目次 次の話




 皆さん、身体測定や健康診断など、会社や学校では毎年時期が決まっていると思います。
 もし、その日に休んでしまったら?
 休んだ人達の日程だけ、他に設ける必要が出てきます。できるだけ手間はかけさせず、予定通りに済ませた方が理想ではありますが、思わぬ風邪をこじらせたり、急なインフルエンザで登校ができなくなるというのは、誰にでも起こりうることです。
  さて、一人の少女が病院を訪れました。
 とっても背が小さいですね。
 この女の子は逢坂大河といって、学校では手乗りタイガーなどと言われ、みんなに恐れられています。そんな大河ちゃん、学校から貰った書類を受付の人に見せると、番号札を貰って待合室のベンチに座ります。
 診察を受けに来たわけではありません。
 そうです。
 実は大河ちゃん、学校の測定も診断も休んでしまいました。
 しかも、欠席したのはこの子一人で、他に休んだ子はいませんでした。大河一人のために校医を再び呼び寄せたり、設備の必要な検査技師を呼ぶというのは、学校としては抵抗のある話だったようで、逆に生徒の方を病院に送り込もうと決めたのです。
 大河は学校でそのための書類を受け取り、決められた時間通りに受付に渡したわけですね。
 あとは番号札の番号で呼ばれれば、検査や測定が始まるわけです。
 いえ、違います。
 大河の元に、一人の若手医師が向かっていきました。彼が声をかけると、大河はベンチから立ち上がります。彼の背中に着いていき、検査の実施場所まで移動するようです。
 二階へ行って、なんだか妙に広々とした部屋に着きました。
 身長計、体重計。
 それから、診察用のベッドなど。
 必要なものは一通り置かれている他、一体どういうわけなのか、何人も何人も、本当に何人もの男の人が集まっていました。
「は……」
 大河、絶句しています。
 どうしてこんなに人がいるのか、わかりませんものね。
 試しに数えてみましょう。
 大河の案内をした若手医師でまず一人。そんな彼と同じくらいの医師は、さらにもう三人ほどいらっしゃいます。加えて中年が四人、老人が一人。これで白衣を着た人達は全部です。白衣は九人いるわけです。
 その上で、何やら堅苦しいスーツを着た人達が、一人、二人、三人、四人、五人、六人――どうやら六人いるようですね。
 となりますと、ここにいる男性は全部で合計十五人。
 女性が一人もいません。
 女の子はただ一人、大河だけです。
 たった一人で、こんなにも多くの男に囲まれるというわけですね。これにはなかなか驚くでしょうし、言葉もでないことでしょう。
「待っていましたよ。逢坂大河さん」
 しわくちゃの老人医師が前に出て、大河に挨拶をしました。
「あ、あの……なんで、こんなに…………」
 大河さん、上手く言葉が出ていません。
「ああ、これはですね。大河さんには特別な内容を受けて頂くことになりましたので、その実施と立ち会いの関係上、これだけの人が集まっているのです」
「なに? 特別って……」
「特別は特別です。普通に学校で受ける内容と違って、もっと詳しく診たり、検査するというわけですね」
「聞いてない! そんなの聞いてない!」
 大河、動揺しています。
 やたらに集まる男達に向かって、激しく顔を振り回し、やたらにキョロキョロとしています。そんなにしても、人数は変わりません。いくらあなたが動揺して、喚いたところで、ここには十五人もの男がいるのです。
「今回受けて頂く検査では、この場で裸になり――」
「裸!?」
「隅々までくまなく調べ――」
「隅々!?」
「肛門まで検査する内容になっていきます」
「お尻の穴まで!? なんで!? 本当になんでよ!」
 おやおや、説明を聞いただけで、もう赤く染まっています。
 まだ恥ずかしがるのは早いですよ?
 だって、まだ何も始まってすらいませんからね。
「大河さん。あなたの学校は保健機関と契約を結んでいて、毎年必ず一人は生徒を差し出すことになっています。基本的に男女どちらでも良いこととしていますので、もしどうしても嫌だというなら、お帰り頂いて結構ですよ?」
 この言葉を聞いた瞬間です。
「はぁっ!? 帰っていい!?」
「ええ、結構ですが」
「いいっていうの!? 呼んでおいて、いいっていうの!?」
 実際、大河は帰りたがっています。
 こんな何人も男がいる中で、わざわざ裸になりたいなんて女の子がいたら、よっぽどの露出狂ではありませんか。
「そうですね。あなたが帰った場合、代わりに別の生徒に所定の調査を受けて頂くことになっています。あなたが駄目だった場合は……」
「場合は?」
「ええっと、北村祐作くん? でしたっけね。その人と代わってもらいます」
 一応、言っておきましょう。
 この人、大河が祐作を好きだというのは知りません。保健機関との契約で差し出す生徒の第一候補は逢坂大河、第二候補は北村祐作、そのように決まっているのは偶然というか何というか。
 日頃、学校で恐れられる手乗りタイガーですからね。
 大河を第一候補にしたのは、もちろん学校での測定と診断を休んだのが理由ですが、それにかこつけて差し出したのですね。学校でできなかった内容を消化して、そのついでに他の検査も、といった話です。
「…………」
 まあしかし、大河は絶句しました。
 何やら拳に力を込め、ぷるぷると震わせる真似までしています。

