前の話 目次 次の話




 それから、二人は順調にマッピングを広げていく。
 画面に映る地図は半分近くまで完成しており、その上で残り時間は四十分と、時間的にはかなりの余裕がある。スライムにも運良く出くわさずに済んでおり、何も余計なことが起きなければ、このまま順調にクリアできそうだった。
 順調にいけば、いいのだが……。
(気持ち悪い……)
 透は嫌そうな顔をしながら、それでも画面から目を背けることができずにいた。
 浮遊モニターの構成は、肝心の地図よりも、スカートを後ろから狙った中継映像の方が大きいのだ。迷宮を突破するには、どうしても地図を確かめる必要があるのに、その地図よりも大きいものが横にくっついているせいで、それを視界から追い出すことができないのだ。
 その趣味の悪さに顔を顰め、嫌悪感を抱いていた。

 びゅぅぅ!

 それはあまりにも唐突だった。
 今まで、そんな事態は考えてすらいなかった。

 突如、床から強烈な風が噴き上がり、透のスカートを捲り上げていた。

 まるでパイプ口でも存在して、そこから噴き出たかのような風の威力で、ものの一瞬にして捲れ上がったスカートは、丈の先が天井に触れんばかりであった。
「な……!」
 驚愕していた。
 出来事は全て一瞬で、捲れ上がったスカートは一秒と経つことなく元に戻っていた。何事もなかったように、きちんと丈は尻にかかって、中身を隠しているのだが、今の出来事は決して気のせいではない。
 透の覗く画面の中、一連の出来事がスロー再生されていた。
 それを嫌でも見てしまう。
 最悪な出来事からは目を逸らしたいはずなのに、人間には不思議と矛盾した性質がある。見たくない気持ちでいっぱいであればこそ、逆に釘付けになってしまった。
 スロー再生によって徐々に持ち上がるスカートから、下着の三角形が少しずつ、少しずつ見えてくる。手前には柄はあっても、後ろ側は無地のショーツは、その白色をゆっくりと広げていた。
 徐々に面積を広げていき、全てを露出しきった時、スロー再生であるスカートはなおも角度を上げていた。レバーの上下であるように、丈の先っぽを天井に近づけて、こんな低い天井だからこそぶつかっていた。
「な……な……な……な……!」
 透はショックを受けていた。
 こんなにも、急に前触れもなくショーツが見えてしまうなど、想像すらしていなかった。こうして透本人にも見せつけられた映像は、もちろん愛野や仲間達の手に渡り、今頃は楽しまれているに違いない。

 ぞわぁぁぁ……!

 全身に寒気が走った。
 顔を赤らめ、熱っぽくしている一方で、背筋には悪寒が走っていた。
「どうした? 浅倉」
「い、いや……」
 前方から声をかけられ、透は口を噤んでしまう。
 今の通路は狭いため、円香が前、透が後ろの、縦列の形で進んでいる。円香には細かな様子は伝わっていないようで、それを詳しく説明するのは、一瞬躊躇われていた。
 しかし、言った方がいいだろうか。
 円香も同じ目に遭うかもしれない以上、伝えておこう。
 同じ性被害に遭った者同士、普通の人には打ち明けにくいことであっても、きちんと話そうと考えたわけだった。
「樋口、今さ。下から風が……」
 と、いざそこまで口にした瞬間である。

 ぱかりと、床が開いていた。

 何の継ぎ目の線もなく、開閉などしそうにもなかった石の床は、急に内側から跳ね上げ式のように持ち上がり、パイプ口をにょきりと伸ばす。
「や、やば……!」
 透は咄嗟に注意しかけた。
 その警告が間に合うこともなく、すぐに風が噴き出たかと思いきや、透の目の前には下着の三角形が映っていた。それはほんの一瞬の出来事で、たった数秒でも目を横に逸らしていたなら、そのラベンダー色が見えることはなかっただろう。
 白に近い、薄らとしたパープルだ。
 それが透の見たものだったが、円香の様子ですぐにわかった。
「……きもい」
 憤りを帯びた声が、全てを物語っていた。
 円香の方にも、わざわざスロー映像を流している。ゆっくりと持ち上がり、やがて元のように戻るまでの映像が、数十秒にわたって再生されているはずだった。
 人のスカートをただ捲るに飽き足らず、その映像を本人に見せつける。
 その趣味の悪さは実に肌寒く、真冬を半袖で過ごすような寒さに鳥肌が立ってくる。
 しかも、継ぎ目のない石床が開いたのだ。
 だとしたら、周りにある壁も天井も、いつどのタイミングで開いてきて、どんなギミックで嫌がらせをしてくるかもわからない。何もなさそうな単なる壁に、床にまで警戒心が湧いてきて、その上にスライムの位置はマップに出ない。
 最悪のゲームだった。
 いつ辱めを受けるかもわからない、ストレスと不快感しかないゲームは、それを鑑賞しているあの四人こそがもっとも楽しんでいるに違いなかった。

