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 ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ――。

 それはベッドの骨格が軋み、一定の間隔でリズム通りに鳴り続ける音である。
「あっ、あっ、あっ、あっ――」
 そして、可愛く鳴いている声は、ベッドの軋みとタイミングを同じくして吐き出され、そこには尻に向かって腰を打ちつける音さえ含まれている。じっくりと耳をすませば、パンッ、パンッ、といった打音さえもがリズムに乗っていた。
 二人目の中年が行うのはバック挿入だった。
「やっ、あっ、んっ、んぁっ」
 拘束を解くというより、体位を変えるために一度外したものを付け直し、だから旭姫の手首足首には依然としてベルトが巻かれている。ベッドのぎりぎしとした揺れに合わせて、ベルトから伸びた鎖もじゃらついて、骨格の部分では金属が擦れ合っている。
「いやっ、やだっ、いつまで……んぅぅ……!」
 旭姫はシーツを握り絞め、屈辱を噛み締めながらうなだれる。額がシーツに触れんばかりに頭を落とし、垂れ下がった前髪は広がっている。
「ほーら、気持ちいいねぇ?」
「やっ、だめ……き、気持ち悪いから……!」
「何を言っているのかな? 気持ちよさそうな声まで出して、旭姫ちゃんだってセックスを楽しんでいるじゃないか」
「んあっ、あぁ……そんなこと……ないもん……!」
「オジサン達はね? とっても楽しんでいるよ?」
 その中年はニヤニヤと背中を見下ろし、剥き出しとなった尻を可愛がらんばかりに撫で回す。姿勢のために丸見えとなった肛門を指でくすぐり、するとピクっと周囲の筋肉が反応するのが面白く、指先で皺をほじくった。
「伝説とまで言われたパーティーの仲間と一緒に遊んでいるんだ。すっごく、すっごく楽しませてもらっているよ?」
「あっ、あぁ……あたしはっ、楽しくないってば……!」
「ねえ、旭姫ちゃん。だったら、こうしてオジサンとセックスしているところ、仲間にも見てもらったらどうかな?」
「だ、だめ! そんなのだめ!」
 旭姫は瞬く間に焦燥を浮かべていく。
「どうして駄目なのかな? あ、そっか! どう見ても楽しんでいるじゃないかって、仲間達に怒られるのが怖いんだね?」
「ちがうよ! そんなこと……みんながっ、んっ、いっ、言う……わけ……!」
 快感に邪魔されて、旭姫の言葉は途切れ途切れとなってしまう。
「天羽陽翔くんだっけ? あの少年にも見せてあげたいなぁ?」
「だめ! 絶対だめ!」
 旭姫は必死であった。
「駄目なのかい?」
「だめだよ!」
 それだけは何としても食い止めなくてはいけないような、命懸けのような思いがあった。
「駄目ってことは、やっぱり楽しんでいるからだね?」
「なっ、なんで……!」
「本当に嫌がっているなら、少年くんは怒ると思うよ? でも旭姫ちゃんは駄目だと言う。楽しんでいるのがバレちゃうもんね?」
「楽しんでないってば!」
 それは心からの叫びに他ならない。
 無理矢理されていることなのに、自分で好き勝手なことをしておきながら、それを旭姫自身も楽しんでいるかのように言い出す。その身勝手さに対する苛立ちもあり、旭姫は声を荒げてすらいたが、快感は容赦なく発せられている。
「んあっ、あん! あぁん! あぁん!」
 中年が少しペースを上げただけで、喘ぎ声のトーンが変わった。
 そして、それを見た周囲の中年も、笑いながら声をかけ始める。
「あーあ! 楽しんでるねぇ?」
「楽しそうにしか見えないよ?」
「パーティには他にも二人いたでしょ? 女の子が!」
「そうそう! 二人も呼んで、一緒に楽しんだらいいんじゃない?」
「ねっ、それがいいよ!」
 それら数々の言葉に対し、旭姫は必死になって首を振る。違う、違うと、否定する思いを込めて懸命に髪を振り乱し、こんなことを言われ続ける屈辱に歯を噛み締めていた。
「へへっ、それじゃあオジサンの精液をかけてあげるよ!」
 いかにも楽しそうにペースを上げる。
「んあぁ! あっ、あ! あん! あん! あぁん! あぁん!」
 一瞬にして、喘ぐことしかできなくなった。
 津波のように押し寄せる快感は、いとも簡単に脳の中身を押し流し、頭を真っ白にしてしまう。媚薬付けとなった肉体など、少し本気になっただけで簡単に堕ちていく。喋る余裕を与えるのも、刺激に対して喘ぐだけの存在と化させるのも、今の中年達には自由自在だ。
「おお! 楽しそうだねぇ?」
「いいねぇ、旭姫ちゃん!」
「楽しい? 楽しい?」
「気持ちいいって認めようよ!」
「ねえ、ねえ! ねえ!」
 まともな声は少しも出せず、喘ぐことしかできないのをいいことに、周りからかかる声は容赦がない。旭姫もセックスを楽しんでいると決めつけて、ニヤニヤと煽り続ける言葉は、旭姫の心を万力のように締め上げていた。
「あぁぁ……! あっ、いやぁぁ…………!」
 やがて絶頂していた。
 トドメでも刺すかのように、ぐっと腰を押し込み射精を始める中年の、腰と尻との密着に合わせて尻が震える。下半身の筋肉という筋肉がくまなく痙攣して、力んで強張る一方で、そこに精液は注ぎ込まれる。
 強張るだけ強張った尻が、股が、ある一瞬で脱力した後、それがサインであるように内股の表面を伝って愛液が流れ落ちる。肉棒が抜けた時には、白濁さえもが溢れ出し、精液と愛液の混ざった白い濁りが糸を引いていた。
「あーあー。次の人のことも考えてくれる?」
 群れの中の一人が冗談めかしたクレームを飛ばす。
「なーに言ってるの。気になるなら魔法でウォッシュすればいいじゃない」
「それもそうだけどさー」
「ほら、次はあなただ! 使い心地は抜群だよ!」
 そのやり取りに、旭姫の心は余計に刺激を受けていた。
 人を物のように扱って、使い心地とまで言い出す中年達に憤り、歯軋りをしていた顎にはより大きな力が加わっていた。

