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 日曜日の朝だった。
 眠気からゆっくりと目覚めつつあった仁藤晴美は、自分の身体を圧迫する温かな重量感にぎょっとして覚醒した。仰向けの晴美に重なる心地良い柔らかさは明らかに女の子の感触で、目覚めた矢先に人が自分の上に乗っているなど、普通に生活する分には到底起こりえない事態に心臓が飛び出そうになっていた。
「うわっ!」
 思わず悲鳴を上げてしまった。
 自分の状況に対し、ただちに連想されたのは幽霊である。昔見たテレビの心霊特集で、旅館に泊まったある男が、腹のあたりがずっしり思いと思ったら、恐ろしい顔をした女が自分の上に座っていたという話を思い出した。
「えへへ、びっくりした?」
 戦慄していた晴美は、その正体にすぐさまホッとしたため息をつく。
 相手は佐藤日和だったのだ。
「ほんとビックリしたよ……。窓の鍵、開いてたっけ」
「開いてたよ。だから来ちゃった」
 まさか忍び込まれるとは予想外だが、驚く晴美の顔に日和はくすくす喜んでいる。よほど人を脅かしたかったようである。窓から窓へなど少々危ない気もするが、さほど距離が遠いわけでもないので良しとした。
 そして、パジャマ姿の日和が同じベッドにいるとわかるや否や、今度は股間が反応した。日和は掛け布団の内側に潜り込み、仰向けの晴美の上にべったり重なっているのだ。シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐり、色香と興奮に息が乱れる。
「……悪戯しちゃうよ?」
 晴美は背中へ手を回し、指先でうなじをくすぐる。
「んにゃぁ……」
 日和はくすぐったそうに肩を縮めた。
「可愛い」
 頭をくしゃくしゃ撫で回すと、日和は身を任せるようにうなだれる。晴美の顔横へ頭を落として、衣服を掴んでしがみつき、離れまいとがっしり晴美を包んでいる。そんな日和の耳やうなじや背筋を撫で、指をそっと這わせるたびに、日和はくすぐったそうに身悶えしていた。猫がじゃれてくるかのようで、愛らしくてたまらなかった。
「ねえ、朝でしょ?」
「朝だね」
「なにかやることがあるよね。晴美」
 日和は期待に満ちた顔を向けてくる。
「やること?」
「わからない?」
 日和はやけにニヤニヤしている。
「朝やることって、歯を磨くとか着替えるとか? うーん。そんなんだよね?」
「そういうのじゃないよ?」
「じゃあ、どういうの」
「どういうのでしょう」
「うーむ……」
 答えを求めても教えてくれる様子は一切なく、あくまでも晴美が言い当てなくてはいけないようである。難問を前に晴美は唸り、頭を捻って答えを搾り出そうと思考を巡らす。こうして当てさせようということは、日和は晴美に何かをさせたいのだ。
「当てないと離れてあげなーい」
 日和は肩を握ってしがみつき、胸板に頬ずりしてくる。
 可愛らしい。
 このままくっついてくれていても結構だが、本当に磁石のように引っ付かれたままでは、いずれ親も起きてしまう。
 部屋には鍵がかかっているので、勝手に出入りされる心配はないが。
 朝食も取れないのでは困ることに気づいて、晴美はどうしようもなさに苦笑した。
「もう、どうすればいいのさ」
「ヒントはおはようの何かだよ」
「おはようのねぇ……」
 迷いに迷った挙句、ピンとくる答えが浮かんだ。
 ただ、それを実行する前に日和と上下入れ替わり、晴美が上から覆いかぶさる形となって日和の頬の両手を当てる。
「こういうこと?」
 晴美はゆっくり、顔を近づけた。
「うん。へへっ」
 日和は照れ気味に笑い、瞳を閉じた。
 晴美はその唇へ顔を下ろしていき、そっと、自分の唇を重ね合わせた。ぴったりと触れ合わせたまま目を瞑り、唇の触感を長く長く堪能し、唇を離したあともそのまま抱き合う。日和の唇は蕾のように柔らかく、ふんわりとして心地が良い。
「二回目、しちゃったね」
 日和は照れたような喜ぶような顔で笑った。
「もう一回してみない?」
「うん。もう一回」
「んちゅぅ……」
 再び唇を重ね合わせ、とろけ合う。
「晴美ぃ、もっとぉ……」
「ちゅぅ……」
「もっともっと!」
「舌入れちゃうよ」
 晴美は唇へ貪りつき、舌を捻じ込みながら日和の口を食していく。相手の舌に自分の舌を絡ませ粘膜を味わい、舌先で互いの口内を舐め合って、晴美は唾液を流し込む。
 日和は晴美の舌を伝って流れる唾液を受け取り、抵抗無く自分の舌へ滲ませ飲み込んだ。
 舌を絡め合う心地の良さは、まるで甘いチョコレートが口の中で濃厚にとろけ、舌全体に味が広がるような甘味がある。
 心がとろける気持ちがする。
 きっとこのまま、自分の心と日和の心がとろけ合い、癒着してしまうのではないだろうか。
 通じ合える喜びに晴美は浸った。
「はい、お終い」
 日和はポンと肩を叩いて、そろそろどくようにと合図してくる。
「うん。じゃあ、また後で」
 晴美は日和の上から体をどかし、すると日和は窓を開いて自分の部屋へ飛び移る。
「後でね。じゃあ、着替えるから」
 などと言いながら、日和はカーテンを閉めることなくそのまま着替えを始めてパジャマを脱ぐ。今日のブラとパンツを見せてもらって、それから晴美も着替え始めた。



 
 
 

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