前編・遭遇とハプニング
貸し切りの温泉に浸かっていた。
今夜は妙に寝付きが悪く、深夜だというのに目が冴えるのはどうしてだろう。そんな時に思い出したのが、確かこの旅館は深夜も露天風呂が開いている事だった。
だから樋口円香は温泉の湯に肩まで浸かり、巨大な湯船の縁に背中をもたれかけていた。都会では拝む事の出来ない夜空を眺め、湯煙の中でぼーっとした時間を過ごし、そろそろ上がろうかと脱衣所へ戻っていく。
円香は仕事で外泊の最中だった。
遠い土地での撮影を行うため、プロデューサーが手配した旅館に泊まっているのだ。
なんと部屋では一人きりだ。
本当は同室で過ごす相手が、例えば浅倉透でもいれば良かったが、今回の仕事に欲しいアイドルは一人きり、円香の遠出に付き合わせる事の出来そうな、丁度良くオフになっている子もいないという、困ったタイミングのおかげでプロデューサーと二人きり、長い車の時間を過ごしてここに来た。
当然だが、男性であるプロデューサーとは部屋が別々だ。
隣同士ではあるので、何かあったらいつでもドアを叩いて良いと言われているが、どうしても眠れないという理由で、退屈しのぎに叩き起こすわけにはいかないだろう。
温泉でリラックスした今なら、今度こそ寝付けるはず。早いところ部屋に戻って、きちんと寝ようと脱衣所の戸を開き、円香にとっての衝撃はその時だった。
「え……? は……?」
円香は動揺と困惑を同時に浮かべ、大きく目を丸めて固まっていた。
戸を開いたら、そこには男の子が立っていたのだ。
「えっ……!?」
向こうも同じように驚いて、同じように固まっている。
温泉から上がろうとした円香と、これから入ろうとする男の子が、こんな形で鉢合わせれば、お互いの裸が目に飛び込む。咄嗟に腕で隠したり、即座に向こうを向いてもらうのが当然の話だろうに、しかし今は衝撃で頭が真っ白に、両者共々フリーズしていた。
そして何秒経っての事だろう。
「ひ、樋口さん?」
ようやくフリーズの解けた男の子は、動揺を残した表情で股間を硬くしていた。
「うっ……!」
見るに円香は引き攣った。
血管を浮かせた生々しい肉棒に、自分の裸がいかに目の前の少年を興奮させているかに気づき、ようやく円香は顔を赤らめ腕で乳房を押し潰す。手の平でぴったりとアソコを覆い、腰をくの字に引っ込めるばかりでなく、肩もぐっと内側に縮めて少しでも恥部を隠そうと努めていた。
「な、なんで……! こんなところ!」
円香は眉を顰めて怒鳴り散らした。
裸を見られてしまった激しい羞恥と、女湯に入り込まれた怒りで、円香は耳すら染まっていた。
目の前の少年には見覚えがある。
知り合いという程の仲ではないが、同じ場所に何度も通い続けていれば、嫌でも目に付く顔の一つや二つあるものだ。
つまり、彼はクラスメイトだ。
クラスの男子に裸を見られた。
赤の他人ならいいというものではないが、たった数秒でも裸を見られた相手がクラスメイトかと思ったら、赤面から噴き出す熱で脳まで温まっていきそうだ。
「なんでって、俺は家族旅行で……」
「そういうことじゃなくて、女湯の時間帯だけど!? なんで入って来たの!? 始めから覗き目当て!?」
「はあっ!? 男湯の時間だぞ! 間違えたら大変だし、ちゃんと確認してきてるから」
思わず覗き目当てと口走り、円香のその言葉が面白くなかったのか、少年もまたムキになって声を荒げる。
「こっちだって確認くらい――――」
返しかけた円香の言葉はそこで途切れた。
何人もの男の声がみるみるうちに迫ってきたのだ。
年配であろう声という声の数々は、果たして何人グループのものなのか。廊下から脱衣所にまで響く大きなお喋り声を耳にするなり、まず円香は凍り付きつつ不安になる。
まるで不安を的中させるようにして、がらんと戸の開く音まで聞こえてた時には、円香は完全に引き攣っていた。
「えっ、嘘っ! まさか本当に私が間違えて……」
顔中から血の気が引く。
目の前の少年ばかりか、もっと多くの男に裸を見られかねない危機感で、恥ずかしさどころではなくなっていた。
「樋口さん、言ってる場合じゃない! ヤバいから!」
慌てふためく顔をして、少年は小声で騒ぎ、そして次の瞬間に円香の腕を掴んでいた。
「えっ……!」
強い握力に引かれてフラフラと、彼の逃げ込む先にそのまま円香も突っ込んで、そんな咄嗟の慌てた判断と、ものを考える余裕もない時間の無さが生み出す結果は最悪だった。
確かに迅速な行動が必要だった。
急に起こった出来事に、直ちに判断を下して動きに移り、それで機械のように正確に、最善の答えを叩き出せというも無茶な話だ。
そして、あのまま固まっていようものなら、少年少女が裸で向き合う場面を見知らぬ男性陣に見つかっている。何の事情も知らない赤の他人は、円香と少年の鉢合わせた場面を見て、一体どう考える事だろう。
円香はアイドルだ。
スキャンダルを起こすわけにはいかない立場で、そんな場面を間違っても人には目撃されたくなかった。
それは確かだ。
素早く行動に移り、何とか隠れようと考えるのは、それ自体が間違っているわけではない。
だが、それにしても――。
二人はロッカーに閉じ込められていた。
狭い空間に二人で突入してしまった。
学校でも見かけるような、掃除用具の収納に使う鈍色のロッカーは、不幸中の幸いなのか中身が空で、二人の人間が収まるだけのスペースはあったのだが、こうも狭い場所では体が密着してしまう。
だから動揺が続いていた。
少年と鉢合わせ、それに続けて今度は他の男性陣が脱衣所に入って来て、咄嗟に隠れる形になったはいいが、その結果としてお互い裸で密着する。これだけ事件が続けば動揺が収まる暇もなく、閉じ籠もって数秒か十数秒、密着について気にする余裕がなかった。
少しは冷静になってきて、ようやく密着が気になって仕方なくなり、円香はそこで羞恥心を思い出す。
下手に動けば誤ってキスをしかねない、危ういほどの目の前に少年の顔はあり、それだけ距離が近ければ、乳房を彼の胸板に押し当ててしまっている。互いの足が絡み合い、肉棒が円香の体に触れている。
「あのさ、もうちょっと向こうに行ってくんない? 体、当たり過ぎなんだけど」
険しい顔で小声で囁く。
「無理だって、狭いんだから」
少年は試しにもぞもぞと動きはするが、すぐに苦しげな返事が来た。
ならば円香自身で後ろに下がろうとしてみるも、確かにほとんど空間がなく、ほんの数センチでも少年から遠退こうとした途端、背中が壁に当たっていた。
お互いの背中が後ろに触れて、最大限に隙間を作ろうとしてでさえ、乳房の先端がギリギリで少年に当たっている。こうなると下手に隙間を広げれば、乳首を駆使して相手の肌をくすぐる形になってしまう。
「……最悪」
本当に困った状況だ。
どう足掻いても接触の避けようがなく、男の子の体の中で最も触れたくない部分が太ももに当たっている。それに気づいて、少年は腰を引っ込めようとする素振りを見せるが、やはり壁に当たって後退できず、男根との接触は我慢せざるを得なかった。
「ごめん、咄嗟で……。慌てちゃって」
少年は小声で話す。
「咄嗟だったのはわかるけど、ホントに最悪だから」
円香も同じだけ小さな声で、間違ってもロッカーの外に聞こえないように気を遣う。
脱衣所で男性陣が服を脱ぎ、温泉に入ろうとしているのだ。このタイミングで出て行けば、裸の男女がこんな所に居た事実が見咎められ、何を言われたものかわからない。
「着替え、終わんないね」
気まずそうな表情で、しかしチラチラと人の体を気にしながら、少年は横目で戸の向こう側を気にかける。
「っていうか、私が一人で隠れれば良かったはずだけど」
いかに咄嗟で、正確な判断に無理があったか、頭ではわかっていても、困った状況に置かれた少女としては、どうしても文句が出るのが心情というものだった。
「本当にごめん、本当に咄嗟で……」
「そりゃ、咄嗟だったろうけど、こんな状況……」
抱き合うほどの接近なので、気づいてみればお互いの腕すら相手の体に回っており、円香は少年の腰に手の平を回していた。少年の手も円香のくびれた部分に当たっていた。
密着の度合いを緩めるため、壁に背中を当ててはいるが、すると乳首を胸板に掠めるような絶妙な距離感が出来上がり、そして少年の視線も胸に吸い寄せられている。
じろじろと見られるか、あえて押し当てる事で隠すか。
本当は腕で隠したくても、あまりのスペースの狭さに腕の自由が利きにくい空間で、円香は咎めるような目つきを選ぶ。それを気にして少年も、顔を横へと背けていた。
できれば肉棒からも逃げたいが、下手にお互い動いたせいか、先ほどは太ももに、今は腹にべったり押し当てられ、二人の胴体で挟む形となっていた。それで隙間を作ったところで、棒状の物に少しばかり傾きが生まれるだけの話だ。
ヘソの近くに亀頭は置かれていた。
硬さと熱気が肌に直接伝わり、円香は大いに表情を歪めていた。伝わるものは肉棒の感触ばかりでなく、女の子の体を意識して、乳房が見たくて仕方のなさそうな、そわそわとした様子から、興奮で荒っぽい息遣いにかけてまで、相手の全てが如実である。
早くロッカーの外に出たい。
我慢に我慢を重ねるあまり、険しさを増す一方の円香は、再び戸の音が聞こえるなり、すぐさまロッカーの戸を押した。
男達が脱衣所から温泉へと進んだはずだ。
出て行くなら今のうちだ。
だから腕を動かしにくい代わりに、肘や肩を押し当て開けようとするのだが、何故だか固くてビクともしない。
「は?」
どうしても、開かなかった。
何かおかしいと思ったように、少年も手を貸してくれるのだが、二人がかりでもガタガタと鳴るばかりで、立て付けが悪いせいなのか何なのか、つまり本当に閉じ込められたのだ。
「ねえ、どうしてくれんの?」
円香は少年を咎める。
「俺に言われたって……。確かに樋口さんが一人で隠れるのがベストだったけど、戸が開かない事まで俺のせいにされても困るってば」
「だろうけど、ならその……。硬いの、沈めてくれない?」
「言われて縮むものじゃないし……」
「サイテー」
立て付けの問題なら、力をかける場所を変えたり、コツを探してみるしかない。
「ちょっとしゃがんでみてくれない?」
そこで何かを思いついたようにして、少年は急に円香にそう頼む。
「なんで?」
「その方が力が入るかも」
「……そう」
円香はそれを了承した。
しゃがめば位置関係がどうなるのか、つまり肉棒が円香の体に対してどの位置に向かってくるか、その見当がつくので姿勢を低めるのは嫌だった。
だが腕を使いにくい狭さの中、円香がどうにかしゃがんでいけば、少年の腕の自由度が上がるのだ。そうすれば、あとは男の子の腕力が立て付け問題を解決してくれるかもしれない。
狭い場所でどうにか膝をくの字に曲げて、足の置く位置を何度も変える。四苦八苦しながら少しずつ正座の形へ近づいて、しだいしだいに姿勢を低めていくにつれ、肉棒が体に擦れて敵わない。
スペースに限りがあるので、とにかく正座を目指す事にした円香は、少年の股の間へ膝を入れ、くの字に曲げる具合をだんだんと調整しながら腰を沈める。
すると、肉棒の触れる位置も変わってくる。
「サイテー」
目と鼻の先が胸板になったところで、円香は頬を真っ赤に染めながら、不快感で顔中を歪めて少年を睨め上げた。
もう鳩尾の少し先へと亀頭が来ている。
そこからさらに腰を沈め、体の位置を低めていくと、どうしても乳房の間にもたれかかってくるわけだ。
性知識のある円香の脳裏には、パイズリという単語が駆け抜ける。体の下降に合わせて、さながら硬い棒状のヘビに這われるように、だんだんと乳房の間に肉棒はやって来て、さらに進めば顎や顔に当たりかねない。
「言っとくけど、さっさと開けてもらうから」
ようやく膝を突いた時、円香はぐっと横へと顔を背け、少しでも肉棒から逃げようとしていた。
顔の前に勃起したペニスはあった。
正面を向けば鼻や額に亀頭が触れて、だから悪寒が走って顔を背けて、それでも接触は避けられず、肉棒は横顔へと立て掛けられる。耳や頬への感触に、円香は顔中に鳥肌を広げ、背筋にまで悪寒を広げた。
「じゃあ、出られるか試すから」
少年はガタガタと、内側から戸を叩く。自由度の上がった腕を生かして、立て付けの悪い戸に対してコツを探るが、どうも開く様子がない。
「真面目にやってんの?」
「やってるって」
「どうだか」
「だから、やってるっての」
少年が動けば動くだけ、腕を使えば使うだけ、そのついでのように腰が動いて、横顔に対して肉棒は擦れてくる。近づいては遠退く形で、密着の度合いが上がり下がりを繰り返し、あるいは左右の動きで撫でられる。
(最悪……ホント、無理……こんなの、一体いつまで続くの)
円香が抱く気持ちは、一刻も早く地獄から解放されたいものだった。苦戦している少年は、一体いつまでかかっているのかと責めたくなるほど、本当に長らく手こずっていた。
その時である。
やっと、戸が開いた。
「こ、これで!」
ようやく出られる。
このロッカーの内側へと、少しでも開いた隙間から差し込む光が、まさに希望の光に見えた。
しかし――。
年配者達が戻って来た。
やっと出られるはずの、まさにそのタイミングで、急に戸を開けるわけにはいかなくなり、少年は一瞬だけ慌てかけ、直後に気づいてなるべくゆっくり閉ざしていた。もしここで大きな音を立てていたなら、ロッカーに注目が集まっていただろう。
円香と少年はじっと静かに堪えた。
外で着替える男達が、脱衣所から廊下へと出ていけば、それで二人もロッカーの外へ出られる。その瞬間を待つために、唇を引き締め沈黙を守っているが、何を盛り上がっているのか、いつまでもいつまでも喋り声が続いている。
「一向に消えてくれないみたいだ」
とうとう少年が小声で呟く。
「消えればいいのに」
身を潜めている間中、勃起したものが円香の横顔に立て掛けられ、延々と接触が続いている。触れたくもないものに触れる気分の悪さで肌は泡立ち、背筋にも悪寒が走り続けていた。
「ところで樋口さん」
「なに」
「立て付けは直ったし、出ることは出来る。でさ、今ここでドアを開けたら、アイドルのスキャンダルになりそうだね」
「は?」
円香は声音を強めた。
「どう思う? 男女で裸、こんな場所に居たことが一般人に知られることについて」
少年は豹変していた。
先ほどまでは、まだ脱出について考えていただろうに、今になって急に目つきが変貌していた。
「脅す気? ありえないから」
どうやら彼は、この美味しい状況を手放すのが惜しくなり、何か企み始めている。そんなものに乗るものかと、円香は威圧的な声音を発して壁を作った。
「ってわけで、フェラしてくれない?」
しかし少年は意に介さず、強気になって命じてきた。
「は? なに?」
「だから、フェラだよ。今この戸を開いて困るのは、樋口さんの方でしょ?」
「じゃあ開ければ?」
やるならやれと言ってみる。
「いいの?」
「早くしなよ。私は襲われて犯されかけたって叫ぶから」
「ふーん? でもさ、もしあの人達が性犯罪とかやる人たちだったらどうする? 状況が今より悪化したりして」
少年は調子付いていた。自分が優位に立ったと思い込み、優越感でニヤニヤしていた。
「…………」
円香は口を噤む。