     *

 マッピングはさらに進んで、おおよそでも四分の三までは完成している。二体は徘徊しているはずのスライムに、一度も遭遇せずに済んでいるのは幸運だろう。おかげでバリア防壁を温存したまま、ゴールの位置も目処が付いていた。
 四角形の辺のうち、どのラインにゴールがあるか、ほとんど判明している。
 下辺の入り口に始まって、左右の辺には壁しかなく、残る上辺をなぞれば必ずゴールにぶつかるわけだった。
 しかし、道を進んでいるうちに、あのパイプ口から噴き出すような風に何度かやられ、そのたびにスカートの捲れ上がる様を見せつけられた。しかも、それを本人に見せつける悪趣味さが肌寒い。
 やがて、まだ一度も通っていない、新たな一本道に差し掛かった。
 T字路の形のうち、二本の道はマッピングが済んでいる中、これから進む一本道は、マップを見てもまだ黒塗りになっている。
 ここを進めば、さらに地図は完成に近づくだろう。
 残り時間に余裕がある中、クリアは時間の問題だと思っていた。
 だが、その時だ。
「スライム……!」
 円香の前に、数メートル先にスライムの姿があった。
 まずい、あれに捕まれば服を溶かされる。
 しかし、さっさと曲がり道に飛び込んで、透の持つバリア防壁を使ってしまえば、あのスライムの動きは阻止できる。
「急ごう!」
 そう言って道を曲がり、新たなマッピングを始めようとした時だ。

 下から上への風が吹いていた。

 まるで床に扇風機を埋め込んで、上向きにしているように、床から天井に向かっての風が吹いている。その風速はスカートを持ち上げうるものに思えて、円香は踏み込むことを躊躇った。
 かといって、うかうかすればスライムが来る。
 引き返すという選択肢も頭に浮かび、進むか戻るかの迷いで円香は判断を遅らせていた。
 そんな円香を急かすかのようにである。
「こっちも! 私の後ろも!」
 後ろの透から、焦った声が聞こえてきた。
「最悪! 進むしかない!」
 円香はキッと鋭く何かを睨む顔をして、歯を食い縛りながら道へと進む。最悪の末路を避けるには、スカートを持ち上げる風の中に飛び込むより他はなかった。
 しかも、急ぐ必要があった。
 本当ならスカートを手で押さえ、見えないように気をつけながら進みたかったが、今はそれよりもスライムから逃げる方を優先する必要があった。