     *

 次に旭姫を犯す三人目の中年はかなりの肥満で、頬がブルドックのように垂れ下がり、胸も脂肪で膨らんでいる。下垂しきった乳房のような胸の下には、やはり膨らんだ腹があり、脂肪によって形成された浮き輪が二重となって垂れている。
 指先にかけてさえ、脂肪による膨らみが見受けられ、皮脂には妙な脂まで浮かんでいた。
 それでいて汚く禿げ散らかり、実に中途半端な髪を残した醜い顔立ちは、ルックスだけで十分に生理的拒否感を催した。
 この醜悪さに加えて、さらに目つきまでいやらしく歪んでいる。鼻の下を伸ばしきり、下心が丸わかりの表情をしているとあっては、まともな女子なら同じ空間で過ごすことさえ拒みたくなるだろう。
 だが、旭姫はそんな醜悪な肥満と密着していた。
(やだぁ……気持ち悪い……気持ち悪いよぉ……)
 この肥満中年が求めたのは、対面座位による密着状態での性交だった。
 だから、一度は拘束を外すのだが、万が一にも逃がしたくない彼らとしては、外した後で付け直す。体位のために両手は自由にしながらも、両足に巻かれたベルトは、やはり鎖でベッドの骨と繋がったままだった。
「旭姫ちゃーん? オジサンを気持ち良くして欲しいなぁ?」
「や、やだぁぁ…………!」
 旭姫の悲痛な声は、その要求を拒みたい気持ちでもあれば、密着状態に対する多大な嫌悪感によるものでもあった。
 お互いの胸が押し合って潰れ合い、背中にも両腕が回っている。抱き締める力によって、ただでさえ高い密着度合いが余計に高まり、肌の泡立つような体中の戦慄が止まらない。
 今すぐに離れたい。
 その思いは切実だったが、既に性器まで結合を果たしているのだ。
「今度は旭姫ちゃんに動いて欲しいな」
「嫌だよ……そんなの……」
「だったら、ずーっと抱き締め合っていようね? 旭姫ちゃん?」
「それもヤダ!」
「どっちも嫌は通用しないよ? 旭姫ちゃん」
「うっ、うぅ……」
 旭姫は本当に、心の底から仕方なく、実に嫌々ながらに動き始める。
 ここにいる男達が気持ちよさそうにする顔など、旭姫にとって何も嬉しいものではない。むしろ、人の体を好き勝手にしてくる連中が喜ぶのは虫唾が走る。
 旭姫はぐっと歯を食い縛り、激しい嫌悪感に耐えながら、身体を上下に動かし始めた。
「んぅ……んあぁぁ……」
 当然、快楽は走ってくる。
(なんで……)
 悲痛な思いを旭姫は抱える。
(なんで気持ち良くならなくちゃいけないの?)
 望んで行うセックスではない。
 監禁されて、無理矢理させられているセックスだ。
 どんなに体の反応があったところで、少なくとも精神的な喜びがあるはずもない。男が喜べば喜ぶほど、逆に旭姫の中で恥辱や悔しさ、あるいは無念の感情が広がっていく。
「んあぁ……あっ、あぁぁ……あぁっ、んぅぅ…………」
 旭姫は動く。
 自らの身体を上下させ、嫌悪しかない男に対して、自分から快楽を与えてしまっている。いくら強制されてのこととはいえ、中年達が勝手に腰を振ってくるのと、旭姫自身が動くのとでは、また気持ちも違ってきた。
 嫌いな相手にプレゼントを贈るなど嫌々でしかないような気持ちで、旭姫はこの肥満中年に快感を与えているのだ。
「あっ、んっ、んぅ……んぅぅ……んぁぁ…………」
 セックスというものを生まれて初めて知ったその日のうちに、このまま何人の相手をすることになるのか。今がようやく三人目で、残りはまだ何人いるのか。いつになったらこの地獄が終わるのか。
 終わりが見えていないのも、旭姫の胸に膨らむ薄暗い恥辱に拍車をかけていた。
「んはぁ――はぁっ、はぁ……はぁ……はぁっ、はふぁっ、あぁ…………」
 媚薬による必要以上の興奮を与えられ、嫌でも快感に襲われる状態だ。肉棒からの快楽は言うまでもなく、密着したまま上下することで、体と体が擦れ合っての、乳首に走る摩擦によってでさえも、快感は走っていた。
「楽しんでるねぇ?」
「はははっ、楽しそうに腰を振っちゃって!」
 周りの声が、旭姫の上下運動を楽しむ姿と認定してくる。
「だから楽しくないってば!」
 必死に叫んだ。
 そんな風に言いながらも、やらないことには終わりなどないと思って、どこにあるかもわからない地獄の出口を求める思いで、旭姫はそれでも腰を動かしている。胡座をかいた肥満中年の脚の上で、上下の動きで尻を持ち上げ、その隙間を覗き込めば愛液濡れの肉棒が見えてくる。
 持ち上げた身体を脱力させ、落下に合わせて沈むことで、背骨から脳天にかけての快楽電流が流れてくる。
「楽しいねぇ? 楽しいねぇ?」
「もっと激しく動いていいんだよ?」
 旭姫は必死に首を振る。
 違う違うと、必死に叫びたい思いで振りながら、それでも上下運動を続けなくてはいけなかった。
 そして、その時だった。
 肥満中年はおもむろに旭姫の後ろ髪を掴む。髪を引っ張り乱暴に上を向かせて、そんな上向きになった旭姫の顔に視線を重ねる。ニヤニヤと楽しげに見つめた挙げ句、その頬を両手で包み込んだ。
 手と手のあいだに挟み込む力には闘気が宿り、だから旭姫は振りほどけない。顔の角度を強制的に固定さえ、上下左右のどこにも向きを変えることができなくなっていた。

「……っ!?」

 次の瞬間、旭姫は驚愕と嫌悪を同時に浮かべた。
 目玉が飛び出そうなほどに大きく見開いたかと思いきや、その直後には全力で目を閉じていた。まぶたの筋力が許す限り、力いっぱいに目を閉じて、必死になって肥満中年の顔を視界から追い出していた。
 キスをしてきたのだ。
 いくら性知識に欠けていた旭姫でも、キスを知らないわけがない。好きな人とするはずだった初めてのキスは、こんな形でこんなにも醜い中年に奪われて、首から上が消し飛ぶほどの強いショックを受けていた。
「じゅるぅ! じゅむぅ!」
 唾液の音まで立てながら、肥満中年は旭姫の唇を激しく貪る。
 そんなキスに対する旭姫の表情は、頬も額も何もかも、顔の筋肉の限り全て強張り、極限まで嫌悪を浮かべた壮絶なものとなっていた。

 ドクゥゥ――ドクッ、ドクゥゥゥ…………!