少年が語った通りの展開が、もしや本当に起こりはしないかと、円香の想像力は悪い方へと働いていた。
こうなると、恐怖で出るに出られない。
かといって、この状況がまだ続くなど……。
「ひょっとしたら輪姦かもね。ねえ樋口さん、ギャンブルでもやる? 俺も俺で、一緒に女の子を犯そうって提案してみるよ。で、樋口さんがアイドルだって事も話して……へへっ、賭けに勝つのはどっちかな?」
「その賭け、やれば自分が勝つはずとか思ってるわけ?」
「さあ? どう転ぶかは、やってみないとわからないよね」
さっさと決めないと開けてしまうぞ、少年はそう言わんばかりにして、これみよがしに戸へ手を当て、わざとらしく開け放つポーズを取る。
腕に力が入って見えた時、円香は思わず制止した。
「待って」
気づいた時には、そう口にしている自分がいた。
「ならフェラする?」
「するわけ……」
「じゃあ、開けてみる? あの人達の仕事がメディアとかだったら、スキャンダル報道って線もあるよね」
調子に乗って上擦って、裏返る勢いの声で言われて、円香の中で悪い想像がさらに膨らむ。
「………………」
円香は言葉を返さなかった。
ただ、そうすれば満足だろうと言わんばかりに、円香は肉棒へ唇を向け始める。この状況を利用する卑怯者を睨め上げて、噛み切ってやりたい気持ちを胸に潜ませ、円香は顔を正面にするのであった。
「くっ……」
頭を後ろに引っ込めても、頬に亀頭が触れてくる。
こんなものを生で拝んで、文字通り目と鼻の先に向かえるのは初めてだ。
見上げれば、少年が楽しみそうな顔をしていた。悪魔のように歪んだ笑みで、奉仕の始まりを今か今かと待ち侘びていた。
(こいつ悦ばせんの?)
冗談じゃない、ふざけるな。
円香が唇を駆使する事で、悦ぶ相手はこの少年だ。付き合ってもいなければ、好意を抱くわけですらない、たまたまクラスが同じだっただけの赤の他人が、よほどの悪人しか浮かべないような、歪み尽くした笑顔となっている。
こんな人間を悦ばせたくない。
この男の思う通りになどしたくない。
誰がお前の願いなど叶えるものかと、そう思う気持ちはいくらでもあるのだが、かといって少年が今まで口にした悪い想像、悪い展開の恐怖もあった。
だいたい、ここは本当に男湯だった。
時間帯によって男湯と女湯が入れ変わり、女湯のつもりで入ったこの温泉だが、そうと気づかず本当にうっかりと、円香は自ら男湯に入ってしまっていた。自分からお湯に浸かっていながら、どんな説明ならスキャンダルではないと言い張れるか。
最悪なことに、彼はクラスメイトだ。
アイドルが仕事先で旅館に泊まり、そこで偶然にもクラスメイトと鉢合わせる。しかもお互いに裸という、ゴシップまがいの週刊誌がこの状況を知ったなら、面白おかしく記事に書き立てるのは明白だ。
そういったわけにはいかない。
今このタイミングで戸が開き、裸の少年少女が居たという事実を、外にいる男性陣に知られるべきではない。
今よりもっと、悪い展開があると思えばこそ、円香はきつく目を瞑り、眉間に皺を寄せ、額を強張らせて歪み尽くした表情で、屈辱ながらに唇を近づける。
……ちゅっ。
円香は亀頭とキスをしていた。
(ファーストキスもまだだったのに……)
こんな形で唇を消費してしまった悔しさで、ますます強く目を瞑り、瞼の筋力で目尻を硬く震わせる。眉間の皺をますます深め、正座の形となった膝の上には、乗せた二つの拳をきつく握り締めていた。
(最悪……すぎ………………)
あまりにも、おぞましかった。
唇で少し触れただけでさえ、ぞわぁぁぁ……! と、勢いよく鳥肌が広がって、顔一面に飽き足らず、うなじや背中にまで悪寒が駆けているではないか。
こんなものを口に咥えるなど考えられない。
だが、そうしなければ戸を開けるだろう少年が、悪魔の笑みで円香を見下ろしていた。