 風でスカートが上下に騒ぐ。

 円香のショーツが見えては隠れ、見えては隠れ、しかし速度を緩められない。止まっていては透が道に入って来られず、後ろをバリアで塞ぐこともできないのだ。
 透の入るスペースを確保するため、急いで進む円香なのだが、おかげで最悪の中継映像が視界に入り続けていた。
 ラベンダー色が激しく見え隠れを繰り返す。
 まるで扇風機を並べた隙間が存在するように、噴き上がる強風と強風のあいだには、微風の空間が挟まっている。強風の箇所では大きく捲れ、微風の箇所ではやや落ちての、上下のはためきでショーツは映る。
「なんなのっ、こんな……!」
 円香は歯軋りしながら進んでいた。
 歩行の尻が映っている分、ショーツの見え隠れだけでは済まない。脚の動きに合わせて尻の筋肉も前後して、フリフリと動いている光景さえもが目について、円香は不快感に表情を歪め切っていた。
 当然、後ろでは透も同じことになっているだろう。
 わざわざ確認などしないので、透の下着の色はわからないが、何色であれ画面の中にはスカートのはためきと共に映っている。ある意味ではショーツだけを替えた色違いの映像など、そんなものの何が楽しいのか、円香にはまるでわからない。
 こんな目に遭っている状況で、男のフェチシズムなど知りたくない。
「樋口! 塞ぐよ!」
 後ろから、透の声。
「お願い! 早く!」
 肩越しに振り向くと、顔を顰めきった表情がそこにはあった。画面を見るため、見たくもない映像から視線を逸らさず、強制視聴させられながら、タッチ操作で押せるボタンに指をやり、ぽちりと触れる。
 すぐさま、透は自分の後ろを確認していた。
「どう? 浅倉」
「……止まった。よかった」
「そっか。とりあえずは、よかったけど……」
 そう、スライムの阻止だけはよかった。
 その一方で、こんな風のエリアに入ったのは、ちっとも良いことなどではない。円香はようやく、今になって後ろを手で押さえ、四つん這いというより三本足で前へ進んだ。手で押さえてなお、スカートはバサバサと騒がしい。
 右の尻たぶに手を置けば、左側がおろそかになり、左の方に手を伸ばしても、右が捲れやすくなる。手の平の大きさに対して、スカートを全面的にカバーするのは無理だった。手のサイズが及ぶ箇所だけを完全に抑える一方で、重しを乗せきれない箇所ははためき続けた。

     *

 マッピングにおいて、ラッキールームとやらに入ったのは、何もあの一回限りの話だけではない。それからも何度か広い部屋は見つかって、アイテムを入手する機会はあったが、その代わりに愛野が要求してくるのは脱衣である。
 靴や靴下は認めずに、シャツやスカート、下着類のみを交換に認めるルールのおかげで、欲しいアイテムがあったところで、二人はことごとく諦めてきた。アイテムが欲しい気持ちより、誰がお前なんかに服など渡すか、といった気持ちの方が遥かに上だった。
 しかし、ようやく風の通路を通り抜け、その先へ辿り着いた時である。
「行き止まり……?」
 円香は絶望していた。
 ラッキールームのように広々と、一つの壁の面に二つの通路の穴が空くほどの面積こそしていたが、今回の大部屋には何もない。この先へと進む通路がなく、マップを見てもここで道は閉ざされていた。
 思い出すのはバリア防壁の際に聞かされた注意である。
 行き止まりに入った状態でバリアを貼り、自分自身を閉じ込めたら、その時点でゲームオーバーになってしまう。
 そのルールが頭を掠めた時、これで終わりなのかと不安にまみれ、その先にある未来を思って目が光りを失いそうだった。
 透にも同じ絶望が浮かんでいる。

『アンラッキールームでーす!』

 二人してこの世の終わりのような顔をしている時に、聞こえてくる愛野の声は、あまりにも気楽で楽しそうなものだった。
『安心してね? 単なる行き止まりじゃなくて、ギミック搭載ルームなんだ。だからまだゲームオーバーってわけじゃなくて、二人にはチャンスが残っているよ?』
 その言葉にホッとはするが、よりにもよって、愛野なんかの言葉で安心するなど、それはそれで複雑だった。
(そもそもアンタが……)
 こんなゲームさえやらされなければ、そもそも愛野を含めた四人さえ存在しなければ、アイドルをやめることも、今この迷宮で辱めを受けることもなかったのだ。途端に憎らしさが蘇り、できることなら殴ってやりたい気持ちがいっぱいに膨らんでいた。
 だいたい、今度は別の不安が湧いてくる。
 ギミック搭載ルームということは、また何らかの方法で二人を辱め、四人でそれを楽しもうというわけである。
 実に腹の立つ話だ。
「今度はなんだっていうの」
 敵意を隠しもせず、円香は尋ねた。
『この場所に入った場合、迷宮のどこかにランダムでワープするよ? 本当にランダムに設定してあるから、よっぽど運が良ければゴールの前に出られるけど、運が悪いと入り口まで戻ったりするわけだね』
 本当に単なるワープで、現在の居場所が変わるだけで済むのだろうかと、真っ先に円香は疑う。それをわざわざ口にして、「なら恥ずかしい目に遭いたいかな?」などと返されても不愉快なので、ひとまず何も言わずにいるが。
『そういうわけで、三秒後にワープするからね』
 愛野が言うなり、すぐさまカウントは始まった。

