「ちょっと君、待ちなさい」
コンビニを出ようとした時、時槻雪乃は後ろから店員の男に呼び止められた。
その男の様子はどっかおかしく、雪乃は警戒心からポケットに忍ばせたカッターに手を伸ばす。しかしポケットに手を入れた時、盗った覚えのない商品の感触があるのだった。
前編中編後編
僕たち人間とこの世界は、<神の淫夢>によって脅かされている。
神は実在する。全ての人間の意識の遥か奥、集合無意識の海の深みに、神は存在している。
この概念上『神』と呼ばれるものに最も近い絶対存在は、僕らの意識の遥か奥底で有史以来ずっと眠り続けている。眠っているから僕ら人間には全くの無関心で、それゆえ無慈悲で公平だ。
ある時、神は淫夢を見た。
神は全知なので、この世に存在するありとあらゆるエロを一度に夢に見てしまった。
そして神は全能なので、眠りの邪魔になる、この人間の意識では見ることすらできないほどの巨大な淫夢を切り離して捨ててしまった。捨てられた淫夢は集合無意識の海の底から泡となって、いくつもの小さな泡に分かれながら、上へ上へと浮かび上がっていった。
上へ―――僕たちの意識へ向かって。
僕らの意識へ浮かび上がった<神の淫夢>は、その『全知』と称される普遍性ゆえに僕らの意識に溶け出して、個人の抱える固有の欲望と混じりあう。
そしてその<淫夢の泡>が僕らの意識よりも大きかった時、淫夢は器をあふれて現実へと漏れ出すのだ。
かくして神の淫夢と混じりあった僕らの淫夢は、現実のモノとなる。
*
「ちょっと君、待ちなさい」
コンビニを出ようとした時、時槻雪乃は後ろから店員の男に呼び止められた。
一体何の用があるのか。泡禍を探すパトロールの帰り、何か買っていこうかとコンビニに立ち寄ったが、土壇場になって今は小銭を減らすのはやめておこうと思いとどまった。そこまで財布がピンチなわけでもなかったが、無駄遣いはやめようと考え、結局は何も買うことなく立ち去ろうとしていた。
呼び止められたのはそうした時であった。
「なんですか?」
雪乃はひどく不機嫌がちに振り向く。街をまわっても何ら収穫はなく、もう今日はさっさと帰って休もうかと思っていた時だ。不意に他人に止められては、少しはイラつきもする。
だが、その不機嫌な顔もすぐさま崩れ去った。
店員の顔はどこか奇妙だった。
目が虚ろで焦点が合っておらず、ひたすら虚空を見つめている。肌はどこまでも蒼白で、色白というより病的に白い肌をしている。息は興奮したかのように荒れており、美貌の雪乃を前にしてか、興奮してハァハァと呼吸音を立てている。
男の異様な様子もさることながら、気づいてみれば雪乃以外には一人の客もいない。ここは割りと駅の近く、交通量の多い割と繁盛しやすい条件の土地に思えるが、なのに深夜でも早朝でもないのに客が雪乃一人など、おかしいといえばおかしい状況だ。
自動ドアのガラスの外も、何故か人の姿が消えている。夕方近く、まだまだ通行人がいてもおかしくない道のはずが、雪乃とこの店員以外には全く人の気配がないのだ。
まるで、二人きりの空間が出来上がっているかのような状況だ。
もしや、今ここで何かが起こりかけているのだろうか。
「君、何か盗ったでしょ」
「いえ、別に」
意味のわからない疑いに、雪乃は警戒心を強めた。雪乃はもちろん無実であるどころか、結局は何も買わずに帰るところだったので、商品に手を触れさえしていない。一方的に疑惑をかけてきているのは明らかだ。
しかし、雪乃はそんなことよりも別の意味での警戒をしていた。
今にもでも泡禍が起こるのではないか。そうした警戒の元、雪乃はきりっと視線を強め、ポケットの内側にあるカッターナイフの存在を意識した。
今はセーラー服、ゴシックロリータの装いはないが、いざという時の備えには問題ない。あとは油断はしないことだけだ。
「最近、万引きが多くてね。今日も商品の計算が一個合わなかったんだよ。君、ポケットに何か入っているんじゃないの?」
「何もありませんが」
厳密にはスカートのポケットにはカッターナイフがあるが、商品とは関係がないので言う必要はないだろう。
いつでも取り出せるようにと、雪乃はポケットの内側に手を差し込む。
すると――
「……っ!」
――あるはずのない四角い感触に、雪乃は驚愕した。
雪乃は間違いなく、商品に手を触れもしていない。なのにポケットの中には、ビニール包装に包まれた四角いゴムの感触があった――ケシゴムだ。
雪乃が見ていたのはペットボトル飲料だけで、そもそも文房具のコーナーはまわってもいないのに、こんなものが入り込むはずがない。そう、あるはずのないものが入っていた。
間違いない、雪乃はそう感じて咄嗟にカッターを抜く。
「私の痛みよ――」
断章詩と共にカッターの刃を伸ばし、今にも手首に傷を刻もうとする。
しかし……。
ガシッ、
店員の素早い動きに腕を掴まれ、カッターを持つ手首を持ち上げられる。釣りあげられた腕に雪乃の足は浮きかけになり、バランスが崩れる。
「危ないなぁ、こんなものを振り回すなんて」
「離しなさい!」
雪乃はもがくが、男の力には敵わない。またたくまにカッターを取り上げられ、強引に事務室まで引っ張り込まれた。
*
「…………」
事務室の中、雪乃はじっと睨むような視線を店員に送っていた。
カッターは既に没収され、店員の机の上に置かれている。さらにはポケットの内側を探られて、何故か紛れ込んでいたケシゴムを万引きの証拠として押さえられた。スカートの上から、太ももを撫で回す触り方にひどく不快感を感じながら、見つけ出されたのだ。
「やっぱりねぇ、こういうのは良くないんじゃないの?」
良いも悪いも元から盗ってはいないのだが、清算の済んでいないケシゴムを証拠にされた手前では、弁解などできようもない。雪乃は何も言う事なく、ただ店員をじっと睨んでいた。
『しくじっちゃったわね』
背後から聞こえる風乃の声に、ぎりっと雪乃は歯を噛み締めた。
間違いなく、この店員の男は<泡>を内包している。風乃の嘲るような声は確実に当たりだたことを暗示しており、なのにむざむざカッターを奪われた自分の失態が情けなく思われる。わざわざ出てくる風乃にもイラつくが、何より自分がミスを犯した点が雪乃の気分を悪くしていた。
『ここはどうやら、少女を閉じ込める檻だったようね。盗みの罪で鎖をかけて、女の子を捕らえたあと、男は一体どうするのかしら?』
風乃の囁きから、これから起こされる店員の行動に予測がついて、雪乃は息を呑んだ。女ならば絶対に遭いたくない、しかし逃げ場がなければ抵抗できない事態が待っている。ましてや武器を奪われた今、雪乃は下手な動きが取れないのだ。
おそらく、ここは一種の異空間のような状態にあるのだろう。さきほど自動ドアの外に通行人の姿がなかったことといい、相変わらず店員と雪乃の二人以外には誰もいないことといい、二人だけがこの場に隔離されていることは明らかだ。
店員から引き起こされているのは、誰かをコンビニという空間に閉じ込める現象だったのだ。
「他にも何か盗ってるんじゃないの?」
「盗ってないわ」
雪乃はきっぱり否定するが、店員が信じるはずもない。
いや、そもそも信じる信じないという問題ですらない。男の興奮しきった息遣いと、虚ろながらも欲情しきった目つきを見るに、一体どんな目的で疑いをかけてきたのかも想像がつく。店員は淫らなことを考えているのだ。
『神様もいやらしい夢を見るのかしらね。それが泡となって浮かび上がって、引き起こされる泡禍は一体どんなものかしら?』
風乃はただ嗤っている。
これから雪乃が受けるであろう仕打ちに、にやりと笑みをこぼしていた。
「本当にこれだけ? ちょっと身体検査をするから、立っていたまえ」
店員は雪乃ににじり寄り、腕からボディチェックを開始した。肩の上から肘にかけて、そして手首までを順々に撫でるようにして触ってゆき、服の内側に隠されたものがないかを確認していく。
抵抗も考えたが、雪乃はひたすら耐えていた。
『そうよ? 今は受け入れるのが懸命な判断。<泡>を持った相手に<断章>無しで挑むなんて、自殺行為だものね』
そう、雪乃はチャンスを伺っていた。
どこかのタイミングでカッターを取り返しさえできれば、あとは焼き払ってしまえばいい。雪乃はそのための機会を狙って、獲物を狙う獣のように目を細める。
二本目の腕がどうようにチェックされ、次は背中を触られた。背後に回りこんだ店員は、全体をまんべんなく撫でるようにして、首の付け根から腰周りまでを余すところなく触ってゆく。特に腰へのチェックが重点的で、お腹にまで手を回しながら、執拗に撫で尽くしてきた。
そして前から胸を鷲掴みされるが、雪乃はなおも耐え続ける。恥ずかしさに顔を赤らめながらも、机に置かれたカッターへの意識は絶対に外さない。
モミモミモミ……
検査と称した乳揉みはしばらく続き、店員は雪乃の胸を揉みつくす。服の上、ブラジャー越しでも乳房は柔らかく変形し、指の動きの応じてもっちりと形を変える。その乳肉の変形は、服のシワの動きからでもありありと伺えた。
時には脇に手を差し込み、指でくすぐり、再び胸に手を戻す。しだいに乳房が熱くなり、服の内側で乳首が立ち、感じたくもない快感に雪乃はかすかな身もだえをする。
ブラジャーに物を隠すなど雪乃はもちろんしていないが、女ならどこにでも商品を隠し持てるということだろう。元よりそういう目的を持った店員は、無遠慮な乳揉みを繰り返した。
延々と揉まれ続けた挙句、ようやくその手は胸から離れる。
「座りなさい」
今度は椅子に座らされ、雪乃は革靴を脱がされた。靴下の内側に物があるかどうかなど、目で見ればわかるはず。それをわざわざ、店員は触ってチェックしていった。
黒いソックスの上から、店員は雪乃のふくらはぎを揉む。
その肉感の柔らかさを味わいながら、手をゆっくりと足首で滑らせ、足の甲から平までをまんべんなく撫でつくす。そして両手で持ち上げて、クンクンと鼻音をたてて匂いまで嗅いだ。
「もう充分でしょう?」
雪乃は強気に問いかける。
全身を触らせたのだから、少なくとも他にも盗ったものがあるという疑いは消えるはず。そうなれば、検査を建前にしたセクハラも終わるはずだ。
そう踏んだが、店員はそこで卑猥な笑みを浮かべた。
「まだ見ていないところがあるだろう?」
上半身をチェックし、足までチェックし、残っているのはスカートだけだ。
「くっ…………!」
雪乃は悔しげに歯を噛み締めた。
抵抗さえできるのなら、相手が普通の人間なら、雪乃はとっくに相手の股間でも蹴っているところだろう。カッターなどなくとも、雪乃にはそれぐらいはやる気概がある。
だが、店員は普通じゃない。
既に普通の人間から変質して、人の形をしたベツモノへと化している。そんな相手に丸腰で挑むことはできず、やはり今のところ様子を伺うしかない。
セクハラも充分に最悪な事態であるが、生命を脅かすような状況でないことは不幸中の幸いだ。むしろ、これまでの<泡禍>の危険性を考えれば、この程度で済むうちならばだいぶ幸運である。
そう、この程度で済んでいるうちは……。
「もう一度立って」
店員の命令に、屈辱を飲み込んで雪乃は従う。
スカートの前に屈みこんで、お尻に手を回してぎゅっと掴んできた。
「っ! そんなとこまで……」
店員は雪乃の尻肉を揉みしだく。全ての指を踊らせて、たっぷりと揉みまわす。割れ目のあいだに指を入れ、開かせるかのような動きで揉んでくる。
さらに太ももの裏から表を撫で回し、スカート越しとはいえ秘所に指を押し当てる。
嫌がる雪乃は太ももをよじり、反射的にその手を防ごうとする。だが、強引に触れてくる男の指にその程度の抵抗は通用せず、結局は指先で秘所を愛撫された。
こんな大事な場所を知らない男の指にこねられている、ひどい屈辱に雪乃は顔を歪め、男から目を背けた。
「服の上からじゃ、何も見つからないね」
「…………」
「でも、内側を見たら何か出てくるんじゃないの?」
「……!」
男はここで満足するつもりはないというのか。
このままでは、一体どこまでされるかわからない。早く反撃のチャンスは来ないのかと雪乃は焦るが、今カッターを奪い返しにいっても男にやられるだけだ。もう少し、様子を見るしかない。
何もできない歯がゆさで雪乃は顔をしかめていった。
「さあ、まずは胸を見せてもらおうか」
男の下心満載の指示に、雪乃は従うしかなかった。
最近、とある事件があった。
事件といっても、それは誰にも知られていない隠れた一件――警察に知らされることもなく、ならば当然報道されることもなく、密かに闇に消えた事件である。
ある一軒のコンビニに勤めていた男は、自分は一生女性と縁のない奴だと嘆いていた。学生だった頃から女子生徒とは口も聞けずに、一度も彼女が出来ることもなく一人身で過ごし続けてきた。
それでも男同士でさえあれば表面上は明るくハキハキとしていられたおかげでコンビニに勤めることはできたが、自分に恋人ができることなど想像さえできずにいた。
自分は誰とも付き合えない。
そう思い込んでいたある日、女子高生が万引きをしているのを発見した。棚の前で妙にキョロキョロしているのが気になって、じっと様子を伺っていたのだ。気づかれないようひっそりと、レジで外を眺めるフリをしながら横目でチラリと見ているうち、商品の文房具を素早くバッグへしまい込む瞬間を確かに見たのだった。
「君、今何か盗ったでしょ」
そう声をかけると、女子高生はぎょっとしたように固まった。事務室へ来るように告げると、ひどく緊張したようなたどたどしさで案内に着いて来た。
初めはただ、一人の店員としての純粋な対応を試みていた。万引き犯が出た場合、どうするべきかのマニュアルを思い起こしながら、動機や反省の態度を少しずつ確かめていくつもりにすぎなかった。
しかし、その日は夜勤で店員は自分一人しかいなかったため、他に客のいないタイミングだったため、夜中だというのにやって来た女子高生と二人きりだったのだ。誰もいない、二人きりという状況が男の欲望を掻き立てて、一つの考えを実行せずにはいられなくなった。
「君、他にも何か盗ってない? 服に隠したりとかしてないか、確認させてもらおうか」
ボディチェックと称して少女の体を貪ろうと、欲望のままにその体から制服を引き剥がそうと動いたが――。
「いっ、イヤァァアアアア!」
悲鳴があがった。
女子高生は恐怖に喚き散らし、ポケットにあった防犯用のスタンガンを振り回す。そうして争いとなって、押さえつけるのに手間取っているうちに、スタンガンの電流が首筋にあたってしまった。
男は倒れ、その隙に少女は逃げ出し――。
自分も万引きをしていたからか、それとも単に性犯罪の被害に遭いかけたなど人には話せなかったのか。
ともかく、この一件で女子高生は通報を行うことはなかった。
ただ忘れようと必死になり、少女は事件を記憶の闇に葬るのみだった。
そして、暴力という強硬手段を使ってさえも女体を貪る機会を得られなかったその男は、自分は一生誰とも愛し合えない絶望に沈んでいき――。
その後、そのコンビニを訪れた一部の女性は……男の食指に触れた女性は、何故か必ず万引き犯として扱われるようになった。
もちろん、女性達は何も盗ったつもりはない。
しかし、バッグやポケットの中を指摘されると、必ず商品が出てくるのだ。触れた覚えすらない文房具は、本人の知らず知らずのうちに“発生”している。まるで沸き水が沸き出すかのようにドロドロとした粘液が沸きあがり、やがてそれは形を無し、消しゴムやシャープペンシルの形を成す。
見た目の上では商品でしかないその文房具は、悪夢により発生するものなのだ。
*
じぃ…………
雪乃はその綺麗に整った乳房を視姦され、顔を赤らめていた。
デスクに座らされ、そこから足を下ろしている雪乃はセーラー服をたくし上げられ、乳房を完全に露出している。穴の空くほどじっくりと見つめられ、自然と乳首が立ち上がっていた。
「いいオッパイだねぇ」
「…………っ!」
投げかけられる言葉に雪乃は歯噛みし、屈辱を飲み込む。
モミモミモミ……。
無遠慮な手つきが雪乃の乳を揉みしだく。まんべんなくこね回しながらも、指を立てて乳首を虐める。
顔を埋め、乳首に吸い付いてきた。
チュゥゥゥゥ
「くぁっ……あぁ……」
吸い上げられ、唾液の滴る舌先でなめずられる快感に雪乃は喘ぐ。
そして男は雪乃の全身を撫で回した。
背中へ手を入れ、首の付け根から腰周りまでにかけてを丁寧に撫で上げ、スカートの太ももに手を乗せる。
「上半身には何もないようだね」
「そう言ったはずですが……」
「下半身はどうかな?」
スカートの内側へ手を潜らせ、男は雪乃の秘所を指でなぞった。
