カラオケボックス。二人はそこにいた。
いくら人が少ないとはいえ、決して誰も通らないわけではない階段では、人にパンツを見せるには場所が悪い。ならば安全に二人きりになれる場所とは、駅周辺にあるカラオケボックス以外になかった。
一時間ということで入ったため、これから時間たっぷりまで、ショーツを視姦されることとなる。ただし金は全額桜太が払うことで話をつけたが、一時間もの恥辱を思うと今から気持ちが暗くなる。
「最低よね。本当にクズなんだから、このクズ」
壁にもたれかかった瑞葉は、桜太の醜顔を冷たく見下ろす。
「さあ、見せてごらん?」
スカートの前でしゃがみ込み、いざショーツが見える瞬間を待ちわびている桜太は、実にニタニタとして気持ち悪い微笑みを浮かべていた。
「触ったら大声出すわよ?」
「触らない触らない」
「見るだけよ?」
「うん。約束は守るってば」
「いいわね? 約束よ」
そういって瑞葉は、スカート丈を強く握り締め、そして握力のあまり拳を震わせていた。
パンツを見せる? コイツに?
好きでもない、まして嫌ってすらいる男が、自分の弱みを同時にいくつも握っている。ふつふつと湧き上がる怒りに顔も強張り、力の入った頬の筋肉が小刻みな震えを起こす。
キモデブのクセに……。
瑞葉は少しずつスカート丈を持ち上げ始めた。
「お? お? お?」
太ももの露出面積が一ミリずつ、一センチずつ、着実に広がるにつれて期待に満ちた眼差しを輝かせ、その表情は興奮しきった雄の下品なものへと変わっていく。好きで見せるわけではないのに、いかに桜太が喜ぶかと思うとやりきれない。
それに今の瑞葉の下着は――。
「おおっ!? クマさんだ!」
ぬいぐるみのようにデフォルメされた可愛いクマが、ショーツのフロント側に大きくプリントされていた。
「いいじゃない! なに穿いたって!」
瑞葉の顔はみるみる火照り、反射的に声を荒げた。
「もちろんいいけど、意外だよねぇ? 冬崎さんはもっと地味で大人しい下着を選ぶタイプだと思っていたよ」
「ふん。勝手なイメージね」
痛いほどの視線がショーツに刺さる。桜太は上目遣いで瑞葉の顔と下着を見比べて、瑞葉の赤らんだ表情を見てはより笑う。恥じらう自分の気持ちを見透かされたような気がして、ムッとした瑞葉は対抗意識を燃やして顔つきを強張らせる。鬼のように、悪魔のように、目つきを鋭くして睨んでやろうと意識した。
「顔が怖いね」
「アンタがキモいから」
「どんな顔をしたって、冬崎さんが穿いているのはクマのおぱんちゅ」
「なにがおぱんちゅよ。寒気のする言い方はわざとかしら?」
「クマさんクマさん」
「だからキモイ……!」
瑞葉は丈を握る拳を強め、爪を食い込ませんばかりにした。どんなに凄んだり、冷たい言葉や罵りを行っても、クマのパンツというだけで、どこか馬鹿にされている。
可愛いから選んだ下着だ。クマだろうとキャラクターものだろうと、好きなものを穿いて何が悪い。
下着で人の品格は決まらない。
だいたい、日頃きっちりしている以上は、少しくらい羽目の外れた道を行っても誰も文句は言わないはずだ。真面目だとか、几帳面だとか、そういった道を外れた可愛さばかりの下着選びに何の問題があるだろう。
他にも女児アニメのキャラクターショーツだけでなく、ウサギやカエルを初めとした動物類やゆるキャラなど、バックプリント付きのパンツはたくさんある。
だって、誰に見せるわけでもないはずだったからだ。
さすがにTバックだのシースルーを穿くつもりは皆無だが、下着という隠れた部分で少々道を外したところで、果たして誰に迷惑がかかるのか。他人には見えないところで気ままな自由人として振る舞ったつもりが、こんな奴に見られる羽目になったのだ。
「ギャップ萌え狙いかなぁ?」
桜太の顔が接近する。
「うるさい! 違うし近い!」
今にも鼻先が股間にぶつかってくるかと思うほどの至近距離で、桜太の視界は瑞葉のショーツで埋まったはずだ。興奮で荒くなった吐息が、ぬるい湿気を帯びて内股を通過する。ぞっと鳥肌が広がり、瑞葉はブルッと震えていた。
別に恥ずかしくなどない。
