中編・屈辱の奉仕
キスだけでも苦痛であった。
「うっ……」
接触した部位からみるみるうちに、まるで腐敗でも広がってくるようなおぞましさに、円香は頭を引っ込め顔を背ける。すると少年は腰を突き出しツンツンと、わざとらしく頬を突いて催促してくる。
「……っ!」
腹立たしい行為に円香は少年を睨み付け、そして改めて唇を触れさせる。
――ちゅっ。
キスの形を作ると同時に、やはり唇から顔全体にかけて肌が泡立ち、うなじには強烈な悪寒が走る。
(無理……)
やはり腐敗が広がるような、ゾッとする感覚が一気に頬を蝕んで、身震いしながら円香は顔を前へ進めていく。進行に合わせて徐々に唇を開いていき、先端から少しずつ口内へ迎え入れ、やがては亀頭の半分までを頬張った。
舌に肉棒が触れ始める。
(やだ……無理……)
腐敗の広がる感覚は、舌を通じて喉や食道まで至ってくる。今すぐにでも吐き出して、必死にうがいをしたいくらいだが、しかし円香は戸を開けられるリスクを思い、なおも前へと進むのだ。
前へ進んでいくにつれ、亀頭を飲み込むために唇が丸く広がり、リング状となった内側にカリ首に引っかかる。それでもう限界を迎えたように、反射的に頭が引っ込んで、円香は体を後退させる。
するとまた、キスの形が出来上がった。
そんな亀頭への口付けを見下ろしてニヤニヤと、少年は優越感に浸っている。
「ホント、許さないから」
自分を勝者とでも思った態度が気に食わず、恨みを忘れない思いを一言伝える。
「ふーん?」
「ほんとに……!」
怒りと屈辱で歯軋りして、ますます強く少年の事を睨め上げて、それから再び口付けする。亀頭と触れ合う気分の悪さは、円香にとっては汚物を口に付けろと言われたほどに、ひどく抵抗感のある話だ。
硬く目を瞑っていた。
瞼の力で眼輪筋を痙攣じみて震わせて、ひどく歪んだ表情で頭を動かし前へと進む。今度は亀頭の半分だけで限界が来たように、体が勝手に後ろへ引っ込んで、またキスの形となるなり前へ進んで、唇のリングをカリ首に引っかける。
屈辱で拳が震えた。
膝に置いた二つの拳に力がこもり、腕まで強張り震え気味に、冷や汗を噴き出しながら前後に動く。亀頭の半分かカリ首までが限界の、それ以上は拒否反応で頭が引っ込む円香の奉仕は、だからキスの形を繰り返し作り続ける前後運動となっていた。
(信じらんない、なんで私がこんなことしてんの)
生まれて初めて行う奉仕がこんな形とは思わなかった。
そもそも、好き好んでフェラチオの妄想などしないが、もし誰かにこれをするなら、よほど好きな男が出来た時だと、当然のように思っていた。
「んっ、んむぅ……んっ、んんぅ…………」
まさか特別に意識した事などない、席が近いから見かける程度の、本当にたまたま顔が記憶にあっただけの少年などに、こんな真似をするとは想像もしなかった。
大切していた花が好き勝手に散らされてしまったように、本当に無念で無念でたまらない。たとえ円香の腕力が少年を上回り、後で好きなだけ殴って喧嘩で降参させたとしても、この気持ちを晴らせるかは怪しいくらいだ。
「もうちょっと頑張ろうか」
そうしなければ戸を開けると言いたげに、少年は嘲る笑顔で手を当てる。その最低さに怒りが湧き、食い千切ってやろうかと頭の中では一瞬思う。
(こんな……人を殴りたいとか、殺したいとか、思うことになるなんて……)
腹の底に暗い感情を抱えた円香は、怒りの元凶を睨め上げながら、本当は噛んでやりたい気持ちで前へ前へと、丸く広がる唇をとうとう亀頭よりも先へと進めて、前後運動の幅を今までよりも広げるのだった。
「ずぅ……ずむぅ……ずむぅぅ…………」
ゆっくり前へ進んでいき、ゆっくりと下がっていく。喉が塞がるより少し手前まで飲み込んで、後退の時には亀頭の半分あたりのラインで折り返す。
じっと、円香は少年を睨んでいた。
怨念を宿した瞳と、我こそが勝者のような調子のいい瞳で視線が重なる。見つめ合って行う奉仕に積極性はなく、前後の動きはたどたどしいまま、円香には慣れてやるつもりがない。
活発に激しく頭を振るなど考えていない。
この少年は本来、手を繋ぐ相手ですらないのだ。
「あぁ、いいねぇ……」
恍惚の表情に煮えくり返る。
それも汚物を喰らう抵抗感を必死に抑え、鳥肌を立てながら行う努力によって、気に食わない男が快楽を享受しているのだ。こんなにも納得がいかず、相手をどうにかしてやりたい、目に物見せる手はないかという気持ちが沸いて溢れて来た事はなかった。
「舐め上げてよ」
「なにそれ」
「下から上へとさ。指示通りにやってもらうよ?」
注文を付けられる気分の悪さに歯軋りしながら、円香は少年に従わされる。
れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――。
少年が求めたのは、肉棒の根元から先端にかけて、舌で舐め上げていく奉仕であった。手で触れる羽目になり、肉棒の角度を上向きに、すると影に隠れていた睾丸があらわとなって、竿と玉袋の境目へと舌先を突き出すのだ。
れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――。
れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――。
れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――。
根元に当てた舌先を上へ上へと、亀頭に向けて唾液の線を引いていき、カリ首に到達したらスタート地点へ戻っていく。
れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――。
れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――。
と、円香は顔を上下させていた。
突き出す舌で唾液を塗る際、鼻先が触れもするので、棒を鼻で引っ掻きつつも舐め上げて、顔をエレベーターのように上昇させる。
カリ首を舐めた所でまた戻り、また上へと舐め上げる。
れろぉぉぉ……れろぉぉぉ…………。
この繰り返しで、円香は額に脂汗を噴き出して、前髪を皮膚にくっつけている。
れろぉぉぉ……れろぉぉぉ…………。
何度も唾液の線を引き続ければ、やがては一面にべったりと唾液のぬかるみは広がっていた。
「玉舐め、やってもらおうかな」
「は? なんなのそれ」
円香は険しい顔を向け、少年は余裕気取りの態度を返す。
「玉の部分に奉仕するんだよ。舐めたり、キスしたり、口に含めたり、色々と試してもらうよ」
「こんなっ……! いつまでふざけたことさせんの」
円香は外を意識する。
未だに雑談が続いていた。年配達の大きな声は聞くに五月蝿く、小声で喋りこそしているが、この調子なら普通の声で喋ったところで、彼ら自身の声量に押し返され、そもそも向こうに届く気がしない。
盛り上がっている雑談に、途切れる気配がまるでない。
あと何十分でも喋っていそうな勢いなので、円香は視線を肉棒に向け直す。
抵抗を感じながらも、円香は睾丸に唇を近づけた。
――ちゅっ、
「おお、いいねぇ」
偉い偉いと、そう言わんばかりにわざとらしく、少年は頭に手を乗せ撫でてくる。
「触んないで」
棘のある声音で拒む。
「まあまあ」
しかし少年はやめる気もなく、もう少し撫で回し、髪をくしゃくしゃに乱してから、ようやく手を引っ込めた。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅむぅ――。
無念でならない表情で、円香はもう何度かのキスを行う。右の玉に触れたら左の玉。睾丸を交互に癒やしていくために、降らせたくもない口付けの雨を注いでやり、見上げればそこにある表情は、非常に満足そうなものなのだ。
勝者と敗者の気分になる。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅむぅ――。
優位な立場を手に入れた少年は、つまりそれをいいことに、円香に降伏を迫ったのだ。何の勝負をしたかったわけでもないのに、たまたまそういう状況になったからと、無理にでも降参させられて、こんな奉仕をする羽目になっている。
「はむぅ…………」
円香は睾丸を頬張った。
まずは右の玉を口に含めて、その瞬間に心を針で刺されたような痛みを感じる。降伏した立場そのものの屈辱を、男性器を舐めるという形で、心理的にだけではなく、物理的にさえ味わう無念といったらなく、奉仕を続ければ続けるだけ、魂に立場の違いを刻まれている気持ちになる。
体に焼き印を入れられたら屈辱だろう。
こうして奉仕をさせられて、目には見えない印を魂に入れられているような、本当に最悪の気分を味わっていた。
「ちゅっ、ちゅむぅ……」
玉を含めた唇で、噛むような力を加えてみる。本当に歯を使うわけではない、あくまで唇だけを駆使した圧迫で、睾丸にマッサージを行っていた。
「ちゅむぅ……ちゅっ、ちゅむぅぅ…………」
左の睾丸に顔を移して、同じように唇で玉を温め、やがては舌でペロペロと舐め回す。アメ玉が口内で暴れるように転がして、睨め上げた先に浮かぶ少年の表情を見てみれば、快感に浸っているのがよくわかった。
コイツが悦んでいる。
この気に食わない男が、コイツが、コイツが……!
憎らしさが胸中にせり上がり、瞳にそれが表れれば、円香が彼に向ける眼差しは、もはや呪いを送ろうとするものだ。
それだけ円香は、本当に悔しくて悔しくて堪らないのだ。
「ちゅむ――ちゅりゅっ、ちゅむぅ…………」
死ぬほどの悔しさを胸に、円香は右の睾丸へと唇を移してやり、マッサージや舐め転がす奉仕を繰り返す。
「ちゅぅっ、ちゅむっ、じゅむぅ…………」
しばし行い、左へ移る。
またしばし行い、右へと移る。
「じゅっ、ちゅむっ、ちゅむっ」
延々と終わりなく、いつまでも続ける睾丸への奉仕によって、玉袋はすっかりと唾液を帯びてふやける勢いだ。
「ちゅむぅ…………」
左の睾丸を唇に含む。
しばしを経て右へ移ると、唇を離した際に唾液の糸がいくらか引いた。
「ちゅぅっ、ちゅむっ、じゅむぅ…………」
もう隣の玉に移るたび、必ず糸が生まれていた。
「いいねぇ? ホント、最高だよ」
また少年は調子に乗り、人の頭を撫でてくる。そのいかにもわざとらしい、偉い偉いと褒め称えてくるような、小さい子供を扱う手つきが腹立たしく、それにこんな男に触れられる事にも虫唾が走る。
「それ、やめてくれない?」
「あれぇ? 褒めてるのに態度が悪いねぇ? しょうがない、悪い子には罰を与えよう」
「ほんっと、どこまで調子乗る気なの?」
何が悪い子だ。
何が罰だ。
こんなふざけた時間には、早く終わって欲しいと願うのだが、年配達の雑談は未だ終わらず、本当にいつになったら脱衣所から去るかの想像がつかなかった。
「今までより一生懸命やってもらうよ」
「ふん、一生懸命とか」
「久々に咥えてよ。いっぱい頭を動かして、それに手では玉を揉んだりするんだ。ああもちろん、痛い事をしたら仕返しさせてもらうから」
釘を刺しつつ命じてくる少年の、このふざけた指示に従いたくなどないのだが、反抗の眼差しで睨め上げれば、これみよがしに戸を開けるフリをしてくるのだ。
「くっ……!」
屈辱を堪え、円香は再び亀頭を頬張る。さぞかし満足なのだろうと、恨めしいものに対する形相を向けながら、頭を前後に動かすのだった。
「ずむぅ……ずむぅ……ずむぅ……ずむぅ……」
お望み通り、少しはペースを上げていた。それに両手も睾丸へと、まるで王様から何かを受け取るように乗せてやり、そして指で揉みしだく。
「ずむぅ……ずむぅ……ずむぅ……ずむぅ……」
唇では棒を癒やし、手では玉を癒やしていた。睾丸に圧力をかければ痛いと知っているので、先ほど釘を刺された事もあり、本当は悶絶させてやりたいとは思いつつ、快感を与えるために指を使う。
「ずむぅ……ずむぅ……ずむぅ……ずむぅ……」
「ちょっと加速してくれる?」
「じゅっ――ずっ、ずむぅ――ずむぅ――ずむぅ――」
気に食わなくてたまらない、噛んでやろうか、などと思わず心の声に浮かぶような心境で、円香はペースを切り替えた。もう少しだけ活発に頭を動かして、すると少年の口角が吊り上がるので、なるほど快感が増しているのだろう。
彼が気持ち良くなればなるだけ、嫌で嫌でたまらない努力をさせられる円香としては、苦悶の一つや二つ浮かんでくる。
「ずむぅ――ずむぅ――ずむぅ――」
円香の視界としては、少年の腹が近づいては遠退いて、そんな景色の前後が延々と続いている。
「ずむぅ――ずむぅ――ずむぅ――ずっ、ずじゅっ、じゅむぅぅぅ――じゅむぅぅぅ――――」
この苦痛はいつまで続くのか。
指では睾丸を撫で回し、竿には唇を駆使する時間は、何分も何分も続いていた。
「ずじゅ――ずむぅ――じゅむぅぅ――じゅむぅぅ――――」
いつになったら終わるかもわからない、ゴールの見えない性的な労働に、とうに嫌気が差している。早く口の中を濯ぎたい、こんな性的接触のあった事実をシャワーでも何でもいいから洗い流してしまいたい。
「ずむぅ――ずむぅ――ずむぅ――すっ、じゅぅ――――」
その時だった。
急に両手で頭を掴まれ、押さえ込むような力や握力がかけられて、円香は思わず目を丸める。何事かと驚くや否や、口内で肉棒が跳ね上がり、そしてそれは撒き散らされた。
ドクッ! ビュルン! ドクッ、ドクッ――!
白濁が舌をまんべんなく包み込み、頬の内側にも張り付いていた。精液によるコーティングが一瞬にして出来上がり、青臭くて最悪な味に戦慄するが、吐き出そうにも頭が押さえつけられて、口の中から肉棒を取り出せない。
「飲め」
王様気取りの命令に、本当に煮えくり返った。
本当に噛んでやろうか。
噛み切って悶絶でもさせてやろうか。
「ほら、飲めよ」
だが、こんなにも嫌な命令をされていながら、急所に深刻なダメージを与える真似が出来ずに、円香は涙ぐんだ表情で嚥下を行う。
こくっ、こくっ、こくっ、
飲み下していく事で、口内に溜まった量を減らすにつれ、こんな男の体液が腹の中に収まっている。よりにもよって、肉棒から出て来たものが消化され、栄養となり、体の一部になるかと思うと寒気がする。全身に鳥肌が広がるあまり、腹を掻き毟っても中身を取り出したい気持ちになる。
しかも、まだ勃起は収まらない。
頭から両手が離れ、その瞬間に素早く吐き出し、今まで以上の凶眼で睨め上げると、そんな円香の唇へと、なおも求めるように押しつけてきた。
「………………」
ふざけるな。
そう言ってやりたい気持ちでいっぱいに、もうこれ以上はするものかと唇を閉ざしていれば、少年は自らの根元を握り、先端に残った汁を擦り付ける。まるで口紅を塗るように、白濁が唇へと擦り込まれる。
外ではまだ、雑談が盛り上がっている。
そして少年はそれを切り札に、戸を開けようとするわざとらしいジェスチャーで煽ってくる。
「本当に許さない」
せめてもの一言をぶつけてやり、そして下唇を噛み締めてから、舌を突き出し先端をペロペロ舐める。まだ精液の味が残っているので頬が筋張り、体さえも引き攣り肩が力んで持ち上がり、こんなにも拒否反応を出しながら、円香はいつまでも奉仕を続ける。
ぺろっ、ぺろっ、ぺろっ、ぺろっ、ぺろっ、
それを何分続けていればいいかもわからずに、円香は舌を上下に動かしていた。
「頬張って」
そして、命令。
「ほんと、死んで欲しい」
呪いをかけたいほどの目つきで睨め上げて、本当に険しい顔で頬張って、所々に白濁の残った竿に奉仕する。頭を前後に動かして、気に食わなくてたまらない男に満足そうな表情を浮かべさせ、その分だけ円香の中には鬱屈が溜まっていく。
その時、男性陣の気配が遠退いた。
「いやぁ、そろそろ行きますか」
そんな大きな声が聞こえ、やっとロッカーの外に出られると思った瞬間だった。
がっしりと、また頭が強く掴まれた。
(なっ……!)
戸の開く音がして、男達の気配は遠退いている。今ならもう脱衣所に人はいない。ようやく出られるはずなのに、それを阻止するような力が込められ――。
「んっ! んごっ、んんっ!」
今度は円香が動くのではなく、少年の方から腰を振り、肉棒が激しく出入りする。
「んっ! んっ……!」
物として使われていた。
ただの性処理道具として、人としての尊厳を今までよりもさらに無視した行為に驚き、そして今なお、円香は少年を睨め上げていた。
「んっ、んっ! んっ! んっ!」
喉の奥へと亀頭が当たり、精神的にだけではなく、物理的にも人を苦しめる悪人へと、瞳の中に恨めしさを深く宿して、視線で呪いを向けていた。
そして、やがては――――。
こくっ、こくっ、こくっ、
やはり口の中に放出され、飲まなければ許さないように力をかけられ、円香は精液を嚥下する。その虫唾の走る思いを味わって、ようやく――本当にようやく、戸を開く機会が巡ってくるなり――。