第3話 ペニスを拝んで
恥ずかしかったぁ……。
その余韻を胸にしながら教室の席に着き、一〇分ほどは息をつく。
教室といっても、この合宿用の校舎には誰もいない。
今この専用校舎の中にいるのは、二人の訓練を見守るトレーナーに、許可を得て入って来ているスタッフ達、用務員や数人の教師といったところである。正式な合宿日ではないために、ここで訓練を行っている最中なのは、智絵里と三郎だけなのだった。
あれから、今度は智絵里が三郎の服を脱がす順番となり、ワイシャツのボタンを開けていったり、ベルトを外すなどしていったが、人の着替えの世話をするのも、何やら妙な気分がするものだった。
こういう経験をする機会があるのは、子持ちの母親か、小さな弟を持つ姉くらいではないだろうか。
智絵里が味わったのは、ならば姉の気分ということになりそうだ。
そして、短い休憩時間を与えられ、少しのあいだは息を落ち着けようと過ごしていたが、いつまでも羞恥の余韻が尾を引いて、胸の中からなかなか消えない。そもそも、服を着る許可が出ていないため、こうしている今も下着姿のままにさせられて、休憩が終わった後には全裸の時間が待っているのだ。
そう思うと、憂鬱な気もしてくる。
今でも頬が赤いのに、全裸になった時の自分は、果たして正気でいられるのか。そんな不安さえ湧いてくる勢いだ。
そして、智絵里が少し休んだところで、すぐにカメラは回り始めて、この休憩時間中にも智絵里は仕事をこなすこととなる。
『脱がしっこを体験してみて、いかがでしたか?』
スタッフの一人がカンペに質問を書き込んで、それを智絵里に見せつけていた。
これはテレビに流すシーンの一部の撮影だ。
放映時には質問内容をテロップで画面に出し、智絵里がそれに答える方式で、訓練を体験してみての気持ちを語る。こうした形で感想を述べるシーンが随所に挟まる予定だそうだが、それがどれだけ放送に使われるかは、智絵里にも撮影スタッフ自身にもわからない。
「そうですね。なんか、変な感じっていうか……服なんて、自分で着替えるじゃないですか……それを人にやってもらうって、きっと三郎くんも、変な感じ、してたと思います……」
『三郎くんの裸はどうだった?』
「ど、どうって……普通、じゃないかなって……。痩せすぎでもないし、太ってもなくて、筋肉が凄いわけでもなくて……」
明確な特徴もないのに、それをどうと聞かれても、答えに詰まる質問なのは当然だった。
『股間は膨らんでいた?』
「え……そ、そう……ですね……!」
そのカンペを見た瞬間に、智絵里は引き攣ったような歪んだ笑顔に固まって、微妙に震えた声で答えていた。
三郎のことを下着一枚の姿にした際、当然のようにそれは目についた。
まだトランクス越しにしか見ていないが、ベルトを外し、チャックを下ろし、そしてズボンを脱がせた際の、テント張りのような膨らみは、鼻先に触れんばかりの勢いだった。
『驚いた?』
「はい……ちょっと……」
自分の下着姿もそうだが、あれを思い出すのも恥ずかしい。
『大きかった?』
「そ、そんなの! わかんないです……大きいとか、小さいとか、比べようもないのに……」
恥じらいを煽ってくる質問に、どこか動揺混じりであるような、上擦った声で智絵里は答えていた。
『次は全裸だね?』
そして、それは質問というよりも、ただ羞恥を煽る言葉以外の何でもない。
「は、恥ずかしいですけど……頑張ります……」
そうとしか答えようがなく、智絵里は俯きながらモジモジと、膝を擦り合わせながら答えていた。
そして、この休憩時間を終え、脱がしっこの続きは始まる。
改めて、両者が向かい合っていた。
気まずいような、照れ臭いような、どちらともつかない様子でモジモジとしながら、顔をしきりに上下左右に泳がせる三郎を前に、智絵里もまた似たようにして立っている。
向き合う二人を見守る形で、トレーナーは中央に立っていた。
「では始めていこう。今度は智絵里さんが先に三郎くんを脱がせようか」
そのトレーナーの言葉に、智絵里は少しばかりぎょっとしていた。
「えっ、はい……」
わかってはいた。
男女どちらも全裸になる以上、その実物を拝むことになるのはわかっていた。
それがもう、今これからとなったのだ。
「じゃあ、脱がせるからね?」
智絵里は三郎の前に膝を突き、腰の両側に手を添える。
こうしてペニスと向かい合ってみただけでも、トランクスの内側に詰まったそれは、どんなサイズ感をしているのだろうかと想像を掻き立てられる。それは決して、興味津々ということではなく、テント張りのトランクスを見ていたなら、それに合わせた棒の長さが自然と頭に浮かぶというものだった。
ゴムの内側に指を差し込む。
あとは下げるだけの段階に至った瞬間、智絵里にも三郎にも、ぐっと高まる何かがあった。お互いの肩に力が入ったせいか、そのまま肩は微妙に持ち上がり、表情もどことなく強張っていた。
智絵里はトランクスを下げていく。
目の前にそれが現れることへの、肉眼で拝むことへの心の準備を済ませつつ、智絵里は両手を動かしていく。下がり始めたトランクスの動きに合わせ、真っ直ぐ手前に突き出ていた肉棒は、テント張りの内側で角度を下げる。
少しずつ陰毛が見え始めた。
さらに下げれば、ゴムが肉棒に引っかかる。ゴムの部分で肉棒の角度を下げる形になりつつも、陰毛の見える範囲はさらに広がり、やがてそれは飛び出て来た。
バネの力で飛び出たとでも言うべきか。
下げるところまで下げた瞬間、ゴムの引っかかりが外れて跳ね上がる。角度の下がっていた肉棒は、元の真っ直ぐに突き出た形に戻ろうとする勢いで、もう少し高くまで上がっては揺れ動く。
そして静止した肉棒と、智絵里は向かい合っていた。
「こ、これが…………」
智絵里は目を奪われていた。
三郎の気の小ささに反するように、それは思っていた以上に太く、血管の浮き出たフォルムが存在感を放っていた。反り返った形状に、大きな亀頭からなるカリ首は、他のペニスと見比べた経験など経るまでもなく、平均よりも立派に違いなかった。
そして、智絵里はその数秒後には、はっと目でも覚ましたように顔を背ける。
(やだ……どうしよう、見ちゃった……)
それはもちろん、トランクスを下げた結果として、肉棒を視界に入れてしまったことへの思いもある。流れはどうあれ、生の実物を目にした動揺で、軽く心が揺れているわけだったが、それ以上に智絵里が恥じらうのは、単に視界に収めただけでなく、もっとまじまじと見つめてしまった点にある。
凝視、してしまったのだ。
いくら立派に見えたからとはいえ、生まれて始めて男のパンツを脱がした上で、その中身を少しでも観察してしまった。まるで清純な乙女としてはしたないことでもしたような、その様子をカメラにも撮られたことへの焦りに近い気持ちから、ふとした拍子に急に目を背けているのだった。
(ち、ちがうの……ちょっと、驚いただけで……)
例えば、珍しい物や動物を見かけた結果、それに目を奪われただけであったら、それほど恥ずべきことではないだろう。
対象がペニスであったことが問題だった。
え? おチンチンに夢中になってる?
などと、周りの人間や三郎から、少しでも思われてしまったら嫌だと思う気持ちが根底にあっての反応といえた。
とにかく最後までトランクスを下げきって、三郎から下着を脱がせ終わった。
そして、次に裸になるのは智絵里の方だ。
「えっ……と、次は三郎くんだから、ブラの方から……お願い……」
智絵里はさっと背中を向ける。
そうやってペニスを完全に視界から締め出したのだが、あの立派なフォルムは一瞬にして目に焼き付き、もう頭の中から離れない。
「し、失礼しますっ」
非常に上擦った声だった。
緊張に震えた指が背中に触れ、ブラジャーの後ろ側をつまんだ時、その震えがそのまま智絵里の肌に伝わって来た。智絵里自身も、これからブラジャーを外されようとしている状況に、ぎょっとしたような引き攣った顔で固まっていた。
(か、カメラ……目の前なんて……!)
カメラスタッフは智絵里の正面側に回っていた。
ブラジャーが外れることで、これからカップの中から現れることになる乳房へと、しっかりとレンズを向けているのだ。
少女の裸を映す以上、男目線での良い絵は必ず撮ろうとしてくるのは、番組製作としては当然の行動だった。番組自体はドキュメンタリー形式で、決してお色気ものとしてのアピールはしないものの、裸目当てに見る男性視聴者は必ずいる。
そんな視聴者層が喜ぶ映像を少しは取り入れるために、ブラジャーが脱げる瞬間という面白みのある映像を撮りたがっているのは、智絵里にも予想のつくところであった。
(使われちゃう……!)
