第2話 商品宣伝

 そして、なおも催しは終わらない。
 今度こそ、さすがにもうやることはなく、入札が始まるものと思いきや――。

 パチンッ、

 と、指を鳴らす音がした。
 なかなか大きく聞こえた音が合図となって、始まるものは機械の稼働なのだった。
「これは……!」
 そうなって始めて、鏡流は自分がどういう拘束具に囚われていたかを悟った。単に板を立てておき、そこに縛り付けただけのようなものと思っていたが、背中や尻に感じるシートの感触の、その向こう側には機械の可動パーツが入っていたのだ。
 駆動音と共にだんだんと、手足の角度が変わっていく。足はしだいに開いていき、腕も上へと持ち上がる。
 思えば足首を捕らえるベルトは、両足をまとめて束ねたものではなく、片足ずつに巻きつけられたものだった。
 鏡流はここでようやく、自分が今まで囚われていた板の、真の形状を悟っていた。
 人型に近いのだ。
 頭と胴と手足をシンプルに象ったマークのような、簡素な人型に近い形状で、四肢の角度は自在に変化する仕掛けとなっている。
 腕はバンザイへ近づいて、その途中でぴたりと停止することで、鏡流はX字状にポーズを変えられていた。
 当然、あけっぴろげとなった股の中心にも、競売参加者達の視線は集まっているのだろう。
『なるほど? 確かに同一だ』
 手元のモデルと見比べたのだろう声が聞こえてきた。
「鏡流、またさらに赤くなったな」
「それがどうした」
「可愛いものだと思ってな」
 男が動く。
 床でキャスターの転がる音がして、まだ他にも何らかの機材が置かれていたことにまず気づく。直後にはひんやりとした何かが張り付けられ、主に乳房や下腹部の周りに馴染もうとしてくる電極パッドの、そこから伸びたコードも肌に触れているのであった。
「皆さん」
 男は言う。
「お手元のモデルはサンプルに過ぎません。製品バージョンでは、より高精度のグラフィックを約束します。その高精度の生成に必要な情報を今、取得しようというわけです――
 ――こうやって」
 そこでスイッチが押されたのだろう。
「……んっ」
 ピリっとした痺れがパッドから伝わってきた。
 流し込まれる淡い電流は、ただぴりぴりするだけではなく、神経に乗って恥部を目指す。乳房の周囲に貼られたパッドからは、中心に向かって痺れは走り、下腹部の周囲からはアソコに向かって走ってくる。
 感じるものは性的な刺激であった。
「あっ、な……!」
 まるで神経信号を機械的に入力され、体がそう感じるように操作されているように、鏡流の胸とアソコには快楽が走っていた。漂う刺激に声を上げ、鏡流は両腕をくねくねと、脚をもぞもぞと、四肢を反応させているのであった。
 それだけでは済まされない。
 電流のせいで気持ちいい中で、さらに何かの駆動音が聞こえて来る。
 それはシャッターが開閉して、その内側から器具が伸び出て来る音だった。鏡流が囚われているその分娩台の、厚い背中の板の内部には、それが格納されていた。
 手が生えていた。
 ヘビが巣穴から出て来るように、開いたシャッターの穴から伸びて、多関節を内蔵して自由自在に可動する太く長々としたチューブの、先端には男性サイズの手があった。
 一本や二本だけではない。
 幾本にもわたる手という手は、群がるように鏡流の身体へ絡みつく。乳房がどちらも包み込まれ、太ももにも手が置かれ、アソコのワレメをなぞる指もある。
「ぬっ、ぐぅ――」
 鏡流は苦悶に歯を食い縛った。
 人間の手とは程遠い、作り物とわかる素材の感触だが、五指によって形成された構造は、実際の骨と筋肉を模していそうにも思えてくる。
 それが乳房を揉みしだき、太ももはさすってくる。アソコに対しては指を駆使した愛撫が行われ、鏡流の全身が文字通り機械的に遊ばれていた。
「んっ、なんだ……これは……!」
 パッドから快楽が送り込まれてくる上に、それら機械の手によっても刺激を与えられ、乳首に血流が集まった。みるみるうちに突起していき、固くなった乳首へと、指先が絡みついてくるのであった。
 アソコをなぞる指により、しだいに愛液が分泌される。水気を帯びたワレメには、だんだんと粘液が塗り広がっていくような、ぬかるみによる光沢が生まれていた。
「はぁ……くっ、んぅ…………」
 その快楽に悩ましげな表情が浮かんでしまう。
 鏡流は軽く髪を振り乱し、少しばかり熱っぽく息も荒げた。
『これはまた色っぽい』
『なかなか感じているようじゃないか。ええ?』
『ここは一つ、絶頂なんて見てみたいのだがね』
 投げかけられる声によっても辱めを受ける鏡流は、さらに苦悶の色を強めていく。
 アソコに指が入り始めた。
 一本の指が真っ直ぐに伸ばされて、それが入口へと突き立てられると、閉じ合わさったワレメに押し入って、根元まで侵入させる。
 愛液でぬかるんだ鏡流の膣口は、あっさりと指を内側に収めきり、しかもより大きな快楽を感じていた。
「ぬっ、ぐぅ――くっ、うぅ――」
 ピストンが続けば続くだけ、分泌される愛液の量は増えていく。膣壁が纏った愛液の層が厚さを増し、それが滑りを良くすることで、スピードは変わらなくとも、膣壁に対する感じは変わる。ぬるっと、あっさり擦り抜かれる感じのために、濡れれば濡れるほど刺激は増し、そして刺激がますから愛液の量はまた増えるという、ある種の循環が始まっていた。
 クリトリスも突起していた。
 まだ触られてもいない箇所に、しかしムラムラと淫気は集まって、包皮の内側から顔を出す。鏡流のクリトリスはワレメに隠れているものの、もしも指で左右に開けば、突起物の状態はありありと確認できるだろう。
 実際に、そうする指が現れた。
 ピストンを続ける拳の、その下に潜り込んだもう一つの手の平が、下から入り込む形で、ピースの指でワレメを開く。
『おっ、これは綺麗な』
『実に美しい桃色だ』
『まったく、近くで見てみたいものだ』
 参加者達からの肉ヒダに対する言葉が途端に聞こえ、鏡流はさらに顔を歪めていった。
 中身を視姦される恥ずかしさはもちろんある。
 だが、それだけには留まらない、快感の上昇に対して鏡流はぐっと堪えていた。
 指が増えたのだ。
 三つ目の手が現れ、剥き出しとなったクリトリスを狙い、指先でくりくりとやり始めた。指の腹を辛うじて触れさせて、触れるか触れないかの際どいタッチで行う愛撫は、鏡流の股により大きな刺激を与えていた。
「あぅっ、くぅっ」
 声の色艶が増している。
「はぁっ、あぁ……あっ、んぅ……!」
 膣には指が出入りして、クリトリスにも愛撫が行われ、二重の刺激に下腹部は襲われる。しかもパッドから流れ込む電流によっても気持ちいいために、ならば三重の刺激と言っても良いはずだった。
「あっ、あぁ……あぁぁ……!」
 その二重、三重の刺激は乳房をも襲っていた。
 たった今まで、胸を揉むのは二つ限りの手であった。人間が両手で揉むのと変わりなく、絡みついた五指が揉みしだいているところへと、新たにもう二つの手が伸びて迫ったのだ。
 揉みしだくための手は、乳首を避けてなるべく周りに刺激を与え、新たに現れた方の手が、ぴんと伸ばした指先で乳首だけを狙って上下に転がす。
「んあっ、ぬぁあっ、あぁ――」
 さらには腰にも手が張りつく。ふくらはぎにも、二の腕にも、肘や膝にも、性感帯とは言えないであろう箇所にすら、まだまだ現れる手という手が、表皮を優しげにさすって鏡流に刺激を与えている。
「はぁ――くっ、んぅ――ぬっ、あぅ――――」
 何かが上り詰めてくる。
 このままでは膨らみ過ぎて弾けるような、目には見えない膨張に、これは一体何の感覚かと鏡流はまず戸惑う。
(快楽のっ、まさか……!)
 気持ちいいせいで膨らむ感覚である以上、この先には一体何が待ち受けているのかを、鏡流はほどなくして悟っていた。
 そう、絶頂だ。
 やがて頭が真っ白になり、全身がビクビクと跳ね回る瞬間が訪れるに違いない。
(機械に……イカされる……!)
 如実な予感と、そうなることへの屈辱感に、イカされてなどなるものか、堪え抜いてやろうといった意地が働く。下腹部に力を込めて、我慢の意思こそ働かせるも、それは意味を成さなかった。
「んっ、ぬっぐぅ――くっ、くっぐぅ――――」
 耐えよう耐えようとは思っても、快楽は薄れることすらしてくれない。
 とうとう、その瞬間はやって来た。

