前編 三月なのか 囚われの肛門調教
深いまどろみの中にいた。
頭がどんよりと重く、そしてまぶたも重いので、目を開けるという事が億劫だった。
しかし、ふと気づいてみれば、首には何やら妙な感覚が、手首にも同じ感覚があるではないか。この肌に触れる固い感触は何なのかと、彼女は頭の中で疑問に思う。
(えーっと、うちって、ヘンな夢でも見てる?)
三月なのかは心の中でそう呟く。
その時、それ以前の問題に気づいた。
(いやいや! うちってば、いつから寝てたの?)
急に三月なのかは目を開いた。
まぶたの重さも、頭のどんよりとした感覚も、その瞬間に全て吹き飛び、なのかは大きく目を見開いていた。
「なにこれ! どうなってるの!?」
なのかは拘束されていた。
首と手首が一枚の板に封じられ、両手共々が顔の隣へ固定されている。まるで板に切れ目を入れ、ハサミとして開閉させたかのような拘束具で、頭部と腕が同時に封印されていた。
そんななのかの上半身は、台なのかテーブルなのか、ともかく何かの上に置かれて、お尻を後ろに突き出すポーズを取らされている。
体を持ち上げようと思ったら、上がらなかった。
どうやら、この板の拘束は、台に彫られた溝にかっちりはまり、固定されてしまっている。
「う、動けない! どこの誰の仕業なの!?」
なのかは狼狽していた。
「っていうか、いつの間に!? ウチって、いつから捕まってるの!?」
確か観光目的で惑星に降りたって、気ままに散策をしていたはずだが、店なり景色なりを見ていた記憶はあっても、誰かに頭を殴られたり、薬でも盛られそうな怪しい場所で食事をした憶えもない。いつどの時点で何が起こって、自分は捕まっているかがわからなかった。
「初めまして、三月なのかさん」
そんななのかへと、丁寧な男の声がかかってくる。
「だ、誰!?」
後ろからの声だったが、咄嗟に振り向こうとしても首が後ろには動かない。板状の拘束具で首の可動範囲が狭くなり、肩越しに振り向こうにも視線が遮られてしまうので、正面か台の質感ぐらいしか目を向けられる先がない。
「調教ルームへようこそ。ここは囚われの女の子がオークションにかけられて、大金持ちの元へと落札される競売の商品展示所です」
「はあ!? 調教? ここって奴隷市場なの?」
「左様でございます。あなたはどこぞで捕獲され、我が社の商品になったわけです」
「アンタの思い通りになんてならないから! よりによってウチを捕らえるなんて、すぐに助けが来るんだからね!」
「ええ、場合によっては仲間に追跡され、攻撃を受ける可能性もありますから、現場はできるだけ秘密裏に、かつ取引は迅速に、というのが我々のモットーです」
顔の見えない、声しかわからない男の手が、不意にスカートの上に置かれていた。
「ひっ!? やだぁ……!」
お尻に触られ、なのかは顔をひどく顰めていた。
「もう少し説明しましょう。年増な女性、ちょっと幼すぎる女の子、色んな性癖の方に向けた様々なコンセプトで我々は出品を行いますが、今回のテーマはお尻です」
スカート越しに這い回る手の平は、その這いずる手つきによって布をずらした。お尻の形を確かめ味わうような、フォルムをなぞる撫で方に合わせる形で、スカートはぐるぐると回っている。なのかにとってその感覚は、布を使って撫で回されているようなものだった。
「お尻? ピンポイントにお尻だけ?」
たった一部分だけを狙って執拗に責めるつもりでいるのかと、今回のテーマとやらにも、お尻に当たる手の平の感触にも、なのかは顔を険しくしながら、不快感によって身震いしていた。
「ええ、お尻です」
スカートが捲られる。
すると、今度は下着越しに手の平が当てられて、他人の皮膚が触れる感覚や体温がもう少しだけ如実になる。
「いいっ!?」
さらに下着を下げられた。お尻を剥き出しにされた恥ずかしさで赤らみながら、とうとう直接触られる感覚にも顔を歪めて、なのかは顔中を強ばらせていた。
「お尻の中でも、特にこの部分――そう、アナルです」
尻たぶを左右同時に、両手によって鷲掴みにされていた。その手と手の間を向く親指で、左右へぐにっと割れ目を広げられ、肛門のすぐ真後ろに男の顔の気配が迫る。呼吸による少し生温かい空気が触れ、なのかはより一層のこと顔を歪めていくのであった。
「いやぁぁ! ちょっと! 見ないで! そんなところ見ないでってば!」
激しい羞恥心で声を荒げて、必死の抵抗を試みるなのかだが、どうじたばたしてみても拘束が破れる事はない。
「アソコも丸見えですよ?」
「やだやだ! そういうこと言う!? わざわざ声に出さなくていいんだから!」
