前の話 目次




 天羽陽翔や碓氷咲月には、現実で過ごすべき時間がある。
 学校があり、家で過ごす時間があり、風呂に食事に宿題に、睡眠の時間も必要になる。ログアウトが出来ない空閑旭姫は、そのあいだ一人取り残され、寂しい時間を過ごすばかりとなるのだが……。
 ふらりと、旭姫は外を出歩いていた。

「はぁ……はぁっ、はぁ…………」

 目がとろけ、興奮している。
 頬が火照り、息遣いの荒くなった旭姫の顔は、誰が見ても淫猥な微熱の籠もったものだ。
(あたし……エッチになってる……こんなの、駄目なのに…………)
 このままでは連中の思い通りだ。
 頭の中ではわかっていても、逆らおうとするたびに、あの場で言われた言葉が蘇る。

 ――君は催淫効果をたっぷりと浴びているんだ。

 あれから、代わる代わるのセックスがやっとのことで終了して、中年の群れが解散した後、改めて現れたマッサージ師に言われた言葉だ。

 ――お香とオイルにたっぷりと効果が含まれていてね?

 マッサージ師は嬉々としてその効力を語ってきた。
 催淫状態は極めて特殊な状態異常で、システムの穴を突きつつ違法パッチによって実現したものである。公式には存在しないバッドステータスなので、それを解除するための方法は存在せず、実装されている治癒魔法やアイテムは通用しない。
 全状態異常を治す万能アイテムも、万能魔法も、催淫状態だけは解除できない。
 時間経過による解除もなく、催淫状態にかかっている限り、毎日のようにエッチな興奮をしてしまう。最初は我慢できるかもしれないが、我慢に我慢を重ねて溜め込み続けると、やがて暴走して誰構わずセックスをしたがるようになってしまう。
 その恐るべき効果を聞かされて、旭姫は戦慄した。

 ――効果を軽減する薬はここにしかない。
 ――欲しかったら、わかってるね?

 あのマッサージ師なら、解除アイテムを持っているのかもしれない。
 しかし、あったとしても、それを旭姫に渡すつもりはないはずだ。
 延々と繰り返し楽しむため、軽減させたり、一時的に抑える薬だけを用意して、治す薬は渡さない。旭姫を何度もここに通わせ、これから先何度も何度も、たっぷりとセックスを楽しめるという手口なわけだ。
(どうにかしないと……でも、こんなの相談できない…………)
 あんなこと、言えるわけがなかった。
 だから、いずれ解除アイテムを探し出し、どうにかして手に入れるためだと自分に言い聞かせ、旭姫はフラフラとマッサージ店に向かって行く。
 だが、入店先で待っているのは施術ではない。

 旭姫とセックスする権利を購入した男が待っている。

 商品扱いなのだ。
 マッサージ店など表向きの看板に過ぎず、その本来の姿は催淫状態になった女性プレイヤーを通わせて、所属する風俗嬢のように扱い、客に宛がう店である。
 旭姫はつまり、客の相手をしに行くのだ。
(こんなの、ずっとなんて続けないから……)
 いつか催淫状態を解除してみせる。
 そんな思いを胸に、旭姫はフラフラと進んで行った。
 心のどこかで、溜まりに溜まった性欲を解消したいと思いながら、旭姫はその店の地下室で客と顔を合わせて性交する。
 風俗嬢としての日々は、まだ始まったばかりであった。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA