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 第二ゲームが始まった。
 ひとしきりショーツを視姦して、四人が満足したところで、またしてもワープによって場所が移し替えられての、ルール説明を介した後に始めるゲームに、二人して取りかかっていた。

 一言で言えば、お湯の真上を歩くゲームだ。

 歩くといっても、立って歩くわけではない。
 愛野が用意したルールにより、上向きの四足歩行で進む必要があった。ブリッヂというわけではないが、上を向いた上での四つん這いで、地面を背にして進む形で、二人はそれぞれのルートを進んでいた。
 綱渡りに近いといえば近い。
 お湯が入っているのは、実に長々とした透明なボックスだ。何十メートルとある長さの、少女の肩幅より多少は広い程度の幅の広さで、お湯が延々と続いている。こうなれば、湯船にお湯を溜めたというより、川とでも表現したいが、それほどの長さであっても、特に水流があるわけでもない、あくまで箱の中に入ったお湯なのだ。
 つまり、両手両足を使い、縁の部分を伝って歩いている。
 箱の両端の部分に手足を置き、ブリッジ型の四つ足歩行で落ちないように進んでいく。途中で落下したらゲームオーバーというルールで、二人分のコースを用意されていた。
「なんなの……これ……」
 円香は顔を顰めている。
「お、落ちそう……」
 透も表情を歪め尽くして、苦悶めいた顔付きを赤く染め上げていた。
 平行して進んでいる二人だが、この歩行は決して簡単なものではない。慣れない姿勢もあるが、何よりもゲームの難易度を上げているのは、縁の部分が大きめで滑りやすい点にある。
 テニスボールよりも大きな幅で、微妙に掴みにくい。
 しかも、丸く綺麗に磨き上げ、ほとんど球面のようになった両縁は、表面にローションまでまとっているのだ。滑りやすくなっており、じっとしていれば自身の体重でだんだんと沈んでいくかのように、手足がずり落ちそうになる。
 落ちないためには、ずり下がった手足をその都度置き直す必要があるものの、歩行するにはそのたびに手足のどれかを浮かせなくてはならない。その瞬間のたび、バランスが怖くなり、常に冷や冷やし続けている。
「最低……なんなのこれ……」
 こんなゲームを思いつく愛野達への怒りもある。
 だが、円香が憤りを感じる点はまだあった。

 二人は制服を着せられていた。

 薄らとチェック模様の入ったスカートに、上は真っ白なワイシャツと、高校時代そのままの服装を二人はしていた。
 衣服も転送で切り替えるのか、何なのか。
 この空間に送り込まれたその時から、気づけば服装が変えられており、ショーツのじめっとした感触も消えている。自分で着替えただけならば、乾いた下着に替えられて、すっきりした気持ちになれただろう。それを勝手に替えられて、きっと連中好みの下着を着けさせられたに違いないと思ったら、気持ち悪くてたまらない。
「マジでない……本当に最悪……」
 その上で、滑稽な歩き方を強要されていた。
 がに股のように脚を開き、ブリッジのように胴を持ち上げ、胴体の向きを上下反転させた形での四つん這い歩行である。
 これでお湯の上を進んでいるのだ。
 落ちたら火傷する温度なのか、といった怖さもさることながら、落ちる落ちないに関わらず、絶えず湯気が上がってくる。蒸気をワイシャツが吸い込むことで、徐々に透けてくるのではないかと不安があって、心理的にも落ち着かない。
 だいたい、スカートは垂れ下がっていた。
 上から見れば、もちろん中身は見えないが、水中にでもカメラを入れて、真上を見上げる形にすれば、お尻は丸見えのはずである。
 誰にも見える余地のない状況なら、スカート丈の角度による恥ずかしさも、それほどのものではなかっただろう。
 だが、迷宮での尻の追跡といい、先ほどのモニターといい、目には見えない透明なカメラが浮遊でもしているように、どこからか撮られ続けた。そのことを考えれば、姿勢のせいでお尻側の丈が垂れ下がり、尻が出ている状態は、あまりにも落ち着かないものだった。
 しかも、腹が疲れてくる。
 姿勢を楽にするためには、腰を沈めてしまえばいい。横から見ればM字に近い、尻が地面に近づく形でいた方が、身体にかかる負荷は少ない。それをしっかり上にして、胴体を地面と平行にしているのは、中身の見える具合を減らしたいためだった。
 腰を低めようと低めまいと、どちらにしてもスカートは垂れ下がる。お湯に当たって濡れることも気になるが、何よりもショーツの方だ。腰が低いと、前から見ても開脚具合がM字に近づき、スカートの中身は見えやすいはずなのだ。
 円香はそれを気にして胴体を上げていた。
 透も同じく、筋力的な負荷を減らすことより、見えにくくする方を優先していた。
 そうまでショーツを意識したところで、どうせ結局は見えないカメラに映されて、確認されているのだろうかと思ったら、いたたまれない気持ちになってくる。
 ギミックはさらにある。