『三……二……一……!』

 その数字を愛野が言い終わった瞬間から、円香の周りの景色が切り替わる。
 今さっきまでいた空間の広さから、急に壁と壁のあいだに挟まれて、どこか別の通路に移されたことを円香は確かめる。直ちにマップ画面の点滅を確認して、地図上の自分の居場所を見ながら声をかけた。
「浅倉、平気?」
 透の安否を気にかけるが、しかしその返事がない。
「……あれ?」
 不安になり、振り向くが、前にも後ろにも透はいない。
 もしやと思い、恐る恐るマップを見てみると、自分とは遥か離れた位置が点滅していた。円香と透はそれぞれ別々の場所に転送され、こんなにも距離を離されてしまったのだ。
 しかも、それだけではない。

 にじゅりっ、

 粘液の摩擦が生み出す水音に、再び振り向いてみた瞬間、そこには青いスライムの固まりが迫っていた。

 ――逃げなきゃ!

 そう思った瞬間に、スライムはすぐさま飛びついてきた。
「!」
 心臓が凍りつき、円香は戦慄に染まり上がった。
 逃げる間もなく一瞬にして、円香の下半身は飲まれてしまった。腰から下だけを水面の中に浸したように、冷たい水の感触に包まれていた。飛びかかってきたのはスライムの方だが、急に水に飛び込んだようにして、下半身が丸ごと囚われていた。
 そして、それは純粋な水の感触とは異なっている。
 スライム状の粘り気ある触感は、それ自体はプニプニと心地が良く、柔らかすぎるグミのようではあるのだが、今の円香に触れ心地について考える余裕はない。

 まずい! 裸にされる!

 その危機感から、円香は必死になって前に進んだ。
 幸いなことに、一度飲まれた下半身も、スライムの内側で動かすことができるらしい。てっきり身動きを封じられ、脱出できないものと思っていたが、不幸中の幸いだった。水中を歩くよりも動きは重く、引っ張り出すには苦心したが、前へ前へと無我夢中で進もうとしているうちに、気づけば抜け出すことが出来ていた。
「ぬ、抜けた……!」
 しかし、追っては来ないか。
 それが怖くて振り向いて、スライムの様子を咄嗟に窺うと、どうもその場に留まって、そこから動く様子がない。
 円香は気づいた。
 追ってこないのでなく、追う必要がないのだ。
 エサを抱えた獣がそのまま食事に夢中になるように、他の獲物には目も暮れず、その場で貪り始めている。円香から剥ぎ取ったスカートを体内で咀嚼して、少しずつ溶かしていくことに夢中なスライムは、今ならそこに置いてきぼりにできるはずだった。

 かぁぁぁ……!

 と、円香は激しく赤らむ。
 全裸にならずに済んだはいいが、その代わりにスカートを失ったのだ。
 円香の画面に映っているのは、ぐっしょりと水気を吸ったショーツの、薄らとしたパープルから、暗めの紫に変化したものだった。水分によって皮膚に貼りつき、割れ目に深く食い込んだショーツには、ぬるりとした粘液の痕跡が残されていた。

