第2話 訓練のはじまり

 これから撮影する番組では、まず冒頭に前回のあらすじを入れ、全裸登校週間とは何か、それはどのような歴史を持つかについて説明する。唯の裸も秒単位で小出しにしつつ、ナレーションの煽り文句と共に企画第二弾のタイトルロゴが画面に映し出される構成になるそうだ。
 その後、今回のゲストとなる緒方智絵里が現れて、視聴者に向かってひとしきりの挨拶をこなす形となる。
 まず、その撮影は滞りなく完了した。
 脱衣を伴うことのない、立って話をするだけの撮影ならば、いかに智絵里であっても緊張しすぎるほどには緊張しない。デビュー間もない頃に比べれば、随分とそつなくこなして見えるはずだった。
 実際に全裸訓練を開始するのは、冒頭の撮影を挟んだ後日となり、智絵里は訓練を始めることとなる。カメラの回った教室で、一緒に訓練を行うペアの相手と引き合わされ、その男の子と一緒にメニューをこなしていくのがおおまかな概要だ。

 そして、智絵里は合宿所の中にいた。

 カメラスタッフを背にしながら、食堂でペアの相手と顔を合わせた時、まずはその緊張をひしひしと感じていた。

「た、田坂三郎と……いいます……よろしく、お願いします……」

 全身を硬くして、見るからに動きのぎこちない少年は、そのカクついたような挙動でぺこりと頭を下げてくる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 智絵里はまだ、平気であった。
 デビュー間もない時期なら自分も同じようになっていたのだろうが、仮にも場数を踏んできていることで、まだまだこの時点から緊張することなどない。
 ただ、この日のうちに服を脱ぎ、どこまでか曝け出すことになることへの思いはあり、今というより少し先の未来に対してなら、智絵里にも緊張感はあるのだった。
 田中三郎は前回登場した少年の弟らしい。
 兄が撮影に付き合った縁から、今度はその弟に話がいったと聞く。というのも、実はたまたまスタッフが話しかけ、雑談によって弟の話を聞いており、弟の志望校が兄の学校であると情報を握ったのだ。
 在校生の中から出演者を選ぶ案もありはしたが、番組プロデューサーとしては弟の存在に目を付けて、第二弾の企画を練り上げた。
 だから高校生の智絵里に対して、ペアを組む相手は年下だった。

 外部の人間であるアイドルと、志望校の行事に備える弟。

 どちらも学校には在籍していない身でありながら、しかし学校の許可や監修の元、訓練は始まることとなる。智絵里のプロデューサーの言うところによれば、三郎が受験生として試験を受け、やがて合格して行事本番を迎える瞬間も、全裸訓練シリーズの続編として使いうるという計算らしい。
 実際に第三弾や第四弾をやるかは不明でも、やることになった場合の布石を既に打っているあたり、番組製作は実に計算高く行われているようだった。

「ではまず、最初はお互いを知るところから始めていきましょう」

 訓練トレーナーがあいだに入り、第一の指示を出していた。
 その内容はシンプルなもので、お互いにお互いのことを交互に質問していくものだった。三郎が智絵里に趣味を聞き、智絵里も三郎に趣味を尋ねる。好きな食べ物、嫌いな食べ物、誕生日や家族についてなど、およそプロフィールに書くような内容について聞き合うことに始まって、それが一通り済んでわかったのは、三郎が気の小さいタイプであることだ。
(ちょっと私に似てる? ような……)
 あまり自信がなく、しどろもどろしている姿は、オーディション会場から帰ろうとしていた時の自分を思い出す。

「ところで、三郎くん。君が我が校を志望する理由は何かあるのかな?」

 本当なら面接試験で行うような質問が、今この場で出て来ていた。
「はい。あの、卒業生の誰もがその後成功してるって評判も気になって、最初は何となくって感じで……。兄と同じ学校にしようと思っていたんですが、最近の兄を見ていると、前よりも堂々としてるっていうか。感じが変わったように思えて、本当に成長できるんだなって、そんな気がして……」
「なるほど? 三郎くんは自分を変えたいと?」
「その……。あんまり、自分に自信っていうか、そういうのがなくて。変われるんだったら、行ってみたいなって」
「そうだね。我が校はそういった志望動機で入学して、実際にモテるようになった生徒もたくさんいるし、君にもチャンスはある。そういうことなら、是非うちに来て欲しい」
「は、はいっ」
 緊張で上擦った返事を返す。

「ではこのあたりで、早速訓練を始めていきましょう」

 トレーナーの宣言により、二人の顔に緊張が浮かび上がった。
 三郎からすれば、異性の裸を生まれて始めて生で直接拝む機会になる。アイドルの裸ということへの期待感と、しかし行事の訓練なのであり、やましい目的で肌を晒すわけではないことへの緊張感がひしひしと伝わって来た。
 当然のように智絵里も緊張していた。
(いよいよなんだ……)
 形式的には一対一でも、実際の視線の数を考えると、このトレーナーの男に加えて、周囲からは撮影スタッフの目が向いてくる。テレビカメラを向け、視聴者に見せる目的の、少しでも良い映りをした絵を撮らなくてはいけないのに、まさか目を背けたり、裸の時だけ後ろを向いて欲しいといったわけにもいかない。
 スタッフもスタッフで、それぞれが仕事でここにいる。
(覚悟しないと……駄目だよね……)
 膨らむ緊張感をぐっと堪え、智絵里は三郎の目を見据えた。
 その三郎の姿は、自分などよりずっと硬い様子であった。肩が石のように硬直して、意味もなく持ち上がっている。顔中の筋肉にも力が籠もり、見ているだけで心臓の鼓動まで伝わってきそうな勢いだ。
(そっか、初めて……だよね……)
 異性の裸もそうだが、アイドルの自分と違って、撮影スタッフのいる前に立つのは、一般人はなかなか経験しないことである。ちょっとしたインタビューなどでなく、れっきとしたテレビ番組への出演となれば、身体中が硬くなるのも無理はない。
 対して智絵里は経験者だ。
 ライブ会場でのステージに、雑誌撮影、トーク番組への出演など、既にアイドルでなければ経験しない場数を踏んでいる。智絵里自身は自分をまだまだだとは思っているが、少なくとも目の前に立つ一般人より、こういう現場には遥かに慣れている。
 自分が彼をリードしなければ。
 そんな使命感が湧いてきていた。
「訓練の目的は言うまでもなく、全裸登校に耐えうる精神を養うことだ。裸で外を出歩いて、学校生活もこなしていくわけだけど、男の子の場合はどんな心の強さが要求されると思いますか?」
 トレーナーが三郎に尋ねる。
「は、はいっ! その、なんというか……ま、周りに女の子の裸があったら、興奮しちゃうと思うので……。ええと、つまり――その、ジロジロと見すぎたり、しないみたいな……」
 頭の中で養うべきメンタルのイメージは出来ていても、それを言葉にできずにいる。そもそもの緊張のせいで、呂律も回っていなかった。
「そう。そこに裸があったりしたら、男としては見ちゃうよね? お尻とか、オッパイに目を向けてしまうのは、男としては正常な反応なんだけど、それが過剰になると女の子に不快感を与えることになる。女の子からしてみれば、変な不審者からの気持ち悪い視線とか、そういうものは浴びたくない。クラスメイトの視線であっても、それと似たような感覚の視線は感じたくないってわけだ」
「はい……ですよね……」
「だけど、裸の女の子がそこにいたって、緊張や興奮でたどたどしくならないで、堂々といつも通りに振る舞う精神が身につけば、いわゆる気持ち悪い視線は送らずに済む。好きな女の子の刺激的な姿があっても、我を忘れて飛びつくような真似はしない。強い理性を養うことが訓練の目的の一つだね」
 トーレーナーは三郎に語り聞かせる内容をそこで区切って、次に智絵里へと目を向ける。
「では智絵里さん」
「は、はいっ」
「女の子の場合はどんな精神を身に着けるべきかな?」
「もちろん、裸になる恥ずかしさを克服して、どんな時でも堂々と振る舞える精神を身に着けることだと思います」
「その通りだね。それに裸で町を歩くだけの度胸があれば、どんな出来事にも物怖じしない。常に前向きで、何事にも挑んでいける心が身につくわけだ」
 こうしてトレーナーの口から語られていく訓練の意義は、前回の放送でも触れられている。第二弾でも同じ説明を繰り返すのか、それともある程度はカットしたり、省略を行うのか。智絵里にそこまではわからないが、ここまで交わした一連のやり取りは、自己紹介の部分も含めて全て丸ごと放送されるわけではない。
 決まった放送時間の中にまとまるように編集される。
 だが、現場に立つ智絵里としては、どこのどんなシーンがテレビに流れても構わないつもりでいなくてはいけなかった。どうせこの部分はカットされ、流れることはないから適当でいい、といった姿勢は良いものではない。
 きちんと望まなくてはならない。
「さて、そろそろ訓練の方なんだけど、まずは当然、女の子の課題は羞恥心に慣れること。男の子の場合は、色々と見慣れてしまうことにある。というわけで、早速なんだけど」
 もうこの時点で、智絵里は覚悟しつつあった。
 唯が裸でテレビに出たのだ。
 智絵里にも同じような課題が待っているに決まっている。

「スカートをたくし上げ、パンツを見せてあげて下さい」

 その瞬間、お互いが同時にごくりと息を呑む。
 まずます緊張していた。
 下着を見せなくてはいけないことに、これから拝むことに、智絵里と三郎の中にはそれぞれの緊張感がぐっと高まる。
「はい……」
 智絵里はぎゅっとスカートを握り締め、持ち上げ始めた。
(は、恥ずかしい……)
 学校行事の体験ということで、智絵里の衣装は学校生活に合わせたもので、スクール用のカーディガンとスカートとなっている。
 そのスカート丈を拳で持ち上げ、少しずつ少しずつ、太ももの露出面積を広げていく。もうこの時点で羞恥心が湧いてきてたまらない。
 三郎が真っ直ぐに見つめているのだ。
 智絵里のことを前にして、これから見える下着に対する期待と緊張の混じり合った目が向いている。見てはいけないものから、本当は目を逸らすべきであるような、どこか罪悪感を帯びた眼差しで、硬くなりながらも下着見える瞬間に備えている。
 そして、智絵里はスカートを上げきった。

 フリルの付いたピンク色があらわとなった時、智絵里の顔は同じ色合いへと染まり変わった。

 ゴムのラインに沿ってぐるりと一周したフリルと、フロント側の布には白い花の刺繍を刻んだ智絵里のショーツは、まず真っ先に三郎の視線から浴びることになる。
 そして、一人分の視線だけでは済まない。
 ついでのように、トレーナーも下着が見える位置に立っている。カメラも下着を映そうと位置を抱え、重い機材を担いだ男がレンズを向ける。何人もの視線がショーツに集まり、頬が過熱されていく勢いで、智絵里の胸には激しい恥じらいの炎が上がり始めた。
(こんなに……みんなで、見るなんて……)
 下着を今すぐにでも隠したくなってきて、しかしトレーナーが見ている手前、勝手にスカートを戻すことはできない。
 三郎の視線が深々と突き刺さる。
 魂でも奪われたかのような、すっかり釘付けとなった視線を浴びているうち、ふとした拍子に三郎と目が合った。智絵里の見つめ返す視線に気づき、目を上げて、それによって目が合うことで、照れくささなのか三郎は顔を背けた。
(あ……)
 三郎の一面がまた、垣間見えた気がした。
(恥ずかしいけど、でも、やっぱり……)
 自分がリードしないと。
 その気持ちがまた改めて湧いてくるのであった。

     *

 しばしの視姦によって第一の訓練項目が終了する。
「では次に、三郎くん。君の手で智絵里さんの服を脱がせていこう」
 トレーナーの宣言により、次のメニューが開始となった。
「この訓練では、その手で女の子を脱がせていくことで、異性に対する免疫を高めていくものになる。男の子は躊躇ってばかりいないできちんとこなし、そして女の子の方は我慢する。もちろん、ただ脱がすのでなく、優しく声をかけたり、気遣ったりしながら脱がせていこう」
 そんなトレーナーの説明に、しかし三郎の手はすぐさま伸びてくることはない。
「さあ、まずは智絵里さんを下着姿にしてみよう」
 と、トレーナーは三郎の背中を押す。
 後ろをポンと叩かれるのにつられ、三郎は一歩前へと出てくるが、しどろもどろになるばかりで一向に手が来ない。
(やっぱり、遠慮しちゃってるよね……?)
 もちろん、積極的に裸になりたいわけではない。
 きちんとした交際相手というわけでなく、今日初めて会った相手に過ぎない以上、一定の抵抗や不快感は避けられない。それを我慢するのも訓練の一環なのだろうが、肝心の三郎が動かない限り、このメニューは進まない。
 男の子の手で、女の子を脱がせる。
 そういう内容である以上、まずは三郎が動かなくてはならない。
(どうしよう。でも、なんて言ってあげれば……)
 こちらからリードしてやらないと。
 そうは思っても、そうそう上手い言葉を思いつくわけでもなく、智絵里は迷いに迷いながらも無難な言葉を捻り出す。
「あのっ、大丈夫だよ?」
 智絵里は言った。
「訓練だし……怒ったりしないから、まずは簡単なところから……ね……?」
 優しく言ってやりながら手を伸ばし、三郎の裾を掴んで引き寄せる。首元にまで持ち上げて、最初はリボンを外すように促した。
「あ……お、緒方さん……」
「大丈夫、だからね?」
「はっ、はいっ」
「外し方は、わかる?」
「あのっ、なんとなく……」
 三郎の手つきは実にたどたどしいもので、遠慮に満ちてはいるものの、留め具を手前に引きだそうと、ワイシャツの首の部分に指を入れ始めていた。触ることが申し訳ないかのような、引け気味な手ではあったが、横側にあった留め具を見つけ出し、三郎はどうにかそれを外してみせる。
「……で、できたねっ」
 智絵里はそう笑いかけていた。
 これでまず一歩、少しだけ裸に近づいたのかと思うと、薄らと僅かに顔は引き攣るが、智絵里は三郎に自信を持たせようとしていた。
「ええっ、あの……。次はカーディガン、でしょうか」
「うん。お願い、ね」
「で、では……」
 今度は三郎自身の意思で手を近づけ、ボタンに触れようとはしてくるものの、硬いプラスチックの領域に指先を当てた途端、見るからに動きが鈍くなっていた。
 智絵里は思う。
(そうだよね。触りにくいよね……)
 相手がどう反応してくるか、智絵里が嫌がったり、露骨に不快感を覚えはしないか、三郎はそういう心配をしているはずだ。そう感じた智絵里は自らのカーディガンを手で掴み、なるべく手前に引っ張ることで、たとえ衣服越しにでも肌に触れにくいようにしてみせた。
「この方がやりやすい、かな……?」
 そっと、尋ねる。
「はいっ、たぶん……」
 とはいえ、今度は純粋にボタンに触りにくくなったのか。三郎はボタンを外すのに苦戦している様子であったが、数秒は手こずったところでようやく外し、次のボタンに取りかかる。次のボタンも、その次のボタンも、いくらかの苦戦の末に外していき、やっとのことで智絵里のボタンは外れきっていた。
 肩のあたりの布を掴んで、三郎はカーディガンを脱がしていく。
(ヘンな感じ……)
 服を人に脱がせてもらうのは、慣れない奇妙な感覚がする。
 よほど小さい頃なら、親に着替えの面倒を見てもらうかもしれないが、一六歳にもなってこういう経験はあまりしない。
「わ、ワイシャツも……脱がしますからね……」
「うん。いいよ」
「では……その、やりますので……」
 遠慮がちでありながら、三郎は腹に指を引っかける。ボタンの隙間に指先だけを差し込んで、まずは引っ張り出していた。スカートの内側に入った裾を引き出し、それから手前に布を引っ張るようにしながら、下から順にボタンを外す。
 多少は慣れてか、かといって苦戦の感じが完全に抜けきったわけでもなく、ほんの僅かな手こずりの上で一つずつ外していった。
 外せば外すほど、三郎の手は鈍る。
 腹から順に肌の露出度が上がりつつ、その手は胸に近づいている。三郎としては人を裸に近づけている実感が湧くはずで、智絵里としてもその緊張感が湧いてくる。ボタンが外れるところまで外れていけば、ピンク色のブラジャーが見えることとなり、その次はスカートを脱いで下の方も丸出しだ。
 まずは下着姿とは言っていたが、その下着もきっと脱ぐ。
(近づいてるんだ……裸が……)
 頬が染まり始めていた。
 ショーツを見せた余韻もあるが、全裸というゴールが見えた気がして、今のうちから羞恥心が湧きそうだった。
 三郎は布を手前に引っ張って、肌に迂闊に触れないように外している。
 もうヘソが見えており、しだいに鳩尾も見えてくる。
 そんな位置まで指がきて、また一つボタンが外れ、いよいよブラジャーの露出が始まる瞬間を迎えていた。
「いい調子だ。三郎くん、これは課題だからね。遠慮なく脱がしていいんだ」
「は、はい……」
 声が上擦っている。
 トレーナーの言うように、三郎としてもなるべく躊躇いすぎないように意識はしてか、より高い位置にまで手を進める。
 そして、次のボタンを外した時だ。
「あ……」
 そんな小さな声を上げ、三郎は目を逸らした。
 顔を横向きにしながら、ブラジャーを見る側である三郎の方がむしろ恥ずかしそうにして、視線を背けているのだった。
「だ、大丈夫……だってば……」
「すみません……」
「……そんな、あやまらないで?」
「はっ、はい」
 駄目だ、どうしても三郎の緊張を和らげられない。
 智絵里自身、スタッフに囲まれながら下着姿に近づいて、最後には全裸ということへの緊張がどうしても抜けきらない。自分自身も緊張はしているのに、人の緊張をどうして和らげられるのか。
(で、でも……なんとか……私が……!)
 ではどうしたらいいだろう。
 自分は一体、三郎のために何ができるだろう――年下の緊張をほぐすには、どんなことができるだろうか。
 そうだ、一つ気になることがある。
「あの、この課題って、私が裸になった後は三郎くんも……ですか……?」
 不意の疑問をトレーナーに尋ねてみる。
「そうだね。智絵里さんが裸になった後、交代で君が三郎くんを脱がせることになる」
「なら、お互い様だね。ほら、私が恥ずかしいことになった後は、今度は三郎くんの方が恥ずかしい思いをするから……お互い様、だよ……?」
 そう言えば少しは三郎の中の何かを和らげ、過度な遠慮や緊張を取り去ることが出来るだろうかと思っての言葉であった。
「そ、そうですよね……すみません、もう少し……堂々とするように、してみます……」
 三郎自身、自分は緊張のしすぎ、躊躇いすぎとは思っていたのだろう。
 それを振り切らんばかりにして、三郎は前に視線を向けてきた。
(あっ、そっか……)
 頬の内側が熱っぽく赤らんだ。
 三郎が顔を背けることをやめ、きちんと前に目を向ければ、こうしてブラジャーを見られることになってしまう。どうせ下着姿どころでなく、もっと恥ずかしいものを見せるとはわかっていても、今の智絵里はまだ下着の露出にも慣れていない。
 さらにボタンが外れ、ピンク色の見える範囲が広がった。
 また一つ、さらに一つ、引っ張ることで肌から引き離してあるワイシャツから、ボタンは順々に外れていく。その指が首までやって来て、ついに最後のボタンが外された時、ワイシャツは左右に広げられていくこととなる。

 そして、下へと引き下げていく形で、智絵里はワイシャツを完全に脱がされた。

 上半身、ブラジャーのみ。
 ピンク色のカップにかかったフリルは、白に近いほどに薄らとした薄ピンクで、中央は赤いリボンで飾られている。肩紐のそれぞれ頂点にもリボンがあり、比較的華やかな部類のこの下着は、テレビに映ることを考えて選んだものだ。
 テレビ番組に出るための身だしなみは、全裸訓練という企画が故に、服の内側にまで及んでいるわけだった。
「か、かわ……いい……」
 三郎はそんなことを小さな声で、無意識のうちに呟きながら、智絵里の肌に目を奪われてしまっていた。先ほどは目を逸らそうとしていたのに、いざブラジャーを露出しきって、こんな姿になった途端、今度は男の子に対する視線吸引力が働き始めたらしい。
 どこか呆然としたような顔で、三郎は智絵里の下着姿を見ている。
 智絵里はさらに赤らんでいた。
 見惚れた顔でじっくりと見られる恥ずかしさに、智絵里はしきりに俯いたり、目を左右に泳がせていた。
「つ、次……だね……!」
 上擦った声で、無理にでも切り替えていた。
「はいっ、そうですね……そしたら、スカート……」
 三郎の目が下半身へと向けられる。
「う、うん……」
 この一着を手放せば、いよいよ下着姿である。
 そして、下着姿の次は、きっと全裸が待っているに違いない。その瞬間が怖くもあり、そして大いに恥ずかしい。今でさえ頬から火が噴き出ている最中なのに、丸裸になどなってしまったら、自分は一体どうなってしまうのか。
 だが、見れば三郎がまた躊躇っている。
 その躊躇いを見ることで、何度となく湧いた使命感を改めて思い出す。
「ほ、ほら! 大丈夫、だから……!」
「え、ええ……では……!」
 三郎の手が伸びる。
「うん、うんっ、ホックは、ここね?」
 留め具の位置を指で示すと、ちょうどその位置に両手は来る。三郎は迂闊に触らないように気をつけて、なるべく布を引っ張るようにしてはいるものの、さすがに少しは指が触れてくるらしい。
 スカートに指が埋まる時、その指が腰の皮膚に当たってきた。
「すみません……」
 それが悪いことであるように、謝りながらホックを外す。
 スカートの締め付けが緩んでいた。
「次は、チャック……だからね……」
 心臓の鼓動が高鳴った。
 鼓膜の内側が心臓によって揺らされていた。
「はい……」
 チャックがつままれ、下ろされる。
 ますますスカートの締め付けは緩んでいき、しまいにはばっさりと、そのまま床へと落ちて広がっていた。智絵里の足元にはドーナツ状のリングが出来上がり、靴下や中履きを残すのみの下着姿となっていた。
「あ……!」
 わかっていた。
 こうなることはわかっていながら、しかし急にばさりと落ちるとは思っていなかった。三郎がたどたどしく両手で下ろし、だんだんと下がっていく結果として、下着姿になるものと思っていた。
 それが思いの他、あっさりとした形であった。
 そのあっさりが故、智絵里はどこか呆然としながら、思い出したように急速に赤らんでいく。

 かぁぁぁぁぁ……!

 赤く染まっていた頬から、さらに赤らみの面積が広がっていた。
 まさに顔から火を噴く表情で、智絵里は羞恥に歪みきるのだった。