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 それから、破瓜の負担をかけたアソコに休憩を与えるため、しばらくの指導は休みになる。
 それを機に、佐矢野柚葉は休日の待ち合わせの場で、20分も早く来てしまって彼氏を待つのに、必要以上にキョロキョロと周囲の人の往来を見渡していた。
 駅前に建つ芸術品らしいオブジェの前で、ワンピースの上に薄手のカーディガンを羽織った私服姿で、安藤洋を待ち侘びている。時間が早すぎたのは自分の方だというのに、こうなると似たような体格の男を見て、それが通行人として近づいてくるたびに、洋ではないかと期待を抱いては肩を落とし続けていた。
 柚葉のすぐ近くにも、同じようにこの場所を待ち合わせ場所にしていた見知らぬ女子が、やって来た彼氏に抱きつき、デート先へ向かって離れていく。
(いいなー……)
 実に羨ましい気持ちでカップルを眺め、改めてスマートフォンで時間を見るに、まだ待ち合わせよりも15分早かった。いつも5分前到着の洋を考えると、あと10分も待たなくてはならないのだ。
(早く会いたいよ。洋、洋……)
 どうせ会えることはわかっているのに、どうしてこんなにも気持ちが焦るのだろう。
 スマートフォンの画面で、さらに1分立った時だ。

