第6話 貞操の剥奪

 やはり、レーナは相変わらず顔を赤熱させていた。皮膚がマグマになりそうな勢いで、まだまだ恥じらいを感じていた。
「いい加減慣れてもいいんじゃないの?」
「こ、こんなこと……慣れるわけ……」
 憤りに震えるようで、諦観でもある声音を吐き出す。
「しっかし、いい格好だよな」
「そうですか……」
 レーナはM字開脚を行っていた。
 ベンチに座らされ、その上で脚を大きく左右に広げている。しかも自らの指で割れ目を開き、肉ヒダを見せびらかせというのだから、もう恥ずかしいことこの上ない。正気を保っているのが不思議なほど、レーナは頬も耳も熱くしていた。
 背もたれに背中を預け、下半身はなるべく手前気味、下腹部の角度が上手いこと調整され、肛門まで見えている状態の恥ずかしさは、やっぱりまた、いっそ殺して欲しいような気持ちが湧いたりする。

 パシャ!
「きゃ!」

 撮られ、その瞬間にぴくりと頬を震わせる。
「また撮るなんて……!」

 パシャ! パシャ!

 レーナの抗議じみた目は無視して、透明な彼は取り続ける。そのシャッター音が恥辱を煽ってくるのは言うまでもないが、ベンチの場所も最悪だった。異能の男はシンのポジションに合わせて、あえてここを選んだに決まっていた。
 シンとレーナが向かい合わせになっているのだ。
 噴水を背にしたシンと、M字開脚のレーナが向き合って、認識阻害がなければシンにはレーナのあられもない姿が見えている。

 パシャ! パシャ!

 だが、シンには見えていない。
 来るはずのレーナを待って、周囲を気にする様子はあっても、もうここに座っていることには気づかない。
「アソコも綺麗じゃんか」
 顔が迫ったような気配は、やはり見えない以上、気のせいなのか、本当の感覚なのか、区別がつかない。
「あんまり見ないでください……」
 羞恥に震えた声音に乗せて、レーナは非難の眼差しも送っている。
「尻の穴まで見えてんだぞ?」
「……っ!?」
「綺麗なもんだな。ええ? 随分清潔じゃないか」
「そんな……ところまで……!」
 ますます顔から炎は吹き荒れ、恥ずかしさでパニックや発作でも起きそうになってくる。
「ところで、もう何度か説明してるよな。おれの異能はどこまで認識させるか、ある程度調整ができるって。シャッター音を聞かせるかどうかも、こっちで自由にできるんだ」
 それをわざわざ、今更になって伝えてくる意味は、一つしか思いつかずに、レーナはより一層表情を歪めていた。
 実際にシャッター音を聞いた以上に、もっとたくさんのデータが彼のデジタルカメラには収まっている。もしかしたら、動画も。
「見るか? 自分の小便」
「いいです!」
 全力で拒んだ。
「へっ、まあいいや。せっかく最後なんだし、少しだけおれの異能を調整する。あんたのことは透明人間に見せかけるままだが、声だけは周りに聞こえるようにする。周りには透明人間が喋ってる風に聞こえるわけだ」
「なんで、わざわざ……」
「ああ、最後ってのは、これにしようと思ってな」
 その時、レーナは戦慄した。

 カチャリ、

 という、金属の擦れるような音が聞こえた時、レーナがすぐさま連想するのは、衣服にあるチャックとか、ベルトから聞こえる音だった。もし想像通りなら、姿の見えない男が目の前で、ズボンの中身を出そうとしているかもしれなくて。
「い、いや……」
 駄目だ、それだけは。
 ここまで尊厳を踏みつけられ、蹂躙されてきたのだから、それだけは勘弁してくれてもいいではないか。
 レーナの双眸に絶望の色が浮かんだ。
「わかってると思うけど、動いたら晒す。おれは透明なまま、あんたの素っ裸だけがシンの見ている前で公開される」
「うっ、うぅ――――」
 その言葉でレーナは、もうとっくにわかっていることを改めて思い知る。
 逆らえない。この男には、決して。
 それでも、処女は……処女くらいは、せめて許してくれても……。
「エイティシックスはそもそも生きる権利を奪われてんだ。そいつに比べたら、初めてを選ぶ権利なんて安すぎる。だいたい、共和国の実態なら、レイプがないわけないよな。犯した上で殺したりしてたんじゃないか? それに比べりゃ、ずっと優しいよな」
 だからお前も、これくらいは受けるべきだと――一瞬だけ、レーナは言葉に詰まって言い返せなくなる。が、すぐにシンに言われた言葉を思い出す。謂われのない理不尽は、レーナの持つ権限で処罰するべきだと。
 無理だ、もう無理だ。
 レーナの開ききっている脚のあいだに、目には見えない感触が押し当てられる。それが肉棒に違いないことはすぐに悟って、やはりレーナは堪えきれずに叫んでいた。

「し、シン!」

 後先など考えていない。
「シン! わ、わたし――助けて……!」
 もうこれ以上、謂われのない理不尽など――衝動的に叫ぶあいだのレーナには、ここで認識阻害を解かれたらどうなるだの、細かい先のことなど見えていない。

 あ、れ……?