これから撮られる映像は、実際の放送で流れる可能性がきっと高い。
そう感じた智絵里としては、こうなるとカメラの向こう側にさえ意識がいった。編集された映像が放送日を迎えるまで、視聴者などというものは存在しない。不特定多数の視線が突き刺さるのは、実際にはまだ未来の話ではあるのだが、それでも智絵里は意識してしまった。
何百、何千、あるいは何万という人間の目が集まり、ブラジャーが取れる一瞬を見よう見ようと前のめりになってくる。
そんなイメージが浮かび上がって、智絵里は頭を沸騰させていた。
(ほ、放送……流れちゃうよね……たぶん……やだっ、こんなの恥ずかしい……!)
背中の上で、ホックが外れる。
締め付けが緩んだことで、カップと乳房のあいだには、ほんの僅かながらの隙間が生まれた。
「は、外しますので……失礼、しますね……」
肩紐に指が来るものの、三郎の手はますます遠慮がちとなっている。躊躇いと緊張で震えた手つきは、もう普通の服ではなく、下着に触っているのだから当然だろうか。
しかし、肩紐を下げるだけの作業である。
いくら指が震えて手こずっても、それに五分も十分もかかることはなく、せいぜい普通よりは数秒かかった程度の苦戦具合で、後は下ろすことへの躊躇いで微妙に動きが遅いだけに留まって、まずは右側が下がってしまう。
(あぁ……)
これで、乳房露出までのカウントダウンが一気に進んだ。
左の紐にも指が来て、つままれる。
それが下がっていった時、羞恥に歪みきりながらも、智絵里はいよいよ覚悟を決めた。このままブラジャーは取り去られ、乳房が曝け出されるのだという、恥ずかしさに対する心の準備を固めていた。
すっと、ブラジャーが下がっていく。
引き下げていくような形でカップが下へと、智絵里の薄らとした膨らみはカメラの前に曝け出されて、覚悟したとはいえども羞恥心が一気に膨らむ。顔から火が噴き、脳が沸騰するほどの恥ずかしさに、智絵里は悶えきっていた。
薄らかでありながら、確かな山なりを帯びた乳房は、スタッフ達の視線を一気に集めていた。
ブラジャーが完全に取り去られ、もう智絵里にはショーツしか残っていない。
そして、このショーツもまた脱がされることとなる。
三郎が真後ろで、膝を突いて姿勢を低めた。
ショーツを脱がせるために姿勢を変え、顔の高さが尻に合わさったのを、智絵里は気配で感じていた。
(アソコも……お尻も…………!)
智絵里は身構えていた。
カメラの側からはアソコが見えて、三郎には生尻が見えることとなる。
前後からの視線に挟まれ、どちらの恥ずかしい部分も視界に収められてしまう。その瞬間が今に迫って、ぐっと堪えんばかりの顔で備えていると、そしてショーツは下がり始めた。
「失礼します……」
遠慮がちでならない声がかかると共に、ショーツは下へ下へと動き始める。
腰の両側に指が入って、下へと移っていくにつれ、ゴムの食い込む位置も変わっていく。着脱によって起こる皮膚と肌の摩擦に異常なほど意識が及び、尻の露出が進んでいく有様が脳裏に如実に浮かんで来る。
(や……やぁ……やだぁ……!)
もう尾てい骨が出ているはずだ。
そして、尻の割れ目が見え始め、前側ではアソコの露出も迫っている。ショーツのゴムがさらに下がって、尻山の頂点に差し掛かり、さらにその下へと進んで行く。とうとうアソコも外気に晒され、ショーツが太ももを通り始めた時、智絵里の赤面は最高潮に達していた。
頬の赤らみは言うまでもなく、耳さえ染まり変わっていた。
(やぁぁ……いやぁ……!)
苦悶のような表情が浮かんでいた。
撮影陣にはアソコと乳房がどちらも晒され、尻の真後ろには三郎の視線がある。三つの恥部が全て見られている状態で、ショーツが膝を通過していく。それが足首に達した時、智絵里は足を片方ずつどかしていくことになるのだが、下着が人の手に渡る感覚もたまらなかった。
脱いだものはテーブルに置かれるだけで、実際に取られるわけでも何でもないが、人の手によって衣類が遠のく感覚は、智絵里にとって一種の辱めとなっていた。
こうして、智絵里は全裸となった。
そして、三郎も全裸である。
男女二人、お互いに丸裸――自分が脱いだだけでも恥ずかしいのに、三郎があの立派なペニスを丸出しにしているかと思ったら、ますますの苦悶が智絵里の顔に浮かぶのだった。
*
教室で授業が行われる。
トレーナーである男性は、五教科を一通り教えることができるらしく、教科書を片手に歴史について語っている。撮影のテーマに沿うなら全裸登校発祥の歴史をより詳しく語っているところだが、しかしトレーナーの口から語られるのは、普通の近代日本史だった。
生徒がたった二人であることさえ除いたなら、それはごく当たり前の授業風景と課していた。
全裸にも関わらずだ。
丸裸の状態で、せめてもの正装として、二人の首にはそれぞれリボンとネクタイが巻かれている。衣服を着ない代わりとして、それだけを全裸登校における制服として扱っている。
(慣れないよぉ……ヘンすぎるよぉ……)
授業に耳を傾けながら、智絵里は始終落ち着かない様子でいた。
全裸登校期間中は、学年全体が裸となっているため、教室での授業も座席が裸一色に染まることとなる。その学校での、その期間中においては、全裸での授業は普通の光景と化すわけだが、みんなで同じことをするならまだしも、たった二人で裸の授業では、珍妙なことをしている感覚は拭いきれない。
十人以上の人間で、全員で同じことをしていれば、そこには集団心理というものが生まれるものだ。
だが、二人きりではそれもない。
撮影スタッフの存在を考えれば、むしろ普通に服を着た人間の方がこの場には多いため、おかげで自分達の異常性が浮き彫りになっている気がしてくる。よりはっきりと言うのなら、変態チックなことをしている気になるのが辛かった。
特殊な学校、特殊な行事というのは理解しているが、周りも裸になってくれない限り、いわばそれが普通な世界に入門している気にはなりにくかった。
しかし、これも訓練の一環だそうだ。
期間中はこれが普通である以上、訓練中に慣れるようにと計らってのメニューこそ、全裸授業というわけだった。
そして、授業時間が終わって休み時間。
やはり智絵里はカメラと向かい合い、テレビ放送に使うための映像を撮っている。先ほどと同じくカンペを利用した受け答えで、全裸になってどうだったか、全裸授業を受けた感触はどうであるかについて答えていく。
当然のように、生のペニスを見た感想も言わされた。
「すごく……大きかったと、思います……」
肩が小さく縮まる思いをしながら、智絵里はそう答えるのだった。
そして、そんな受け答えの時間が終わると、今日の訓練は終了となり、この合宿所の部屋で寝泊まりをすることとなる。訓練が終わったところで、撮影まで終わるとは限らずに、智絵里の仕事はもうしばらく続いていた。
ようやく訓練が終わり、部屋で一息つく瞬間の絵。
というものを撮るためにも、部屋の中に撮影班を招き入れ、自習している姿を撮らせていた。ベッドに寝転がったり、ぬいぐるみを抱きながらテレビを見る姿なども撮らせていた。そんな放送に使いうる映像素材をひとしきり与えることで、やっとのことで正真正銘、智絵里は一息つけることになる。
眠りにつき、それから翌朝。
生徒が二人しかいない教室で、まず先に行うメニューは再び脱がしっことなった。まずは智絵里の手で脱がせてやり、ペニスを目にする気恥ずかしさを味わいながら、トランクスまで下ろしきる。
交代で三郎が智絵里を脱がせ、ショーツに触られる恥ずかしさを感じながらも、全裸になっていくのであった。
それから、全裸で授業を行う。
二日目での裸は、初日よりはまだしも慣れた気はするが、まだまだ恥ずかしさは抜けきらない。脱がされる感覚にも、撮影班のみんなに肌を晒している感覚にも、完全に慣れきるまでには時間がかかりそうな気がしていた。
一時間目の授業が終わり、二時間目に差し掛かってのこと。
「では二時間目の授業は、訓練の実施としていこう」
聞くなり智絵里は身構えた。
一体、どんなメニューを言い渡されるのだろうかと、できれば優しい内容であって欲しいと願いつつ、不安ながらに構えていると、トレーナーはこう言った。
「今日は野外の散歩を行います」
最悪だった。
「といっても、この周りは私有地になっていて、一般人の出入りはほとんどない。今のところは一般人の視線を浴びることはないから、裸で外を出歩くということに、安心して慣れていって欲しい」
安心して――などと言われても、全裸で野外に出ることには変わりない。
普通であれば変態しか取らない行動など、何も思わず軽々と、というわけにはいかない。
「あ、はは……」
困ったような苦笑の顔で、智絵里は頬を歪めて固まっていた。
見れば三郎も似たような顔をして、外に出ることには抵抗を感じているようだった。