「私一人に見られるだけでは済みません。ここにはたくさん、それはもう何台ものカメラが仕掛けてありまして、幾つものレンズがあなたを見つめています。なのかさん? あなたはありとあらゆるアングルから撮られているのですよ」
「カメラって……! やだやだやだやだ……」
知りたくもない真実を知らされて、なのかは恥ずかしさで頭を加熱させていた。顔中を真っ赤に染め上げる勢いで、耳にすら赤面を及ばせていた。
「では始めていきましょう。楽しい調教を」
その時、右の尻たぶだけから手が離れ、左の方は掴まれたまま、直後に肛門へ指を置かれた。ぐにっと揉んでくるように、指先が皺の窄まりにセットされているのだった。
「ひゃっ! あ、アンタなんて! どうせすぐにやっつけられる事になるんだから!」
「お仲間が助けにくるとでも?」
「ウチの仲間はすっごく優秀なんだから! アンタなんて、絶対に無事じゃ済まない!」
「それは怖いですね。ですが、この場所を見つけるのは困難でして、いかに優秀でも助けに来られる可能性はどれほどあるでしょうか? 仮に来られたとして、その頃にはもう一通りの調教が済み、あなたは落札者の元へ出荷されていると思います」
「ぜ、絶対……間に合うんだから……」
「間に合うといいですねぇ? 今のところ、まずこの調教の開始は阻止される様子がありませんので、このまま続けていきますよ?」
未だに顔を見せて来ない、声しかわからない男によって、なのかの肛門は揉まれている。指を押し込む事により、一点だけをぐにぐにとほぐすやり方で、なのかの恥部は好きなように弄られていた。
「くぅぅ……こんな事されるだなんて……!」
「まさかとは思いますが、指で触られて終わりだなんて、もちろん思ってはいませんよね?」
そんな言葉と共に指も手も離れて移動の足音が鳴り、男の気配が後ろから横へと移る。だが姿は見せないまま、手に持った道具だけを見せつけてきた。
注射器によく似た形状の、しかし医療注射を目的としたものではない、プラスチックの太い針を持つ液体の注入器具が、なのかの眼前に差し出された。
「なに……それ…………」
「肛門調教を行うにあたって浣腸は欠かせません。浣腸のための液体をこれにて注入するのです」
「い、嫌……」
「嫌だは通用しませんよ? 何故なら、嫌がろうと関係無く実行させて頂くからです」
なのかの視界から注入器具が引っ込むと、次の瞬間には肛門に押し当てられる。先から徐々に埋まってきて、小指よりも細いが固く丈夫な管が通ると、腸内へと液体が注入される違和感に襲われた。
「やっ、やめて……うっ、ヘンな……感じ、嫌だ…………」
本来、排泄を行う場所であり、物を入れる場所ではない。そこに異物が侵入した上、液体まで入ってくる違和感は強烈だった。
「さーて、全部入りきりましたかね?」
管が引き抜かれていった直後、なのかは肛門括約筋に力を入れて堪え始めた。満杯になるほど多くの液体を注入されて、そうしなければ今にも中身が噴き出そうな感覚で、なのかは涙目で我慢していた。
「やっ、やだ……ぜったいやだ…………」
どこにどう仕掛けてあるのか、一人の男の視線だけではなく、カメラまで回っているらしい場所だ。排泄など絶対に披露したくはない意地で、なのかは筋力の限りを尽くしていた。
「おっと、皺がぎゅうって締まっていますね」
男はなのかをからかっていた。
「アンタ……さ、最低だから…………」
腹の立つ敵に対して、もっと何かを言ってやりたい、何なら攻撃して取り押さえてやりたい気持ちもあるが、今はそれ以上に我慢に気を取られていた。少しでも気を緩めれば危ういような、気をつけなければ爆弾が弾ける状況下では、どれほど人に腹が立ってもそちらを意識する余裕はなかった。
「ええ、最低ですよ。倫理や道徳を遵守するなら、こんな場所では働いていませんから」
堂々と認めながら、男はなのかの肛門に指を置く。筋肉を必死に固くしたその部分をくすぐるため、触れるか触れないかのような、産毛だけを辛うじてなぞるタッチで皺をなぞられ、その刺激でなのかの背筋には鳥肌が走っていた。腰からうなじにかけて一直線に駆けていくように、綺麗な悪寒が走っているのであった。
「やめて! ほ、本当にやめて!」
かなり切実に、狼狽しながらなのかは言う。
「諦めましょう。ここでのあなたは物であり商品ですから、尊厳など尊重される事はありません。むしろ、調教の内容には尊厳を毀損する事も含まれています」
我慢が生み出す硬さをほぐすため、男の指先が肛門の皺をくすぐり抜く。
「うっ、やだ……やだやだ…………!」
みるみるうちに危機感がせり上がり、やがてなのかは――。