、どうにか気を遣おうとする姿勢は有り難い。
それを悪く言う気など、特にありもしないのだが、いくら佐藤一人が目を背けても、トレーナーや撮影スタッフの視線は関係無しに法子へと注がれている。大人達はいやらしい顔一つせず、事務的な目をしているものの、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
法子に対する性的な気持ちがあってもなくても、ブラジャーのみの上半身にまとわりつく視線の数々は、やはり辛いものがあるのであった。
「スカートのホックは、ここね」
法子は自らの指で位置を示す。
直ちに佐藤の指はやって来て、留め具は外されることとなる。腰の締め付けが緩んだ時、さらにファスナーも下ろされて、とうとうスカートさえも失った。下ろされていくスカートから足をどかして、さらにはスカートが机の上に置かれるまでを見送って、法子は下着姿になるのであった。
(恥ずかしい…………)
顔が赤らみ、頬が熱っぽくなってくる。
(恥ずかしいなぁ……)
佐藤は顔を横に向けきり、耳だけを法子に見せているものの、そんな様子を見かねてのことなのか。トレーナーが佐藤の肩に手を置いて、優しく注意する形で言ったのだ。
「こらこら、いつまでそうしてるんですか?」
「でも……」
「見ることも訓練のうちです」
「は、はい……」
「免疫がないから、そうやって目を逸らしていることになるんです。君のその状態は、いざという時に理性を失い、暴走して女の子を傷つけてしまう証拠ですよ」
遠回しな言い方ではあるものの、お前はきっかけさえあればレイプをやると、そう言われるのは誰だって嫌であろうと、法子は佐藤の心境を気に病んだ。
「だから、見ることに慣れ、免疫を養う必要があります。暴走したり、過剰な視線を送りつけ、女の子を不快にさせてしまう可能性は誰にだってあるものです。それが自然な男の子というものですが、だからこそ精神を鍛え、理性を強化するわけです」
「わかりました。では、あの、法子さん……拝見、させて頂きます……」
トレーナーに意義を唱えられ、とうとう目を背けることをやめ始めていた。磁石の反発にでも逆らうように、気力を込めて首の角度を変えていき、そして佐藤は真っ直ぐに、真正面から法子の下着姿を視界に収めた。
「あ……!」
感激のような、驚いたような顔がそこにはあった。
(やだ……)
対して、法子はますます恥じらう。
そう魅入られてしまっては、恥ずかしさの中に照れくささも入り交じり、体がモジモジと動いてしまう。今すぐにでも腕で胸を覆い隠して、手の平でアソコを覆い、しゃがみ込みでもしたくなってくるのだが、見てもらうこともトレーニングのうちなのだ。
(だめ……頑張らなくちゃ……)
法子は意地でも気をつけを保ち、赤らみながら真っ直ぐに背筋を伸ばしていた。
お互い、耐え合っていた。
見てしまうことの罪悪感に耐え忍び、申し訳なさと共に視姦を続ける佐藤に対して、法子の方はただシンプルに恥ずかしさを堪えている。
共に堪える時間がしばし続いた。
その分だけ沈黙は流れていき、張り詰めた静寂の中で、瞳の動きだけはキョロキョロと、お互いに至るところへ走らせて回っていた。目が合っては気まずいので、胸や腹、あるいは周りの壁や床など、適当なところばかりに視線を走らせていた。
「では次に、法子さん。あなたが佐藤くんの服を脱がせて下さい」
「……はい。それじゃあ、やるからね? 佐藤くん」
法子は佐藤のブレザーに手をかける。
そして、ボタンを一つずつ外していき、まず手始めに上の一枚を脱がせてやる。人に着替えの世話をしてあげるという、奇妙な感覚に陥りながら、今度はワイシャツのボタンを地道に外し、二枚目も脱がせてやった。
すぐ目の前に裸体が現れるのは、ほんの少しだけ照れ臭いが、学校でプールの時間に見るものである。そう過剰に反応することもなく、それよりも次はズボンを脱がせるのだと、そちらの方に意識はいっていた。
(ズボンかぁ……)
法子はしゃがむ。
心なしか、いくらか既に膨らんでおり、勃起の気配が感じられる。肉棒が興奮によって膨らむのは、知識として知ってはいるが、やはり下着姿を見ていることで、固い状態になっているのだろうか。
緊張ながらにベルトを弄り、次にチャックをつまんで引き下げる。