「お待たせ」

 小走りで駆け寄って来る少年に、柚葉は目を輝かせた。
 背が高く、細く整った腰つきや足の長いスタイルに、とびきりのイケメンとまではいかないが、十分に格好いい顔立ち――いや、けれど好きすぎてアイドルにさえ見えてしまう。
 寡黙らしい彼の静で落ち着いた声質に、耳が溶けてなくなりそうな思いで興奮しながら、柚葉の方からも洋に向かって駆けよった。
「洋……!」
「おはよう。その服、似合うね」
 開口一番、今日のために密かに選んで買って置き、是非とも次のデートにと思っていた私服を褒められ、ドキリと心臓が弾んで顔が赤らむ。
「あ、ありがとう……」
「髪もいつもよりツヤツヤしてて、肌もなんか……綺麗で……」
 褒め言葉を言うのが本当は恥ずかしくてたまらない、照れ隠しが丸わかりの赤らんだ顔つきで、それでも褒めずにはいられずに、柚葉のことを称えてくる洋の声に、心まで溶かされていく。
「そんなこと……!」
 柚葉も照れを隠しきれずに、顔をどこかに背けてしまった時、ゴクリと生唾を飲んでいる気配を確かに感じた。改めて洋の顔を見てみると、いかにも美味しそうでたまらないものを見る獣の目つきで、しかしそんな自分に気づいてハっと理性を復活させている様子に、間違いなく性欲を向けられたことがわかってドキドキした。
 愛している以上、柚葉にも性欲はあり、そのうち一つに繋がりたい。
「行こうか」
 洋は手を差し出してきた。
「う、うんッ」
 そして、柚葉は手を繋ぎ、デートコースへ向けて歩み出す。
 プランといえば、別にただ映画館のある駅まで電車に乗り、二人で見ようと決めた映画の感想を、ファミレスで一緒に食事をしながら語り合う。デザートを一口ずつ交換したり、意味もなくテーブルの上でお互いの手を触り合って過ごしていく。
 あとはデパートで買いもしないグッズを眺め、買うわけでもない洋服を選んでみて、一緒に読みたい本についてはおこずかいを用意している。色んなところを見て回って、アイスクリームなんかも食べてみて、充実した時間を過ごしていくうちに、デパートを離れた通りに入る。
 そして、ホテルの並んだ道を歩いて、洋はさりげなく切り出した。
「なあ、ちょっと休まないか?」
 ラブホテルの建つ場所で、休憩と称した誘い方があることは、性教育でも習っている。
 教科書の授業の際は、おおっぴらには誘いにくいので、そういう言い回しでさりげなくセックスに持ち込みましょうと教えていた。性交渉に持ち込む指南であると同時に、そんな気のない男性から誘われたら、ホテルに連れ込むテクニックであると警戒せよとも教えている。
 洋は彼氏だ。恋人だ。愛している。
 警戒も何もない。
 それに、付き合いの長さでお互いの気持ちはわかる。教科書の知識や妙な雑誌の知恵がなかったとしても、洋が柚葉としたがっているサインは感じ取れていたはずだ。
「そ、そうだね! 私も、ちょっと疲れたかも……」
 声が上ずった。
 何せ、こうなると休憩を取ることへの合意が、ホテルへ行くことの合意になる。
「行こう。柚葉」
「……うん」
 手を握られ、されるがままに引っ張られ、連れられるままにホテルの入口で部屋を取り、エレベーターにまで入っていく。
 その時が、着実に迫っていた。
(……どうしよう! どうしよう! どうしよう! こ、これから洋とするんだ! や、やばい! やばいよ! 凄い緊張する! 心臓もこんなにうるさいものだっけ? やばい! どうしよう!)
 何が始まったわけでもないのに、エレベーターで部屋の階まで上がっていくだけで、必要以上の赤面が耳にまで及んでいた。
 頭が沸騰しかかっている。
 心臓の鼓動は、胸が破裂せんばかりだ。
(お、思い出そう! 豚山先生と散々してる! もう処女じゃないから痛みもないはず! それに、あとは、そうっ、コンドーム! 洋のことだから、誘うつもりでいたなら用意してるだろうし、なかったとしても部屋に置かれてるだろうから避妊はOKだよね)
 必死になって学んだことを思い出し、頭の中で復讐していく。
(手コキ、フェラ、パイズリ、パイフェラだって、頼まれさえすればみんなできるし……あ、でも……。頼まれなかったら? 洋だって、初めてで頼みにくいだろうし、気を遣って私の方からする? ううっ、そういうのは個別の問題だから、先生の指導でどうにかっていうものでもないし……)
 肝心なところがわからない。
 しかし、洋だって女教師の手ほどきを受け、もう童貞ではなくなっているはずである。性奉仕は体験して、愛撫も習い、避妊の責任についても改めて学んでいることだろう。
(お互いに素人じゃない。だから、気軽に……気軽に……)
 気軽に行こうと、深呼吸で息を落ち着ける。深呼吸で大胆に肩を上下させているうちに、エレベーターは開いて廊下に出る。部屋番号のドアノブに鍵を差し、とうとう部屋まで到着した。