動物に裸を見られたとして、何か問題があるだろうか。豚にパンツを見られて問題あるか。
全くない。
だから恥ずかしくはない。断じて恥ずかしくはないのだ。
「後ろ向きでお尻も見せてね」
「ふん。はいはいはいはい」
壁に額を押し付けて、ややくの字の腰を桜太に突き出した。
途端に瑞葉の心を飲み込むのは、猛烈な不安感である。
前を向いた状態なら、例えば桜太が約束を破って触ろうとしてきても、即座に注意できるしビンタも出せる。しかし、今の姿勢では桜太の顔が見えないから、実際に触られるまでわかりはしない。
それにクマさんだ。
お尻の方が布面積が広いからして、そこにはより大きなバックプリントが貼られている。
「こっちにもクマさんがいるねぇぇぇぇ?」
おぞましいほどの歓喜の声だ。
「……そ、そうね。だから?」
「別に? 可愛いなーって思ってさ」
「ふん。ああそうですかそうですか。いちいち喋らないで頂戴」
お尻に顔が近づいている気配がわかる。舐めるような視線が尻を這って、吐かれた息が布地の表面を撫でている。
「恥ずかしい?」
「別に? なんでアンタごときに恥じらう必要があるのよ」
人を脅迫してスカートを上げさせるクズだ。人としての品格が足りない。そんな豚同然の視線で羞恥にかられる必要性は皆無だ。
「じゃあ言うけど、冬崎さんって左の尻たぶにホクロがあるね」
「――はぁ!?」
そんなことは知らない。自分のホクロの位置など、一体どれほど把握している人間がいるものだろうか。
「自分で知らなかった? 自分では見えにくい位置だもんねぇ?」
「馬鹿じゃないの!? そんなのチェックしなくていいでしょう?」
瑞葉は耳まで赤らんでいく。
「でも、恥ずかしくもなんともないんでしょう?」
「そうね。そうだけど……」
「だったら、足をもうちょっと肩幅まで開いても大丈夫だよねぇ?」
「そんな口車に乗るとでも?」
「あ、本当は死ぬほど恥ずかしいんだ。だから嫌がっているんだ」
桜太の煽る一言。
それが、瑞葉をイラっとさせた。
「なによそれ、これで文句ないってわけ?」
瑞葉はほとんど閉じきっていた足を開き、望み通り肩幅以上に広げてやる。
「もっともっと! お尻を突き出そうよ!」
「ああもう! やってやるわよ!」
「もう両手で足首を掴むポーズになっちゃおうよ!」
「やればいいんでしょ!? やれば!」
本当にそのような姿勢を取った瑞葉は、クマさんショーツのお尻を高く掲げた。逆V字に広がる自分自身の股から、視界が逆さまに見えている。桜太の顔は位置が高くて見えないが、地べたに座り込んで顔を近づけてくる身体はよく見えた。
かなり無防備に尻を晒している。本当に心もとない。自分でも何をやっているのだろうとは思うのだが、恥ずかしくもなんともない以上は問題ない。
「そのままね。そのままパンツを鑑賞させてね?」
「はいはい」
「それにしても、凄いポーズだよ? もし下着がなかったら、アソコもお尻の穴も両方丸見えになるんだから」
そう指摘されるなり、突き刺さる視線の感覚に瑞葉は気づいた。クマのバックプリントの向こう側にある尻穴に意識を捧げ、桜太は透かさんばかりに凝視している。こうなると汚い部分をいいように視姦されている心地がして、瑞葉の表情は屈辱に歪んでいく。
「か、仮に丸見えでも全然平気よ? さすがに見せないけど!」
「それは残念だなー。僕なんかにお尻の穴を見られても、冬崎さんなら絶対に平気だとは思うけど、やっぱり恥ずかしいよねー」
「だから平気よ!」
「そう? だったら見せてくれてもいいんじゃない?」
「馬鹿! そういう問題じゃないわよ。パンツだけで十分でしょう?」
「しょうがない。パンツだけで許してあげるよ」
「何が許すよ偉そうに……」
あとは静かな視姦が続いた。
約束を守って触ることはしてこないが、手をギリギリまで近づけて、撫で回すフリはしてきている。今にも尻を揉みしだきたいのであろう両手の気配が、性器を凝視する顔の気配が、始終下腹部を包んでいた。
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