陽比野まつりはため息をついていた。
学校から家に帰って、部屋に戻ってからというもの、肩を落として下を向き、いかにも元気をなくしている。何度も何度も、時間おきにため息の繰り返しだ。
「まつり、お前どうしたんだ?」
そんなまつりの様子を気にかけ、みゃむが隣に腰掛けた。
「これぇ……」
まつりは学校でもらった保健便りのプリントを出す。
「どれどれ? ほう、こいつはマジか?」
それを覗き込み、内容を読み取ったみゃむは神妙に顔を顰める。みゃむから見ても、そこには同情を禁じ得ない事柄が書かれていたのだ。
「みゃむぅぅぅ……最悪だよぉぉぉ……嫌だよぉぉぉ…………」
慰めを求め、まつりはみゃむに抱きつく。
「おい、苦しいぞ」
「だってぇ……」
巻き付けた両腕には、さらに力が籠もるばかりだ。
「まったく、チュッピは大変だな」
諦めたみゃむは、呆れとも脱力ともつかない顔で、ため息がちにまつりの頭を撫で始める。
「みゃむぅぅぅ……」
「わかったわかった。今日は一晩撫でてやるんだぞ」
「ありがとぉぉ……みゃむぅぅぅ…………」
「わかった。わかったから、少しは離れるんだぞ」
こうして、癒やしを欲しがるまつりと、それに応じるみゃむとで、長い時間にわたってのじゃれ合いが続くこととなる。
その、翌日――。
陽比野まつりは学校で内科検診の時間を迎えていた。
空き教室の一つに女子が集まり、検診の場には衝立を並べた簡易スペースを形成して、個人のプライバシーを守っている。そこは医者と生徒だけのやり取りの場となって、周りにそれが漏れることはない。
(うぅぅぅ…………)
これが単なる内科検診なら良かった。
しかし、保健便りに書かれていたのは、衣類を脱いでショーツ一枚のみとなり、全身の皮膚の視診を行い、側湾症検査で背骨や肩甲骨の観察も行うというものだった。胸どころか、他の肌までほとんど露出しなければいけないなど、考えるだけでも憂鬱が込み上げる。
最後はショーツの内側まで……。
(最悪だなぁ……私も魔法が使いたいよ……)
などと願ってみても、まつりに魔法は使えない。
嫌でも腹を括るしかないのだ。
「はぁ…………」
泣いても笑っても、どちらにしても順番は巡ってくる。前の子達が検査を終え、衝立の中から出てくるたびに、列は縮んでまつりの番は迫ってくる。いよいよ、次で自分の番となった時、まつりは緊張で顔が強張っていた。
(まあ、検診のためだもんね)
過剰に恥ずかしがって、騒いだりしても、せっかく来てくれた医者に迷惑をかけることになる。そういうところは真面目なまつりは、衝立の中へと進んでいき、すぐさま制服を脱ぎ始めた。
(お医者さんを困らせるわけにもいかないから)
衝立の内側は、診察スペースと脱衣スペースに分かれている。
まず、脱衣スペースでの脱衣を済ませてから、診察スペースに移って校医の方に挨拶を行い、検診を受ける流れだ。その際の「よろしくお願いします」や「ありがとうございました」といった挨拶は忘れないようにと、保健便りには書かれていた。
ブレザーを折り畳み、その上にワイシャツを重ね、ブラジャーを、スカートを、脱いだものを一枚ずつ、順々に重ねていく。
これでまつりが身につけているのは、ショーツに靴下、あとは上履きくらいなものだ。
まつりのショーツは白だ。
ネコの顔をシルエット状にした薄いグレーのプリントを細かく散りばめ、お尻の側には大きめのバックプリントにヒゲまで描かれている。どんな下着なら少しは恥ずかしさを軽減できるだろうかと、昨日はいくらか悩んだものだが、最終的な結論はこうだった。
――うん! どうせ何を穿いても恥ずかしい!
だから、何を穿いても同じだと、きちんと選んで決めるのはやめ、何となく選んだものにした結果が、このネコちゃんパンツというわけだった。
もっとも、みゃむには「結局ノリで決めるんだな」と言われたが。
そして、実際にショーツ一枚の姿になってみて、じわじわと羞恥心が込み上げている。下着が地味であろうと派手であろうと、この姿になる以上は、どうしたって恥ずかしさは避けられない。。
「こんな格好で、お医者さんの前に……うぅぅぅ…………」
まつりは自然と乳房を腕に隠して、頬を赤く染め上げていく。
裸で人前に出た経験など、いくら何でもあるはずがない。まつりにあるのは、プリマジのステージで大勢の前で歌とダンスを披露した経験だけだ。
「でも、そっか」
そういえば、まつりはそもそも、最初はプリマジのエントリーシートを出すこと自体に尻込みしていた。そんな時にみゃむと出会い、きっかけを掴んでデビューを果たした。勇気を持てたのはみゃむがいたからだ。
緊張する。勇気がいる。人前に出ることに尻込みする。
検診とプリマジの違いはあっても、その点だけは通じている。
「ステージでは本気のマジになれるんだから、今回も……検診を受けるくらい……」
みんな同じように受けているのだ。
問題ない、やれるはず。
まつりは腕のクロスを固めたまま、赤らんだ顔ながらに診察スペースへ進んでいく。すぐさま医師の存在が目について、次には椅子にも視線がいく。そこに座って、このお医者さんと向かい合い、検診を受けるのだ。
(よし、早く済ませちゃおう)
まつりは腕を下ろす。
すると、まつりのことを見ていた医師は、自然と乳房に視線をやってくる。胸を見られているのが如実に伝わり、顔から火が出るような思いに駆られた。
「ひ、陽比野まつりです! よろしくお願いします!」
気をつけの姿勢で声を張り、そして軽く頭を下げる。
「はい、どうもよろしく」
校医の返事を聞いたところで、まつりは早速椅子に着き、診察のために両腕はやはりきちんと下げていた。本当は隠したくてたまらない、腕のクロスで乳房を守りたくて仕方がない衝動を抱えていたが、まつりは我慢しているのだった。
「早速診ていくからねー」
校医はまつりの頬に手を当てて、親指で皮膚を引っ張る。下まぶたの血色を見ようと、引っ張ることで裏返しに、校医は顔を近づけ観察してきた。
(顔……近いなぁ……)
もう片方の頬を手に包まれ、反対側の下まぶたも同じく引っ張られ、視診のための視線が突き刺さる。
「口開けてね」
今度はペンライトで喉を照らし、口内の視診が行われた。
校医は単に検診をしている。
目の前で女子が裸だからといって、あからさまに興味を示したり、胸や下着ばかりを見てくるわけではない。淡々と検診を進めている様子に、その一点だけには安心するが、かといって下着一枚の格好で、服を着た男と一対一など、本当の意味で安心できるわけではない。
(次は胸、だよね……うぅ…………)
校医がペンライトをしまっていくと、いよいよ乳房への診察に移ることへの緊張感で、余計に体が硬くなってくる。
「はい。背中は真っ直ぐ、姿勢は正してね」
「は、はい!」
「聴診器からやっていくからね」
ひんやりとした金属が胸の中央に当たってくると、まつりの中で一気に緊張が高まった。今にも指が乳房に当たりかねないギリギリの距離感に、いてもたってもいられない、どうしても落ち着かない感覚がした。
「後ろ向いてね」
と、指示を受け、まつりは校医に背中を向ける。
背中にも聴診器が当たった後、深呼吸の指示に従い、何度か息を吸っては吐き、そして聴診が終われば正面に向き直る。
「じゃあ、皮膚の状態や血色を診るため、ちょっと観察するからね」
次の瞬間、校医はまつりの両肩に手を置くなり、一気に顔を近づけてきた。乳房を間近で観察しようと迫った顔に、まつりはますます羞恥心を膨らませ、もう頭がどうにかなりそうだ。
(ワ、ワッチャァァァ…………)
恥ずかしさで泣きたいような思いにかられ、まつりは校医の視線に耐える。
まつりの胸はお椀ほどの膨らみで、まだまだ将来性を残したものだ。そこに乳首が可愛く立ち、桜色の乳輪が鮮やかに輝いている。
「ところで君、プリマジスタの陽比野まつりさん。だよね?」
「え? そうですけど」
「うーん。ステージの時はもう少し大きく見えたけど」
「え……」
まつりは引き攣った。
検診とは関係のないことで、急に話しかけられるとは思わなかった上、しかも胸の大きさについて指摘してきたのだ。
(え? あれは、たぶん魔法で……)
しかし、みゃむの魔法について、プリマジスタ以外には秘密である。
魔法について話すわけにはいかないのだ。
「ああ、失礼。きっと気のせいだね」
校医はそう言って誤魔化したが、よほど大きさが違って見えたのだろうか。だとしたら、ステージの上ではパッドを入れていると思われてしまっただろうか。
「触診するからねー」
今度は手の平をべったりと真正面から貼りつけて、何と揉み始めるのだった。
「っ!」
驚き、まつりは目を丸める。
「大丈夫、診察だからね」
校医はまつりを落ち着かせたいかのように、努めて穏やかな口調で言うが、生まれて初めて男の手に胸を触られ、体温が直接皮膚に当たってくる感触に、まつりは全身をぞわぞわとさせていた。
落ち着かない、嫌な気持ちがする。
女の子の身体は、そもそもプライベートゾーンである。心を許した相手のことしか、本来は招き入れることはない。しかし、検診の名の下に、名前すら知らない男が乳房を揉み、五指に強弱をつけてくるのだ。
頬の強張りはみるみるうちに強くなり、膝に置いた拳も固くなる。
(どうしよう……こんなの……辛い…………)
耐えがたい思いが徐々に膨らみ、目尻には涙の気配が見え隠れする。
「はい、触診はお終い」
(終わった……)
手が離れ、まつりにあるのは、解放感や安心よりも、ベタベタと触られてしまったことへの呆然とした気持ちであった。手垢が付いて、目には見えない手形が残ったような、表皮に男の皮脂を残され汚された気持ちがして、終わったからホっとしたというものでもない。
「次は側湾症だからね」
(そっか……まだあるんだ…………)
まつりは悲しみと諦めを膨らませ、無念を抱えて立ち上がる。校医の指示に従い、後ろ向きになると同時に、今度はショーツをずらすと言ってくる。
「動かないでね」
校医の言葉にまつりは固まる。
次の瞬間、ショーツのゴムに指が深く潜り込む。
ひやぁ……!
心が悲鳴を上げた。
校医は左右の尻たぶそれぞれに向け、両手ともを伸ばして指を入れたのだ。ショーツを下げるため、両手の四指を潜り込ませて、指がお尻に直接あたる形でずるりと剥き、いとも簡単に丸出しにされてしまった。
(やだっ、丸見え……!)
胸をじっくりと観察された上、今度はお尻を見られている。これではもう、まだアソコを出していないだけで、ほとんど全裸を見せたことと変わらない。ショーツの内側という、より一層のプライベートゾーンを簡単に解き明かされたことへの恥辱で顔が滑稽に歪んでいた。
「うん。綺麗で可愛いお尻だね」
「……っ!」
体つきについて指摘する言葉を浴びせられ、まつりは顎をひどく歪める。
「両手を合わせて、前屈して」
それでも、指示に従った。
手と手を重ね合わせる形を作り、指先で地面を突くかのように、お辞儀のように背中を前に倒していく。こうして肩甲骨の高さに左右差がないかを確かめて、背骨や尾てい骨にかけても視診するのだ。
「はい、いいよ。元に戻って」
直立姿勢に戻っても、すぐには着席の指示がない。
もうしばらく、背中への視診が続き、後ろの様子がわからないまつりには、不安で不安でならない、落ち着かない時間が流れていた。
「オッケー。側湾症は終了ね」
言われるが否や、まつりはほとんど反射的に、待っていたとばかりにショーツを掴み、これ以上ないほど早く引き上げ、お尻を元に戻していた。
「ネコちゃんパンツだね」
(わざわざ言わないで……)
ショーツの柄を指摘され、それはそれで膨らむ羞恥に改めて顔中が歪んでいた。お尻側に大きくプリントされたネコ型の、黒いシルエットのことを言われたせいで、まぶたがぎゅっと固く閉ざされて、目尻に皺が出来上がっていた。
「じゃあ、次で最後だから。ベッドに上がって、四つん這いになってね」
指示の内容を聞くだけで、頭がどうにかなりそうだった。
四つん這いとなり、その先で行われる検査は何か。考えただけでも頭が熱で蒸発して、脳が消えていきそうな心地がする。
(……最後ってことは……とうとう……私、生きて帰れる?)
これから死地へ向かう気持ちで青ざめたいところでも、赤らんだ顔が正反対の色に染まり変わることはない。むしろ、ますます赤味は濃く、耳にかけても変色は進んでいく。
診察台に上がっていく。
処刑台に上がるかのような、この先に未来はない気持ちで、指示通りの四つん這いとなった時、羞恥の熱で頬がますます温まる。今のまつりの顔に手を触れたら、風邪でも引いたとしか思えないことだろう。
無防備に晒した尻には、視線が刺さり放題だ。
こうして人に尻を向け、下着のみの下半身を丸晒しにしているだけでも、かなりの心許なさがある。
「はい。最後だから、もうちょっと頑張ろうね」
ぺん、ぺん、と──叩かれた。
それは肩を叩いて励ますような手つきであったが、ごくごく軽い力とはいえお尻を叩かれ、辱めを受けたショックで表情がますます歪む。
「頭は下げて、お尻だけ高くなるようにね」
(もう限界ぃぃ……!)
助けをもとめるように枕を取り、まつりは顔を押し込んだ。力いっぱいグイグイと、これ以上は埋まることがなくともなお埋めようと、下へ下へと力をかける。
「じゃあ、いくよ」
またしても、ショーツのゴムに指が入った。
左右の尻たぶに指が当たってくる形で、先程と同じく両手の四指で下げられるのだとわかった途端、まつりの全身が強張った。
(ま、また……お尻が……もしかして、この姿勢って穴まで……!)
危機感で鳥肌が広がった。
そうと気づいてしまったら、自分の今のポーズによって作られる身体の形に意識が及ぶ。姿勢に応じた筋肉の稼動により、尻肉が左右に広がり、直立ならば割れ目に沈む肛門も、今は丸見えであることをはっきりと悟ることとなり、まつりは軽くパニックめいていた。
(うっ、やだ! そんな、私──私──)
ずるりと、皮を剥くようにショーツは下げられる。
「~~~~~っ!?!?!?」
何かが弾けたように一瞬で頭が真っ白に、次の瞬間には空っぽの中身を満たそうとする何かが脳で嵩を増していた。空だったコップの中身が即座に満たされ溢れようとするように、激しい熱が脳に溢れて、まつりは顔から放熱している勢いでこの上なく恥じらっていた。
(お、お尻がっ、お尻の、お、お尻の、あ、あ、あ、穴が、穴が──穴が────)
平常心など保てない。
明るい照明の下で、放射状の皺の窄まりが晒されて、頭が完全に沸騰していた。顔から火が出る現象が実際にありえたら、顔を埋め込んでいる枕が今にも焦げ臭くなるはずだ。
「アソコも一緒に視診するからね」
囁き声で伝えられ、涙を枕に吸わせていた。
(あ、え、そ、そんな──アソコって──えっ、み、み、見えてる!? アソコもみえちゃってる!?)
ショーツは膝まで降りている。
改めて自分の形に意識が及び、腰の持ち上がった姿勢を校医の位置なら観察したら、一体どう映るかさえも頭に浮かぶ。肛門よりも何センチか下にある初々しく閉じ合わさったワレメは、とっくに視線に晒されているのだ。
「うーん。綺麗だねー」
「~~っ!!!!!」
恥部についてのコメントを浴びせられ、頭の中身が捩れてしまう。
「血色の確認をするからね」
太ももに手の平を当てる形で、二つの親指がワレメの間近に触れてくる。これから性器を開かれるのだとわかった時、これまでにない緊張で全身が石のように硬くなっていた。
肛門に加え、性器まで、その中身までもが見られてしまう。
くぱぁぁぁ…………。
開かれた瞬間に、脳を見えない何かでかき混ぜられるかのような、羞恥の嵐が頭蓋骨の内側で吹き荒れる。
「健康的なピンク色だねー」
(うぅぅぅぅぅぅ――!)
至近距離からの視線照射に、既に十分なほど膨らみきった羞恥心がさらに膨らみ、どこに限界があるかもわからない勢いで赤面の温度は上がる。
「では肛門の方は……。うん、とっても綺麗だ」
性器から指が離れたと思いきや、校医は何か愛らしいものに微笑むような、さも優しげな声をかけながら、指でツンツンと肛門を突く。
(やだっ、やだ……! 触られて……!)
「はーい。ではね、ちょっと触診していくからね」
指の腹が置かれるなり、今度はぐにぐにとしたマッサージが始まった。押し込む力に強弱をつけ、皺をなぞるようにスリスリと撫でてくる。
年頃のまつりにとって、こんなことは想像さえもしたことがなかった。もしも恋人ができたら、という空想をしたことはあっても、その先にある性行為は、無難に胸を揉まれることや、単にノーマルなセックスをすることしか考えたことがない。
こんな格好で肛門が丸見えになり、汚い排泄器官を触れる。
まつりの頭からは、ありもしない蒸気が噴き上がっているかのようだ。
「じゃあ、今度は肛門に力を入れたり抜いたりしてくれる?」
指が離れても、次の新しい指示が出る。
なかなか終了にならない絶望感に、まつりは顔の筋力が許す限り極限まで、頬や額のあらゆる部位を強張らせ、プルプルと震わせていた。まぶたを固く閉ざした上、シーツを掴む拳が痙攣して見えるほど、強い力がいつの間にこもっていた。
「ほら、早く早く」
「うっ、うぅ……力って……」
「肛門括約筋を意識して、ぎゅーっと」
そんなことをさせられるなど、もう何の拷問かもわからない。
きゅぅぅぅぅ…………
まつりはお尻の穴を意識して、心の底から惨めになりながら、皺をきつく窄めていた。自分の肛門がどう見えているかなど、まつり本人にはわからないが、校医の目には皺の収縮がきちんと確認できていた。
「今度は力を抜いて」
脱力。
窄まっていた皺が広がる。
「はい、ぎゅぅぅ」
きゅぅぅぅ……。
枕に埋め込んだ顔には、枕どころかその下の骨組みにまで埋まろうとする最大限の力が込められていた。
「繰り返して?」
拷問のような指示に、まつりの肛門は収縮を繰り返す。
きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、
きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、
お尻の筋肉が肛門の動きに連動して、内側へ引き締まっては脱力と共に外に広がる。尻山のピクピクとした動きは、尻たぶの開閉によって肛門を開け閉めして見えなくもない。
きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、
きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、
もはや、恥ずかしさによる頭の沸騰で、脳細胞が急速に消えていくかのようだ。次から次に気化していき、このままでは頭が空っぽになりそうな勢いで、しかし本当に脳が消えているわけでもなく、だから蒸発するかのような感覚だけが延々と続いている。
「はい、終了。最後に指を挿入するからね」
と、言うが否や、ジェルを塗りたくる校医の指から、ひんやりとした感触が伝わって、まつりは一層のこと死にたい思いにさえ駆られていた。
(もう無理ィ! ムリムリムリムリ! こんなの生きていけないよ!)
まつりの悲痛な思いに関係なく、肛門に指は突き立てられる。
ずにゅうぅぅぅ――
挿入によって皺が広がり、まつりは肛門に異物を受け入れる違和感に襲われていた。
(やぁぁぁ……! お尻に! お尻に指が! ムリ! ムリ! ムリ! ムリ! もう許してお願い許して! 本当に恥ずかしくて生きていけない!)
「動かないでね」
(あぁぁ……! やだっ、奥まで……うっ、うううっ、うわぁぁ……!)
