ひとしきりの挨拶が済むと、社交ダンスの時間になる。
まずはウェインとペアを組み、ダンスのための足踏みを行うが、本来ならば上等なドレスを纏ってすることだ。
(嫌だ…………)
自分だけが惨めな格好であることが、ダンスによっても際立つ気がした。
周りはまともな格好で踊っており、ゼノヴィアだけが裸同然だ。マイクロビキニなんかで社交会場に姿を現し、さも貴族の一員であるように振る舞うことで、今の自分の滑稽さが浮き彫りになっている。
周りの女性はみんなきちんとドレスを着ている。
だから、腰に手を触れるのも服の上から、しかしゼノヴィアはビキニであり、ウェインの手が肌に直接触れてくる。
「やっぱり、大きいものだな。こうして接近していると、こちらの体に当たってきそうだ」
ウェインは胸をまじまじ見て、わざとらしく言ってくる。
「そのような……あまり恥ずかしいことを祝えると……困ります……」
困るのはもちろんだが、踊っている最中に気づいてしまった。
ウェインと視線を合わせていられないから、ゼノヴィアは顔を逸らし、いたるところに目をやっていたのだが、おかげで目撃してしまったのだ。
ブラフォードが仲間に絵を見せ、自慢げに語っている。
ジェロームやヴィンスも、自分の知り合いに絵を見せて回っている。
他にも、絵を所持している貴族が嬉しそうにニヤニヤとそれを眺めている。
自分の裸が広まっている光景を知ってしまい、脳が羞恥の熱でみるみるうちに温度を上げる。また頭がどうにかなりそうだ。
それに、マイクロビキニが絶妙に擦れてくる。
すりっ、すりっ、と。
ダンスの動きで摩擦が加わり、乳首に甘い痺れが走り続ける。クリトリスもじわじわと痺れ続けている。乳首の尖り具合が気になって、アソコの状態も切実に気にかかる。とても落ち着いてはいられず、全身がそわそわしていた。
(媚薬、効いてるっぽいな)
こっそりと塗り込んだものについては、ウェインや貴族三人組しか知らない。
媚薬のせいだと知らずに快楽を感じ、振り回されるゼノヴィアの気持ちは、一体どんなものであろうか。
(やだ……どうして私は…………)
(罪悪感のありそうな顔だな。感じちゃってる自分を気にしてるわけか)
ウェインは内心でほくそ笑む。
一方のゼノヴィアはどんどん心が下向きに、自分は本当に変態ではないかと悩み始める。好きでこんなことをしているわけではない。強要されてのことのはずなのに、それでも体が悦んでしまうのは、自分が実は変態だったか、そうでなくとも途中で性癖が芽生えてしまったか、そのどちらかに思えてくる。
(ちがうっ、ちがう……はず……私はそんなんじゃ…………)
ゼノヴィアは強く自分に言い聞かせ、自分は変態ではないと、必死に思い込もうとする。
だが、下手に思い込もうとすればするほど、こんなにも必死になること自体、かえって変態である証拠ではないかと、逆にそう思えてしまうのだ。
ダンスの相手が入れ替わる。
次はブラフォードと踊ることになり、あからさまに見下してくる視線から、ゼノヴィアは反射的に目を背けた。
「乳首が悦んでいるようだ」
「……っ!」
ゼノヴィアは引き攣る。
「アソコも濡れているのではないか?」
聞かれて、ドキリとしてしまう。
「……ま、まさか。決してそのような」
怖くて確認はしていない。
しかし、確かに濡れていそうな予感はあり、自信を持って否定できない。
しばらく踊れば、また相手が入れ替わり、今度はジェロームとペアを組む。
「あの絵は大切にさせてもらうよ」
ダンスを始めた瞬間に、ジェロームは囁いてきた。
「……できれば捨てて欲しいですが」
「はははっ、マーデン候の美しい姿が描かれているのだ。今でこそ存在は秘匿しなくてはならないが、せっかくの芸術だぞ? 百年、二百年先を見据えた未来には、きちんと残されていくようにせねばな」
「や、やめてください……」
ゼノヴィアは戦慄していた。
大切に保管しておくことで、契約など関係無い遥か未来で、作品が歴史に残るように計らうという宣言は、ゼノヴィアの胸をきつく締め上げていた。
(いや……いやよっ、そんなの……!)
