杏子に迫る弧蔵乃の牙

   






  *元ネタ 原作漫画・四話~五話部分


 真崎杏子が恋をしたのは、彼に命を救われた時だった。
 卒業後はアメリカへ行き、ニューヨークでダンスを学ぼうと計画していた杏子は、密かにバーガーワールドでバイトをして、留学費用を貯めていた。
 そんな時、現われた強盗犯……。
 しかし、人質にされた杏子を何者かが救ったのだ。
 正体はわからない。
 犯人には目隠しをされていたので、杏子はその人の声しか聞けなかったのだ。
 あの声の主は誰だろう。
 一体、誰が私を助けてくれたのだろう。
 白馬の王子に救われた乙女のように、ややロマンチックな恋心を抱いた杏子は、それ以来ずっと、あの声の正体について気にかけていた。
 杏子が予言を受けたのは、まさにそんな時である。

 あなたの前に、そりゃもう素敵な男性が現れるでしょう。
 そして、あなたは自然と身を任せるほどの恋に落ちるのだ。

 未来を予言する弧蔵乃という生徒が噂になり、興味を持って占いをしてみれば、告げられた言葉がそれだった。
 当然、杏子は期待した。

 ――ひょっとして、あの声の人?

 そう期待した。
 そして、その日――。
 弧蔵乃から予言を受けた放課後。
 杏子は遊戯との待ち合わせで教室で待機して、少しばかり待ちくたびれていた。
 全く、遅い。
 バイトのお金が入ったから、奢ってあげようと思ったのに、どうも遅い。
 待ちくたびれた。
 その時。

「真崎さん。誰かと待ち合わせですか?」

 教室に現われたのは、弧蔵乃だった。
「弧蔵乃君? え、ええ――」
「ひとつ予言をしましょう」
 弧蔵乃は言う。
「その待ち人はここには現われませんよ。
 ――でもね、もっと素敵な人が現れる。覚えてるでしょさっきの予言ですよ」
 と、言われても。
「ちょっと、遊戯が来ないってどーゆう事?」
 待ち合わせの最中に、いきなり遊戯が来ないと言われても、約束をしていた手前、今はそちらの方が気になった。
 ただ本当に、純粋に、遊戯が来ないとはどういう事なのかを気にしていた。
 何も疑いもせず。
 杏子は気づいていなかったのだ。
 何故、弧蔵乃は予言や占いなどの力をひけらかし、学校で噂の人気者となっているのか。占いという名目で女の子をかき集めて、実はどんな事を企んでいたのか。
 その獣の欲望を察知できなかった杏子は、警戒することが出来なかったのだろう。

「ボクの予言は確実なんですよ!」

 弧蔵乃が突然飛び掛り、薬の染み込んだハンカチで口を塞いで、杏子はゆっくりとまどろみへと落ちていった。
「あ、あれ……どうしたのかな……」
 ゆっくり、夢の眠りに落ちていくように――。

 そして、杏子は夢を見た。

 恋をしていた男に抱かれ、優しくベッドに寝かされる。体中の愛撫で肌という肌中が心地良く、皮膚が甘くとろけるかのようになっていく。

 ――俺がたっぷりほぐしてやるよ。

 拳銃を持った犯人にゲームを挑んだ命知らずで挑発的なあの声が、今度は杏子の耳元で色っぽく囁いてくる。

 ――俺に身を任せな。

 そんな声が耳に入って、杏子はうっとりと目を細めた。
 秘所へと添えられた男のそれを、甘い気持ちで受け入れて、夢見心地に杏子は初めてを捧げていた。

     *

「ひーっひひひ! 気持ちいいなー! 杏子ちゃんのナカ!」

 眠りについた杏子に向かって、腰を振っているのは他でもない弧蔵乃だった。
「うひょひょひょー!」
 クロロホルムで杏子の意識を飛ばしてから、弧蔵乃はすぐに杏子を床に寝そべらせ、ブレザーのボタンを外してパンツを脱がせた。
 初めからこうするつもりで、弧蔵乃は杏子に目をつけていたのだ。
「おっぱいもデカイデカイ」
 両手で乳を揉みしだき、肉棒では膣を味わう。
 杏子は一体どんな夢を見ているのか。
「……だ、駄目っ。そんなところ」
 うわごとのように、小さな声で呟いている。
「うっへへへ」
 深いスイングで突き上げると。
「……あんっ」
 小さな喘ぎ声が聞こえてくる。
「ほれほれ、ここはどうですかな?」
 乳首を摘む。
「いやぁ…………」
 どこへ刺激を与えても、杏子は甘い寝言を上げて、寝返りのように髪をかすかに振り乱す。頬をほんのり紅潮させ、どこか蕩けたような寝顔で、弧蔵乃の手によって喘ぎ続けていた。
「これで、杏子ちゃんはボクのものだ!」
 弧蔵乃は下品にヨダレを垂らしながら、汚らしくむさぼるように、杏子の唇を奪い取った。
「――ぶちゅうぅぅっ! ベロベロベロ!」
 大口を開けてしゃぶりつき、唾液まみれの舌で唇をまんべんなく舐めずりまわす。
「――ぶちゅ! ぶちゅぅ! ぶちゅっっちゅぅうぅっ!」
 舌を捻じ込み、杏子の口内を味わって、自分の唾液を流して飲み込ませた。
「ボクのものだ! へへっ、杏子ちゃんはボクのだ!」
 弧蔵乃はご機嫌なまでに快楽を貪った。
 計画通りにことが進んだのだ。
 まず、邪魔な遊戯は図書室へ行くよう誘導して、陰から本棚を倒して下敷きにしてやる。無数の文字に押し潰された遊戯は、もう教室にはやって来れないだろう。
 そして、予言通りに素敵な男性として杏子の前へ出てきてやり、眠らせたところを抱いてやる。
 思い通りに事が進んで、ただ肉棒が気持ちいいだけでなく、気分の上でも最高だった。
「――うひょひょぉおおおお!」
 弧蔵乃は、興奮しながら腰を振っていた。
 突き上げるたびに杏子の胸はゆさゆさと上下に揺れ、揉めば指が沈んでいく。
 ボリュームある乳房も、この膣も、最高だった。

     *

 夢の中、杏子はあの声の主に抱かれていた。
 ――杏子は俺のものだ。
 自信に満ちたあの声が、杏子の初めてを奪って一心に腰を振る。恋する相手に奪ってもらえる、その感覚にまどろんで、杏子はただ受け入れていた。
 ――ちゅっ。
 そして、口付け。
 そっと乗せられた唇に、杏子の心は溶かしたチョコレートのようにとろけきり、その瞳は完全に、熱でトロンとしていた。
 声の主は唇を大いに貪り、強引に舌まで捻じ込んでくる。
 ――ちょっと、乱暴……。
 でも、悪くない。
 唇が離れると、また腰振りが再開されて、杏子は初体験への気持ちに浸り込んだ。

     *

 当然、本当は誰に強姦されているかなど気づいていない。
 眠りかけの頭でぼんやりしながら、杏子は目の前にある弧蔵乃の影を声の主のように思い込み、声の主に抱かれる夢を見ながらうっとりしている。
 杏子の目と意識は、完全に現実から離れていた。
「う、嬉しい…………」
 うわごととはいえ、弧蔵乃に向かってそんな事を言っていた。
「ボクも嬉しいよぉぉおお!」
 弧蔵乃はペースを上げ、絶頂へと向かっていく。
「出すぞ! 出すぞおおお!」
 射精寸前まで到達した。
 その時だった。

「よう。弧蔵乃」

 武藤遊戯の一声が、弧蔵乃の動きを制止した。
「ゆ、遊戯……!?」
 現場を見られてしまったのだ。
 弧蔵乃はみるみるうちに青ざめていき、たった今までの興奮も萎えて、肉棒はふにゃりとなる。
 弧蔵乃が冷や汗を流しているのは、単に現場を目撃されたからではない。
 表情が、どこか邪悪だったからだ。
 気の弱そうな、どこかオドオドとした雰囲気からはまるで想像のつかないような、いっそ顔が瓜二つなだけの別人といった方が納得できてしまいそうなほど、自信と怒りと邪悪さに満ちた悪魔の笑みを浮かべている。
「よくも杏子に酷いことをしてくれたな」
 腹黒い笑顔でありながら、身内を犯されたことに対する怒気を確かに含んだ、遊戯らしからぬ低い声だ。
「こ、これは……!」
 さしもの弧蔵乃も身が竦んだ。
「だがチャンスをやるよ。どう、俺とゲームをしようぜ」
「ゲームだとぉ!?」
「俺が負けたら、この現場を見なかったことにして黙って立ち去ってやるよ」
「――ほ、本当か!?」
「ただし、敗者には運命の罰ゲームが待っている」
「い、いいだろう! ボクには見えるぞ? 君が床に這いつくばる姿が……」
 …………
 ……

 そして――。

「――杏子。眠っている女を相手にするのは卑劣なことかもしれないが、こんな奴にヤられたままにはしておけないぜ」

 今度は遊戯がベルトの金具を外し取り、杏子の秘所へ挿入して行為に励んだ。
 弧蔵乃などより遥かに優しく、それこそお姫様を優しく愛するような軽やかな手つきで頬に触れ、遊戯は杏子の膣内を嗜み始める。
「上書きってやつだぜ」
 ゆさゆさと腰を振り、指先で唇を撫でてやり、口付けを交わして舌を捻じ込む。
「――ん?」
 すると、杏子の舌が反応して、遊戯の舌へ絡んできた。遊戯はしばしその舌の相手をして、杏子の唾液を自分の舌で絡め取る。遊戯からも唾液を送って、杏子の舌へ絡ませて、杏子の口内に残っているであろう弧蔵乃の成分を薄めていった。
「どうやら、夢でも見ているようだな」
 可愛い寝顔だ。
 弧蔵乃の手垢を除くつもりで、遊戯はまんべんなく乳房を撫で回して、たっぷりと弄ぶ。乳首を摘み、舌で刺激し、そして腰を振り続ける。
 やがて、絶頂の近づいた遊戯は、一旦膣内から引き抜いた。
「ナカにはさすがに出せないからな」
 肉棒を乳房へ運び、胸に白濁をかけてから、丁寧にティッシュで拭いて痕跡が残らないようにしてやった。
 服を直して、パンツも履かせ、形跡は残さない。
 そして、弧蔵乃との事実も上書きした。

     *

 後日、弧蔵乃の人気は暴落していた。
 実はマンとの下に大量の予言のメモを隠し持ち、そうやってイカサマをしていたことが、学校中に知れ渡ったのだ。

 杏子に記憶はない。

 杏子はただ、自分がエッチな夢を見たと思っていた。
「やだ。あんな夢……」
 目を覚ました時の杏子は、自分自身の見た『夢』に対して赤面していた。