「くっ……」
ゆったりとしたスライドの往復で男は恥丘の膨らみを味わい、もう片方の腕を背中へ回し雪乃を抱きつつ、男は雪乃をデスクに押し倒した。
「やっぱり触っただけじゃわからない」
男はショーツのゴムに両手をかけ、
「――あっ!」
雪乃は反射的に股を押さえて下着を守ろうとするが、間に合わない。素早かった男は即座にパンツを引き抜いて、仰向けになった雪乃の両足を持ち上げる。性器だけではない。尻穴から乳房まで全てを拝み尽くせる姿勢にされ、雪乃はみるみる赤くなる。
「ふふ、いい姿だ」
「……変態、何もないでしょ?」
「どうかな? 中身までしっかり確認しないとわからないな」
肉ヒダを指で開いて、蠢く乙女の秘穴を覗き込む。
「――――っ!!!」
自分の大切な秘密を覗かれて、それだけで悶絶するほどの恥ずかしさが雪乃を襲った。グラデーションがみるみる濃くなっていくかのように雪乃の顔は赤くなり、ともすれば体調が悪いと言えるほどまで熱っぽく、耳まで熱く染まっていった。
男に肉ヒダをなぞられて、肉芽がゆっくり突起する。
「――いぃ!」
クリトリスへの刺激に裏返った声をあげた。
「この奥に何かを隠していないかな? しっかり確認しないと」
確認と称した愛撫にみるみるうちに濡らされて、愛液が光を反射する。サーモンピンクの恥肉はキラキラ輝き出していた。
男はそこに顔を埋め込み、舌先でベロベロとなめずる。
「く……くはぁ……」
舌に突起を舐めずられ、膣口にねじ込まれる。
「クチュ……クチュ……」
「ん……あぁぁ……」
雪乃の息は確実に荒くなっていた。
男はどうしようもなく上手い。まるで初めから弱点を知られているかのように、弱いところを突いてくるのだ。それが堪らなく気持ち良くて、不快に思う裏腹で身体は素直に反応していた。
熱の篭った吐息は官能的に、雪乃の顔を淫らに仕立て上げている。頬の赤い顔から漏れる熱い呼吸にはたっぷりと淫気が含まれて、男をますます興奮させるには十分なものだった。太い股間が体積を増し、はちきれんばかりに勃起する。
「奥まで……奥まで調べてやる!」
男はガチャガチャと金具を鳴らし、ベルトを外す。
つまみ出した肉棒の先端を入り口に押し付けて、そして一気に、雪乃の膣を貫いた。
破瓜の血がつーっと垂れ出し、同時に、痺れるような痛みが膣内を支配する。
「――――っ!」
雪乃は顔を歪めた。
濡らされたとはいえ初めてだった入り口は、男の太い肉棒には狭かった。それが強引に押し入ったことで肉壁が拡張され、肉棒の形に合わせて引き裂けたのだ。
男は一心不乱に腰を振る。
「――っ! あぁぁ……!」
初めてでは快楽などなく、性感というよりじわじわ来る痛みに雪乃は喘ぐ。
『とうとう許しちゃったわね。可愛い雪乃』
「うるさい……! っあぁぁ……!」
誰がただで許したものか。
囁く風乃をねめつけると、雪乃はそのまま押し倒された。両手を机に押さえつけられ、伸し掛かるようにして腰を振られる。下腹部で剛直の出入りする、体内に向かって鉄の肉塊がピストンしてくる感触が生々しい。その硬さや熱気が如実に感じられていた。
「お前も俺の! 俺の女だ! 俺の! 俺の!」
恐ろしいほどギラついて、唇をベロベロと貪られる。唾液を塗り込まれる気持ち悪さに全身が総毛立ち、口内を犯されないよう必死で歯を噛み締める。しかし、やたらに力の強い男の長い舌は、生物のようにうねって唇を強引に押し開く。
「ん! んくっ、んん……!」
歯を、歯茎をいいように舐めまわされ、長い舌先は頬の内側を通ってくる。噛み合わせた歯を舌愛撫された挙句、結局は歯の隙間を押し開けられ、口内を完全に蹂躙された。
「んっ! んぐぅ……!」
雪乃は涙目になりながら、やはり、と。犯されながらも確信を抱いた。
口内を舐め回してくる男の舌は、異様に長い。世の中には特別長い人間もいるのだろうが、目の血走ったこの男は雪乃の喉奥に到達しそうなほどに舌先を伸ばしてくる。舌にしてはあまりにもウネウネと、生物のように自在に動きすぎているとしか思えなかった。
雪乃の舌は男の舌に絡め取られ、巻きつくように雪乃を攻める。口移しのように唾液を送り込まれ、汚い粘液が舌を通って不快な味を感じさせ、自分の喉まであっという間に到達してくる不快感に鳥肌が立つ。
このまま口を塞がれていては困る。
がりっ、
雪乃は男の舌を噛んだ。
普通の人間なら悶絶するほど、肉を食いちぎってやる勢いで歯を食い込ませ、みるみるうちに血の味が広がってくる。にも関わらず、男はなおもディープキスを続行し、雪乃の唇を味わうことをやめなかった。
やはり、これは手遅れだ。
男はひどく目が血走っていた。眼球に浮き出た血管の筋が濃くなって、それが白目全体に広がっていき、水晶体が破裂して血の塊が弾け飛びそうなほどの異常な充血をみせていた。
「俺の……俺の女!」
ようやくキスに満足した男は、乱暴に乳房を揉むようにしながら、狂った獣のように腰を振る。
「俺の! 俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の!」
必死なまでに声をあげ、目の前の女体を我が物とせんばかりに最奥を突き込む。
それはもう、単なる気の違った人間の姿などではない。充血した眼球から血の涙を流し、舌を噛まれた口から赤くなったヨダレを垂らす。全身から血管が浮き出て今にも破裂しそうになっている男の姿は、もはや<異形>と呼ぶしかないものだ。
そんな異様な存在に、雪乃は犯されている。
しかし――。
「――<私の痛みよ、世界を焼け!>」
次の瞬間、男の背中から火炎が噴きあがった。まるで皮膚から噴火でもするかのように、内側から衣服が破け、真っ黒に炭化したチリが宙を舞う。
「――ぎぃぃぁぁあああああああああ!」
男は絶叫するも、腰振りをやめない。
背中を火の海に変えながら、皮膚の表面を炭化され、だんだんと内側の肉に火力が到達しているにも関わらず、男の関心はセックスだけにあった。
「俺の! 俺の! 俺の女ァア!」
大胆なストロークで腰を押し込み、膣壁を抉る。
「いあぁぁ……!」
雪乃は痛みに仰け反りながら、再び叫ぶ。
「<焼け!>」
さらに火炎が膨れ上がり、天井にまで届かんばかりの火柱が男の背中から吹き上がる。うなじが焼け、肩の肩甲骨まで炭になり、焼けもげた両腕がぼとりと落ちる。臓器にまで炭化が進行し、そして――。
ぐたっ、
と、動かなくなった男が、それでも膣に肉棒をはめ込んだまま、仰向けの雪乃にぐったりと伸し掛かった。
*
それから、雪乃の連絡により、もはや人ではなかった男の遺体が処理された。ここに至るまでの事の顛末を<ロッジ>に語り、泡禍への対処を行ったことを説明したが、もちろん犯された事までは口にしなかった。
『男は女を欲しがるもの。罪人を裁くという名目で、という事だったのかもしれないわね。買い取っていない商品はあくまで店のもの、取られたら取り返す必要があるでしょう?』
悠々と語る風乃の言葉に雪乃は耳を貸さなかったが、それでも風乃は勝手に語り続けた。
『神様の見た淫らな夢か。それとも、ひょっとしたら乙女を襲う狼の悪夢だったかもしれないわね。自分は狼に襲われる。そんな悪夢の物語でもあったのかも』
「!」
もし、その解釈通りだとしたら、犯罪被害という悪夢に遭った少女こそが<潜有者>という事になる。
「……姉さん。この<泡禍>はまだ、終わっていないの?」
『そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。少なくとも、私達が来た頃には、とっくに<潜有者>の辿りようなんてなくなっていたわよね? 男はもう狂っていたもの』
「…………」
『また同じような素敵なお店が現れるかもしれないし、だけど少女がトラウマを忘れれば、そんな心配もなくなるわよね』
雪乃は歯噛みした。
全ては終わったのかもしれないし、続いているのかもしれない。どちらともつかない上、それを特定する手がかりも残っていない。ただモヤモヤした気持ちを抱えていくしかないというのだ。
「本当に最悪ね」
<泡禍>が憎い。
また同じような店があったら、潰してやる。
雪乃はただ、それだけを強く思った。
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