 天井にはシャワーノズルが生えていた。

 頭上からのシャワーと言えば、プールに入る前後のものを思い出すが、今は円香が見上げる天井の先から、こちらに向かって生えている。
 まだ、水も何も出していない。
 しかし、あれが何も出さずに終わるとは思えない。

 その時、またしても浮遊モニターが出現した。

 二人が天井へ向けた視線の先に、ちょうど見せつけるような位置に急に現れ、流れ始める映像は、やはりスカートの中身を中継したものだった。
「き、キモイから……!」
 円香は声を荒げた。
「なんで……なんでこんなことばっかり……!」
 透はいっぱいいっぱいになっていた。
 二人して微妙に色合いの異なるピンク色で、円香の方が桃に近く、透の方が白に近い具合の色だった。それが湯気に当てられて、僅かながらに湿った結果、まださほど濡れてはいないが、湿り気の気配がいずれ強まってきそうであった。
 二人の胴体は地面と平行であるものの、カメラの方は下からそれを見上げている。
 結果として、さも正面から撮ったかのようなアングルでショーツは映り、揺れるスカートがチラチラと、画面上端から見え隠れしていた。
「またこれっ、なんなの!」
 円香は正面から目を背け、顔を歪めながら進んで行く。
「もうやだ……助けて……」
 透も切実な声を絞り出し、目を逸らしながら進んでいた。
 どちらも、画面を見ないように意識していた。
 そんな時である。