校医の指は根元まで入り込んでいた。
その診察の表情さえわかっていれば、少なくとも傍からすれば、症状の有無を探そうと意識を集中して、きちんと仕事をこなそうとする校医の面持ちがわかるだろう。
だが、ポーズで後ろが見えないこともそうだが、こんな目に遭わされて、パニックに近いほどの激しい恥じらいが吹き荒れているまつりには、校医のそんな機微を感じ取る余裕などあるはずもない。
「はい。お疲れ様」
指が抜けていった直後には、ジェルを拭き取るための紙を擦りつけられて、他人の手でお尻を拭いてもらう体験さえもしてしまう。
(赤ちゃんじゃないのに……私、赤ちゃんじゃないのに……)
まつりからすれば、オムツの必要な赤ん坊の扱いを受けた気持ちに他ならない。
「これで終わるからね」
さらには下げたショーツさえもが、校医の手によって持ち上げられ、まつりの肛門はバックプリントの内側に隠れていく。
だが、まつりは枕から顔を上げたくなかった。
せっかく検診が終了して、この場から解放されるというのに、枕に顔を埋めようとする力が一向に緩まない。
(私どんな顔してる? お尻見られて、指まで入れられて、どんな顔してるの?)
全ての恥部を見られていながら、冷静に考えれば今更なのだが、それでもまつりは抵抗を感じている。恥じらいに染まり上がって、どんなに赤いかもわからない顔を見せるのは、それはそれで恥ずかしいのだ。
傍からすれば、いつまでも四つん這いでお尻を高らかにしている方が恥ずかしいと、当然の意見の一つも唱えたくなるだろう。ショーツ一枚の格好でいたいのかと、そう聞いてみたくなる者もいるだろう。
だが、もうまつりには、他に残っていないのだ。
あれもこれも全て見られて、こんな状況の中でまだ見せずに済んでいるのは、羞恥に染まりきった顔くらいだ。人にはまず見せられない、茹で蛸のような顔を見せるなど、せめてそれだけは勘弁して欲しい気持ちでいっぱいだった。
しかし、だからといって、いつまでも固まってはいられない。
(うぅぅぅぅ……そうだよね…………校医さんに、迷惑かけたら………………)
まつりは不意に諦めの境地に立ち、羞恥の余韻がいくらでも残った顔を両手で隠して、ギリギリまで見せることなくベッドを下りる。椅子に座った後でさえ、表情を覆い隠したまま手を離すことは決してない。
ただ、最後の瞬間だけは別だった。
「………………あ、ありがとう……ございました」
必ず、お礼を言わなくてはならない。
こんなにも恥ずかしい思いをさせられて、それでもお礼を言わなくてはならない。この時ばかりは両手を下げ、背筋を伸ばした正しい姿勢で頭を下げる。前髪が垂れ下がり、数秒ほど維持してから、まつりは高速で姿勢を元に戻していた。
バネに弾かれた勢いで、瞬速で背筋をピンと真っ直ぐにした上に、まつりは大きく上を向いていた。。
やはり、恥ずかしさのあまり、せめて表情だけは見せまいと、自然と首が跳ね上がり、顎だけを校医に向けていた。いかにも堅苦しい気をつけで、肩が持ち上がったまつりの有様は、それは滑稽なものだったろう。
天井に向いた顔がより滑稽なのは言うまでもない。
唇は内側に丸め込まれ、目はぎゅっと硬く閉ざされて、頬も額も歪んだくしゃくしゃの顔は、とても人様に見せるものでななかった。
「ははっ、そんなに恥ずかしかったか」
笑われた。
(そんな……)
本当に泣きそうだった。
自分はこんなにも恥辱を味わったのに、校医は何も思っていない。まつりがどんな思いをしていたか、考えてもいないのだ。
まつりは逃げるように校医の前を去って行き、これまでの人生にないほどの高速で着替えていた。ブラジャーを着けるのも、スカートを穿くのも、ここまで早くこなしたことは、過去一度としてなかった。
もうやだ!
早く忘れたい!
まつりの心からの叫びは、この上なく切実なものだった。
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