とある惑星に降りたホタルは、かつて星と共に過ごした思い出を心の中で振り返り、一人歩く今の自分の隣に彼女がいたらいいのにな・・・と、そんな切ない思いを抱く。
 その時、本当に星を見かけた。
 しかも何者かに追われているではないか。
 助けが必要に違いないと、そう思ってホタルは星を追う。彼女は何に巻き込まれているのか、どんな状況にあるのか。突き止めようと考えたホタルだが、その道中で敵に捕らわれ、そして目覚めた時には――。

 ifルート有り→機械調教を受けたホタルのif


プロローグ第1話 囚われたホタル第2話 始まる調教第3話 データ収集第4話 触手による陵辱第5話 分泌物の行く先第6話 絶頂第7話 怒りの末に


 某惑星で星核の存在が確認された。
 計画立案。
 分担完了。
 各自、行動開始。
 都市に降り立ち、一人街を行く少女は、この国、この街を見て回っている。じきに星核ハンターとしての行動を起こすため、治安の良し悪しや警備の存在、賑わう場所やそうでない場所、下見というものは欠かせない。
 そんな下見を兼ねた観光で、アイスクリームやポップコーンの店を前にして、少女は憂いを浮かべていた。
(一人、か……)
 少女の名はホタル。
 ホタルにはとある思い出があった。
 あの時、あの場所で出会った相手――付き合った時間は短くとも、不思議と大切な友達になってしまった、あの時の彼女の面影が脳裏に浮かぶ。
 アイリス家の役者を名乗り、出演の仕事がない時はガイドをやっていると述べ、案内と称して彼女を連れ回しているうちに、もっと一緒に過ごしたい気持ちが溢れかえった。
 記念に撮った写真は大切に保存している。
 スマートフォンを点灯させ、ロック画面を解除すれば、待ち受け画像として表示されるのはホタル自身と、その隣にあるもう一人の少女――星の顔だ。
 仲間はそれぞれ、別行動を取っている。
 単独で街を行き、そして周囲の雑踏を感じていれば、どうしても自分の孤独を意識する。友達連れ、カップル、楽しげにしている通行人がいくらでもいる中で、寂しく一人歩いているせいで、ぽっかりと空いた心の隙間に思い出が膨らんでいく。
 膨らんで、膨らんで、いつしか隙間を大きく広げ、小さかった穴をいつの間に拡張してしまう。
 だんだんと、心がどんよりとした薄暗さに沈んでいく。妙に悲しい気持ちになり、憂鬱な面持ちを誰にも見せたくないかのように、やがてホタルは俯いてしまっていた。
 人混みの中を、下を向いて歩いていた。
 思い出が綺麗な分だけ寂しくなる。
 寂しさこそが思い出の大切さであった。
(妄想、しちゃうな)
 実は星もここに来ていて、ばったり出会い、また一緒に街を歩くことにならないか。もしも星が隣にいたら、そんな想像を膨らませて、ホタルは顔を持ち上げた。
 例えば、あのアイスクリームの店。
 トラック型の店舗の列に並んで、一緒に注文するとしたら、彼女はどんな味を選んで、自分はどの味にするだろう。ポップコーンの店もフレーバーが色とりどりだ。
 ……会いたい。
 寂しさが願望となり、衝動へと変わっていく。
 だが、ここにいるはずがない。
 こんな気持ちを抱いたところで、やり場のない衝動だけが胸に残る。
(考えないように、しないと……)
 今は思い出に浸る時ではない。
 ただの観光ではなく、これは下見の役を兼ねた行動だ。
 どこに何があるのか、少しでも知る必要がある。データの地図を確保するのと、頭の中に地図があるのでは勝手が違う。実際に歩き、実際に見て回り、知り尽くした景色の方が、いざという時、より反射的に動きが取れるというものだ。
 警備兵の巡回が多い場所、少ない場所、裏路地や町外れなどに体感的な治安も確かめる必要がある。物思いに耽って、役目を忘れるわけにはいかない。
(集中しよう)
 頭の中から、今は星を振り払おうとした。
 思い出に浸りたければ、それはもっと別の時間にすればいい。
 妄想はここまでだ。
 集中、集中――。
 だが、固めようとした集中が霧散した。
 それを見て、その衝撃に当てられれば、目を見開かないわけにはいかなかった。

 ――星!?

 人混みに横顔を見た。
 この雑踏の中、人口密度の隙間に辛うじて見えた横顔は、一瞬にして消え去っていた。
 いいや、星のはずがない。
 確かに人は横切った。だが走っていたようなので、顔立ちはおろか、性別さえも判然としない。なのに少しでも星の横顔に見えたのは、思い出が恋しいあまりの幻覚だ。
 そう、人は通った。
 ただ、そこに幻覚の仮面を張り付けて、自分の見たい世界を見ただけだ。きっと遠目に見る分には、実際に星に似て見える人物なのだろうが、近くで見れば丸っきりの別人なのだ。
 星に見えたのは気のせいだ。
 追う必要はない。
 頭では自分にそう言い聞かせているのに、ホタルの足は星の幻影を追い始めた。違うはずだと思っているのに、つい先ほどの衝動が両足を突き動かした。
 やり場のなかった衝動が、やり場を見つけてしまった。
 人が駆け去ったその場所へ、みるみるうちに足は迫った。
 その時である。
「あっちだ!」
「あのバッドの女!」
「必ず捕らえてやる!」
 心臓が飛び出そうだった。

 ――バッドのって!

 本当にせいかもしれない。
(嘘? こんなことあるの)
 いいや、それでも別人かもしれない。
 追いかけた先に待つのは、どれほどの落胆となるか。頭の片隅ではわかっていながら、確かめないことには、この気持ちは収まらない。
 バッドの女を追っているらしい、三人の男達の背中を追い、ホタルもまた駆け出した。人を追跡している面々としては、自分もまた誰かに追跡されるなど、そうそう思わないことだろう。
 三人組は鬼気迫る表情でもしているのか、その駆ける姿を見て、海を切り裂く奇跡のように人混みに通路が生まれている。だが尾行がバレてはいけないので、なるべく距離を取ったホタルが駆ける時には、その奇跡も閉じかけとなっていた。
 人口密度が直線状に薄れたルートへ飛び込んで、少しばかり人を避けながら、ホタルはそのさらに後を追いかけた。
 彼らの足は人混みを離れ、裏路地に向かった。
 何度か道を曲がる彼らを見失うことがないように、かといって近づきすぎない、適度な距離を保っていたホタルは、そこで急停止して身を隠した。
 曲がり角から飛び出さないよう、建物の影からそーっと、顔だけを出して様子を窺う。
(本当に星なの!?)
 ホタルは驚愕していた。
 また会えるなんて――しかし、喜ぶべき状況ではなかった。

