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 ……嘘っ、嘘!

 典子は完全に強張っていた。
 衝撃だったのだ。
 医者に胸を見せるだけでも、典子は典子なりに腹を括って、ここに来るまでのあいだに心の準備を重ねていた。経験上は服の上からしてくれたり、服の内側に手を入れる形で、胸を見せなくても済んだことの方が多いので、こうして生乳を出した経験は実のところ数えるほどしかない。
 胸を見られる事に関して、典子は初心者といえた。
 それがいきなり、合計四人の男に見られているのだ。
 普段から顔を合わせる担任がまじまじと、朝礼などで顔だけは知っている校長はニヤニヤと、教頭などはさらに卑猥な顔つきで、明らかに楽しむ目的の視線を胸に浴びせられている。
「あ、あの……」
 助けを求める気持ちで、内科医を、養護教諭を、それぞれ見るが、二人は何もしてくれない。
「早く終わらせちゃいましょ?」
 擁護教諭はにっこりと述べるのみ。
「動かないでねー」
 内科医は典子の心境など知らないように、淡々と聴診器を押し当て診察を開始した。
 ぺたり、と。
 胸の真ん中にひんやりしたものが当てられ、数秒ほどで乳房の下へと移動する。内科医はしばし音を聞き、すぐに反対側の乳房へ移動し、あらゆる箇所へと押し当てられた。
 あるのは緊張ばかりだった。
 ジロジロと見てくる三人の教師に対して何も言えず、養護教諭も女性として味方をしてくれるわけでもなく、強制的に視線を浴びる羽目になる。
 最悪だった。
 教師が生徒の体を見て、楽しんでいる。
 されていることは視姦のみだが……。
 それでも、これは確実に性的な被害といえた。こんな形で男にいいように胸を拝まれ、恥ずかしい気持ちにさせられて、典子はただただ下ばかりを向いていた。
「背中を向けてねー」
 少しだけ、視線を逃れる。
 さして安心感が沸くわけでもなく、いやらしく乳房を見ていた視線が今度は背中を撫で回す。まるで目には見えない透明な手が背筋を這い回るかのようで、全く落ち着かない。
 何故、どうして、自分がこんな目に。
 みんな酷い!
 ここにいる全員酷い!
 かといって、たった十二歳の少女が大人に刃向かう度胸を持ち合わせているわけではない。
 そんな言葉を叫べるのは、心の中だけの話である。
「じゃあ前に戻って?」
 嫌だ。
 このまま後ろを向いていたい。
 もちろん、それができるわけでもなく……。
 視姦が再開されるとわかっていながら、典子は自ら前へ向き直る羽目になる。
「視触診に移るからねー」
 そ、そんな……。
 典子はゾッとした。
 例え診察が目的であっても、視線は視線だ。内科医の手も異性のものに違いない。それを気にせずケロっとしていろという方が無理な話で、典子はますます赤く染まった。
 み、見ないで……!
 視診に対する心の叫び。
 胸元へ医師の顔が接近し、こんなにも至近距離で視線を照射されるのは、恥じらい以外に何も生まない。まるでレーザーでも浴びせられたかのように、乳房全体がじんわり痺れ、乳首の当たりがピリピリしてきた。
 思春期の発達が早すぎないか、遅すぎないか。
 どうやら乳房の観察によって確かめられるらしいため、典子はこうして視診される羽目になる。
 それはわかる。
 嫌だし、恥ずかしいし……。
 だが、わかる。
 問題はこの視診されてしまっている姿を、診察とは関係のない三人もの男に見られている状況だ。
 裸自体も恥ずかしいが、見られている姿を見られる。
 というのが、それもそれで何だか嫌なのだ。
 触診だってあるのだ。
「触りますねー」
 と、内科医は手を伸ばす。
 男の手の生温かさに乳房が包まれ、異性に揉まれるという感覚を典子はこんな形で体験した。
 ジロジロと、視線を浴びながら……。
 胸を揉まれている上、その姿を鑑賞される。

 ――可愛いねぇ?
 ――ウズウズしちゃって。
 ――もしかして、感じてる?

 想像が湧き上がった。
 ニヤけた顔の頭の中で、きっと思われていそうな事が典子の脳裏によぎってきて、典子は言われてもいない言葉責めを受けた気持ちになってしまう。

 ――医者っていいよなぁ?
 ――俺も揉みてぇ!

 表情から聞こえる声。
 それ自体は典子の想像にすぎないものだが、、男達の表情は明らかにそう思っていてもおかしくない。

 ――乳首どうなってんだろうなー。
 ――揉み心地が気になる……。

 卑猥な表情がそれ自体、典子にとっては言葉による責め苦に等しかった。
 地獄だった。
 視姦と表情を浴びせられる。
 思春期の少女に対して、心を狙い撃ちした最悪の責めが、こうして典子を縛りつけたのだ。

 そして……。

 典子にとって、これは随分なトラウマになった。
 その日の一日は当然のこと。
 翌朝になっても、その次の朝になっても、心に受けた深い爪跡は根深く残り、そう簡単には癒えはしない。
 担任とは毎日顔を合わせるのだ。
 その顔を見るたびに、担任の頭の中には自分の乳房があるような気がして、もうまともに目を合わせられない。
 そんな日々……。
 恥ずかしかった思い出と、そのフラッシュバックに襲われる日常を典子は送り、やがて思ったのだ。

 少し、気持ちいい。
 ドキドキする。

 何をまかり間違って、トラウマがそんな形へと変わったのかはわからない。
 典子自身にも、わからない。
 元から、典子にはマゾスティックな素質があったのかもしれない。
 あるいは、心の傷を癒そうとする精神の働きが、無意識のうちに典子をそんな方向へ進めたのかもしれない。
 何にせよ。
 典子が自覚を抱いているのは、自分の性癖はきっとあの体験がきっかけであるという一点だけだ。あのせいで、典子は露出への興味を手に入れてしまったことには間違いない。
 もう二年前の出来事である。
 さすがに、今となっては古い記憶にすぎない。
 心の傷自体は癒えていて、言うなれば傷が塞がった後の痕跡だけが、過去の記憶という形で残っている。今でもたまにはフラッシュバックして、自分で自分の思い出を踏みつけたいような気持ちに駆られるものの、当時のような深刻な表情をすることはとっくになくなっていた。
 そんなわけで、典子に最終的に残ったものは性癖だった。

 胸を見られただけで、あれだけの思いをした。
 それが、アソコだったら?
 お尻の穴だったら?

 自分は一体どうなるのか……。
 何故だか興味が沸いてしまって、やがて試したノーパンでの一日が癖になり、典子は露出少女になったのだ。



 
 
 

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