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 僕は一人の女子に嫌われている。
 相手は琴宮アズキ。
 四月で高校生となり、同じ中学だったらしい琴宮さんと初めてクラスになってから、僕はたびたび冷ややかな視線を頂戴している。教室の授業中や昼休みの弁当の時なんかに、ふと視線を感じてそちらの方向を見てみると、必ず琴宮さんが僕を睨みつけているのだ。
 まるで僕が悪いことでもして、恨みを買ってしまったかのような怒りの視線。
 もちろん、心当たりはない。
 恨みを買うどころか一年生の時は接点すらなく、せいぜい教室が隣だったから顔を見たことがある程度だ。
 金髪、巨乳。
 抜群なプロポーションと華やかなルックスの顔に目を引かれ、廊下ですれ違う際なんかはついつい後姿を眺めてしまったこともあるが、僕が琴宮さんに行った行動といえばそのくらい。その程度の行動なら、男子であれば誰しもが一度はしている。あれが駄目なら大半の男子が嫌われていなければ道理に合わないのだけど、僕以外も嫌っているかといえばそうでもない。
 何故、僕だけが特別に嫌われているのだろう。
 ただただ、偶然にも同じクラスになっただけなのに。
 今日も僕は睨まれた。
「ねえ、そこの九条レン」
 朝の学校。
 早起きなので早いうちに家を出て、まだ誰もいない下駄箱で靴を履き替えていると、不意に声をかけられたのだ。
 もちろん、不機嫌そうな表情で。
「あ、おはよう。琴宮さん」
 とりあえず挨拶してみる。
「…………」
 返事はない。
 ただ僕を睨んでいる。
「いい朝だね」
「………………」
 声をかけてきたのは琴宮さんの方なのに、クラスメイトとしてのお喋りはおろか、何の用事すらも語られない。ひたすら冷たい視線だけが送られて、僕は浴びたくもない目つきを浴び、気まずいだけの時間が流れる。
 本当に気まずいぞ?
 だって、本当に睨まれるだけなのだもの。
そればかりか、大きな胸に目がいっちゃう。
 ブレザー越しでもボリュームが見て取れるほど、琴宮さんは巨乳なのだ。ワイシャツの白い布地と、ブレザーの紺色が、乳房の丸みにそって円形のカーブを成し、それは腕組みによって下からたぷんと持ち上がっている。
 よーく見ると胸元のブラジャーの色が少しわかって、ゴクリと息を呑んでしまう。
 ブラックホールさながらのパワーで、視線を吸い寄せられるのだ。
 かといって、あんまりジロジロ見ていると、嫌がられたり注意されたりするだろうから、こうして面と向かい合うには目を逸らす努力が必要だった。
「あの、何か用事?」
 耐えかねるようにして僕は尋ねた。
「用事がなきゃ話しかけちゃいけないの? 馬鹿みたい」
 怒られた。何故だ。
 質問しただけじゃないか。
「いけなくはないけど、こうして立っててもね。って、思って」
「そうね。さっさと教室へ行くわよ」
「……あ、うん」
 琴宮さんは僕の顔を伺いながら、着いて来いと言わんばかりにしてくるので、なんとなく流れで並んで歩く。
 もちろん気まずい。
 嫌われているとわかった相手と一緒に歩いていたところで、いくら琴宮さんが綺麗でも、可愛い女子と歩けてラッキーだとかそういう気分にはなれはしない。
 一秒でも早く教室へ到着したくて、僕は若干早歩きで廊下を渡った。
 そして、戸を開き、お互いに自分の席へバッグを下ろす。
 何の因果か今は席が隣同士なため、考えてみれば席に着いたところで琴宮さんから離れられるというわけでもなく、すぐ隣から来る睨む視線に僕はじーっと耐えるのだ。
 じーっと……。
 これ、何の罰ゲームだよ。
 僕は何もしていないのに……。
 本当に何故?
「あのぉ、琴宮さん」
「何?」
「僕のこと、嫌い?」
 恐れながらも僕は尋ねた。
 その瞬間だ。
「――なッ、なんで!? なんでそんなこと!」
 琴宮さんはひどく動揺して、慌てふためいたような表情で声を荒げた。
「なんでって、だっていつも……」
「いつも? いつも何よ! 私が何したの!」
「な、何って……。僕の方こそ君に何かしたの? 僕に覚えがないだけで……」
「嫌いよ! アンタなんて!」
「そ、そっか……」
 わかってはいたけど、面と向かって言われるとやっぱりショックだ。心を強く叩かれたような気がして、気持ちが大きく揺さぶられ、僕は動揺したまま目を逸らした。
 僕は本当に嫌われているんだ。
 正直、つらい。
 ショックでショックで仕方がない。
 好きな子にここまで嫌われているなんて、そんな話があるだろうか。



 
 
 

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