 精液が放出され、生温かい白濁の感触が膣内に広がっていく。
 自分の腹の内側が汚液に満たされ、唇までも穢されている汚辱に涙を流す。
「気持ち良かったね? 旭姫ちゃん」
 唇が離れた時、その満足そうな声色から、肥満中年がいかに満面の笑みを浮かべているかが見るまでもなく伝わって来た。

     *

 それから、代わる代わるの性交は続いていた。
 それぞれの望む体位に合わせ、必要さえあれば拘束具は一度外して付け直し、もうポーズを変えた回数さえもわからない。
 騎乗位をさせられていた。
「あっ、んぅ! んぅ! んぅぅ!」
 旭姫自身が上下に動き、寝そべった中年に快感を与えている。
 この男が何人目かもわかりはせず、それでもいつかは必ず終わるはずだと思って、旭姫は地獄の出口を目指している。
「すっごくエッチだよ?」
「うんうん! 色っぽくて可愛いねぇ!」
「旭姫ちゃんにはスケベの素質があるみたいだ!」
 周囲からの声に苛まれた。
 身体を上下に振りたくり、そして刺激に喘いでいることで、そんな旭姫の姿が中年達を楽しませている。乳房がプルプルと振動を帯び、快感のために浮かんだ悩ましげな表情が男達の興奮を煽っている。
 逆に旭姫は必死になって首を振り、一生懸命になって周囲からの言葉を振り払う。
 エッチじゃない、スケベの素質なんてない――中年達の言葉を全て拒絶し、受け入れまいと首を横に振るあまり、髪が激しく揺さぶられていた。
「あっ、あぁぁ……!」
 だが、旭姫はイった。
 肉棒の出入りによって予兆が膨らみ、ついには弾けるように背骨の中を稲妻がせり上がり、脳天さえも貫いていた。快楽の電流に体中を震わされ、首まで仰け反り天井を向きながら、旭姫はイキ果てていた。
 現実の肉体なら、何度も絶頂していることで、きっと体力を消耗する。愛液の放出は水分不足にも繋がるが、ゲーム上の肉体には関係無い。設定上のスタミナもHPにも変化はなく、体液の流出も厳密にはグラフィックによる再現である。
 実際の肉体には何の負荷もなく、だから時間の許す限り何度でも続けることができてしまう。
 この騎乗位セックスが終了しても、まだ次の中年が残っていた。
 その中年の相手が終わっても、さらに次の中年が、またさらに次の中年が待っている。苦しい時間に限って長く感じられるものであり、実際の人数は十人前後に過ぎないが、旭姫はもう何十人もの相手を続けたかのように思っていた。
 回数でいえば、いずれ本当に数十回にも達するだろう。
 中年達は二周目を開始しており、最初に一人目として挿入を果たした中年が、二回目のセックスを楽しみ始める。二人目が、三人目が、一度目とは違う体位で楽しみ始める。
 終わりの見えない行為を続けるうちに、旭姫はふと尿意を感じていた。

(え……なんで、オシッコなんて…………)

 ユニオン時代、トイレに行ったことは一度もない。
 この仮想現実において、トイレという生理現象など再現されていないはずであり、だから排泄設備も存在しない。
 だが、もしも違法改造を行う技術があったとしたら、その違法パッチを当てることで本来なら存在しない生理現象を再現できるとしたら、ありえないはずの尿意もありえてしまう。
 もっとも、焦りに焦る旭姫である。
 違法改造などという考えに思い至っているわけではなく、そんなことより戸惑いの方が強かった。六年も眠り続けていたうちに、レユニオンにはそういう生理現象が実装されたのか。だけどそんな話は一度も聞いていない、陽翔や咲月も何も言っていなかったはずだと、ただただ焦る気持ちばかりが膨らんでいく。
 徐々に強まる尿意の前に、旭姫はたまらず喚き始めた。
「と、トイレ! トイレ行かせて!」
 次のセックスが始まる直前に、旭姫は慌てふためく顔で言う。
「……なんか急に……とにかく行かせて!」
 旭姫がそう叫んだ瞬間である。
 全員が全員とも、ほくそ笑んだ。
 にやりと、思い通りに事が運んで嬉しいように、それぞれが口角を釣り上げていた。
「あれぇ? あったかなぁ? 尿意なんて」
「そうだよねぇ? レユニオンにトイレなんてなかったはずだよぉ?」
「そうそう。この世界ではオシッコなんて出ないから、気のせいじゃないかなぁ?」
 いかにも、わざとらしかった。
 その尿意が真実であることをわかっていて、あえて知らないフリをしているわざとらしさを露骨に醸し出していた。
「うそ! 絶対っ、絶対……!」
「ねえ、本当にオシッコが出るっていうなら、今ここで出してみてよ!」
「なんで!? できるわけないじゃん!」
「じゃあ嘘つきだ」
「ちがうってば! 本当に出そうなの!」
 旭姫は必死だ。
 信じてもらえなければ危機に陥る状況で、こうしているあいだにも尿意は高まり続けている。タイムリミットは刻一刻と迫っており、それなのに信じようとしてくれない。いいや、わざとらしい態度を取っている。そんな中年達に対する憤りで、旭姫らしからぬ形相さえも浮かび始めていた。
 陽翔や咲月は言うまでもなく、他の仲間達にしても、今の旭姫の顔を見たら驚くだろう。
 こんなにも激しい表情を浮かべるのかと……中年の群れに囲まれながら、今にもオシッコが漏れそうな状況なのだ。まして思春期の少女である。ここまで犯され続けた上、放尿までしかねないなど、まるで生命の危機であるかのような焦りを抱いていた。
「ま、でもそんなに言うなら、何かトイレっぽいものを用意してあげるよ」
 群れの中の一人が言う。
「本当?」
 さしもの旭姫も期待を抱く。
 だが、その中年がシステムウィンドウを展開して、メニュー操作で出現させたアイテムは、確かに用足しに使えそうではあっても、旭姫を絶句させるものだった。
 いいや、どこか場所を変え、人目に隠れてしてもいいというのなら、何もないよりは良かっただろう。