「あっ、あぁぁぁ――――――――」

 ビクっと、仰け反った。
 正確には仰け反るはずだった。
 X字状の拘束で、鏡流の四肢と腰にはベルトが巻きつけられている。跳ね上がろうとする体の動きは、それらベルトに阻まれて、だから僅かにしか持ち上がることはない。
 磔のようになっている以上、そもそも背中が後ろに反れることもなく、頭で胴体を押し上げて、本当ならブリッヂの状態に近づくはずだった。
 そのブリッヂが成されることもなく、ただベルトが少しだけ持ち上がり、固定の金具がガチャリと音を立てるのみだった。
 何滴かの水滴が、鏡流の腹にぱらぱらと降り注ぐ。
 その感触に気づいたことで、鏡流は自分が潮吹きすら披露していたことを悟っていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ…………」
 鏡流は肩で息をしていた。
 ……イカされた。
 こうも感じさせられた挙げ句に、絶頂まで連れていかれて、一体何人、ひょっとしたら何十人が見ているとも知れない前で、潮吹きすら披露したのだ。
 今更だが、もしやとの予感が浮かぶ。
「鏡流」
 その予感を肯定する言葉が、実際に男の口から語られた。
「一連の映像はもちろん記録している。お前のエロ動画も販売され、これから大勢の手に渡るんだ」
「どこまでも辱めを……」
 鏡流は歯を食い縛り、目隠しの布の内側では、男を睨みつける眼差しすら浮かべていた。
 未だに力は入らない。
 この拘束を破ることはままならず、まだまだ続く辱めから逃れる術はないのだった。