破瓜の血がつーっと垂れ出し、同時に、痺れるような痛みが膣内を支配する。
「――――っ!」
雪乃は顔を歪めた。
濡らされたとはいえ初めてだった入り口は、男の太い肉棒には狭かった。それが強引に押し入ったことで肉壁が拡張され、肉棒の形に合わせて引き裂けたのだ。
男は一心不乱に腰を振る。
「――っ! あぁぁ……!」
初めてでは快楽などなく、性感というよりじわじわ来る痛みに雪乃は喘ぐ。
『とうとう許しちゃったわね。可愛い雪乃』
「うるさい……! っあぁぁ……!」
誰がただで許したものか。
囁く風乃をねめつけると、雪乃はそのまま押し倒された。両手を机に押さえつけられ、伸し掛かるようにして腰を振られる。下腹部で剛直の出入りする、体内に向かって鉄の肉塊がピストンしてくる感触が生々しい。その硬さや熱気が如実に感じられていた。
「お前も俺の! 俺の女だ! 俺の! 俺の!」
恐ろしいほどギラついて、唇をベロベロと貪られる。唾液を塗り込まれる気持ち悪さに全身が総毛立ち、口内を犯されないよう必死で歯を噛み締める。しかし、やたらに力の強い男の長い舌は、生物のようにうねって唇を強引に押し開く。
「ん! んくっ、んん……!」
歯を、歯茎をいいように舐めまわされ、長い舌先は頬の内側を通ってくる。噛み合わせた歯を舌愛撫された挙句、結局は歯の隙間を押し開けられ、口内を完全に蹂躙された。
「んっ! んぐぅ……!」
雪乃は涙目になりながら、やはり、と。犯されながらも確信を抱いた。
口内を舐め回してくる男の舌は、異様に長い。世の中には特別長い人間もいるのだろうが、目の血走ったこの男は雪乃の喉奥に到達しそうなほどに舌先を伸ばしてくる。舌にしてはあまりにもウネウネと、生物のように自在に動きすぎているとしか思えなかった。
雪乃の舌は男の舌に絡め取られ、巻きつくように雪乃を攻める。口移しのように唾液を送り込まれ、汚い粘液が舌を通って不快な味を感じさせ、自分の喉まであっという間に到達してくる不快感に鳥肌が立つ。
このまま口を塞がれていては困る。
がりっ、
雪乃は男の舌を噛んだ。
普通の人間なら悶絶するほど、肉を食いちぎってやる勢いで歯を食い込ませ、みるみるうちに血の味が広がってくる。にも関わらず、男はなおもディープキスを続行し、雪乃の唇を味わうことをやめなかった。
やはり、これは手遅れだ。
男はひどく目が血走っていた。眼球に浮き出た血管の筋が濃くなって、それが白目全体に広がっていき、水晶体が破裂して血の塊が弾け飛びそうなほどの異常な充血をみせていた。
「俺の……俺の女!」
ようやくキスに満足した男は、乱暴に乳房を揉むようにしながら、狂った獣のように腰を振る。
「俺の! 俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の俺の!」
必死なまでに声をあげ、目の前の女体を我が物とせんばかりに最奥を突き込む。
それはもう、単なる気の違った人間の姿などではない。充血した眼球から血の涙を流し、舌を噛まれた口から赤くなったヨダレを垂らす。全身から血管が浮き出て今にも破裂しそうになっている男の姿は、もはや<異形>と呼ぶしかないものだ。
そんな異様な存在に、雪乃は犯されている。
しかし――。
「――<私の痛みよ、世界を焼け!>」
次の瞬間、男の背中から火炎が噴きあがった。まるで皮膚から噴火でもするかのように、内側から衣服が破け、真っ黒に炭化したチリが宙を舞う。
「――ぎぃぃぁぁあああああああああ!」
男は絶叫するも、腰振りをやめない。
背中を火の海に変えながら、皮膚の表面を炭化され、だんだんと内側の肉に火力が到達しているにも関わらず、男の関心はセックスだけにあった。
「俺の! 俺の! 俺の女ァア!」
大胆なストロークで腰を押し込み、膣壁を抉る。
「いあぁぁ……!」
雪乃は痛みに仰け反りながら、再び叫ぶ。
「<焼け!>」
さらに火炎が膨れ上がり、天井にまで届かんばかりの火柱が男の背中から吹き上がる。うなじが焼け、肩の肩甲骨まで炭になり、焼けもげた両腕がぼとりと落ちる。臓器にまで炭化が進行し、そして――。
ぐたっ、
と、動かなくなった男が、それでも膣に肉棒をはめ込んだまま、仰向けの雪乃にぐったりと伸し掛かった。
*
それから、雪乃の連絡により、もはや人ではなかった男の遺体が処理された。ここに至るまでの事の顛末を<ロッジ>に語り、泡禍への対処を行ったことを説明したが、もちろん犯された事までは口にしなかった。
『男は女を欲しがるもの。罪人を裁くという名目で、という事だったのかもしれないわね。買い取っていない商品はあくまで店のもの、取られたら取り返す必要があるでしょう?』
悠々と語る風乃の言葉に雪乃は耳を貸さなかったが、それでも風乃は勝手に語り続けた。
『神様の見た淫らな夢か。それとも、ひょっとしたら乙女を襲う狼の悪夢だったかもしれないわね。自分は狼に襲われる。そんな悪夢の物語でもあったのかも』
「!」
もし、その解釈通りだとしたら、犯罪被害という悪夢に遭った少女こそが<潜有者>という事になる。
「……姉さん。この<泡禍>はまだ、終わっていないの?」
『そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。少なくとも、私達が来た頃には、とっくに<潜有者>の辿りようなんてなくなっていたわよね? 男はもう狂っていたもの』
「…………」
『また同じような素敵なお店が現れるかもしれないし、だけど少女がトラウマを忘れれば、そんな心配もなくなるわよね』
雪乃は歯噛みした。
全ては終わったのかもしれないし、続いているのかもしれない。どちらともつかない上、それを特定する手がかりも残っていない。ただモヤモヤした気持ちを抱えていくしかないというのだ。
「本当に最悪ね」
<泡禍>が憎い。
また同じような店があったら、潰してやる。
雪乃はただ、それだけを強く思った。
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