 げへへっ、お前が嫌だっていうならなァ!
 お前の大好きな祐作くんを代わりに辱めてやるぜェ!

 なんて言い方は誰もしていません。
 いないんですけど、大河は祐作のことが好きですからね。自分が帰れば、代わりに祐作がここで裸になり、お尻の穴まで調べられてしまうとなれば、これはもう逃げにくい。断りにくい。まるで人質を取られたような気分。
 そう、大河の立場からすれば、下品な悪役の台詞を言われたような気持ちになるわけです。
「……ちっ」
 舌打ちしました。
 学校でも先生に舌打ちする子ですから、病院のお医者さん方にキレても、まあおかしくはありませんね。
「どうなさいます?」
「……ちっ」
「まあ、帰るとしても、その場合は通常の身体測定と検診だけでも……」
「……ちっ」
「舌打ちはよくありませんね。というより、何かご返事を……」
 老人医師、困っています。
 自分が人質を取った形でいるのに気づいていません。まあ、お前が嫌だっていうなら、代わりに別の人に嫌な思いをしてもらうぞ(意訳)、とは言っていますが、自分が人質交渉をしていることになんて気づいていません。
「あああああ!」
 大河は大声で喚きました。
 本当に、急に喚きました。
 フォローしておくと、舌打ちしながら葛藤していたんです。迷っていたんです。自分と祐作を天秤にかけ、女の子の自分より、男の子の方に犠牲になってもらおうとか、考えてはいたんです。
 でもやっぱり、そういうのは抵抗があったみたいですね。
 で、喚いたわけです。
 どちらかを選ばなくてはいけない。どっちも駄目は通用しない。苦渋の選択を前に叫び声が上がってきちゃったんですね。
「た、大河さん!」
「受ける! 全部受ける! 受ければいいんでしょ! 受けてやるっての!」
「ああ、そうですか。まあ、それは助かりますが……」
「キモイ! 変態! 男女どっちでもいいとか! 相当やばい!」
 何か誤解もありそうです。
「うーん。まあ、どうあれ構いません。受けるというなら。そのまま指示に従って頂けますね?」
「じゃなきゃ! じゃなきゃじゃなきゃ!」
 自分が受けなきゃ、祐作が、という意味ですね。
 大河の頭の中には、もう色んな悪役の台詞が渦巻いています。誰も言ってもいないような言い回しが、それはもうたくさん、泡のように浮かんでは消え、浮かんでは消え、まあ一言で言えば、人質交渉に従わされた心境というわけですね。