 清潔な純白のシーツが敷かれたダブルベッドに、ここでするのだという覚悟なのか思いなのか。そういったものが胸に込み上げ、緊張による体の強張りと、心臓の激しい動悸はなかなか解けない。
「柚葉」
 洋は黙って、柚葉の背中に腕を回して抱き締めた。
「ひ、洋……」
 頑として離すまいと、誰にも渡すまいとする腕力に、呼吸が苦しいほどに感じるのが、むしろ愛されていることの実感となって心を満たす。柚葉の方からも抱き返し、あらん限りの腕力をかけ、いっそ締め潰すつもりで密着した。
 見上げれば、真剣に射抜こうとしてくる熱意の瞳がそこにある。
(なんでだろう? 生まれて初めてセックスする気がする……)
 指導であろうと、処女を散らしたことは散らしたはずだ。
 それなのに、洋の熱い体温と、柚葉の心を焼き尽くそうとする勢いの情熱に、胸の内側さえ沸騰を始めている。ここまで気持ちが高まれば、もう生涯かけても洋を嫌いになることが出来ない気がして、好きになりすぎることが恐ろしくさえあった。
「ずっと大切にする。一生、柚葉と一緒にいたい」
(ああ、結婚しちゃうんだね。私達って……)
 高校生で、まだ成人後の未来など決まってはいないのに、何故だか確信してしまう。ここまで心の波長が合う相手は、きっと世界のどこを探しても二人はいない。
 指紋や遺伝子の一致よりも細やかに、心の波紋が重なってしまったのだ。
 柚葉の柔らかな頬に、温かい手が触れて来る。
「私も同じ気持ちだよ。洋、大好き」
 目を瞑り、捧げんばかりに顎の角度を上に突き出す。
 すぐに唇が重ねられ、甘いキスに心を溶かされていきながら、うっとりと目を細め、永遠に酔いしれていくかのような時間に浸る。舌を突き出そうとして来る気配に、柚葉は舌を差し出して、お互いに絡め合わせて深いキスにまで発展した。
「んじゅっ、ん、ずっ、じゅぅ――――」
 大きく開いた口で貪り、洋は舌を捻じ込んで来る。柚葉の舌は洋によって絡め取られ、流れ込む唾液の味を感じ取る。前歯をなぞり、歯茎を責めてくる舌先に、こちらからもと柚葉も同じことをやり、洋の口内を蹂躙する。
 逃げられないよう、後頭部が掴まれていた。
 柚葉とて、そうして洋の口が逃げないように手で掴み、自分自身の唇に洋の口を押しつけている。今度は自分が大口を開き、洋の唇を貪るように食べ始め、しばらくのうちに洋も改めて貪った。
「んずっ、じゅむっ、ずっ」
「ずずっ、にゅじゅぅ……ちゅっ、チュゥ……」
 攻め合っているうちに、洋の手は動いていた。肩に乗せられた手の平から、胸を揉みたい意思を感じ取り、柚葉は少し後ろへ引く。胸板へ密着させていた乳房を離し、途端に洋の手が取りついた。
 指導を受けた経験があっても、本当に緊張してしまっている。まるで慣らさず、いきなり胸を揉まれていたら、どれほど驚き、戸惑うことになっていたか。
 とても静かに、柚葉は胸を揉ませていた。
 キスで二人の世界に没入していることもあり、幸せに身を浸している表情で、柚葉の方からも洋の胸をまさぐり返す。その手をしだいに下へやり、腰を撫で、腹を撫でていきながら、ズボン越しの膨らみに這わせていた。
「柚葉……」
 嬉しそうに、気持ち良さそうに、目を細めて洋は快感に浸っている。
「洋……」
 今一度、唇を絡め合わせる。
 そこに何かの合図でもあったかのように、二人はおもむろにシャワールームへ進んでいき、まずは洋が柚葉のカーディガンを脱がせていく。
 次は柚葉が洋のシャツをたくし上げ、剥き出しの上半身はなかなかに筋肉で締まっている。インドア派としては意外な逞しさにドキリとして、柚葉はムラムラと胸板は腹筋を眺めてしまう。
「スカート。たくし上げてみて?」
「……うん」
 気恥ずかしく染まり上がって、柚葉はワンピースのスカート丈を持ち上げる。あらわとなる白い脚から、続いて純白のショーツが洋の目を奪い、熱意を帯びた視姦に柚葉は隠したそうにモジモジする。
「可愛いよ。柚葉」
「も、もう……!」
 怒ったような照れた顔で、ショーツを隠してしまう柚葉だが、ワンピースを脱がそうとしてくる洋の手つきに、大人しく身を委ねる。
 下着姿になったところで、洋は柚葉を抱き締めた。
 それはブラジャーのホックを外すためだと、柚葉にはもうわかっている。柚葉の手も、自然とベルトの金具へ這っていき、指先でカチャカチャと弄って外しにかかる。
 お互いが下着一枚。
 あとは順番に最後の一枚を下げ合って、恥ずかしながら、柚葉と洋は全裸となった。
 シャワールームへ入っていき、プレイが始まる。
 指導を受けている関係上、二人は処女でも童貞でもない。だというのに二人の心は新鮮で、生まれて初めてセックスを行う心境そのものの、ウブな恥じらいに満ちた時間を過ごしていった。



 
 
 

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