     *

 浅倉透もまったく同じ状況にあった。
 しばらく迷宮を散策して、円香との合流を目指していると、後ろから追って来る気配に気づいて逃げようとした。咄嗟に速度を上げかけたが、それよりも速く飛びかかって来たスライムに下半身を飲み込まれ、慌てふためき脱出したはいいものの、その時にはスカートを奪われていた。
「最悪……!」
 スライムからは逃げ切った。
 だが、下半身にはべっとりと、粘液に浸った痕跡がまんべんなく残っている。ゼリーの風呂にでも浸かった直後のように、いたるところに細かな固まりが付着して、ショーツもぐっしょりと濡らされていた。
 画面を見れば、自分自身の尻が大きく映し出されている。
 尻を追跡してくるアングルで、歩けば歩くだけ、太ももの前後運動に合わせた尻肉の可動を観察できてしまう。
 顔中が赤らんでいた。
 羞恥のあまり、頭に熱があるかのように染まり上がって、表情を歪めきっていた。
「もうやだ……」
 バイト先の先輩には犯されかけ、その先輩の正体は愛野であり、しかも宇宙人の力で異星に連れて来られるなど、突拍子もない展開が続いている。それさえ受け入れがたいのに、こんな迷路の中でスカートを失って、びしょ濡れのショーツのまま、天井の高さのせいで四つん這いの姿勢も変えられない。
 そして、地図を確認するためにも、浮遊画面からは目を離せない。
 見ないわけにはいかないものに、透自身の尻がリアルタイムで映されている。こんな辱めをいつまで受けていればいいのか。一刻も早く迷宮を脱出して、せめてこのゲームだけでも終わらせたい。
 円香と離れ離れになったことで、自分の現在位置を示す点滅の他に、円香の位置を示す点滅表示も動いている。お互いにまだマッピングの進んでいなかったエリアに飛び、おかげで地図が広がっていることだけは、良かったと言えるのだろうか。
 不幸中の幸いではあるのだろうが、それ以上にショーツ丸出しのまま動かなくてはならない状況が惨めでならない。
「透けてる……」
 目を逸らしたくてたまらなかった。
 透の穿いている白いショーツは、尻側は無地の一方で、フロント側には青い花のプリントが入っている。もっぱら尻が中心に映っているので、柄はほとんど見えないものの、股の隙間の影からは、わずかに青色が覗けていた。
 そして、白く透けやすい色であることで、それがぐっしょりと濡れた結果として、肌色が微妙に見えているのだ。白が灰色になったようでいて、透明度を得たかのようにわずかな生尻が浮かび上がって、それが透の心をより一層のこと刺激している。
 こんなもの、見ていたくない。
 最初からそうだったが、ますます見ていたくなくなった。
 しかし、画面の右端にあるマップを見ていれば、どうしても中継は視界に入る。その一点だけに集中して、余計なものは意識の外へ追い出そうともしてみるが、それがかえって尻への意識を強めてしまう。
 追い出そう、考えないようにしよう。
 そうやって、心の中から締め出す対象として定めることで、ある意味では逆に照準を定めてしまい、上手く意識外まで出せないのだ。
 おかげで尻の様子が気になって気になって、本当に嫌で仕方のない状態が続くまま、透は迷宮を歩み続けた。
 クリアは時間の問題だった。
 スライムとの遭遇さえなければ、制限時間もたっぷりと、余裕をもってクリア可能なゲーム設計ではあった。
 マップ上の点滅が近づいている。
 黒塗りの通路を明らかにしていきながら、透自身の点滅と、円香の位置を示す点滅が近づいている。これだけ距離が縮まれば、向こうも合流を意識しているはずで、あとはそのための通路さえ見つかれば再開できるに違いなかった。
 点滅と点滅が、画面上で一直線に、これから正面衝突でもするかのように、お互いに迫り合う。このまま会えるかと思いきや、目の前に現れる壁で再開は阻まれて、仕方ないのでそのままお互い壁沿いに進みだす。
 二つの点滅が平行していた。
 すぐ壁の向こうに円香はいた。
 そのことを意識しながら歩いていくと、やっとのことで外に通じる出口が見えた。そこはちょうどU字路とでも呼ぶべき形の、そのままUターンが可能な通路になっていた。今まで二人を隔てた壁が途切れて、その途切れた先にこそ出口はあり、二人はクリア直前に再開できたわけだった。
「浅倉!」
「樋口!」
 お互いの顔が見えるなり、すぐさま名前を呼び合った。
 別れていたのはそう長い時間ではないのに、状況が状況だったおかげか、妙に寂しく心細く、だからこうして会えた瞬間、まるで数年ぶりの再開であるように、いっそ感動までしてしまっていた。
 こんな四つん這いの体勢でなかったなら、今すぐ抱き締め合ったかもしれない勢いだ。
「とにかく、出よう。浅倉」
「うん!」
 二人して出口を出る。
 こうして、迷宮脱出ゲームはクリアするものの、二人にはまだ次のゲームが待っているのだ。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA