ここまで済んで、なおも試練は残っていた。
「服がないってどういうことよ!?」
アリッサは声を荒げていた。
「そんなこと頼んでませんけど」
さしものマリーサも、強い抗議の視線を送っている。
討伐を済ませ、身体検査もきちんと受け、やっとのことで元の衣服を着ることができると思いきや、なんと彼らは宿先に荷物を届けておいたと言い出したのだ。頼んでもいないことをされ、着る服がなくなった今、代わりの服を貰うより他はない。
「まあまあ、報酬の上乗せとして、こちらのマントを差し上げますから」
経営長は二人を宥めようと穏やかな口調を使い、あらゆる魔法を吸収して跳ね返すという誰もが羨む性能の装備を持って来た。それも二人分である。肩から膝にかけての長さがあり、確かにそれを羽織っていれば、アリッサ達は裸を隠せるだろう。
先ほどまでの布切れとは大違いだが、それにしたってその内側は裸体のままなのだ。
「裸にマントはうんざりよ? 馬鹿にしないでくれる!?」
アリッサはなおも怒りをあらわにする。
それは単に最悪の扱いに対するだけのものではない。アリッサはとっくに自分の変態性に気づいている。おかしな体験を積み重ねれば、危険なスイッチが入ってしまい、普通ではない性癖を満たそうとするであろう自分自身の兆候に気づいている。
裸で、マント。
聞いた話では、露出狂の変質者がする格好で、通行人に裸体を見せつける不審行為について書物でも見た覚えがある。それと同じ格好をするなど、アリッサにはあってはならないことなのだ。
もう、これ以上はまずい。
本当にまずいと、深刻な危機感を抱いていた。
「まあ、仕方ないわね」
「マリーサ!?」
仮にも一緒に怒っていたはずのマリーサが、急に態度を変えて受け入れようとしていることに、アリッサは動揺していた。
「理屈で考えれば、マントの内側に普通の服があってもなくても、外側からの見え方に変化はないわ。我慢して宿まで行きましょう」
「マリーサ…………」
アリッサは本格的に自分を呪いたくなってきた。
どうして、マリーサに強く意見されてしまうと、そう動いてしまうのだろう。言われたことを受け入れようとしてしまうのだろう。
「いいわね。アリッサ」
「わ、わかったわよ……」
アリッサは悲しげな気持ちで引いていた。
でなければ、男達に加えてマリーサまで相手にして、必死の抗議劇を繰り広げなくてはならないの。散々な恥辱を受けたアリッサには、もうそんな元気は残っていない。
こうした流れで、アリッサは泣く泣く裸マントで町に出て、こんなにもありえない格好で、人目をやたらに気にしながら宿へ戻る羽目になる。
アリッサは始終下を向いていた。
金髪の前髪が垂れ下がり、まともに前を見てもいない。俯くことで赤らんだ顔を隠し、しかし耳の赤味までは隠せていない。逆にマリーサは涼しい顔をしているが、単に平静を装っているだけで、頬はほんのりと桃色だ。
歩いていれば、マントが歩行に応じて揺れ、尻や胸に直接擦れる。風が吹けば内側に入り込み、肌をささやかに撫でられる。
ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ、
マントの方が揺れるのもあるだろうが、アリッサの巨尻は歩行でプルプルと振動する。だったら、むしろお尻の方がマントを擦り、そしてマントを上下に動かしているかもしれないような予感がして、アリッサは手でお尻を気にしていた。
お尻を視姦される予感がして、それを手で防ぎたい気持ちでいっぱいに、アリッサは右手をお尻にやっているのだった。
鉱山から町への道のりには、まだしも人がほとんどいなかった。
しかし、商店街に入っていくと、ここからは良い回り道がなく、人目を避けたルートで宿に辿り着くことはできない。人口密度の高い道のりを突き進み、その先にある武器や防具の店が集まる区域まで行くことで、やっと宿に入れるのだ。
誰もアリッサのことは気にしていない。
マリーサのことも、気にしていない。
(……わかってるわよ。平気にしてれば、バレっこないって)
しかし、アリッサの頭の中には想像が吹き荒れる。
もし、強風か何かが吹いて、何かの拍子にマントが取れてしまったら、町中で急に全裸となった自分は、一体どんな視線を周囲から浴びるだろう。変態だ、痴女だと、罵声を浴びせられるだろうか。
それを思うと、アソコが疼く。
(駄目……期待、しちゃう…………そうなって欲しいだなんて、心の底では思ってしまってるのよ……私は…………)
猛り狂う何かを封じるような気持ちになって、アリッサは自分の内側にある変態性を必死に沈めようとしている。
すりっ、すりっ、
だが、そうしたところで、歩くたびに揺れるマントの、お尻への摩擦が必要以上に気になってくる。風が内側を通り抜けていく感触で、本当は裸である自分を必要以上に意識してしまう。裸への意識が強まれば、やはりバレた時の想像が蘇る。
通行人とたまたま肩が擦れ合う程度にぶつかって、アリッサはビクっと肩を弾ませ動揺していた。ただぶつかっただけ、マントが取れたわけでもなんでもないが、今の接触でバレやしなかったかと怯えてしまう。
いいや、肩が当たっただけで、マントの内側に気づく余地があるはずはない。
頭ではわかっているのだ。
だが、それでもアリッサは警戒したり、動揺したりしてしまう。
「いいケツだな」
「ナンパするか?」
「やめとけ、お前百連敗だろ」
「おいおい、百は言い過ぎだっつーの」
「にしても、マジでいいケツだな」
アリッサのことを見て来る男の声が、不意にどこからか聞こえてきて、尻を視姦されているとわかった途端、マントの中身を透かして覗かれてはいないかが不安になる。まさか、そんなことがいちいち起きるはずがないのに、ついバレる想像をして不安になってしまう。
(早く……早く宿に……)
そうして、やっとのことで現在の区画を抜け、自分達の泊まる宿が見えた頃には、まるで天国に到着したような安心感で、一刻も早く部屋に駆け込みたい思いでいっぱいになった。
ようやく、アリッサとマリーサは宿に戻った。
あとは翌朝、幻の肉を受け取り、それを調理したものを味わうだけだ。マリーサの望み通り、一緒に食事をすればいいのだろう。まあ、それも悪くはない。悪くはないが、裸マントの時くらい、もっとアリッサの抗議に加勢して、服の一枚でも勝ち取って欲しかったところである。
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