 ――ツボだった。

 この室内にツボを置き、それでトイレを用意した気になっている。
「なにそれ……」
 何もツボが嫌だという話だけには留まらない。
 仮にれっきとした水洗トイレを用意して、きちんとした設備に用を足せるとしても、その設置場所がここなのだ。あくまで人前、中年達の見ている前でしなくてはいけない状況には変わらない。
 そうじゃない、そういうことじゃない。
 だったら、木陰に隠れて草むらでした方がいいと本気で思った。肝心のプライバシーが確保されずに、放尿という普通は人に見せない行為を見せるなど、旭姫は完全に戦慄しきっていた。
 尿意は強まる一方のまま、もう時間は残っていない。
 きっと、今から場所を移動して、草むらにする時間すらありはしない。
 秒刻みで膨らむ尿意に、このままでは目の前のツボですることすらできない。そうなれば、床やベッドを汚しながら放尿するか、せめてツボに収めるか、そのどちらかしか選びようがなくなっていた。
 決壊まであと何秒か、もはや旭姫本人にもわからない。
 ただ、限界は近かった。

 そして……

 …………
 ……

 ジョロロロロロロロ………………。

 それは尿の放出がツボの底を打ち鳴らす水音だった。
 陶器の内側に注がれて、聞こえる水音は内部で反響を繰り返す。音は低まり、どこか呻き声にも似た尿の音は、まだ放出が始まったばかりで途切れようとする気配がない。

 旭姫は中年に抱えられていた。

 膝を後ろから持ち上げて、赤ん坊を抱っこしているかのような形で、力ずくでも脚をM字にさせられている。アソコから尿の出て来る瞬間を視姦され、旭姫はこれ以上ない羞恥と屈辱を味わっていた。
「おー?」
「出てるねぇ?」
「よっぽど我慢してたんだねぇ?」
「ツボが満タンになっちゃうんじゃない?」
 中年の顔という顔が群がって、ツボの中へと続くアーチをこぞって視姦する。その尿は香りさえも漂わせ、それに気づいた中年達はあからさまに鼻をヒクヒクさせ始め、匂いを嗅いでいるアピールまで始めていた。
「幼稚園児みたいだね?」
「そうそう」
「こんなトイレの世話なんてしてもらっちゃって」
 その一つ一つの言葉が旭姫の胸を深々と抉り抜く。

 ジョロロロロロロロ………………。

 途切れることのない、旭姫自身にもいつまで続くのかがわからない放尿は、これ以上なく残酷だった。首から上が焼失するかのような羞恥に見舞われ、歪みに歪んだ表情をいつしか旭姫は両手に覆い隠していた。

 ジョロロロロロロロ………………。

 まだ、尿は途切れない。
 いずれは途切れるはずであっても、その終わりはまだ見えない。

 ジョロロロロロロロ………………。

 そして、たとえ途切れても、旭姫の地獄は終わらない。
 彼らはまだ、セックスを続けるつもりでいる。

 ジョロ………………。

 やっと、途切れた。
 そんな放尿の終わったばかりのワレメへと、次の順番を待っていた中年が挿入を試みる。後ろから抱え上げての開脚に向け、中年は自らの股を迫らせ挿入した。
「んぅぅぅ……!」
 セックスは終わらない。
 地獄はまだ、終わらない。



 
 
 

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