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「嘘さえ言わなければ、騙してことにはならないと。さすがウェインですね」
「いやいや、そういう駆け引きと胆力いるじゃん。嘘は言っていないが? って押し通すとか、そういう力技ってたまには使うじゃん」
「今ここで使うとは思いませんでしたけどね!」
 ロウェルミナが文句たらたらなのも仕方がない。
 フィッシュも似たような顔をしているのも、致し方のないことである。

     ◆◇◆

 ウェインは確かに使用人を呼び出して、二人に着せる衣類を持って来させたわけなのだが、男の使用人を招き入れ瞬間の、ぎょっとした反応といったらない。
 まず、扉の外に控える使用人に声をかけ、命令をしたわけだ。
 使用人は早速走り、ウェインの注文通りの衣服を持って来る。「持って参りました」と扉の向こうから伝えてくるので、「入るがよい」と言うわけだ。
(なぁーに言ってるんですか!?)
(男よね!? 人目を増やす気なの!?)
 ウェインの言葉を聞くなり、二人してぎょっと目を丸めていた。天井に向けていた顔を勢いよく、髪を振り乱しながら即座にウェインに向けた上、表情を使って必死な訴えかけをしてきたのだ。
「わざわざ中に入れなくても、ウェインが外で受け取ってくればいいでしょう!?」
 とまあ、そう言いたいのだろう表情を思いっきりぶつけられたが、ウェインがそれに対して浮かべた顔は、「はぁ? 何言ってるか全っ然わかりませんけど?」といったものだった。
 そのまま使用人は入って来る。
 そう、美女が二人で全裸の中へ入ってくる。
 まずは使用人の視点を想像して欲しい。
 扉を開けて部屋へと入り、その瞬間に目に飛び込むのは、フィッシュとロウェルミナの後ろ姿だ。驚きで目を見開くのは当然のこと、丸出しの尻あたりに目を吸い寄せられ、思わず見てしまうに違いない。
「え!? はい? ま、またですか!? というか、このお二人って……!」
 こうして、動揺しきった使用人を背にした二人の様子は面白いことこの上ない。
(落ち着きのなさ! すっげぇ面白いことになってるからな!?)
 顔が挙動不審だ。
 後ろからとはいえ、使用人に裸を見られ、ショックに瞳を震わせたまま、顔まで上下左右に落ち着きなく、小さく動かし続けている。手が無駄に開閉して、グーになったりパーになったりを繰り返し、肩の動きもそわそわする。
 落ち着かない気持ちが体中に現れて、それが不審な挙動として反映されているのだ。
「気にするな。こっちへ来い」
「は、はい」
 使用人はウェインの座るテーブルの前までやって来て、ひとまずは盆に乗せた衣類をウェインの前に置いてくる。
「言われました通り、二人分を用意しました」
「うむ、ご苦労……ところで、二枚分のショーツがあるな?」
 ウェインは二人の様子を観察しながら、テーブルに畳まれている二人分の衣服を指す。脱ぐたびに重ねて置いていた一番上は、言うまでもなく下着である。
「はい。こちらはやはり……」
「二人のものだ」
 ロウェルミナが、フィッシュが、頬をピクっと反応させる。
 二人の視線が思いっきり使用人の背中に刺さっていることに、果たして使用人自身は気づいているのかいないのか。
「さて、少し聞きたい。いいや、大したことではないので、できれば気楽に答えて欲しいんだが、どっちの下着が好みだ?」
 二人の顔が見るからに強張っている。
 使用人も後ろを気にしている様子だ。
「どちら、と言われましても……」
「あえてでいい。一方が好みを突き、一方はそそらない、という風に必ずしもいくものではないからな」
 別に好みがはっきりしないから答えが出ない、などという困り方をしているわけではない。それはわかっているが、ウェインはあえてそれで押し通す。どっちでもいいから、とにかく答えてみろというわけだ。
「では、こちらの黒の方で」
(ううううぅぅぅぅ…………)
 ロウェルミナが反応している。
「黒の上に白いレースを縫い付けたデザイン、とても豪奢で素晴らしいと思います」
(あうぅぅぅぅぅ……)
 ロウェルミナがかなり反応している。
「振り向いてみろ」
「よろしいのでしょうか」
「以前も、見ただろう?」
 ウェインが言うのは、「前もニニムの裸を見ただろう」というもので、だから今回も気にせず拝めと、ある意味では強要している。
 使用人は恐る恐る振り向いて、二人の裸をその目に拝む。
 自分が好みだと言った下着がロウェルミナのものだとは、使用人自身は知りもしない。しかし、フィッシュよりも頬が強張り、フィッシュよりも落ち着きのない様子で、もしかしたら判断がついているかもしれない。
「十分見たな」
「は、はい」
「どちらのショーツだと思う?」
 ロウェルミナの頭がピクッと弾み、頬も震える反応が窺えた。
「皇女殿下でしょうか」
 使用人の答えを聞いた途端、ロウェルミナは天井を仰ぎ見る。恥じらいのあまり、前を向けずに顔をどこかにやりたくての反応だった。
「大正解だ。出ていいぞ?」
「わかりました! それでは失礼致します!」
 使用人は慌ただしく出て行って、話は先ほどに戻るわけである。

     ◆◇◆

「羞恥プレイというからには、ただの服じゃいのかなーとか。そりゃ、ちょっとくらい想像はしましたけど、よりにもよって、ほぼ紐じゃないですか!」
「マイクロビキニっていうんだ」
「名前なんてどうでもいいんですよ! 意図はわかりましたよ? 恥ずかしい服装をさせたいのはよーくわかりました! ですが、短いスカートとか、薄くて透けやすいシャツとか。これよりもマシなアイディアが他にいくらでもあるんじゃないですか?」
「うーん。ない!」
 迷う素振りだけは見せながら即答した。
「殿下……こんなものでも、なにもないよりは…………」
 フィッシュは諦めた顔で着用を開始する。
「……本当にそうかしら。ええ、そうね」
 ロウェルミナもビキニを着た。
(変態っぽくて、裸より恥ずかしい気が…………)
 乳首やアソコは隠れるかもしれないが、わずかにしかない白い布は、最低限の面積しか持っていない。
(肝心な部分だけでも……)
 フィッシュはそういう思いであったが、着用を済ませてもなお、顔の赤らみは引いていない。
 結局、全裸同然に恥ずかしいのだ。
 乳首だけを隠す三角形には、その乳首の形が浮き出ている。アソコにあたる布の形も、細長い二等辺三角形だ。フィッシュも、ロウェルミナも、毛が少しばかりはみ出てしまってみっともない。
 後ろから見れば、もちろん尻は丸出しだ。
 紐が尻の割れ目に食い込んで、尻たぶが少しも隠れはしないのだ。
(は、裸の方がマシ? いえ、でも、一応乳首とかは隠れて――でも、変態っぽいし……)
 ロウェルミナは今の格好について本気で迷う。
 人から見れば、いかにも変態チックな格好をした痴女に見えかねず、かといって全裸ならアソコも乳首も出てしまう。いっそ単なる裸の方がマシなのか、けれど隠せるものなら隠しておきたい。
(ま、マシなはず……きっと、そう…………)
 隣のロウェルミナを見ることで、フィッシュも同じ迷いを抱えていた。
 お互い、隣同士がお手本になるおかげで、自分の格好を客観視しやすいのだ。
(私、こんな格好……)
(私、こんな格好……)
 という風に、お互いがお互いの格好を見て、それから自分の格好を思い赤くなるのも、なるほど仕方のないことだ。
「では外に出て頂こうか」
「はぇっ!?」
 ロウェルミナが絶句していた。
「いやいや、裸になるだけじゃ済まないって言っただろう」
「言いましたけど、外!? はいぃ!?」
「大丈夫大丈夫、城の連中はみんなマジで口が固いから、皇女の裸を見たなんて吹聴するわけがないし、したら問題になるってわかってるから」
「そういう問題じゃなくてですよ? 人前に出るんですか!?」
「出てもらう」
「……マジですか?」
 ロウェルミナは完全に引き攣っていた。
「マジだ」
「マジ?」
「マジ」
 ウェインの言葉にロウェルミナが引くのはもちろんのこと、フィッシュに至っては赤面を忘れて青ざめている。
「ウェイン殿下……それはさすがに…………」
「何を言っている? 言ったろう、城の者は口が固い。なに、皇女殿下が服を脱いだなど、公式には存在しない出来事として扱うことは簡単だ。ロウェルミナだって、仮によからぬ噂を立てる者がいたとしても、それくらい処理できるだろう?」
「それはまあ……そうかもしれませんが……」
「さあ、そうと決まれば出発だ。舞台へ移動するぞ」
 ウェインがそう告げた瞬間だ。
「舞台…………」
「舞台って…………」
 二人して戦慄していた。

     ◆◇◆

 廊下に出たウェインが振り向くと、二人が緊張しきった面持ちで外を窺っていた。
「だだだだだだ大丈夫ですよねぇ!?」
 まず、ロウェルミナがドアの中から顔だけを廊下に出し、必死になって左右の様子を窺っている。一人でも通行人がいたら引っ込む勢いだ。
「今のところは平気のようですが…………」
 ロウェルミナの上にフィッシュが重なり、二人分の顔だけが廊下に出ていた。
「どうせ通行人とはすれ違うことになるぞ」
「…………」
「…………」
 告げるが否や、二人して沈黙する。
「あのー。本当に廊下に出るのですか?」
 ロウェルミナはこの期に及んでも確認を繰り返してきた。
「そうだ。早く出て来いって」
「いやぁ…………」
「早く早くー。それとも、盗賊の件で皇帝を目指す足を引っ張ってもいいのかな? あ、いいんだねぇぇ?」
 ゲスな顔でウェインは言った。
「……出なきゃ、駄目ですか?」
 ロウェルミナは懇願の顔をする。
「駄目」
 ウェインはきっぱりだ。
「そ、そうですねっ。わかりました。出ますよ。出ようじゃないですか」
 ロウェルミナは改めて左右を確認して、まだ誰も通行人がいないことを確かめてから、恐る恐るドアの外に姿を現す。
 腕でぎゅっと、強く抱き締めるように乳房を隠し、左手ではぴったりとアソコを覆っている。肩が内側に丸まって、視線も俯きがちになり、全身に緊張の現れた様子で、ロウェルミナは廊下に立った。
(や、やばいわ!)
 ロウェルミナはすぐさま頭を沸騰させた。
 隠したい思いが全身に現れるあまり、太ももが擦り合わさり、腰もくの字に折れ気味だ。肩や顔の筋肉も震えるほどに強張って、その後ろではフィッシュもまったく同じ様子で廊下に出て来ていた。
「さあ、行くぞ」
 ウェインが突き進む。
「あっ、待って下さい……!」
 ロウェルミナは慌てて追いかけ、さらにその後ろにフィッシュが続いた。
 こんな格好で取り残されるなど、たまったものではない。
 二人にプレイを強いる元凶がそこにいれば、ウェインのせいでこうなっていることがはっきりする。フィッシュと二人だけで立っていたなら、あたかも自分達で勝手に変態チックな格好で出歩いて見えかねない。
 先にさっさと歩いて行く素振りがあっただけでも、そんな切実な心細さが脳裏を掠めたのだ。
(とはいっても、やっぱりこの格好だと…………)
 どちらにしても、今の自分達は変態チックだ。
 喜んで体を曝け出す痴女の有様ではないか。どうぞ好きなだけご覧下さいと、アピールして見えはしないか。自分の格好を思えば思うほど、どんどん惨めになってきて、とても胸を張って歩くことなどできなくなる。
 廊下を進んでいるうちに、曲がり角を曲がった途端、とうとう通行人と鉢合わせた。
「えっ!? はっ、ええっ!?」
 ウェインと鉢合わせた使用人だが、目の前の王子よりも、その後ろにある二人の姿の方に目がいって、これでもかというほど大きく目を見開いていた。何かとてつもないものを見たかのような驚愕ぶりだが、実際にとてつもないのだから仕方がない。
 それにロウェルミナはショックを受ける。
 ぎょっとされるのは当然だが、いざ実際に反応を目の当たりにすると、心に痛みが走るようだった。
「うぇ、ウェイン殿下! もしや、以前のようなプレイを再び!?」
(以前!?)
 今度はロウェルミナの方が驚愕する。
「そういうことだ。二人は皇女殿下とその補佐官になるが、それ相応の理由があって私の趣味趣向に同意してもらっている」
「なるほど」
「よって見る分には構わない」
(構うのですけど!?)
 人の肌を自由に見ても構わないと、ウェインの口から許可が出たことに、ロウェルミナはぎょっとしていた。
 しかし、ロウェルミナの反応より、仕えるべき主君の言葉の方が優先らしい。
 使用人の視線には遠慮がなく、小さく縮こまるロウェルミナと、フィッシュのことも、遠慮なく視姦してきた。
「重ねて言うが、見ても構わないが相手はロウェルミナ皇女だ。わかっているな?」
 下手に吹聴したり、この出来事を表沙汰にしようとすれば、様々な問題が生じてくる。
「ええ、承知しております」
 それを使用人は心得ていた。
 彼は二人の姿をまじまじ見つめ、真正面から視線を浴びる状況に、ロウェルミナは自然と視線を逸らす。まともに前など向いていられず、俯いたまま横向きに、壁と床の境にある角の部分ばかりを意味もなく眺め続けた。
「ウェイン殿下! 再びこのようなプレイを行うとは!」
 今度はさらに後ろから、別の使用人が驚いた顔をしながら近づいて来た。
「偶然にも機会が舞い込んだものでな。二人にはこれから舞台に上がってもらう」
「舞台って……」
 一体何をさせられるのか、恐ろしさに顔が引き攣る。
 もちろん、今まさに突き刺さる視線もあった。
 前から、後ろから、二人の使用人に視姦され、お尻の方も気になった。尻も隠したくてたまらないが、片手で覆いきれる面積ではどう足掻いても隠しきれない。両手を使ったとしても、どれほど恥ずかしさを軽減できるか。
 そもそも、胸から腕を放したくない。
(どうすればいいの!? フィッシュ!?)
(わ、私にはどうしようも!)
 ロウェルミナは目で助けを求めるが、フィッシュも狼狽している真っ最中だ。
 ウェインの影に隠れる。背中合わせで二人で体をくっつけ合う。壁に寄り添う。肌の隠れる面積を増やす手は、思いつきさえすればあるにはあるが、当の二人は羞恥に煽られ、ただただ視線を気にすることばかりに忙しく、狼狽のあまりに何の案も浮かべられない。
 二人はひたすら視姦され続けた。
 結局、剥き出しの尻をどうすることもできず、後ろ側の使用人は思うさま目に焼き付けていた。
「さて、そろそろ行くぞ」
 ウェインがそう言い、再び足を進めるまで、二人の体は最後まで視線を浴び続けた。
 そして、城内の舞台に向かっていくのだが、様々な家臣や使用人に目撃され、いたるところからぎょっとした声が聞こえてくることになる。
「ええっ!? なによあれ!」
「変態!? 変態なの!?」
 女の使用人の声だった。
(変態!? 変態呼ばわりされた!)
 ロウェルミナはショックを受けるが、こんな格好でどうして反論などできるものか。
 女の使用人は二人組で、遠巻きに目撃するなり騒ぎ始めているわけだが、ロウェルミナの訪問こそ知っていても、距離もあって皇女相手だとは気づいていない。そもそも、帝国皇女が惨めったらしい変態の格好をするわけがない、そんな先入観も手伝って、その二人組は言いたい放題になっていた。
「何か悪いことでもしたのかしら?」
(うぐっ!)
 一応、身に覚えのあるロウェルミナに、その言葉は効く。
「罪人? 罪人よね?」
(うぐぅぅぅぅ!)
 罪人というわけではない。
 しかし、言い訳をしたくても、盗賊の件を帳消しにしてもらうのは、秘密裏でなくてはならないのだ。堂々と理由を表に出すことはできない。
「でも前はニニム殿に……」
「あれって、でもウェイン殿下は寵愛しているわけだし」
「ってことは、やっぱり罪人よね?」
「そうよ。きっとそうに違いないわ!」
 まるっきりの憶測で、二人の中では罪人が罰を受けているということになる。それが真実と化したまま、二人はどこかへ行ってしまう。
「はははっ、災難だな」
 ウェインは人ごとのように言って来た。
「誰のせいですか!」
「なに、むしろ都合良く勘違いをしてもらえた方が良いだろう?」
「それは……ですけど…………」
「良かったじゃないか。罪人の罰で」
 ウェインの笑顔が腹立たしい。
「良くはありませんけどぉ! というかニニムって聞こえましたけどぉ!」
「ああ、ニニムは合意だ」
「嘘くさいですね! 何か弱みでも握りましたね!」
「弱みというか。まあ、とにかく合意は合意だ」
「そうですね! 脅迫でも権力でも合意は引き出せますものね!」
 ウェインはニニムを寵愛している。
 懲罰か何かでこんな目に遭わせるとは思えないが、だったらこういう性癖に目覚め、ニニムがこうした行為に走る姿を見たくなってのこと、という風にしか考えられない。
「ウェイン……いつからそんな性癖に……」
「さて、いつからだろうな」
 そういった露出や羞恥、変態プレイの数々を書いた書物に影響を受けてのことなのだが、一々それを語るつもりはウェインにはない。
「さ、この先が舞台だ」
 ウェインは階段を上がり始める。
 それに続いて、ロウェルミナとフィッシュも上がり始めるが、その際に感じる視線に振り向くと、階段の下にはいつの間にやら何人もの野次馬が集まっていた。
(ひあっ!)
 ロウェルミナは咄嗟に両手ともを尻に回して、少しでも尻たぶを隠そうとした。
 フィッシュもそれに続いて同じく隠す。
 だが、二人が気づくまでのあいだ、野次馬達はお尻のプルプルと振動している有様を存分に楽しんでいた。少しでも低い位置から覗き込もうと、いわゆるローアングルから、大きな尻たぶの揺れ具合を視姦していた。
 歩行によって、ちょっとした振動が生じる際のプルプルは目を見張る。
 そんな視姦に気づき、大慌てで両手を後ろにやる瞬間も、それはそれで可愛いもので、野次馬達を興奮させた。
 ロウェルミナとフィッシュは、揃って尻の割れ目をきっちり隠し、尻たぶの面積を少しでも手の平に覆おうとしているが、とてもカバーしきれない。豊満でふっくらとしたボリュームは、結局のところ二人が階段を上がりきる最後の瞬間まで視姦の対象であり続けた。



 
 
 

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