 ぴちゃ、

 と、何かの滴が落ちてきて、それが円香の頬に当たっていた。少しだけ熱っぽい、しかし雨粒でも当たったかのような感触に、円香はまるでおぞましいものを見たような顔をしていた。
「樋口……!」
 透の悲鳴のような声がした。
「い、急がないと……!」
 シャワーだ。
 天井から生えたシャワーノズルは、ついにお湯を降らせようとしているのだ。
 こんな白いワイシャツでびしょ濡れになれば、一体どんなに透けてしまうかは言うまでもない。その事態を回避しようと、慌ててペースを上げようとするのだが、その途端に危うくバランスを崩しかけ、心臓が凍りつきそうだった。
「だ、駄目だ……樋口、急いだりしたら……」
「私も、無理かも……」
 お互い、声が震えていた。
 ローションのまぶされた丸い縁は、ただでさえ滑りやすい。手足の置き方をちょうどよくしていなければ、体重によってだんだん下へと、ずるずると滑っていき、やがてはお湯に落ちることになる。
 微妙なバランス感覚を保っていないと、いつ落ちるかも怖い状況だ。
 下手にペースを上げようものなら、二人は簡単に落下して、ゲームオーバーになるだろう。
 しかし、かといって急がなければ、とうとうシャワーから降り注いでくるお湯は、小雨のように少しずつ、着実に二人のワイシャツを濡らし始めた。
「や、やだ……!」
 透が悲痛な声を上げていた。
「浅倉! あ、慌てたら、落ちちゃう!」
「わかってる! わかってるけど……!」
 ワイシャツが濡れるとわかっていて、なのに急ぐわけにはいかなかった。濡れれば濡れるほど透けていき、中身の色は時間と共にいつかくっきりとしてしまうのに、それがわかっていながら急げない。
 本当は慌てふためきながらペースを上げ、焦って進みたい状況でそれが出来ない。
 体では慎重さを維持しつつ、心理的には焦燥感たっぷりに、何かに追われたような緊張に満ちた二人の顔は、心なしか汗をかいて見えてくる。実際にはシャワーの水滴で濡れ始めているだけなのだが、赤い顔と焦った様子が、さも汗であるように見せていた。
 その小雨は画面を通過していた。
 そんなものは幻に過ぎないように、真上に浮かぶ中継映像は、決して水滴を受け止めることがない。モニターやタブレットが浮遊しているわけでなく、映像が直接大気中に投影されてのものは、実態など持たなかった。
 二人の進行状況は、ようやく半分を超えようというところだ。
「う……!」
 円香が顔を顰めた。
「やぁ……!」
 透が悲鳴を上げた。
 画面はいつの間に二分割になり、左半分には尻を映した一方で、右半分には胸が映し出されていた。自分の胸がどこまで濡れ、一体どの程度透けているのか。それをリアルタイムに確認しやすくされてしまい、二人して顔を背けた。
 必死になって壁だけに視線を注ぎ、映像を見ないようにしながら進み始める。
 すると、画面は移動してきた。
「やだ……! 来ないで!」
 透の悲鳴は、もはや不審者に追われて怖がる瞬間じみていた。
「キモイ! 本当にキモイ!」
 円香の口からは、あの四人に対する罵声が出ていた。
 目を逸らしたり、顔を横向きにしても、視線の先に回り込んで来るようになったのだ。壁を見ていればその方向に、円香と透で視線を重ね合わせれば、それを遮る位置に、視線の角度に合わせて移動してくる。
 こうなったら、中継映像を見ないためには、目を瞑ったまま進むしかない。
 しかし、いざそれをやってみて、すぐにバランスが怖くなる。
「最悪……最悪……!」
 もうどうやっても、あの映像を視界に入れずに進むことは不可能だ。
 嫌でも強制的に見せつけられる。
 しかも、濡れた感触がだいぶ広がり、ブラジャーのピンク色が薄らと、今にも見えそうになってきている。色そのものは、既に判別可能になってしまい、これがさらに濡れてしまえば、よりくっきりと柄まで見えかねない。
 二人はますます焦る。
 実際には慌てて進むことができないせいで、心だけに焦燥感は膨らんでいく。
 急ぎたいのに急げない、そのもどかしさで心が焼き切れそうになり、やり場のない感情をどこかにぶつけたくなってくる。
 二人の距離は進んでいる。
 ゴールが近づいてはいるが、シャワーの雨足も徐々に強まり、ワイシャツが濡れる勢いも早まっていた。ブラジャーのピンク色がみるみるうちにくっきりと浮かび上がっていた。
 円香の腹が、透の腹が、ワイシャツ越しに透けてくる。
 ついにはっきりと色が出て、肌まで透けたワイシャツからは、観察さえすれば柄の判別まで可能になっていた。

 透のブラジャーは薄ピンクだ。

 白に近い色合いで、カップにはそれよりも濃い色の糸を使った刺繍がある。その多くは花を縫い込んだものだったが、左右のカップの頂点には、きっと乳首の位置であろう箇所には、それぞれリボンがあった。れっきとしたリボンでなく、刺繍によって作られたリボンであった。
 カップ同士の中心には、センターリボンとしてれっきとしたものも添えられている。
 それがワイシャツの布を介して、ぐっしょりと透けた中から如実に浮き出て、中継映像の中に周囲の肌色もろとも映っていた。