ズボンを下ろした時、現れたトランクスはテント張りのように突き出ており、そこに隠れたペニスの大きさに想像が及んでしまった。
「わ……」
大きい、と。
率直な感想が心に浮かび、一瞬だけ凝視してしまった後、法子はすぐにそんな自分に恥じらい目を背けた。
*
翌日、二人は再び下着姿となっていた。
昨日は下着姿までで脱衣は止め、最後にお互いの身体を観察し合って終了となるのだったが、二日目からはもう全裸だ。法子はブラジャーとショーツを、佐藤はトランクスを脱がなくてはならず、その前段階として、まずは下着姿であった。
(やっぱり……恥ずかしいな……)
法子は顔を赤らめている。
日を改めているために、下着の色は昨日と違い、ピンク色を着用している。ブラジャーのカップには北半球に、ショーツの場合はウェストの部分に、それぞれフリルが付いており、布地には苺のプリントを散りばめている。
その可愛らしいデフォルメをしてある苺は、指先ほどの大きさで、様々な角度に向けられていた。
「どうです? 今日の下着は」
と、トレーナーが佐藤に感想を尋ね始める。
(やっぱり、聞くのかぁ……)
法子はぐっと緊張感を高めていた。
感想を言わされる方にしても、急に聞かれては言うべき言葉が見つからず、感想らしい感想が浮かばず困るだろう。それも食べ物や風景ではなく、人の下着姿の感想である。撮影スタッフが近くに陣取っている状態で、放送日にはそれが流れるとわかっていながら、法子の下着について思ったことを口にする。
その何とやりにくいことかの想像が頭に浮かぶも、やはり法子は感想を言われる立場だ。
自分の下着姿について、感想を言われてしまう。
そこにはどうしても、一定の恥辱感が伴うのだった。
「…………」
まず、佐藤は沈黙する。
それはしかし、ただ黙っているのでなく、何を言うべきか考えて、言葉を吐き出そうとしているのだと、まだ会って二日目だが、何となく伝わって来た。
トレーナーもそれを察してか、急かす様子はなく、とりあえず待ってみているようだった。
「苺が……。ええっと、ピンクってやっぱり可愛い色で、それに苺ですし……。法子さんの可愛さに、とってもマッチしているのでは……と……」
ご不快でしたらすみませんと、いかにも瞳が訴えかける。
「では法子さん。佐藤くんの下着姿を見てみて、どうでしょう」
今度は法子に振ってくるが、佐藤の肉体は一般的というべきか。背が高いわけでも、低いわけでもなく、筋肉の具合でいったらガリガリではないが凹凸には欠けている。胸板は薄く、腹筋の割れ具合もかすかなもので、逞しいとも痩せすぎとも言えない、即座には感想の出て来ないボディである。
「んー。やっぱり、女の子が下着姿でいたら、興奮しちゃうのかなーって……」
真っ先に思いつく事柄として、口を突いて出てくるのはそれだった。
自分に対して性的に興奮して、腹の底では欲望を満たしたいと思っている。その何よりの証拠となる現象は、トランクスのテント張りによって明らかだった。
「ま、いいでしょう。ではいよいよ、お互いの下着を脱がし合う段階に入っていきます」
「は、はい」
佐藤が見るからに緊張感を高めている。
「よろしくね」
法子も笑ってみせるのだが、顔の赤さは否めない。
今こうして下着姿でいることも、法子にとっては十分に恥ずかしい。撮影スタッフとトレーナーも含めた複数人の視線もそうだが、放送日を迎えることで、映像視聴を通してより大勢に見られるのだ。
それを思うと、今から熱で頭がパンクしそうだ。
「では先に、佐藤くんが法子さんを脱がせてあげてください」
「……はい」
明らかに固い動きで前に出る。
「じゃあ、佐藤くん。ブラからにしよ?」
法子はまず、真っ先に背中を向けた。
すると、ホックの部分に指が触れ、ぱちりと外されることになる。佐藤自身は慎重に、緊張ながらにゆっくりとやったのだろうが、ブラジャーの緩んだ法子にとっては、もう段階が進んでしまったような、もう少し待って欲しかったような感覚がしなくもない。
「紐も、下ろすので……」
「うん。大丈夫だからね」
法子が言うと、まずは右肩に指が来る。
皮膚には必要以上に触れないように気を遣い、しっかりと気をつけている気配があるものの、ちっとも触れることなく済ませることもできないのだろう。少しは指が当たってきて、紐の下へと潜った指が直ちにそれを引き上げる。
指の触れる時間を最小限に、持ち上げた紐を下ろしていった。
左肩の紐も同じくして、やはり皮膚に触れすぎないよう、なるべく早く持ち上げる。浮かせた紐を下ろしたことで、あとは乳房の上からカップをどかすだけとなる。後ろから引っ張り抜いてもらう形で、ブラジャーは取ってもらうのだが、法子はたまらず乳房を隠していた。
腕に乳房を覆い隠して、腕と胸の隙間から引き抜いてもらう形を取っていた。
(ブラが……)
一気に頭が熱を上げ、顔の赤らみは広がっていく。
上半身は完全な裸となり、もうショーツしか残っていない状態もそうなのだが、一時的とはいえ下着が佐藤の手に渡ったのだ。脱ぎたてのブラジャーを、ほんの数秒でも異性の手に保持されるのは、それだけで恥辱を煽る何かがある。
「法子さん。前を向いて下さい」
「は、はい…………」
さすがに緊張が高まっていた。
いくらアイドルであり、ステージや舞台の上など、一般人なら踏むことのない場数を踏んではいても、裸を晒して羞恥心に耐えるという種類の度胸は培っていない。思春期の少女にとって、複数人の視線が一気に集まる状況は辛すぎた。
辛いあまりに腕のクロスを固めずにはいられずに、法子はぎゅっと我が身を抱き締めた状態で振り向いていた。
「さて、佐藤くん。次はショーツを脱がせて下さい」
「………………はい」
佐藤の心臓がいかにバクバクと激しく高鳴り、弾けそうな勢いとなっているのか、見るにひしひしと伝わって来る。
それは法子も同じであった。
(あ、アソコが……見られちゃうんだよね……)
さすがにフォローの言葉をかける余裕を失い、パニックというわけではないが、恥ずかしさや緊張で、頭の中はいっぱいいっぱいになっていく。
佐藤が前に進んできて、自分のすぐ真正面にしゃがんでくる。
ショーツのゴムに指を入れ、これから引き下ろしてしまうため、腰の両側に手をだんだんと近づけていた。
(やだ……やだ……ああっ、脱がされちゃう…………!)
自分自身に迫る状況を見ていられず、法子はぎゅっと目を瞑る。顔の筋力が許す限り、全力をもってまぶたを固め、唇の周囲も強張らせる。頬すら固い表情で真っ赤になり、耳まで染まりながらに羞恥心を堪えていた。
とうとう腰の両側に指が触れ、実際にゴムの内側に指が入ってきた瞬間、法子は咄嗟に片手を下にやっていた。
撮影なのはわかっている。そういう訓練なのもわかっている。
いっぱいいっぱいである中で、どうにか残していた理性によって、脱がされることを何も阻止しようとはしていない。ただ、ショーツが下がっていくことで、いきなりアソコが見えることだけは避けるため、性器のすぐ上に手を当てていた。
脱がせる作業を邪魔しない程度の、少しでも弱々しい力でアソコを押さえていた。
「では…………」
佐藤の両手が動き出し、ショーツはするすると、みるみるうちに下へ下へと動き始める。遠慮や躊躇いに満ちているため、そう素早く脱がせるわけではない、ゆっくりとしたショーツの移動で、かえって少しずつ、焦らさんばかりにだんだんと中身を見せる形となっている。
アソコは見えていないはずだが、後ろからはお尻が見えているはずだった。
そして、法子は気づいていた。
(後ろも……)
カメラは一台ではない。
複数のアングルから撮るために、撮影スタッフの一人は背後に回り、法子の後ろ姿を撮っている。だから、少しずつ見えていく尻の様子は、こうしている今にも撮られている最中で、そちらを手で隠すことは不可能だ。
もちろん、胸か尻のどちらかを諦めれば、二本しかない腕を後ろに回せる。
だが、手の平などでお尻の面積を覆いきることはできず、現実的に隠しやすい部位として、結局はお尻は諦め、胸とアソコだけを集中的に守る形を取っていた。
ついにショーツは足首に到達する。
これで本当に、本当の本当に裸になってしまうのだと実感しながら、法子はそのショーツの穴から足を一本ずつどかしていく。
(いやぁぁ…………)
心が悲鳴を上げた。
ぎゅっと目を瞑り、まぶたの裏の暗闇だけを見つめてはいるものの、こうしている今にもショーツは佐藤の手に渡っている。きっと長々と保持する真似はせず、すぐに机の上に置くのだろうが、脱ぎたてがただの一瞬でも異性に手に渡っているのだ。
ブラジャーを取られた時以上に恥ずかしかった。
完全な全裸のままに、ショーツを手に取られている状況ほど、ひどく恥辱感を煽るものはないのであった。
コメント投稿