だが、絵を持っているのは貴族三人組だけではない。
他の貴族の手にも渡って、こうしているあいだにもどこかで誰かがゼノヴィアの裸を鑑賞している。いいや、これからずっと、ゼノヴィアは男の鑑賞物となり続ける。
一週間後も、数ヶ月後も、彼らは好きなタイミングでゼノヴィアの裸を見る。
ゼノヴィアが歳を取り、いつか老人になったとしても、若い頃の絵は残り続けて、ひょっとすれば次の世代、また次の世代の若者へと引き継がれ、しまいには歴史に残るかもしれない。どこまで先の未来に引き継がれていくかなど、もはや想像すらしたくはない。
「いやぁぁ! 思い出すなぁ? 昨日の放尿といい、あの芸術といい」
ヴィンスとのダンスでも、踊っている間中、延々と恥辱を煽る言葉を聞かされ続けた。
「そのTバックの尻、注目を集めているぞ? ほら、後ろで踊っている奴も、あそこで食事をしている奴も、誰もがマーデン候の美尻に注目している。おっと、ここからは尖った乳首がよく見えるなぁ?」
いかに周りに視姦され、ヴィンス自身も乳房を見て楽しんでいるか。
そんなことを聞かされ続け、その言葉の数々にゼノヴィアは苦悶した。
「君、濡れてるでしょ」
名も知らぬ若者とのダンスでは、開口一番、アソコの具合を指摘された。
「そんなことは…………」
「そんなことあるよね。遠くからでもわかるくらい、だいぶぐっしょりになってきてるよ? まさか、それだけ濡れて自分で気づかないなんてことないよね?」
「………………」
ゼノヴィアは何の言葉も返すことが出来ず、ただただ耳まで真っ赤になって、俯いたり余所に視線を泳がせることしかできなかった。
媚薬を塗られ、それが今になって効果を発揮していることなど、ゼノヴィア自身は知りもしない。昨日の媚薬は寝ているあいだに塗られている。今朝の馬車で何かを塗られたことはわかっているが、ゼノヴィアは単に滑りを良くするローションか何かのように思っており、あれが媚薬だったと気づいていない。
ならば、自分自身の素質で濡れてしまっているのだと、そう思ってしまうのが自然な流れというわけだった。
「マーデン侯爵のお尻、ずーっと拝見していました」
「やらしーねー。そんなにマーデン領が大事?」
「ねえ、僕に抱かれてみない? 領主の僕といい関係になれば、マーデンも色々と特をすると思うんだけど」
ダンスの相手を交代するたび、必ずといっていいほど体について何かを言ったり、蔑んだり、果ては体を買おうとする交渉まで持ちかけられた。
散々だった。
本当に、本当に散々な時間を過ごし……。
「ゼノヴィア候、飲み物でもどうか」
ウェインから手渡されたグラスの中に、利尿剤が盛られていることなど気づきもせず、ゼノヴィアは飲んでしまう。
すぐに効果は現れ始めて、ゼノヴィアは尿意と戦い始めるのだった。
◆◇◆
ゼノヴィアは危機感を抱いていた。
(まずい…………)
アソコに感じる切実なものは間違いなく尿意である。
ひとしきりのダンスを終え、食事を並べたテーブルの前に立ったゼノヴィアは、そこでウェインから飲み物を受け取って、それからの尿意である。
ウェインと貴族三人組は、また別の貴族達を前にして歓談している。
そして、その視線はチラチラとゼノヴィアを向いてくるのだ。
本当なら、ゼノヴィアも会話に参加して、友好関係の構築に取りかかるべきなのだろう。
ただでさえ、こんな格好をしている中で、しかもトイレに行きたくてたまらない状態では、談笑どころか他のどんな事柄にも集中できない。
内股気味に、ゼノヴィアはしきりに太ももを擦り合わせていた。
本当は両手で押さえ、ぐっと力を込めて我慢したい。
手で隠すことは禁止されており、ウェインの近くではそれすらもやりにくく、ゼノヴィアはひたすら下腹部を力ませていた。腰をくの字気味にして、悩ましい顔で尿意を抑えるが、まるで引っ込む気配がない。
(昨日は出せって言われても出なかったのに……)
泣きたくなった。
強要されている最中にはなかなか出て来なかったものが、我慢しようという時にはすぐにでも出そうになっている。
「ん? どうしたゼノヴィア」
ウェインが尋ねてくる。
「で、殿下っ、申し訳ありません。少々トイレに……」
「トイレか。しかし、少々待て。彼がゼノヴィア候と踊ってみたいそうだ」
ただのダンスの申し込みが、今のゼノヴィアには絶望をもたらした。
やけにニヤニヤした男が目の前に現れて、いやらしい心を隠しもせず、ゼノヴィアの豊満な胸やアソコに視線を送る。
視姦される不快感もさることながら、しかしそれ以上にトイレに行きたい。
「お待ちください! 踊るのは構いません! しかし、先にトイレに……」
「踊った後でも大丈夫だろう?」
その若者は聞く耳を持とうとしない。
「いえ、その。実は危ういところでして……」
「おや? そんな嘘までついて、僕と踊るのが嫌なのかい?」
若者はわざとらしくそんなことを言ってくる。
「嫌などとは! 私は本当にその……我慢の限界が近づいていて……」
「これは傷つく。そうまでして私とのダンスを拒むとは、マーデン候はここに我々の気持ちを晴らしに来たと聞いているが、どうやらあなたにその気はなかったようだ」
「ですから! ダンスの相手は喜んでさせて頂きます! ただ順番というものを……」
ゼノヴィアは必死だった。
人前での放尿など、二度としたくはなかった。
尿意が強まれば強まるほど、尿瓶の中に放尿した昨日の出来事が蘇り、その時の感情さえもが湧き出てくる。もしこんなところで放尿したら、仮にも強要されて放尿した昨日に比べ、さらに大きな屈辱を味わうことになるだろう。
利尿剤には気づいていないゼノヴィアである。
本人にとって、これは純粋な尿意であり、だからここで放尿をしてしまうのは、まさに正真正銘のお漏らしに他ならない。
(漏らしてもらうよ? ゼノヴィア・マーデン)
目の前に立つ若者の心はそれだった。
(トイレに行くのは悪手、ここで漏らすのが最善手なんですよねー。ゼノヴィアさーん)
ウェインもゲスなことを考えていた。
つまり、ゼノヴィア自身は純粋なお漏らしを回避しようとしている中で、周りの人間は利尿剤に追い詰められる姿を楽しんでいた。
(このまま押し問答をしていたら、それだけで時間がかかって、結局はお漏らしすることになるかも……だったら、このままダンスをしてからトイレに行く方が……)
ゼノヴィアのトイレを認めようとせず、トイレに行きたい主張をすればするほど、マーデン領主としての務めでここに着たのではないか、自分と踊るのは嫌なのかと煽ってくる。そんな厄介な相手とまともに話し合っていたら、どれほど時間がかかるかもわからない。
「……わかりました。では先にダンスを」
ウェインが助けてくれれば、まだどうにかなったはずだと、ゼノヴィアは恨めしい視線を送る。
(知りませええん! 俺知りませええん!)
ウェインは最低だった。
かくして、ゼノヴィアは相手の若者に手を取らせ、またしてもダンスを始めるわけだったが、尿意の限界が近い余りに、ワレメからは滴が滲み出ている状態だ。内股気味に力んだ太ももが震えており、後ろから見ればお尻もどこかプルプルしている。
こんな状態のゼノヴィアだ。
先ほどまでは、格好にさえ目を瞑れば、動きそのものは真っ当にダンスをこなしていた。
それが今、動きでさえもぎこちなく、たどたどしく、生まれたての子鹿のように頼りない足取りとなっている。
「おや? もっとしっかり踊ったらどうかな?」
相手はわざとゼノヴィアを困らせている。
「やって……ますから…………んっ…………」
まずい。
ほんの少しばかり出てしまい、もしかしたら白い布地に黄ばみが出来たかもしれないと、ゼノヴィアは恐れ始める。
愛液で濡れていたアソコの布は、実際に水気を増やしていた。
薄らとしか濡れていなかったところに、より多くの水が加わり、微妙ながらに色は黄色に近づいている。
(このままじゃ……本当にこのままじゃ…………!)
ゼノヴィアは焦燥を膨らませた。
(やっ、あぁ……び、ビキニが擦れるのも……厄介…………)
本当に絶妙に緩いのだ。
脱げそうなわけではない、きつすぎるわけでもない。動けば布が揺れ動き、上手い具合に摩擦を起こす。ザラついた表面が生み出す刺激が快楽に繋がって、乳首もアソコも疼いてしまうのは、尿意と戦う今のゼノヴィアには、尚更のこと厄介なものだった。
足取りがどんどんぎこちなくなっていく。
ステップがカクカクとして、相手のダンスに対してゼノヴィアの動きは明らかに遅れている。
「お願いします……そろそろトイレに…………」
ゼノヴィアは懇願した。
「おや? マーデンのために踊っているんじゃないのかい?」
「それは…………」
「ここにいる人間の機嫌を一人でも多く良くするのが、今のあなたの勤めのはず。それなのにダンスを途中で投げ出されたら、僕としては傷つくなぁ?」
「後ほど改めて! 私はただ、本当にトイレに行きたいだけですから!」
ゼノヴィアも必死である。
「そんなに僕が嫌?」
「そういうことは言っていません! 何度も言っているではありませんか! 切実で危ういのです! ここで失態を犯しては、あなたにも他の皆様にも見苦しいところをお見せしてしまいます!」
「とかなんとかいって、ダンスとから逃げ出す口実だ」
「だから本当に……! どうしてわかってくれないんですか!」
わかる気などないのだ。
ゼノヴィアが焦れば焦るほど、相手はそれを見て楽しんで、口角を釣り上げている。周りで見ている人間すら、追い詰められるゼノヴィアの様子から、来たるべき瞬間を今か今かと待ち侘びている。
「あっ、うぅぅぅ………………!」
その瞬間、ゼノヴィアは心の底から戦慄した。
まるで大惨事を起こしかけたかのような恐怖で心を冷やした理由は、この状況ではもちろん一つしかない。
オシッコが漏れかけたのだ。
いいや、正確には少しばかりだがもう漏れた。
その少しだけの量であっても、布から染み出たものが内股を伝って一滴だけ、一本の筋を描いて流れていき、もはやゼノヴィアは総毛立っている。
顔中が強張っていた。
「お願いします! もう……もう……!」
さらに滲み出て、布が黄ばみを増した上、もう一筋の滴が内股を流れていく。
「ダメダメ、もう少しだから」
「そんな………………」
絶望を突きつけられ、どうか漏れませんようにと、神にも祈る気持ちで踊り続ける。さらにカクカクと、ぎこちないステップを踏むようになり、内股を伝って流れる滴が、またしても表皮に筋を残していった。
……チョロッ、
出てしまい、ゼノヴィアはビクっとなって足を止めた。
「どうしたのかな? マーデン候」
「もう…………もう……………………!」
とうとう限界を迎えた。
最後の足掻きで、これ以上ないまでに内股に力を込め、腹筋を極限まで固くして堪えようとするものの、無情なまでの決壊で小便は放出された。
ジョロロロロロロロロロォォォォォ………………!
大勢の前だった。
ワレメの中から出て来る尿は、もうとっくに布が吸収しきることはできなくなり、外側に溢れ出すしかなくなっていた。一度出て来てしまった尿は、簡単には止まることなく、容赦なく内股の皮膚の表面を流れていく。
「お、おい!」
「まさかオシッコを漏らしているのか!?」
たちまち注目が集まっていた。
「見ないで! 見ないでください!」
ゼノヴィアは喚く。
しかし、それがかえって注目を集めることとなり、ぎょっとした顔が次から次へとゼノヴィアに視線をやる。
「やだぁ! なにあれ!」
「元王女も堕ちたものだな」
「恭順した上、ナトラで小便を垂れ流すか」
「血の尊さを穢したな。これは」
ゼノヴィアを蔑む声が四方八方から飛んで来る。
「や……やぁ……やぁぁ…………!」
黄色い水が股から床に向かって真っ直ぐに、そして周囲に飛沫を広げている。床で弾けた滴を散らし、水溜まりが面積を広げていく。
股布は完全に黄ばんでいた。
もう愛液で濡れたというより、完全にお漏らしで濡れていた。
「嘘だろ…………」
「ねえ、ありえる? こんなところで」
絶句して、引いている者もいる。
ジョロロロロロロロロオォォォォォォ………………!
それでも、簡単には止まってくれない。
足下に出来上がった水溜まりに、なおも尿は注がれ続け、水面を叩くビチャビチャとした水音と共に、飛沫が跳ね続けていた。
「あ……あ……あぁ……あぁぁ………………」
二度と取り返しがつかないことをしてしまった絶望に、ゼノヴィアはみるみるうちに染まっていく。
「マジかー! 見逃した!」
「あーもう! 二度と見る機会ないだろ!」
心ない声が聞こえてくる。
「俺がばっちり見ておいたぜ?」
「どんな様子だったか、きっちり教えてやるよ」
などという声も聞こえてくる。
ウェインの視線が、貴族三人組の視線が、さらには家臣の視線もあった。
配下にさえ見られたショックは強かった。一度見られただけでも相当の辛さである。尿瓶に放尿した記憶は、彼らの頭の中に永遠に刻まれ続けるのかと、暗い思いを抱いたものだが、それに重ねて今回のお漏らしだ。
命令され、やらされた結果の放尿ではない。
本当にゼノヴィアの失態。
赤ん坊か、はたまたはそれ相応の幼い年頃で卒業するような、こんな失態を大勢の人前で犯したなど、絶望以外に何があるのか。
今後、どんな顔でウェインや他のナトラの貴族に会えばいいのかがわからない。
家臣達の前でどんな顔をすればいいのか、本当にわからない。
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