 だが、直後に気づく。
「し、シン!? 聞こえてますか! シン!?」
 いいや、届いていない。
 こうしているあいだにも、レーナのアソコには切っ先が沈んできて、もう膣口が広がっている。挿入されるものの太さに合わせ、穴が大きくリング状に拡張され、乙女の領域へと侵略は行われた。
 侵入を許したくはなかったものが、ついに根元まで収まって、ピストンすら始まるのだ。
「あっ、あぁ……あっ、そんな……シン……ど、どうして……!?」
 レーナは狼狽して髪を振り乱し、今になって両腕を暴れさせる。二つの拳でがむしゃらに何かを叩いて、しかし軍人の鍛え抜かれた胸板には、まるで効果を成していない。
「ふーん? このくらいの抵抗なら、思ったより可愛いもんだな」
「あぁ……ぐぁ……!」
 肉棒が出入りしていた。
 手首は掴まれ、背もたれの上端に押しつけられ、なけなしの抵抗すらできなくなって、レーナの股には男の腰が叩きつけられ、太い逸物が出入りする。
「んぐぅ……んぅ……んぁぁ……!」
 初めてに快楽はなく、あるのは苦しさだった。
「あっ、あぁ……!」
 脂汗を噴き出しながら、レーナは激しく髪を振り乱す。頬に、額に、髪の何本かを張り付けながら、眉間に皺を寄せた険しい顔で、心身の苦痛に耐えていた。
「痛いの? ま、痛かったとしても、知ったことじゃねーけど」
「あっぐぅ……んぅぐぅ……ぐっ、ああぁぁ……!」
「おれは気持ちいいよ? マジ最高」
「あっ、あぁ……!」
 無念でならなかった。
 人に屈辱を与えてくる男が、それでいて自分は気持ち良くなっている。レーナが苦痛や苦しみを感じている一方で、男の方はいい思いをしているのだ。

 というか、嘘なんだよね。
 挿入を始めたライチェスは、ニヤつきの止まらない顔でレーナを犯す。口先では声だけは周りに聞こえるようなことを言ってみて、何となく助けを求めるチャンスを与えてみた。本当は与えてなどいない、嘘のチャンスを。
 で、本当に助けを求めてくれちゃったりして、まったく愉快でならないって話だ。
 別に深い意味はなかったけれど、結果的には思い知らせる効果は強かった。エイティシックスが同じように叫んでも、共和国ではブタの鳴き声くらいにしか思われなかったのだろうに。
「あーあ、大人しくなっちゃって」
 最初のうちは、弱々しい拳で人の胸とか肩を叩いたり、何か必死にしてきていたが、レーナの腕力で厚い筋肉の鎧をやられても、実際痛くも痒くもない。まあ鬱陶しくはあるので、途中で手首を押さえ込んだりはしたものの、もう離しても大丈夫そうだ。
 ライチェスのピストンに対して、レーナの両腕はベンチにだらっとしていた。
「ってか、セックスって気持ちいいな。へえ、こんな感じか」
 ついさっきまで、正直童貞だった。
 なので挿入に少しは手こずったり、ピストンがぎこちなかったり、初めてらしい部分もあったとは思うが、動いてみれば何となくコツは掴める。徐々に腰の動かし方に慣れていき、いっぱしの経験者になりきって、ライチェスはレーナの膣内を味わっていた。
 ぬかるみに満ちた膣内は、きゅっと肉棒を締め付けてくる。ピストンをするたびに、きゅっきゅっと、反応を繰り返して、歯なんてなくても、甘噛みをされているような気になったりする。
 水気の薄い膣内にピストンするのは、最初はまあ手こずったが、確か膣壁を保護するための粘膜とか、そういうものが出るんだったか。快楽で出て来る愛液なのか、保護用の粘膜に過ぎないのか、微妙に知識の足りないライチェスなので、判断しかねたりはしているが、まあどちらにしても、ピストンはスムーズになっていた。
 活性油のおかげで肉棒の出入りがしやすくなって、突き込む際の勢いで、ライチェスはレーナの身体を揺らしている。
「んっ、ぐっ、ふぁっ、あっくぅっ、んっ、んぐっ」
「ま、エロ動画みたいなキャンキャンした声は出ないみたいだな」
「はっ、ぐっ、んぅくっ、あくっ」
 腰を叩きつけてやることで、レーナの身体に振動を与えると、乳房がぷるっと揺れている。その乳揺れを見るのが面白くて、意識的に振動を与えて楽しんで、そのうち惹かれたように乳房を揉む。
「やわらけー。てか、でけぇな」
 ライチェスは腰振りの一方で揉みしだき、指で乳房を味わった。
「あっぐっ、んっ、んくっ、くふぅっ、んぅ……ぐぅ………!」
 レーナの目尻には、薄らと涙の筋が見えていた。
 脂汗が髪を捉え、いくらかの銀糸が額や頬に張りついている。いつの間にか咥え込み、一房が唇の狭間に入り込み、表情には諦観やら屈辱やら羞恥やら、色んなものが混ざっている。受け入れるしかない無念の眼差し、という感じなのだろうか。
「やべっ、出そう」
 そう気づいた時、ライチェスは咄嗟に肉棒を引き抜いた。
 ビクビクと震える根元から、噴射される白濁は、胸から腹部にかけて振り撒かれる。谷間のあいだを伝い流れ、ヘソの中にも入り込む精液は、美白肌の色合いによく馴染んでいた。

 体位を変えさせ、ライチェスはまだ楽しむ。
「んぐっ、くぅ……んっ、んぐぅ……」
 レーナ自身に動いてもらっていた。
 ライチェスはベンチに座り、大股を広げている。そそり立つ肉棒の上にレーナを座らせ、背面座位のような形で繋がるが、レーナの身体はほとんど前に倒れていた。バック挿入で犯す角度に、いくらか近づく程度には。
 ライチェスの身体から、距離を置かれた背中の上で、上下運動に合わせて髪がゆさゆさと揺れ動く。
「んぐぁ……ぐっ、んぐぅ……」
 レーナの尻が動いている。
 自分自身の股に目をやれば、上下運動のために腰を持ち上げ、そして落とすことを繰り返す、それに伴う肉棒の見え隠れを拝んでいられる。丸い尻が自分の腰にぶつかって、ぱつんと音を鳴らす瞬間とか、表面の汗ばんだ背中に、ゆさゆさと揺れている髪が、いくらかは張りついている光景とか、色んな部分が艶めかしく思えてきた。
「はっ、んぐぅ……くっ、くふぅ……んっ、ぐぅ……」
 声を抑えているせいなのか、初めてだから苦しいのか、どちらにしても、その声にすら色艶がかかって聞こえてくる。
「んっ、くぅぅ……ぐっ、んぅぅ……」
 解放感もなかなかで、思った以上に気分がいい。
 いや、異能を酷使した後は、激しい頭痛に見舞われるので、気分に浸っている場合でないといえばそうなのだが、通行人が誰もこの光景に気づかない。目の前を通りすがった少年も、向こうのベンチで鳩に餌をやっているオジサンも、何より真正面の位置にいるシンも、ここでセックスが行われていることに、気づきすらしていない。
 自分達の存在を都合良く世界から切り離し、好きに振る舞っていられる気分の良さといったらない。自分だけは何をしても許されるような気分になるし、まあ実際、バレないというのはある意味ではそういう話だ。

 途中からは場所を変え、噴水のところに手を突かせた。
 腰を掴んで行うバック挿入で、レーナのことを支配してやっている気になりながら、シンの隣で犯してやった。さっきまではレーナに動いてもらったが、今度はライチェスの方から腰を叩きつけ、すると尻を打ち鳴らす音がよく聞こえる。
 ぱん! ぱん! ぱん! と、思ったよりもよく鳴るものだ。
 肉棒の届く奥まで突いてやるたび、尻をぱんっ、と鳴らした衝撃に、レーナの身体は軽く前後に動いている。背中にかかった髪も揺れ、胴から垂れ下がった毛先も振り乱れる。
「んぁっ、くぅっ、んぅ……ぐぅ……」
 結合部を見下ろせば、自然と肛門まで目に入り、見ればそれはヒクヒクと、ピストンに合わせて微妙に皺を伸び縮みさせていた。
 それを見て、ライチェスはさらに突く。
「んんぅっ、んっ、くっ、ぐっ」
 人の見てはいけない部分を見てやっていることで、支配してやっている感覚が増大して、ライチェスはそれに酔い痴れる。
 またも射精感が膨れ上がって、ライチェスは美尻を汚す。
 綺麗な肌に白濁を振りかけて、汚れをつけてやっている興奮で、ますます気持ちは高ぶりそうだった。

 最後に奉仕をやらせた。
 ベンチの方に座り直して、待ちぼうけを食らうシンの前、その待ち合わせ相手が今ここにいるとも知らずに突っ立った姿を見やりつつ、ライチェスは逸物を咥えたレーナに目を向ける。自分の脚のあいだで頭を動かし、諦観の顔で舐めしゃぶる姿は視覚的にも興奮した。
「はずぅ……じゅっ、じゅむぅ……」
 舌や頬の内側が当たってきて、その快感も言うまでもなく。
 立場をわからせることが目的だった。
 ここまで惨めな扱いをして、屈辱を与えた末に、自分の処女を破ったものに対して奉仕をさせる。膣粘膜やら精液やら、ぬるぬるとした汚れが残っているので、それを舐め取らせた上で頬張らせ、肉棒を味わってもらう優越感に、気がどんどん大きくなる。
 ちゅぽっ、ちゅぽっ、と聞こえてくる。
 口にものを含んでいれば、唾液が分泌されやすい。その唾液が肉棒の表面に絡みつき、舌で塗り込んでいるようになり、そのまま水音となって聞こえてくる。息継ぎでもしようと、レーナがたまに唇を離す時、亀頭とのあいだには必ず糸が引いていた。
 また射精感が高まってくる。
 かれこれ三回目にはなるものの、勢いの衰えない射精をするため、ライチェスはレーナの頭を両手で押さえる。逃げることも、吐き出すことも許さないように放出して、喉に直接注ぐつもりで放出すると、レーナは今にも咳き込みそうな顔をしていた。
 もちろん飲ませた。
 こくこくと喉を鳴らして、飲み干す姿を見届けて、ついでにあともう一度だけ、今のフェラチオで汚れた肉棒を掃除させてから、やっとレーナのことを解放する。

 さすがに長い、まだ来ないのか。
 と、そう思っているうちに、やっと姿を現した。
「レーナ?」
「お、お待たせしました……」
 待ち合わせの時間を十分以上は過ぎてから、ようやく到着したレーナを見るに、シンはまず首を傾げる。
 この違和感は、一体何だろうか。
「珍しいですね。時間はしっかりしていそうなレーナが」
 別に嫌味のつもりとかでなく、レーナの性格なら時間なんかは几帳面に守るだろうに、何かあったのだろうかとシンは思う。バスが遅れただとか、何かそういうことが。
「すみません。その、いい服がなくて……」
 俯きながら、実に申し訳なさそうに、微妙な言い訳を口にしてくる。
「?」
 やはり、違和感。
 遅刻した人間が理由を述べて、少し言い訳してくるくらい、別におかしいことでもなくて、誰でもするようなことだと思うが。どうも何か、レーナがそれをしていることに、説明のつかない違和感が湧いてくる。
 遅刻をして、申し訳ない気持ちになっている。というだけでは、説明が足りていないような、何かがあるような、けど一体、なら何があるというのか、その理由が思いつかなくて、シンはただただ違和感だけを抱いていた。
 そういえば、着ている服が真新しい。
 買ったばかりに見えるシャツとスカートは、ファッションに疎いシンから見ても、かなり適当に選んで見えるような……いや、こんなものなのか。
「何かありましたか?」
「い、いえ! 行きましょう!」
「ん?」
 ますます、違和感。
 まるで今の話題を避けたいように見えた上、レーナの顔には一瞬、目尻のあたりに泣き腫らした赤らみがあったような。
 本当に、何かあったのだろうか。
 シンは何度も首を傾げて疑問を抱くが、結局はその答えが思いつかない。町をぶらぶら歩いたり、買い物をする最中のレーナは、何かを隠そうとして、無理に明るく振る舞っているような、そういう気はしたのだが、あまり確信を持てそうにない。
 かつては壁を隔ててお互いに顔を知らないまま交流して、長い時間を経ての再開で、ようやく二人は直接顔を合わせたわけで、付き合いが長いといえば長いような、浅いとも言えるような、ともかくレーナの機微を知り尽くしているわけではないから、こうに違いないと確信は持てないまま、シンは違和感だけを抱き続けた。

 そういえば……。

 待っている最中、噴水の近くにいつの間に犬の小便があって、その次にはよくわからない滴が石畳に残っていた。あの滴は噴水の水が風で飛んだとか、そういうものなのだろうか。それからベンチにも、変な濡れ具合が残っていたのを、広場を出る際に横目で見たが、あれもいつどんな濡れ方をしたのやら。
 微妙に不思議なような、気にすることもないような……。

 それらは愛液だったりするわけだが、まさか透明人間と化した男女がそこにいて、あんな広場でセックスをしていたとは、普通は想像するはずもなく、だからシンが見た滴も、噴水が風でどうにか飛んだものだろうと結論付けられることになる。