     *

 とはいえ、チビっこい女の子の裸を拝めるわけです。
 どうも、いらっしゃいますね。
 嬉しそうに鼻の下を伸ばした感じの医師とか、スーツの男性とか。
「では大河さん。まずはパンツのみを残して、他は全て脱いで下さい」
「本気で言ってんの」
「まあ、今ならまだ気が変わったので帰るというのも有りですが」
「ちっ」
 大河にそんな選択はできません。
 自分の代わりに犠牲になるのは、祐作なのですから。
 なら、もう受けるしかありませんね。
「ではお願いします。脱いだものは、あちらのテーブルに置いて下さい」
「っとに、脱ぐなんて!」
 大河、テーブルに向かって行きます。
 男達には背中を向けます。
 さて、そんな後ろ向きの状態で、まずは紐状のリボンをワイシャツの首から引き抜きまして、バン! と、叩きつけるように乱暴に置きました。ブレザーのボタンを外そうとする指も、物凄く雑ですね。苛々した感じになっています。
「ああもう! なんで、ありえない……ありえない……ありえない……ありえない……」
 壊れた機械のように連呼しながら、ボタンを外しきりました。
 で、袖の内側から腕を引き出し、ワイシャツ姿になるわけですね。テーブルへのブレザーの置き方も、やっぱり雑なものでして、皺なんて気にせず適当にほっぽり投げています。d
 さて、次はワイシャツのボタンを外し始めていますが、だんだんと顔が赤く? なりはじめていますね? 恥ずかしいですね?
 ええ、まだ見えませんよ?
 ボタンが空いたからといって、チラチラと隙間が微妙に覗けて見えなくもないくらいで、きちんと露出しているわけではありません。髪も長くて、背中を覆っちゃっていますから、ブラジャーだって見えにくいでしょうね。
 でも、恥ずかしがってます。
 後ろの視線を落ち着きなく意識して、そわそわそながらボタンを外しています。ボタンを外せば外すほど、裸に近づいているわけですから、段階的に頬が染まってきているってわけなんですかね。
 ほら、もうピンク色。
 全てのボタンを外しきり、あとは脱ぐだけとなったワイシャツの布を握って、あからさまに躊躇っています。私、本当に脱ぐの? みたいな顔して、可愛らしく拳を震わせるなんてことまでしていますね。
 もう前を閉じたり開いたりしちゃってます。
 一体、その開閉運動を何回やるんでしょう。
 おっと、やっと脱ぎました。物凄く、ものすごーく躊躇いながら、大河はワイシャツも脱いでいきます。
「最低……最悪……死にたい……」
 ぶつくさと言いながら、脱いだワイシャツを放り投げました。だらっと、袖の部分がだらしなくテーブルから垂れていますが、大河はそんなものは気にしません。そんなことより、肌を露出してしまった恥ずかしさで頭がいっぱいです。
 ええ、髪がありますから、背中は割と隠れています。
 男達、みんな後ろですから、まだ限られた箇所しか見えていません。
 それでも、上半身はブラジャーのみっていうのは事実ですから、もう後ろにいられるだけで恥ずかしいのでしょう。
 さて、お次はスカートです。
 パンツ一枚になるんですから、スカートも脱がなくてはいけません。
 大河、スカートのホックを取り外します。その下にあるチャックを下げ、横っちょの太ももを少しだけ露出します。セクシーです。ぺろっとV字に割れた隙間から、もう白いのが見えています。
 いえ、後ろの男達には見えませんよ?
 ですが、白いです。
 白を穿いていらっしゃいます。
 しかし、顔がピンク色とはいえ、まだ平常心を保っている方ですね。パンツもブラジャーも、後ろからは見えませんし、でもスカートを脱いじゃったら、さすがに下着姿ですからね。ワイシャツもそうでしたが、スカートを脱ぐのはますます抵抗があるみたいです。
 おっと、それでも脱ぎます。
 ばっさり、足元に落ちました。
 歪んだドーナツ状のリングになりましたよ。
 もうパンツが見えちゃいます。白いパンツに包まれたお尻が後ろからも見えますので、何人かの人達は、ちょっとニヤニヤしていますね。大河の下着が見えて、とても嬉しそうにしています。
 さてはて、下着姿になったところで、あとはブラジャーですね。
 大河、両手を背中に回します。
 で、ホックは外すんですが、緩んだブラジャーを脱ぎ去ることに、これまた抵抗を感じています。顔だってますます赤くなっています。これを取ったら乳房を露出しちゃうわけですから、ワイシャツよりもスカートよりも抵抗があるのは当然ですね。
 でも、自分が脱がなかったら、代わりに祐作が……。
 やっぱり、好きな人って犠牲にしにくいですもんね。
 しばらくは躊躇ったり葛藤したり、はたまた後ろを睨んだりして、なかなかブラジャーを脱ごうとしませんでした。けど、いつしか肩紐を一本ずつ下ろしていき、テーブルにブラジャーを置いちゃうわけです。
 さあ、パンツ一枚になりました。
 その瞬間から、大河の顔はますます赤くなっていき、反射的に勢いよく胸を隠し始めちゃいます。繰り返しますが、まだ誰に見えてません。後ろから見えるのはお尻くらいで、おっぱいは誰も見てませんが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいですね。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA