脱出した先で、二人を待っていたのは、あの時の四人であった。
愛野だけでなく、津馬も、土良井も、火亜も揃った四人組は、二人にとってトラウマを掘り返す顔ぶれだ。愛野一人がいても思い出すのに、勢揃いとあってはますます鮮明に記憶は蘇り、ただ向き合っているだけで恥辱感が湧いてくる。
きっと、普通の格好をしていても、その気持ちは同じだろう。
それを二人は、スカートを失った下着丸出しの格好で、シャツを必死に下へ引き下げ、隠そう隠そうとしながら立っている。その恥じらいを見ることで、四人は嬉しそうにニヤニヤする。そんな喜ばしそうな表情は、追撃のように二人の心を打ちのめす。
「やあ! お久しぶり!」
土良井が元気に挨拶してくる。
「元気そうで何よりだよ」
津馬がそんなことを言ってくる。
「で、なんで引退なんかしたんだ?」
原因を作っておきながら、その火亜が引退について触れてくるのは、信じられない気持ちと共に怒りが湧いた。
「誰のせいで……!」
円香はすぐに憤る。
「……」
透も言葉こそないが、同じ気持ちで四人のことを睨んでいた。
この部屋は近代的だ。
岩を刳り抜くことで作った迷宮は、何も機械的な気配を感じさせるものがない。ただ似たような質感の壁や床が延々と続いているだけの場所だったが、出口から出て来た瞬間に、二人はモニタールームのような部屋に入っていた。
ワープでも転移でも何でもいいが、一歩踏み込んだ瞬間から、景色をぱっと切り替えたようにして、二人して気づけばここにいた。
四人が横並びになった背後には、学校の黒板ほどはありそうな、大きなモニターが壁に埋め込まれていた。その一台だけでなく、左右にも壁に直接モニターが生えている。サイズのまちまちなものが複数にわたって取り付けられ、いずれも電源を落として画面を暗くしてあるものの、二人は見るに顔を歪めていた。
今は消してあるだけで、どうせこれらの画面で迷宮の様子を見ていたのだ。
スライムに下半身を飲み込まれ、慌てふためきながら脱出する様子も、ゲラゲラ笑うなりして楽しんでいたに違いない。
人をダンジョンに放り込み、その攻略を必死に行う姿を見て、それを娯楽として消費する。
最悪の行いに、性暴力のことに限った話でなく、目の前の四人は本当に最悪な性格をしているに違いなかった。
「で、楽しかったかい?」
しゃあしゃあと、愛野はそんなことを尋ねてくる。
「そんなわけない!」
円香は即答した。
「あらー。でも、君達には第二ゲームが待っている。第三ゲームまでクリアしないと、地球には帰してあげないからね」
「……最低」
相手は到底太刀打ちできない存在だ。
SF映画の世界にしかないような、信じられないワープ技術で異星に拉致された。警察の捜査で発見してもらえるはずはなく、元の世界に帰るには、愛野の言うゲームクリアを果たした上、約束を守ってもらえるように祈る以外にない。
「ところで、パンツ見せてくれる?」
「は?」
円香は敵意を隠さない。
愛野の突拍子もない言葉に、むしろ二人揃って腰をくの字気味にやや折り曲げ、見せるどころか隠す姿勢を強めていた。シャツをますます下に引っ張り、少しでも見えないように意識してていた。
四人揃って前にいるから、無意識のうちに後ろへの警戒心が薄れていた。
だが、次の瞬間には二人揃って引き攣っていた。
背後の巨大モニターに、画面を左右二等分する形で、二人の尻が急に映し出されていた。
迷宮の中では始終カメラに尻を追われ続けていたことを思い出し、片方の手を咄嗟に後ろに回したものの、今度のそれは中継映像ではなかった。
画像だ。
だから映像に円香や透の手が映り込むことはなく、微動だにすることのない尻がじっと静かに映し出されていた。
これでは隠す意味などない。
そもそも、手の平の面積だけでは、たとえ両手を使っても尻を完全には覆いきれない。シャツを下げるにしても、前か後ろのどちらか一方しか守れない状況で、二人は片手だけでも尻に上に乗せていた。
無意味とはわかっていても、手がそのように動いていた。
「いやぁ! 傑作だったねぇ!?」
愛野は大仰な身振り手振りを披露する。
その瞬間から、彼らは口々に感想を語り始めた。
「あのね! 風の通路でスカートがぶわーって上がるでしょ? あの道でのねぇ! 後ろからスライムが迫っているから、気にしている場合じゃない感じが見物だったよ!」
津馬が大喜びでスカートの捲れに触れる。
「ああ、あれはよかった。必死こいてスライムから距離取って、そのあいだはスカートを気にしちゃいられない。バリア出して、やっと気にする余裕が出来た瞬間の、早速みてーに手を後ろにやる瞬間がたまんなかったぜ?」
火亜も頷きながら語り出す。
「いやはや、ヌルヌルになっちゃったパンツも素敵でしてね? 濡れちゃったせいで微妙に肌色が透けるでしょ? あの色が変わった感じと、肌への張りつきが強くなった感じがなんとも好きでして、あのシーンのキャプチャ画像だけでも百枚以上は確保しましたよォ!」
土良井も自分の好きな場面を口にした。
わざとやっているのだ。
人が嫌がることをわかって、わざと感想を聞かせてくる。
それらの言葉全てが二人の心を蝕んでいた。
自分達はたくさん嫌な思いをしたり、屈辱や羞恥を感じてきたのに、人の苦しむ様子が四人にとってはエンターテインメントに過ぎないのだ。
最低、最低、最低――。
呪わしい思いがふつふつと湧き上がり、円香の胸にも、透の胸にも、そんな力さえあったなら、この四人を今すぐにどうにかしてやりたい気持ちが膨れ上がった。
「で、パンツ見せてくれる?」
どうせ画面に映っていたり、他にも大量に撮っているくせに、愛野は改めて要求してきた。
「……なんで」
敵意たっぷりに声を低めて、円香は問う。
「なんでって、見たいからだけど?」
「キモ」
「見せてくれなきゃ、第二ゲームには参加させませーん! あ、ってことは? 第三ゲームまでクリアしないと地球に帰れないのに、そのゲームへの挑戦自体ができなくなるね?」
(こいつ……こいつは……!)
殺意さえ湧きそうだった。
呪いがあったら、今すぐにかけてやりたかった。
「ほーら、どうする?」
他にどうしようもない。
見せる以外に選択肢がないように追い込んで、そうせざるを得ないようにしてからの、わざとらしい質問だった。実質的に強要しながら、形だけは拒否権を与える性格の悪さに、もはや顔が真っ赤な理由は怒りの方になりそうだった。
だが、怒りの赤面は、シャツをたくし上げる時には、恥ずかしさによる赤面へと立ち戻る。
すっ、
と、二人してシャツをたくし上げていた。
軽く、ヘソのすぐ下が見えるあたりまで、円香と透はシャツを持ち上げ、せめて目だけは瞑ってショーツを見せる。視界を闇に閉ざすことで、気に入らない四人の喜ぶ姿を、視覚からだけでも締め出していた。
それと同時に、巨大モニターの映像は切り替わった。
四人並びの背後に映るのは、画面サイズに合わせて実物以上の大きさとなった二人のショーツだ。一瞬前まで後ろ側の画像を出していたのが、たくし上げた瞬間から前側の中継映像に変わっていた。
「……最悪」
円香は顔を顰める。
「もうやだ……」
いつまでこんな目に遭い続ければいいのかと、透は泣きたいような顔で目を背けた。
二人のショーツは、それぞれスライムに絡まれた際の粘液が残っており、まるでオイルに付け込んだ直後のように、表面がどことなくぬるりとしている。
円香のショーツは薄いパープルのはずだった。
白に近い色合いの、爽やかな紫色だったのが、濡れ込むことで色を濃くして、しかも微妙に中身が透けている。濡れたせいもあり、スライムの服を溶かす力で繊維が薄くなっているせいもあり、肌の色合いも混ざることで、ショーツ本来の色から見栄えはすっかり変化していた。
布自体に柄はなく、無地といえば無地でありつつ、しかし上端には白い布が帯状に飾り付けてある。
その帯状の部分にこそ、黒いフロントリボンは付いていた。
透のショーツは白だった。
やはり、スライムのせいで薄らと微妙に溶けて、繊維がわずかに薄れている。そのおかげで肌や陰毛の色が見えそうな、しかし薔薇のプリントが辛うじて隠しているようでもある。プリントされている青い花は、青といっても色合いはそれぞれで、ほとんど白に近いものからダークブルーまで、その全てに光や陰影の具合まで表現されている。
蝶ネクタイのようなフロントリボンには、米粒のように小さな鈴が吊されていた。
二人のショーツが視姦されていた。
目の前から刺さる視線もさることながら、自分自身のショーツを強制的に見せつけて、恥辱を煽るモニターの中身に、二人は屈辱で心を震わせていた。
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