身長計に背筋を伸ばし、両手を下ろすと、マリーサがさりげなく正面に立ち、不思議とアリッサの肢体を舐め回す。
(なにかしら)
長らく共に過ごしてきたアリッサには、マリーサの細かな機敏な読み取れる。ちょっとした表情の変化もお互いわかる。ただ、そんなアリッサにしても気づいていない、同性愛気質の一面に対しては、どこか無頓着で無警戒だった。
(ほんと、何をジロジロと)
気づいていないばかりか、しかも心も許している相手だ。他の周りの男と同じく、性的な視姦をしてきているのに、アリッサの中には「何をジロジロと」というそれ以上やそれ以下の感情が浮かばない。
「では失礼」
医師が真横に立つなり、まずは腹に手を乗せてきた。
(こいつ……)
必要もないのに触ってくるのが腹立たしい。触診という理由で胸を許すのと、本当に無意味な接触では、今のアリッサにはこちらの方が不快なくらいだ。
(まあいいわ。どうせすぐ済むもの)
頭の上にバーが下ろされ、身長が読み上げられる。
「一六三センチ」
「はぁ……」
いまいち、物足りない。
「次はマリーサさん」
医師の指示。
すれ違うように入れ替わり、今度はアリッサの前にマリーサの裸がある。気をつけの姿勢を取り、背筋を伸ばした肢体に対して、アリッサは特に性的な感情は抱かない。
胸が綺麗、スタイルも良い。身長が自分より高くてうらやましい。美しい芸術を眺めていたい。そういった種類の感情で見つめることはあっても、性的な意味では興奮しない。
(身長、あれくらい欲しかったわね)
品定めのように引き締まったスタイルを見ていると、不意にマリーサと視線が重なり合う。直ちにバーが下ろされて動くに動けず、顔は真っ直ぐこちらを向いたまま、瞳だけが真横へ背けられていた。
(まあ、慣れてる方がおかしいものね)
医師は無意味に腹へ手を置き、無用な接触を行っている。
その上で、身長を読み上げた。
「一七二センチ。凛々しいスタイルとは思いましたが、お高いですねー」
「そ、そうですか」
「ええ、とても美しく格好いい。見ていて惚れ惚れするスタイルですよ」
いやらしい目つきで耳元に顔を近づけ、医師はマリーサの体を讃える。
「そうですか。それはどうも」
こんなところで褒められても、照れるよりは反応に困るだろう。
次に用意された体重計は、物を乗せると針が時計のように回転する。まさに時計盤のような円形状の数字の並びに、細かな目盛りの数々から、魔法によって針が正しい数字を指し示す。
二人で順番に乗り上がり、それぞれの体重が書類の中に書き込まれる。
(本当に、まったく嫌な気分ね)
こうして裸で過ごしながら、一つまた一つと自分の体を現す数字を取られ、書類に残されていく。この肉体が調査され、自分でも把握していなかったことが明らかにされていくのは、それ相応の恥辱感を伴ってくる。
きゅぅぅ…………
と、アリッサは下腹部を引き締めた。
(なによ。この感覚)
アソコの奥から、じわっと熱い何かが滲んだような、何とも言えない感覚に、アリッサは内心首を振る。
違う、何も感じていない。
何も、何も……。
(しないわよ。期待なんて)
傾きそうなバランスを保つように、アリッサは心を落ち着けていようと努めていた。
「さーて、さてさて、スリーサイズを測りますからね?」
医師はいかにも楽しみそうに、巻尺を手元に用意していた。身体に巻きつけて、目盛りを合わせることで測定を行う道具である。
「ささ、並んで並んで」
医師の指示で並ばされ、アリッサとマリーサの正面には、ずらりと男達が揃っていた。医師だけが後ろに回り込み、残る面々は揃って二人の裸を鑑賞していた。
「まったく、いい見せ物よ。ねえ、姉さん」
「え、ええ」
「どうしたのよ。覇気がないわね」
「その、やっぱり慣れないというか……」
「ふーん? 大丈夫よ。私がついてるんだから」
大丈夫も何も、身体検査そのものを何とかできるわけではないのだが、さも自信の誇りに溢れたようにアリッサはそう言った。特に根拠などなくとも、自信を持てば活力は湧いてくる。
エネルギーがあればこういうことにも耐えきれる……はず。
アリッサなりに、つまりマリーサを励ましているのだった。
「そうだねー。アリッサちゃん」
「僕の好みはマリーサちゃんだけど」
「おっぱいはアリッサちゃんなんだよねぇ」
まるで女体の品評会だ。
「ええ? アリッサちゃんは乳首がちょっと」
「そうですよー。マリーサちゃんは乳首もピンク色で美しさが違う」
口々に勝手な評価を下されて、しかも比較までされている。
「ではアリッサちゃんから」
医師は後ろから巻尺をかけてきた。
抱きついてくるように腕を回して、乳房に巻尺が巻きつくと、背中の後ろで目盛りが合わさる。
「九一センチ」
数字が声高に読み上げられた瞬間だ。
「ほほーう?」
「やっぱりデカいねぇ?」
アリッサの巨乳ぶりに関心が集まって、マリーサばかり見ていた視線さえ、流れに乗ってアリッサに集中する。
「ウエストは――五五センチ、お尻は大きいねぇ?」
巻尺が下へとずらされ、腰の直後に尻たぶへと巻きついた。尻山の上に目盛りは合わさり、言うまでもなく指は当たってくる。
「尻毛がボーボーですなぁ」
「……っ!」
アリッサは顎を引き攣らせた。
「お尻の割れ目からいっぱい出てますな。巻尺を上下にすると、上に倒れたり下に倒れたり、まあ一センチかそこらは出てるんじゃないですか?」
「余計なことは言わなくていいの!」
「どうして処理しないんで?」
「脱毛ジェルを避けただけよ! ここに来る予定があったから!」
「ああ、なるほどね」
苛々と声を荒げたアリッサに対し、何の悪びれもなく、ただただ納得して頷く様子だけを醸し出す。そんな医師の態度に、アリッサはますます怒りたくなってもくるが、さすがに医師相手にこれ以上の説明は不要だったらしい。
魔法性のジェルを使い、皮膚に薬品の魔力を残留させると、それが待機中の魔素と結びついた場合に、重篤な症状を引き起こすケースがある。何も起きない方が多いが、用心に越したことはないという話だ。
「ではサイズはですね。なんと九八センチ!」
発表と同時である。
「おおっ、確かに!」
「プリップリだったもんねぇ!」
「あんな巨大な尻は初めて見たからなぁ!」
誰もが顔をニヤけさせ、嬉しそうに一言ずつ、それぞれの感想を口にする。
「巨大って……」
「はははっ、ではこの巨尻とはおさらばして――」
ぺちん!
と、なんのつもりか叩いてきて、アリッサは怒りで勢いよく振り向くが、医師といったら素知らぬ顔でマリーサへ移るだけだった。
マリーサの乳房に巻尺がかかる。
それを横から見てみれば、巻尺の紐が乳首を綺麗に潰しつつ、ほんの数ミリかその程度、乳房に食い込む。それが腋の下を通って背中へと、おそらく背骨のラインで目盛りを合わせた医師が、数字を見るために顔をぐっと近づけていた。
(私にもあれくらい近づいていたの?)
そんなことをふと気にする。
「八三センチ」
発表と同時である。
「へー」
「大きさは歴然だね」
「でも美乳よ? 美乳」
やはり、口々に乳房へのコメントを飛ばし、それらを聞く羽目になるマリーサは、目尻や頬をピクピクと強張らせる。
「ウエストは六二」
「アリッサちゃんより一センチだけ細いね」
「背も高いからスラっとしてて」
「スタイルの格好良さっていうか、何ていうか。体格が凜々しいのはマリーサちゃんなんだよねぇ」
「だから僕はマリーサちゃんの好みなもんで」
ウエストですら、男達はいらぬ品評会を繰り広げる。
「九〇センチ」
ヒップへ移り、巻尺が尻に巻きついての読み上げに、男達はまるで予想の範疇であるように納得したように頷いていた。
「そうだね」
「デカ尻はアリッサちゃんだ」
「あれに比べりゃ、マリーサちゃんは小ぶりなもんだよ」
本当にうるさいといったらない。
何が楽しくて、どうしてここまで盛り上がるのか。
理解できずに、ただただ拳を固く握り締め、怒り紛れに震わせていた。
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