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 それは事後。
 情事を済ませた僕達は、お互いに服を着なおし、そのままマットの上で休んでいた。隣同士に並びながら、体育倉庫の綺麗とはいえない天井を眺めつつ、隣にアズキがいることを肩で感じる。
「あーあ、変態ッ。いきなり本番って、そんなの有り?」
 アズキはぷっくりむくれていた。
「だって、アズキが何でも言う事を聞くって言ったんだよ?」
「それは言ったけど、もうちょっと遠慮ってものはないわけ? 馬鹿バカばか! このボケマヌケ!」
「うぅっ……」
「ま、よっぽど私が魅力的だったんだろうし、仕方ない部分もあるけどさー。あんな発情期の犬みたいになるなんて、汚らわしいったらありゃしないじゃない!」
「……面目ない」
 なんかすごい非難されているぞ?
 僕がいきなりシちゃったから、仕方ないのか?
「九条レンなんか。だーいっ嫌い!」
「えー……。またそういう……」
 嫌いなんかじゃないくせに、わざわざ嫌いだなんて言葉を使う。
「嫌い嫌い! 大っ嫌い!」
 それも、甘えきった女の子が無邪気に自分の愛を伝えるような、ちょっと幼い口調で、言葉の上では嫌いと言う。
「僕は好きなんだけどなー」
「バカ!」
「大好きだよ? だーい好き」
「だーかーらー。そういう言葉はそんなにはっきり言わなくていいの」
 アズキはきっぱりとそう言っちゃう。
 好きって言葉が使えないから、わざわざ逆の言葉を使う。
 そんなところが気に入った。
「どうしてさ」
 しかし、僕はわざと理由を尋ねてみる。
「だって……」
 アズキは口をつぐんで言いよどんだ。
「……」
「…………」
 待っていれば再びアズキは口を開き、何か言葉を語るだろうと待ってはみるが、なかなか沈黙は終わらない。静寂ばかりが流れてゆき、この場が静まるあまりに倉庫の外の喧騒が聞こえてきて、耳鳴りまでうるさくなって、やがて僕の方から追求した。
「だって?」
「うぅ……」
「教えてよ」
「ばかぁ…………!」
 アズキは露骨に嫌そうな顔をして、少し顔を赤らめる。
 しかし、観念したように口を開いた。
 ゆっくりと、小さな言葉で。

「だってね? だって……」

 アズキはそのぷっくりとした唇から、躊躇いの篭った小声を放つ。
 そこにはまるで、告白前の緊張にも似た特有の震えが混じっていた。

「だって…………。恥ずかしいじゃない……………………」

 それが答え。
 すぐにアズキは僕のいる反対側へ顔を向け、目が合わないようにしてしまう。
 そんなアズキに僕はドキリとしていた。

 そっか、恥ずかしいか。
 そりゃそうだよね。
 気持ちがバレるのは照れくさいというべきか。なんとなく隠したくなる気がするし、こうして通じ合っていてもなお、僕だって平然と「好き」と口にしているわけじゃない。告白じみた緊張を胸に抱えて、それでもアズキに気持ちを伝えたくて、僕はわざわざ言葉にしたのだ。
「アズキ?」
「……何よ」
「僕は中学で初めて会ってからアズキのことが気になってて、本当に同じ高校になっちゃってからは、もうずっと好きだった」
「私から嫌われてるって、勘違いしたくせに?」
「そうだよ。好きだった」
 僕はきっぱりと言ってみせた。
 アズキが素直に言葉に出来ない分、僕の方から言ってやるのだ。
「ばっかみたい。絶対ふざけてる……」
「真面目だよ」
「いいえ、バカよ。それで好きでいてくれたなんて、本当にバカみたい……」
「だって、仕方なかったもん。一度好きになってしまったら、後から嫌いになるのも、無関心になることも、思うようには出来なくて。そういう切り替えが効かなくて、だからずーっとアズキのことは気にしていた」

「…………ありがとう」

「え?」
「なんでもない」
 いきなりの謎のお礼で、意味合いがわかりかねて僕はきょとんとしてしまったが、考えてみれば簡単じゃないか。

 私のことを嫌いにならずにいてくれて、ありがとう。
 って、そういう意味だ。

「アズキこそ、僕を嫌いにならないでくれた」
「ふん! きーらーい」
「すーき」
「バカ! 勝手に人の言葉を訳すな!」
 ははっ、やっぱり合ってるんだ。

「これからよろしくね」
「ふん。よろしく」

 僕達は、こうして恋人同士になった。



 
 
 

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