 円香のブラジャーは白に見えた。

 ワイシャツが重なっていることもあり、薄ピンクというよりも、純粋な白色のように映ってしまうが、よく見れば柄までわかる。ピンクの生地を覆い拡散ばかりにして、無数の白いラインを引き、格子上のチェック模様を成していた。
 大量に引かれた線により、ピンクよりも白の面積が遥かに上回り、結果として遠目にはパっと見れば純白と映ってしまう。
 そんなチェック模様の上には、さらに花のアーチの刺繍が、やはり白い糸によって縫い込まれ、ブラジャーをよりオシャレに飾っていた。

 こうなる頃には、尻も透けてきていた。

 どちらのショーツも、下から立ち上る湯気を吸い込み、とうとうぐっしょり、尻の肌色を透かしていた。乾いていた時までは、決して見えることのなかった割れ目の溝が明確に浮かび上がっていた。
 だが、透かされただけでは終わらない。

「やぁ……!」
「あ……!」

 円香が驚き、透が悲しげな顔をした。
 二人とも、何かに遠くへ行って欲しくないかのような、待って欲しい顔をしていたが、とはいえ物を手放したわけではない。
 それ自体は身に着けたままだった。

 スカートが捲れたのだ。

 急に風が吹き、突如としてスカート丈が持ち上がる。
 前触れもなく、急にショーツを丸見えにされてしまい、二人の柄が明らかとなってしまった。

 円香のショーツはブラジャー同様、白に見えなくもない。

 ピンク色の生地をベースしており、お尻側や腰の両側などは、特に白を使った要素はない。フロント側にある三角形のエリアだけに、ブラジャーと同じ白いラインを引いてのチェック模様が刻まれていた。
 そこにフロントリボンを添えつつ、上端の両サイドはカットワークの花を張り付けていた。
 六角形のエリアをチェック模様に、その上端左右にポイントを足すことで、白い三角エリアを形成していた。

 透のショーツは元々のピンクが薄く、初めから白に近い。

 薄らとした色合いの生地に、もっと普通の濃さをしたピンクを使い、プリント柄によっての花とリボンを並べている。四つ並びのリボンを大きめに、それよりも小さな花をリボンの周囲に散らした柄で、やはりフロントリボンの箇所には、きちんとした本当のリボンがあった。

 二人はスカートを元に戻そうと意識した。

 スカートが捲れた原因よりも、まず先にショーツを隠そうと意識したが、手をスカートに伸ばせばバランスが崩れそうでやりにくい。お湯の雨が降っていても、縁をぬめらせるローションが流れ落ちてくれるわけではなく、相変わらずいつ滑り落ちるかもわからない状況で、下手にスカートは触れない。
 捲られる原因は扇風機だ。
 そのためだけにコースに向け、複数台に渡って設置された大型のサーキューレターは、腕を広げたほどの直径で、成人男性の腰ほどまでの高さがある。そんなサイズのプロペラが回転すれば、スカートを捲るなど容易かった。
「やっ、やだ……やだ……!」
 透がしきりに悲鳴を上げる。
 ゴール手前には、まるでマラソンゴールを見守る観客の集まりのようにして、何台ものサーキュレーターが並んでいる。風がスカートを捲るコースが形成され、それを通過しない限り、決してゴールはできないようにされていた。
「最低っ! なんでこんなこと思いつくの!」
 円香も声を荒げる。
 本当に最悪だった。
 せめてさっさとゴールして、この地獄から最速で抜け出したいと思いはするが、ヌルヌルとツルツルと滑る以上、やはり急ぎたくても急げない。
 二人は結局、スカートを騒がせながら残りの距離を進んでいった。
 水分で重みを増したスカート丈の、風にバサバサと鳴らされる音に合わせて、映像の中ではショーツが見え隠れを繰り返す。風の当たり具合によって、数秒以上は丸出しになったショーツが、もう数歩進んだ先では一瞬ずつチラチラとしか見えないなど、捲れ方にもバリエーションが出るように、風速もあえてバラバラにしてあった。
 二人はやっとゴールに辿り着き、床の上に素足を下ろす。
 扇風機からも、シャワーからも、少しでも早く離れたいように小走りして、逃げるように駆け去っていた。





 
 
 

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