 星は巨漢の肩に担がれていた。

 捕まっているのだ。
 どんなトラブルに巻き込まれたのか、三人の男から逃げていた星は、待ち伏せによる攻撃を受けたのだろう。簡単にやられる彼女ではないはずだが、あの巨漢にも相応の腕前があるということなのだろう。
(助けなきゃ……)
 ホタルに迷いはなかった。
 見間違いではない、本当に星だ。
 ならば、見捨てることは出来ない。
 問題は行動の取り方だ。
 様子を窺い、彼らのアジトを突き止めるか。それとも、今この場で堅牢な鎧を纏い、星の身柄を奪還するか。
(アジトを突き止めれば、侵入した後、隠密的に助け出す方法も探れるけど……)
 今この場で仕掛けるのと、アジトへの潜入、比べてどちらに敵が多いかは言うまでもない。
 武力行使なら今なのだ。
 そして、迷っている時間はあまりない。
(三人は大したことない。たぶん、一般人よりも喧嘩に慣れている程度。問題は大きい方。気配に敏感に見える。あたしがここに隠れているのも、下手な物音一つで気づかれるかも……武器は拳、怪力で何でも貫く。刃物を取り出したり、銃で狙いを定めるアクションは挟まない)
 判断は素早く、せいぜい数秒ほどで結論を出さなければ、彼らはこちらを待ってはくれない。すぐにでもアジトに向かって歩き出すだろう。
(その道中を襲う? それがいいかも、そうしよう)
 あの巨漢の背後を狙うタイミングを伺って、奇襲をかけて取り返す。星の身柄を確保したら、無理に戦闘を継続せずとも離脱すればいい。
 無論、殲滅という選択肢もある。
 星の救出さえできれば、細かいことは状況しだいだ。
 ホタルはデバイスを握り締め、男達の動向を窺った。歩き出す彼らの後を追い、その背後を確保するため、ひとまずは時を待っていた。
 三人の男と、星を担ぐ一人の巨漢は、細い道へ向かって進み出す。どうやら彼らの行き先は、こちらに戻ってくるのでなく、さらに奥へと進む道のりになるらしい。
 不幸中の幸い、その方がホタルにとって都合が良い。
 背中が小さくなり始めるのを見計らい、ホタルは影から体を出した。
 その瞬間だった。
「――っ!」
 ホタルは大きく目を見開いた。
 あらゆる驚愕が、その眼差しには宿されていた。

 頭に鈍い衝撃が走ったのだ。

 何者かに殴られての、突然の事態に驚く思い。今まで何の気配も感じさせずに、これほど接近してくる敵の存在。ではあの巨漢だけでなく、他にも腕利きの仲間がいるのではないかという戦慄。
 気を失うまでの、ほんの一瞬の時間の中で、ホタルの中でそれらは駆け巡った。
 だが、最後に浮かんだのは――。
(星……)
 思い出に向かって手を伸ばし、ホタルはそこで気絶する。地に伏した彼女は石畳を掴んでいた。




 深いまどろみの中にいた。
 深い、深い、本当に奥底から、少しずつ浮かび上がっていくように、ホタルの意識は時間をかけて覚醒する。
 まだ、頭が重い。
 視界もぼやけて、前後の記憶も判然としない。自分が何故、どうして眠っていたのか。重々しく濁った頭が澄んでいくには、さらに少しの時間を要した。
 しだいにホタルは思い出す。
 星の横顔を目撃したこと。星が何者かに追われていたので、男達のさらに後を追ったこと。後ろから殴られて、その殴った者の正体もわからないまま気を失ったこと。
 それら記憶の整理を済ませた頃には、ホタルは自身の状況を把握していた。
 ……捕まっている。
 星を救うどころか、ホタル自身さえ囚われて、固い拘束の中に身動きが封じられている。
 ホタルは穴空きの台に乗せられていた。
 四つん這いである。
 四足歩行の四肢をそれぞれ収めるような、四つの穴に手足は嵌め込まれている。縁の部分にクッションパーツをぐるりと取り付けた穴のサイズは、どれもホタルの四肢にフィットしていた。
 箱型の拘束具、ということなのだろう。
 木箱の板を見下ろして、その向こう側にある自分の両手を意識する。
 箱の中に板を入れ、二階建てのような構造にした上で、ホタルの四肢はその二階の板に置かれている。箱の内側では手首に手錠がかかっており、足首にも同じく金属の感触があった。
 箱自体と手錠によって、ホタルは手足のどちらも、二重に拘束されている。
(しくじっちゃったな……)
 これでは脱出できそうにない。
 物は試しに腕を引いたり、足を動かそうとしてみるが、箱の内側にある手錠の、鎖が音を鳴らすばかりでビクともしない。
 鎧を纏うためのデバイスなど、当然のように取り上げられていた。
 不覚であった。
 星を助けるどころか、捕まる人間が二人に増えたのだ。
 それに少しだけ、頭が怠い。脳の中身がどんよりと、微妙に調子が悪いのは、もちろん殴られたせいかもしれない。起きたばかりで、まだ頭がすっきりしていない事もあるだろうが、ホタルの中にはもう一つの可能性が浮かんでいる。
 確証はない。
 だが、最悪の想定として、ホタルは危機感を胸にしていた。
 何らかの薬を飲まされているかもしれない。
 人を捕らえて、身動きを封じるのなら、抵抗や脱出の力を奪っておきたいのが心情だろう。力を弱めるための作用が肉体に循環して、能力の発揮が阻害されている可能性をホタルは考えていた。
 本来よりも筋力が出せないような、それに頭の回転も鈍いこの感覚は、どうあれ本来の調子を発揮出来そうになかった。
 試しに、木箱の内側で拳を作り、爪がどこまで手の平に食い込むかを試してみる――握力がいつもより弱い。不安は確信に変わったと思うべきだろう。
 周りを見れば、この部屋は研究室に見える。
 様々な計器、コンピューターの並んだ部屋に囚われている状況から、何かの実験やデータ採取を連想するのが当然だ。そんな部屋模様の中心に置かれれば、自分は観察対象の動物扱いだろうかとも思えてくる。
(今のうちに……)
 ホタルは箱の内側で手を動かす。
 どうにか手錠に触ったり、鎖に指を触れるなどして、拘束具の素材や構造を確かめたかった。まさか、力ずくで引き千切れる可能性などありはしないが、自分の状況は少しでも把握したい。どんな事態においても、何かを少しでも把握するのと、しないのでは大違いだ。
 手首にかかったリングをなぞる。
(当たり前だけど、鍵穴がある。鍵がないと外れない。たぶん、鍵は誰かが持っているか、それか別の部屋。あたしが人を捕まえる立場なら、捕獲対象と鍵を同じ部屋になんて絶対に置かない)
 別室にある場合、その鍵の保管場所にもまた、ドアに鍵がかかっているのだろう。
 ホタルは次に拘束箱を意識する。
(こっちは木製、凄く頑張れば壊せなくはないかな。でも、手錠が手足に付いているから、箱から脱出できたとしても、動きは物凄く取りにくい)
 そして、改めて部屋中を見渡した。
 何台ものコンピューターが群れを成し、計器の画面には波形らしきものが表示されている。
(あたしの体について、知りたいのかな……。もしかしたら、サムもどこかで調べられているかも)
 ホタルは自分の生まれや過去を思い出す。
(あたしに故郷はなくて、それからピノコニーで星に出会って、あの時間は本当に……だから、星のことは助けたい。だけど、今はそれより、自分自身が脱出できるかどうか)
 じきに人がやって来るだろう。
 その人物は何を目的にして、ホタルに何をしてくるのか。果たして最後まで無事でいられるのか。気がかりは多く、そして望みは薄い。

 ドアの開く音が聞こえた。

 電動式の自動開閉。
 スライドによって開いた音に続けて、即座に聞こえる次の音は人が入ってくる足音だ。
 かつかつと、靴が床を叩いていた。
 響きやすく、そして静寂な部屋の中、足音によって相手の位置がよくわかる。自分と相手の距離を正確に掴むホタルだが、かといって反撃や逃走の手立てはない。
 こんな四つん這いの格好で、人が近くに迫ってくるのを、ただ待つことしかできなかった。
「おやおや、まあまあ、何やら鎖の音がすると思ったら、もうお目覚めのようで? お嬢さん」
 一人の男がホタルの前に現れた。
 丁寧な風を気取って、胸に手を当て頭を下げる。キザな挨拶にホタルはむしろ顔を顰めた。
 星を追いかけた三人でも、肩に担いだ巨漢でもない、あの場の面々とは異なる男を見ることで、ここが連中のアジトであることを実感する。
 この時点で、確認出来た数は四人。
 規模は不明だが、まだまだ何十人もいるのだろう。
 いや、それとも、自分の身柄は既にどこかへ預けられた後であり、あの四人とこの男は、それぞれ別の組織だろうか。
 細かいことはわからない。
 目の前の男が喋ってくれればいいのだが……。
「あなたは?」
「ただの商人ですよ? 商人。といっても、売っているものはあまり合法的とは言えませんがね」
 その瞬間、脳裏には星が掠め、そして自分の状況についても危機感が膨らんだ。
 拷問、実験。
 考えたくはない未来、それに末路を想像はしていた。このまま脱出も何もできずに肉体を解体されたり、人体実験の末に廃棄されるかもわからない。
 そんな危機感を切実に抱いていたホタルであるが、男の視線はどこか怪しい。
 どことなく、欲情して見える眼差しから感じる予感は、拷問でも実験でもなかった。
 ――辱めだ。
 きっと体を弄ばれる。
(……嫌だ。すごく嫌だけど、下手な動きはできそうにない)
 この男は「鎖の音」と言っていた。
 言葉の通りなら、彼の聴力は優れている。ちょっとした仕草を聞き取られ、目論見を看破されないとも限らない。
「いやぁ、それにしても美しい。本当にお美しい。これほど綺麗なあなたなら、きっと高く売れますよ?」
 男の指が顎にかかって、顔をくいっと持ち上げられた。
「……触らないで」
 この状況でいくら容姿を褒められても、綺麗だと囁かれても、それは商人が宝石をいくらで売れるかと計算するのと変わらない。一体、自分にはどんな値段が付けられているのかと、物扱いへの不快感が先に立ち、ホタルは顔を顰めていた。
「おっと、嫌われたようですが、あなたのその――触らないで、などという願いは叶わないのですよ? 何なら、この私などより、もっともっと――受け付けない、ような男に触れられる未来だって、あるかもしれませんから」
 饒舌に語り、男は真横へ回った。
 四つん這いである胴体の、すぐ隣に立った男の手によって、スカートが捲られた。お尻に触れていた布が遠退き、腰には微かな重みが乗ることで、後ろを丸出しにされたことがわかって、ホタルは恥じらい、顔を赤らめていくのであった。
「こういうことが……目的なんだ……」
 蔑む思いと、自分が商品になる未来への不安が入り交じり、ホタルは顔を暗くする。
 商人を名乗った彼の目的は、本当に実験や拷問ではなく、そういう用途で売り飛ばすことなのだ。ホタルの体は今、その手の値踏みをされている。
 いくらで売れるか、どんな客が付くか。
 彼の頭の中では、そんな計算が働いている。
「そうそう、こういうことが目的なんですよ。嫌いな男はいませんからねぇ――パンツ」
 男の手が尻に置かれて、ホタルはたちまち強張った。ショーツに食い込む五指と、押しつけられる手の平の感触に、大きな不快感を味わっていた。
 手が動く。
 上下にさすってくるタッチで、手の平とショーツの摩擦が起こり、ささやかな音がすりすりと聞こえて来る。
 そして、揉まれた。
 五指に力が加わって、強弱がつけられる。白い布を捏ねる手つきがお尻をささやかに変形させ、ホタルは恥辱感に顔をみるみる歪めていく。
「……気持ち悪いから」
「おやおや、この程度の刺激はお気に召さないと? ご安心下さい、これから嫌でも、気持ち良くなりますから」
 人の言葉をまったく無視している。
 そもそも、まともに聞く気がない、聞く必要もないのだろう。
「嫌でもって……」
 ホタルは唇を噛み締めた。
 このまま何も出来ず、ただ体を好きにされ、胸やアソコを嬲られることになるのだろう。貞操を失い、あまつさえ思い通りに快楽など与えられては、これ以上ない屈辱に苛まれることになる。
「あなたは商品です。しかし、すぐには売りません。敏感で、イキやすくて、面白い反応に仕立ててから売るんです。商品の品質は大事ですから? じっくり、たっぷり、気持ちいい時間をお過ごしになれますよ?」
 男の語る言葉によって、全身を嬲り尽くされる未来が浮かぶ。
 冗談じゃない。
「それで、どこに売る気?」
 ホタルは情報を引き出そうと試みた。
「おや? 自分の商品価値に興味が?」
「どうやってお客さんを集めるの」
「大丈夫ですよ? あなたはとっても可愛くて、それに美しいですから、かなりの大金持ちに買われます。貴族はペットを大切に扱いますから、ひょっとすれば、そこらの人間なんかより、よっぽど贅沢な暮らしが約束されるかもしれませんよ?」
「貴族って、例えばどんな人」
「あなたは大分、ご自身の未来を気にされていますね。ま、当然と言えば当然ですが、どこへ行こうと、どんなお客様の手に渡ろうと、それなりの扱いを受けるはずだと、私は想像しています」
 想像、などと、わざわざ予防線を張っている。
「そういうお客さんが多いの?」
「お客様の詳細な身分や立場だなんて、人それぞれに決まっているじゃないですか。ですが、私はこう思います。未来のあなたは美味しいものを食べ、エステで体を磨き、ピアノやヴァイオリンなんかのレッスンで淑女としての価値を高め、そして豪奢な天蓋の中――夜を過ごす。それはとっても、雅な生活だとは思いませんか?」
 あくまで空想を述べていた。
 この男は饒舌で、随分と口数が多いものの、ホタルの質問にはまったく答えていない。顧客の傾向、取引の場所、少しでも情報を引き出したかったが、きっと良い未来が待っていると語る以外をしてしない。
「あの男達に比べて、あなたってひ弱そうだけど」
「おやおや、私は一体、どこの誰と比べられているのでしょう。どこの組織や企業も、色んな人を雇っているし、色んなところに仕事を外注しますので、その中の果たしてどういう人物が比較対象になっているのやら」
 男はわざとらしく肩を竦めた。
「自分と関わりのある仕事を把握していないの?」
 やや挑発的に尋ねてみる。
「仕事といえば、どんな仕事にも体力は必要です。ひ弱だなんて言いますが、こう見えても私だって鍛えていますよ? 脱げば見せびらかすだけの筋肉があったりするんです」
 仕事の把握について言及したのに、その答えは鍛えているだの筋肉だの、この男は質問の意図をわかっていて、わざとふざけた答えを繰り返している。
 なるほど、言葉の意図が汲めず、会話が成立しない手合いも存在するだろう。
 だが、彼は確実にわざとである。
(うっかり口を滑らせたりはしなさそう)
 その時、お尻から手が離れる。
 だが、これで終わりはしないだろう。気持ちいい時間などと言ったからには、それは次の行為の始まりに過ぎない。男の気配が真横から真後ろへと移動するなり、今度は両手が尻に触れてきていた。
 ショーツのゴムに指が潜った。
 男は両手でするっと下げ、ホタルの尻をあっさりと、一瞬にして丸出しにしてしまった。
(やだ……)
 ホタルはより大きな恥じらいを浮かべ、赤らみ尽くした頬で俯いた。木箱の中に隠れた拳を固く震わせ、歯を食い縛って悔しげにしていた。
(誰にも、見せたことなかったのに……)
 剥き出しの尻が男の視線に晒されている。
 もうこの時点で、性器も見えていることだろう。それどころか尻たぶに両手が置かれ、指でぐいっと左右にワレメを広げられ、肛門さえも開帳された。皺の窄まりに顔の気配が近づいて、そんなところまで凝視されている状況に、恥ずかしさは増す一方なのだった。
「いやぁ、とても綺麗です。清潔でいいですねぇ? 色合いといい、性器の初々しく見える感じといい、毛の生え具合といい、全てが需要に満ち溢れています。たとえあなたを買うために破産して、家を失い、路頭に迷ったとしても、そのお客様は最高の幸せを味わうことでしょう」
 頬の赤らみが熱を宿して、顔中が燃え上がった。耳まで染まる勢いの恥ずかしさに、ホタルは羞恥の苦悶を浮かべた。
 見られるだけでも恥ずかしいのに、こうも饒舌な感想を述べられてはたまらない。
(だめ……恥ずかしさで死にそう……)
 下唇を口内へ丸め込み、噛み締める。
「ええっ、ええ! 素晴らしい!」
 指が下へ移った。
 今度は性器が引っ張られ、肉ヒダにも視線が注がれた。
(やだ……本当に…………!)
「とても良い桃色ですねぇ、赤いお肉にまばらな白が通ったような、この見た目、どんな果実に例えればいいでしょう。ああ、私がもっと詩人だったなら、語彙力に満ちた文学者なら、あなたの性器を、オマンコを、言葉によって表現できたでしょうに、ただただ美しいと述べるばかりで限界なのが悔やまれます。ええ、とても悔しいです」
 いつまで、この嫌な饒舌さを聞かされていればいいだろう。
 男の指が性器を離れる。
 恥部への視線は外れるものの、ショーツは下げられたまま、四肢の封じられたホタルには、着衣を元に戻す手段がない。
 せめてスカートだけでも直そうと腰を振り、腰にかかった丈を落とそうとした。胴体を前後して、お尻を左右にしてみることで、どうにか布をずらせないかと苦心していた。
 そのあいだにも、男は周囲の計器はコンピューターを弄り始める。それで一体何をするのか、これから自分はどういう目に合わされるのか。
 ホタルの中で不安が膨らむ。
「ああ、ご安心を」
 男は言った。
「言いましたでしょう? 気持ちいい時間をお過ごし頂くと。つまり拷問なんて野蛮な真似は断じて致しません。世の中には特殊な趣味のお客様もいらっしゃいますが、綺麗な状態で売りに出すのが我々の務めですから、ご心配には及びませんよ」
 さらりと言った、そういう趣味のお客様という言葉のおかげで、安心するどころか、むしろ不安が増していた。
(やっぱり、お客さんなんて色々なんだ)
 男は贅沢な暮らしを示唆してきたが、あの口先の言葉はやはり想像に過ぎない。
 残酷な未来の可能性が提示され、ホタルの心にはどんよりとした影が差し込んだ。
 もしも脱出のチャンスがなく、仲間の助けも来ないようなら、少しでもマシなところに買われるように祈るしかない。
 これが、奴隷の気持ちというものらしい。




 ホタルはカメラに取り囲まれた。
 周囲には三脚台が並べられ、そこにカメラが取り付けられている。
 チューブ状のカメラもあった。
 内部骨格の構造により、好きなカーブの形へ自由自在に変えられる。チューブ状のその先端にレンズを搭載したものが、まるで天井にイソギンチャクを生やしたように伸びてくる。
 その一本一本は、どうやら遠隔操作可能なものらしい。
 手で触れることはしていないのに、男の行うコンピューターの操作に合わせ、チューブの数々はくねくねと、駆動音と共に形状を調整していた。
 おびただしい数のカメラがホタルを見つめる。
 こんなにも多くのカメラを使い、ありとあらゆる角度から撮りたい意味がわからない。
 たった数十分の映像でも、無数のカメラを使えば合計で何十時間になることか。これから、何時間にわたって撮るかもわからない映像で、これだけのカメラなど使い、果たして誰がどのように内容をチェックするのか。
 それとも、望みの映像を自動で切り抜くシステムでも組んでいるのか。
 この状況で、ホタルはそれでも敵の情報を探ろうと頭を回していた。
「なんなの? これは……」
 右を向き、左を向き、どこに視界を移しても、必ずカメラが向いている。上を向いても、ちょうどカメラと目が合うので、ホタルはひとまず俯いて、腕のあいだにある木目だけに視線を注ぐ。
「これから、あなたの体について、あらゆるデータを採取します。それはもう、本当にありとあらゆる、スリーサイズから健康状態の詳細にかけてまで、詳しく、細かく、全てを解き明かすことになるでしょう。処女か、非処女か。生理周期や自慰行為の経験にかけてまで、本当に何から何まで暴きますので、そのおつもりでお願いしますよ?」
「ふ、ふざけないで……」
 肛門を見られ、性器の中身を観察され、もうこれ以上は恥ずかしい思いのしようがないと思っていた。だが男の言葉通りなら、つい先ほどまでの恥ずかしさより、もっと大きく膨らんだものをこれから味わうことになる。
(そ、そんなの……)
 屈辱と恥ずかしさに、自分は一体どこまで耐えきれるか。
 羞恥心のせいで身と心がどうにかなりはしないかと、針や刃物が使われるわけではないのに、まるで拷問を受ける直前のような恐怖が湧く。
「ところで、衣服が邪魔ですね? そんなものがあっては、肉体の全てを細かく、くまなく、隅々まで、調査することはできませんからね。なのでハサミを使わせて頂きますが、これはあくまで着衣を取り払う目的ですから、必要以上に恐れることはございません」
 男の手には確かにハサミが握られていた。
 その刃が開き、銀色が光を放つと、ホタルは強い不安に駆られる。身動きの取れない状態で刃物が迫れば、どうあれ緊張を強いられる。体中のどこもかしこも強張って、ホタルは顔を硬くしていた。
 無力感に打ちのめされた。
 指でスカートがつままれて、持ち上げられる。そこにハサミが入っての、繊維が断たれる音が聞こえてくる。
 衣服が少しずつ布切れに変えられた。
 背中を切る時には髪をどかして、開閉する刃の峰がたまに皮膚に触れてくる。金属の冷たい感触が近づいたり、うなじの近くでジョキジョキと聞こえる時の緊張といったらなかった。
 そうして、最後には下着も切られた。
 ブラジャーのカップが取り去られ、陰部を隠す手段も失われ、ホタルはこれで丸裸だ。
 思えば拘束箱の内側に、ブーツやソックスがない。
 本当に、身に着けているものが何もない。
 せいぜい、ヘアバンドが残っているくらいである。
 完全な無防備にさせられて、男の視線が裸体へと注がれる。その恥ずかしさに耳まで染め上げていた。
「なんとも言えない肌触り」
 男は再び、ホタルの尻に触ってきた。
「やめて……」
「きめ細やかな肌の質感といい、光を反射している感じといい、あなたはどこまで可憐なのですか? これでは……これでは、どれほどの利益が出るか、想像するだけでヨダレが垂れて、そのまま口の中が乾いちゃいそうじゃないですかァ!」
 狂喜していた。
(こ、この人……)
 ホタルは直感的に肌で感じた。
 彼は女体に対する単純な興奮などしていない。ホタルの顔やスタイルを見ることで、頭の中で利益の計算を行って、金の欲に酔っているのだ。
 どうやらホタルには、よほど高く売れる見込みがあるらしい。
「いやぁぁぁ! 最っ高です! あなたのことは? その身柄だけでなく、撮影したデータも販売予定なんですよ。データほど無限にコピーできるものはありませんからねぇ? そうしてあなたの裸はマニア達の手に渡る。その時、彼らはどれほどの大金を叩いてまで、あなたのデータを買うのでしょう。あなたに想像できますか? ほんの数分や数十分の映像のためだけに、何人もの大金持ちが札束を投げ出すところを! あなたという存在が、どれほどの額に換金されるか!」
「……知らないから、そんなの。触らないで」
「そうはいきませんよ? 何故なら、あなたには知って頂きたいのです。その肉体にはどれだけ価値があるのか。例えばこのお尻、白くて見た目が柔らかそうです。見ているだけで、ふわふわとした綿の塊の感触が頭をよぎり――そして、揉むと実際に柔らかい」
 確かめるかのように、男は指を食い込ませる。握り込まれた尻たぶは、五指に合わせて変形していた。
「それに肌がサラサラです。ツルツルです。きめ細やかな砂を撫でるような、本当にサラっとした感じが、こうして撫で回している私の手の平には返ってくる」
 今度は這い回らせていた。
 揉むのはやめても、その代わりに活発に這わせ尽くして、ホタルのお尻には触れられた感触が広がった。何を塗られているわけでもないが、好き勝手に撫で回される状況は、まるで汚い泥でも塗り広げられているような気分であった。
 じわじわと皮膚が蝕まれる。
 不快感による侵食で、お尻の肌がまんべんなく泡立って、ホタルは顔を顰めきっていた。
「では胸はどうでしょう」
 今度は乳房に手が伸びる。
 四つん這いの胸を揉むため、胴の下へと潜らせた手によって、乳房が包み込まれている。やはり皮膚を侵食される気分になって、接触した部位が泡立って仕方がない。
「なんとも、なんとも! 揉んだ心地も素晴らしい! 少々の硬さ、少々の弾力! 柔らかいながらにこちらの指を押し返す瑞々しさと、乳首のくにくにとした感触! これほど良い乳房を揉んでいたら、指がいつまでも、いつまでも止まってくれなくなるのでは?」
 男は乳房だけでなく、指で乳首も刺激してきた。つまむことで指圧して、その圧力に挟まれた、こりこりと左右に転がされ、軽い力で引っ張られた。
 乳輪をぐるぐるとなぞる刺激を与えられ、指で前後に弾き続ける愛撫も受けた。
 それら刺激によって少しずつ、少しずつ、ホタルの乳首には血流が集中して、ついには硬く突起しているのであった。
「おおっ、なんとも! 感度も良いようですねぇ?」
 突起によって、男の声が上擦っていた。
「そんなこと知らないから、早くやめて」
 怒気を含んだ低い声音でホタルは言うが、男はお構い無しに続けてくる。
 太ももが撫でられた。
 背中や腰にも手の平が這い回った。
 肩や二の腕すら揉んで撫でられ、体中の至る所に男の手垢が広がった。目には見えないものを塗り込まれ、くまなく汚染されるような気分のあまり、全身の皮膚がむずむずと痒くてたまらない。
 シャワーを浴びたい。
 一刻も早く汚れを洗い流して、この男に触られた事実をなかったことにしたい。
「ところで、処女ですね」
「……っ!」
 その指摘に、ホテルは歯を食い縛る。
 見て触るだけに飽き足らず、性経験の指摘によってまで辱めを受けたホタルは、屈辱で眉間に皺を寄せ、険しい顔で頬を硬くしているのだった。
「わかりますよ? あの小さな膣口は、間違いなく男性を知らないものです。よしんば性行為を嗜んだ覚えがあっても、それはおそらく自慰行為か、あるいは前戯までで終わったきりです」
 気分が悪かった。
 最初に性器を覗かれた時から、処女か非処女かの情報まで掴まれていたのだ。
「気持ち悪い……」
「率直な感想をありがとうございます。では改めて確認していきましょう」
 男は再び真後ろに回り込む。
 お尻の近く、そのさらにアソコの付近に気配が迫り、ホタルは恥じらいを煽られる。頬を熱っぽく燃やして唇を噛み締めて、羞恥を堪えているうちに、指で左右に開かれていく。ピースの形に合わせるうように、くぱっと、改めて肉ヒダが開帳された。
「この美しく血色の良い中身、カメラに撮影させてもらっていますよ?」
「や、やだ……」
 カメラの存在に言及されると、今この場の恥ずかしさだけでなく、データが人の手に渡る未来まで頭に浮かぶ。やめて欲しくてたまらない、強い拒絶の意思が膨らんで、しかし止める手立てが何もないのだ。
「ええっ、ええ! やはり、やはりあなたの性器は美しく最高ですねぇ! このせっかくの処女ですが、残念ながらうちで行う品質管理の流儀では、このまだ何も知らない幼き膣口に、ねじ込まなくてはならないのです!」
 実に嘆かわしいかのように言ってみせる芝居への、腹立たしさが膨れ上がる。
「そんなことをしたら、ただじゃおかない」
「説得力って大事ですよねぇ? 今のあなたのその状態で、どうタダじゃおかないことができるのですか? できることがあるのなら、今すぐにでもやっておかないと後悔するのでは?」
 その時、指が割れ目に触れていた。
 ピースが一度は性器を離れ、しかし直ちに二本の指が置かれ直して、挿入の直前となっていた。指先が少しだけ、ほんの数ミリだけ埋まった状況は、まるで凶器を突きつけられたかのようだった。
 刃物を突きつけられ、下手な抵抗をすれば殺される。
 膣に指を突きつけられ、男はいつでも挿入可能な立場にある。
 命を握られているわけではないが、何かを握られている心地の悪さに冷や汗が浮かんだ。
「……痛い、やめて」
「大丈夫ですよ。そんな大袈裟な。まあ、実際に入れてみて、本当に激痛が走って仕方が無さそうなら、もう少し段階を踏んでも構いませんがねぇ」
 男は指を入れ始める。
「くっ……」
 ホタルは歯噛みした。
 身動きさえ自由なら、こんなことは決してさせないのに、拘束具の存在が呪わしい。
 指が埋まり始めている。
 無難に人差し指と中指の束か、それとも別の指なのか。どの指を合わせた二本か、感触だけではホタルにはわからない。ともかく、埋まり始めたものの先端が膣へと収まり、まずは第一関節までが隠れていく。
 入ってくればくるほどに、その太さに合わせて膣口は拡張され、無理に押し広げられている苦しさをホタルは味わう。
「おや、固いような感じがしますねぇ? この感じですと、自慰行為の経験もないか、あるいは表面しか触ったことがない。あってせいぜい、一本だけを入れたことが数回、といったところなのでしょうねぇ?」
「本当にいちいち気持ち悪い……」
 苦悶しながら、ホタルは言う。
 その都度その都度、人の性的な経験について見定めたり、言い当てようとしてくるのが気持ち悪い。人の心を覗き込み、知り尽くそうとしてくる相手に対する薄気味悪さで、背筋がぞっと震えてしまう。
「狭いですねぇ? 直径が足りないせいで、単に挿入しているだけでも、いささかの締め付けを感じます。あなた、この狭さで初体験を迎えるのは大変でしょう? 私が良い具合にほぐして差し上げますよ?」
「頼んでない」
「遠慮はいりません。ほら、指を一本にしてみましょう」
 男は指を引き抜いた。
 第二関節まで収まっていた感覚が、一瞬にしてすっぽ抜け、今まで内側から押し広げられていた余韻が残る。まだ穴が緩んでいるような、締まり直したような、どちらともつかない感覚だった。
 直後、一本だけとなった指が迫り直して、ホタルの中へと潜り始めた。
「うぅ……」
 その感覚に、浮かぶものは苦悶や眉間の皺ばかりだ。
「ふうむ、なるほど? さすがに、先ほどと比べてとてもあっさり、それはもうスムーズに入っていきます。ああ、これは粘膜が出て来たおかげもありますねぇ? おそらく、快感によるものではなく、防御のために出て来る保護粘膜なのでしょう。しかし、この汁っぽい気配も、気持ち良さによるものへと変化するのは時間の問題ですよ?」
「なんでそんなに口数が多いの」
 べらべらと口の止まらない、不思議なほどの饒舌さに苛立っていた。
 言葉の全てが人の羞恥心を煽ったり、性的経験を探ろうとする気持ちの悪いものなのだ。生理的に受けつけない言葉がいくらでも並べられ、拘束があるので耳を塞ぐ手段がないなど、この状況がストレスでなければ何なのか。
 そんな意味でも、ホタルの顔には苦悶が滲み出ていた。
「せっかくです。あなたも、もっと何か喋られては? そう、例えばこの、根元まで入った感想とか」
 指が収まりきることで、ホタルの股には拳の部分がぶつかっていた。
「あなたと話すことなんてない」
「それは残念」
 ピストンが始まった。
 指がゆっくり抜かれていき、第一関節だけが収まる位置まで後退すると、前へ前へと進み直して、また拳が当たってくる。そんな前後運動が繰り返され、指と膣壁の狭間で摩擦が延々と続いていく。
 少しだけ、滑りが良かった。
 だが、今はまだ少しだ。
 保護粘膜に守られて、擦れて痛いほどではないが、今のところ乾いた状態に近い。薄らとした水気に過ぎない、乾燥したところに擦れる痛みの、その手前のような負荷を感じていた。
 快楽など感じない。
 何がどうしたら、こんな状況で悦ぶものか。
 そう思っていたホタルだが、愛撫が続けば続くだけ、しだいに体の反応が表れ始める。
 まず、汁気が増えていた。
 刺激が重なるにつれて愛液は分泌され、しだいに滑りが良くなっていく。生じるものは違和感でも痛みでもなく、苦しい感じでもなく、快楽になり始めていた。
(やだ……感じるなんて……)
 愛液の分泌に合わせて、指の動きはスムーズになっていた。
「くっ……」
 潤滑油が負荷を取り払っていく分だけ、入れ変わるようにして快楽が表に出る。このまま続けば、このピストンが愛液をかき混ぜる状態に至るのも時間の問題なのだろう。
 甘い痺れが走っている。
 アソコから生まれた快感は、内股へと駆け巡り、太ももの神経を少しばかりピリピリさせる。その感覚でホタルは微妙に、本当に小さく薄ら、脚やお尻をピクピクと反応させていた。
「んっ、んぅ……」
 無念そうに目を瞑り、ホタルは指のピストンをただ受け入れる。拒みたくとも拒むための手段がなく、堪えるという選択しか取れない悔しさの中で、彼女は快楽を感じているのだった。




 指の出入りはスムーズになっている。
 増すばかりの汁気によって、もはや摩擦に引っかかることはなく、実に軽やかに滑っている。潤滑油の層が厚みを持ち、滑りを良いものにしていく分、ホタルは刺激を感じていた。
(だめっ、気持ち良くさせられて……)
 好きで感じている快楽ではない。
 身動きが取れず、それを良いことに挿入された指での快感など、ホタルにとって屈辱に他ならない。気持ちいいことの悔しさに歯を噛み締め、そんな顎の力で頬を硬く震わせていた。
「くっ……」
「おや、何か不満そうなお顔ですね? いえ、こちらからは顔は見えないのですがね」
「……だろうね」
 確かに見えないはずだ。
 お尻の向こう側に立っていて、男が見ている景色はお尻に太もも、肛門にアソコ、いやらしいものの詰め合わせだ。
「ですがまあ、なんとなく感じましたよ? あなたの何か不服でいらっしゃる感じ。どうやら、私ごときの指など、お気に召さないといったところでしょうか」
 指が抜かれていた。
 指による愛撫は、ここで終了したのだろうか。
「こんな形で、こんな風にされて、悦ぶ人がいると思ったの?」
 お気に召す可能性などあるはずもない。
「そうは言いますがね? 体は正直と言いますか、お汁はたっぷりと出ていますよね? 指で弄っているあいだ、今にもくちゅくちゅと音が鳴りそうでしたし、それに今、指とアソコのあいだには糸だって引いているんですよ?」
「そんなの知らないから」
「せっかくです。見せてあげましょう。ほら、あちらの画面を見て下さいよ。今から表示しますから」
「別に頼んでない」
 わざわざ、見たくもない。
 なのに自然と気になって、引力に釣られたように視線は動き、ホタルは一台のモニターに目を向けてしまっていた。
「やっ……!」
 そこには確かに写っていた。
 周囲にある三脚台のカメラ、天井から伸びるイソギンチャクの触手、そのいずれかのレンズが映した光景が、ホタル自身へと突きつけられた。
 男が述べた通りの光景だった。
 そのカメラアングルを例えるなら、男の隣にもう一人の男がいて、横から人の愛撫を覗き見た場合のようである。ホタルの下半身が丸々と、そして膣から指を抜いた直後である手の甲が写っている。
 画像が拡大された。
 見るべきポイントを伝えるべくして、指先とアソコのあいだに糸が垂れ下がっている。愛液によって形成された透明な糸は、下垂したアーチとなって、下へ下へと徐々に向かっているのであった。
「おわかりですか? あなたはそれなりに悦んだのです」
「悦んでない!」
「ムキになったところで、いいことはありませんよ? どうせ調教が行われ、感じやすく、イキやすい体に仕立て上げられる運命にあるというのに、怒ったりしても疲れるだけです。気持ち良くなりましょう? 素直に感じて、性的な快楽を嗜めばいいではありませんか」
「そんな人攫いの都合なんて……」
「まあ? そういった精神的な態度はご自由ですが、いずれにせよ次は二本の指で快楽を感じて頂きます」
 肉貝に指が置かれ直した。
 最初と同じく、二本を束ねたものが膣口へ押し入って、その幅の広さによって穴の直径を押し広げる。収まれば収まるだけ、下腹部の中身が膨らんでいく感覚に、いいように扱われる屈辱に苦悶していた。
「おやおや、痛みを感じられていますか? いえ痛くはないのでしょうが、まだきついようですね。ふーむ、これだけほぐせば、もしや気持ち良くなれるかと思いましたが、まあいいでしょう。本来の目的は、今のところ快楽ではありませんから」
 負け惜しみを……と、思いきや、指が抜かれた直後に、男は視界の端で入力作業を行っていた。ホログラム上のキーボードに指を踊らせ、おそらくは二本を挿入した直後の感触について、何やらモニターに文章を走らせている。
(なんの記録だっていうの……?)
 疑問に思い、直後にホタルは顔を顰めた。
(どこまで気持ち悪いの?)
 穴に指を入れた直後に記入する記録なら、膣壁に触れた感触や、締まり具合など、指で読み取れる限りの情報に違いない。見たところモニターには、かなりの長い文章がすらすらと書かれているが、彼はそうまでして人の膣口を詳しく解説しているのだ。
 商人を名乗る男が手がける膣口についての文章は、もしや商品紹介のためではないか。すると顧客は紹介用の文を読み、人のアソコについて想像を巡らせることになるのだろう。
(嫌……)
 嫌悪感が膨らんだ。
 この男の饒舌さも、記録を取る行為も何もかも、不快感や拒否感を煽るものばかりだ。
「ではお次は何をすると思います? もう予想がついているのではありませんか? ええ、そうです。きっと、あなたの想像は正解です」
「……ふん」
「そう、肛門ですよ? 肛門、お尻の穴」
「そんなところにまで、指を入れるつもりなの?」
「お気遣い頂かずとも、私はこれが仕事ですから、何も問題はありません。これまで幾人もの女性の肛門に、繰り返し繰り返し、指を入れて来た身ですから」
(誰があなたのことなんて……)
 汚い場所に触るのは抵抗があるのでは、などという心配は誰もしていない。
 そんな場所まで触られると思っただけで、身の毛がよだつ思いをしているだけだ。
「さて衛生のため、ビニール手袋を嵌めまして、きちんとジェルも散布した上で挿入します。なにせ、そこは出す場所であって、物を入れる場所ではありません。本来、物が入るのは、その下の方なのですからね、はははっ」
 冗談めかしたつもりだろうか。
(ちっとも面白くない)
 後ろ側へと消える男の、道具を準備している気配が耳に伝わる。ビニールの擦れる音、どこからか用具を取り出す引き出しか何かの開閉の音が聞こえてくる。
 そして、肛門に指は触れてきた。
 二本束ねの指先が皺の窄まりに押し当てられ、皮膚を軽く押し潰す。穴への挿入が目的なのに、軽い力がかかって終わるはずもなく、男はさらに力をかけてきた。
 突き刺すために、強く強く、すると進行の力に合わせて穴は広がり、ホタルの肛門は男の指を飲み始める。表面にジェルがまぶされていることもあり、摩擦による抵抗感は取り払われ、つるりと潜り込もうとする作用が働いていた。
 ジェルがあろうと、苦しいものは苦しかった。
「うっぐ……」
 指の二本分に合わせて幅が広がり、さらに根元まで収まった時、ホタルは痛みを感じていた。まるで皮膚の伸びる限界を無視して、それ以上の拡張によって裂けようとするような、もしや皺の狭間で血でも滲むのではないかと思う痛みに、ホタルは目尻に涙を浮かべつつあった。
「いやぁ、興奮します。いえ、ここから顔は見えませんがね、私には何となく、気配でわかるんです。嬉しい顔、嫌がる顔、表情を直接見なくとも、後ろ姿とかで、何となく――それで、今のあなたの少しだけ泣きそうになっている痛みの顔、実はとっても私の好みで、本当はもう少しだけ、痛みを伴う方法で意地悪をしてみたかったりもするんですよね」
 あえて意識などしていない。
 だが、収まった指を締め出したい、体の自動的な反応が働いていた。暑ければ汗をかくのが当然であるように、肛門への侵入者を外へ押し出そうとする力が籠もり、ホタルの尻は指の追放を試みていた。
「おっと、肛門に嫌われている。力を抜いていったらどうなるでしょうねぇ? ああ、押し出される。指がぎゅうぎゅう締め付けられて、そのまま押し出されていきますよ。なるほど、確かにここは、入れる穴ではなく、出す穴ですから、こうやって追い出す力を働かせるのは、肛門括約筋の得意分野ですよねぇ」
(嫌な言い方……)
 排便を思わせる言い方も、きっと人を煽るためにわざとなのだろう。
「さぁて? 追い出されてしまったところで、次は別のことを始めましょうか。お客様は必ず、自分の買う商品のデータを気になされます。食べ物にしても、機械にしても、人間にしても、品質を知りたがる者は知りたがるのです」
 その時、またしてもホタルの穴には、何かの先端が触れてきていた。
 指ではない。
 男の手は確かに離れ、それどころか体でさえも、ホタルから距離を置いている。視界の端にギリギリで捉えた彼の背中は、機材の操作を行っていた。
 人間の手ではない、何らかの器具の先端が触れている。
 それも、アソコと肛門の両方だ。
「ぐぅ……!」
 ホタルは痛みと苦しさに歯を食い縛った。
「経膣プローブに肛門用のプローブです。通常は医療器具なのですが、ここでは医療の意図はありません。あなたの膣は、あなたの肛門は、どのような品質をしているのか。それを調べるための測定が行われているのです」
 肩越しに振り向けば、まるで触手を伸ばして来たように、一台のマシンがプローブを押し込んでいた。内部に骨格を組み込んだホースが触手となり、カーブなどの形状を自由自在に、その先端をプローブとしたものがしだいしだいに、どちらの穴にも埋まっている。
「うっ、ぐぅ……」
 どちらも、二本の指を束ねたよりも太かった。
 穴を無理にでも拡張される苦しさと、伸びるあまりに裂けそうな痛みが走り、額には冷や汗が滲み出る。
「おっと、いけません。あなた、これで処女を失ってしまわれましたねぇ? いやはや、あなたの貞操観念は存じませんが、もしも大切にしていたなら、これはまた悪いことをしてしまいました」
 ちっとも悪びれもせず、完全な口先のみでヘラヘラと、からかうための謝罪がホタルの神経を逆撫でする。
 破瓜の痛みがあった。
 太ももに何かの滴が通るくすぐったさは、もしや処女の血が流れてのものかもしれない。
「……っ」
 苦悶するホタルは、さらに顔を顰めた。
 乳房にも器具が取り付いてきたのだ。
 それはやはり、ホースを触手としたものに搭載された先端部の器具なのだろう。胴体の下へ潜った触手によって、乳房はそれに包まれていた。
 プラスチックか何かの素材で、乳房がドーム状のものに包まれていた。冷蔵庫に貼る吸盤を大型化したような、そして乳房の形状にも合わせたような、大きな何かに包まれて、吸引のような力も加わってきた。
 乳房が引っ張られている。
 下へ下へと、微妙な力が働いて、それに乳首までもが引っ張られている。
「さあ、読み取っていますよ? 先ほどは指の感触による記録を取りましたが、今度はもっと正確な機械的データです。締まり具合を数値化して、現在の感度も算出しています。感じさせるのに適切な男性器の太さなんかも、ここで計算可能なのですよ?」
 ピリピリと痛いような痺れるような、微細な電流が流し込まれる。直腸や膣壁にそれら電気が流れることで、ホタルは頬を硬くしていた。
「――っ!」
 一瞬、強い電流が走る。
 全身の筋肉をビクっと弾ませ、お尻や脚も激しく反応させていた。
 それよりも弱い、しかし最初に流し始めたものよりは強い電流が長々と、何秒もかけてじっくりと流される。その刺激に膣や肛門が震わされ、軽く焼かれるような痛みを覚えた。
「体の反応も測定して、自動的にデータ化しています。電流の強さによって、痛みを感じればその記録が、もしも快楽を感じるようなら、どの電圧でどのくらい気持ち良くなったのかも、細かに数値化されるのです」
 肉体について調べられ、記録を採取されている気持ちの悪さといったらない。体重やスリーサイズの比ではない、もっとそれ以上のデータを合意もなしに、こんな人をからかう非合法の商人に取られるなど、屈辱以外の何でもなかった。
 しかも彼は言い出すのだ。
「おっと、忘れていました」
 一体、何を忘れていたのかと思いきや、かなりの最悪な話であった。
 できれば、知りたくなかった。
 いや、だからこそ、この男は――わざと、ホタルにその情報を囁きたくてたまらなかったのだろう。
「ここで起こっている出来事は、特定のお客様に向けて生放送されています。つまりあなたの肛門も、アソコの穴も、乳房の形や乳首の具合も、全て何もかも、不特定多数の視聴者にまで晒されているのですよ?」
 それを示すべくしたホロウィンドウが、ホタルの眼前に突如として浮かび上がった。
 画面の内容は、生配信に使われている映像と、その隣に視聴者数の数字を記したものだった。
「視聴者の皆様は、おそらくあなたの買い手になります。最終的にどこのどのような人物の手に商品が渡るのかは、運命しだいとしか言いようがありませんが、皆さんきっと、よほど大金を出さなければ、こんなにも高価な品は買えないと、覚悟なさっていることでしょう」
 美しいものを愛でる手つきで、またしても尻に手が置かれた。
 ゆっくりと、とても優しく撫でられて、しかしホタルにとって彼の手つきは不快なものでしかないのだった。
「腸や膣の立体データも採取しています。なので、あなたの穴を正確に再現したオナホールも発売される予定がありまして、なのであなたの中に男根を挿入する未来の人数は、一人や二人ではない事になるでしょう」
 人のアソコと肛門を商品化するなどと、またさらに気持ちの悪いことを言われて、ホタルはひどく顔を顰めた。
「本当に細やかなデータが取れています。穴の深さ、子宮の位置、直腸の健康状態、肛門の皺の本数。もちろん乳房だって形状を正確な記録にして、あなたを再現したアダルトグッズのオッパイも発売されます」
 もはや顔を歪める一方だった。
 気持ちの悪い事実がこうも次々述べられては、かえって何の言葉も浮かんではこなかった。




 プローブによる測定が済んだのか、肛門や膣の中から取り出される。
 だが、今まで太いものが収まっていたのだ。
 そのせいか、穴がぽっかりと広がったような感覚が残っている。余韻が強く、今なお五感における触覚として、まだ収まったままであるような気持ちがする。少しでも思い出そうとすれば、新鮮な記憶が感覚上に蘇り、物理的な触感を幻として感じてしまう。
 負けるわけにはいかなかった。
(諦めない……)
 ホタルは唇を引き締めて、腹の底には強い意思を隠し持つ。
 必ず脱出のチャンスはある。
 相手が隙を見せるか、助けが現れるかして、きっと機会はあるはずだ。ホタルの仲間もそうだが、星が捕まっているのなら、列車のメンバーがアジトに突入してくる可能性も大いにあり、ふとした瞬間に攻撃でも始まって、たちまち混乱が起きるかもしれない。
 チャンスの巡る瞬間があると信じて、ホタルはぐっと堪えていた。どんな小さな可能性も見逃さないため、いつ何が起こっても良いように、心の中では備えていた。
「いやぁ、それにしても、見た目が少しだけ変わりました」
 男はまたしても、お尻の真後ろに立っていた。
 それどころか、尻たぶを両手で掴む。指が軽く食い込む上に、顔が数センチの距離まで迫って来るので、間近から視姦される恥ずかしさで、ホタルは耳まで染め上げていた。
 お尻のすぐ後ろに男の顔の気配があり、呼吸音まで聞こえてくる気持ちといったらない。
「あなたのお尻の穴、緩くなっていますよ? ええ、最初はもっと固いというか、広がりに欠ける感じがしましたが、今はとても柔らかく、皮膚が十分伸びそうに見えますね」
 それを示すかのように、ビニール手袋を嵌めた指先が当てられる。先ほどと同じ二本であるが、それよりも太いプローブが入っていた手前、その挿入でもはや痛みは感じない。
「ええ、しっかりと、ほぐれています。だからこんな風に、指をピストンさせる、なんて真似も出来ちゃいますね」
 男は指を動かし始めた。
「んぐぅ……んっ、んぅ…………」
 肛門に出入りしてくる感覚に、ホタルは恥辱の顔で歯をきつく食い縛る。
 最悪なことに、少しだけ気持ちいい。
「んっ、くっ……」
 感じたことが知れてしまえば、この男は一体どれほど饒舌に指摘して、芝居がかった長々とした台詞を垂れることだろう。その想像が浮かぶだけに、ホタルは間違っても声を出さないように意識して、歯を食い縛っているのだった。
「では下の方はどうでしょう」
 指はすぐに引き抜かれた。
 プローブの余韻から、指による辱めの余韻に塗り替えられ、抜かれてもなお肛門に感触が漂っている。そのまさに真っ最中に、今度は一方の手でアソコが広げられ、指による挿入が行われた。
 やはり、二本だ。
 束ねたものが入り込み、そしてもう痛みはない。穴が完全に緩んだわけではないために、内側から拡張される苦しさこそ感じるものの、物の出入りに多少は慣れてしまったのだ。
 一本の指の時には愛液が出た。
 もう、二本でも濡れるかもしれない。
 濡れてしまったら、感じた事実が問答無用で相手に伝わる。
(最低……)
 ホタルは嫌な気分になっていた。
 自身で決めたパートナーでも、運命的に出会った異性でもなく、こんな見ず知らずの男によって、自分の肉体が作り替えられてしまったのだ。自分という存在に、この男の爪痕が残された最悪の気分に、ホタルは拳を固く震わせていた。
 過去を洗い流したい。
 出来後をなかったことにしたい。
 そんな気持ちにもなってきていた。
「時に、これはまだまだ、始まりに過ぎませんよ? データの収集に、そして調教。あなたという商品の品質をここで磨いて、それを視聴者様にもご覧頂くのです」
 その時だった。
 指は引き抜かれるのだが、それと入れ変わるようにして、新たに別の何かが触れてきた。アソコと肛門、どちらの穴にも先端が触れ、ホタルの内部へ侵入してくるのであった。
「くぅ……!」
 プローブほどに太い、しかし素材の異なるこの感覚は、もっと生々しいものだった。
(なに……これ…………)
 人間の肉の一部と触れ合っている気になるが、男はホタルから何歩か離れて、ほんの少しだけ遠巻きに、人の様子を眺めている。彼の男根が入っている可能性は、どうやら一ミリもなく、ならば感触の正体は触手の先端に違いない。
「んぅ……くぅ…………」
 ホースの内側に内部骨格を搭載して、カーブなど形状を自由自在にする機械触手の、先端に生やされたパーツのはずだ。
 もしや今入っているものは、バイブやディルド、その手のアイテムなのではないか。それも肉や皮膚の感触を再現して、生々しく感じられる素材で合成されたものではないか。
「様子が気になりますか?」
「べつに」
 ホタルはそっけなく答えるが、男はニヤニヤと指を鳴らして、すると眼前には再びホロウィンドウが浮かび上がった。
 パネルを宙に浮かせたように、何もなかったはずの空間に、画面がぱっと現れて、そこに映っているのはお尻を横から撮った映像だった。
 確かに触手が伸びてきている。
 白いホースが二本ほど、ホタルの穴へと向かって来て、先端を埋め込んでいる。
「んぅぅ……!」
 映像の中で触手が動き、そのピストンでディルド部分が見え隠れを始めた瞬間、穴の内側にある感触も連動した。中継映像である以上、映像の中で動く通りの、ピストンによる感覚は、そのままホタルに反映されていた。
「そちらの触手にも、様々な機能が搭載されています」
 男は言う。
「膣に肛門、その締まり具合をやはりデータ化します。プローブの時と数値に変化があったなら、もちろんその変化した具合も記録されます。穴の緩さが三から一〇になったなら、その差分の七という数字がデータベースに残るのです」
「んっ、くっ、ぬぅ……ぬっ、んぅ…………」
 どちらのディルドも、ゆっくりと動いている。
「んぅぅ……んぅぅ……」
 映像の中にある触手は、蛇が鎌首をもたげた体勢で、まるで穴に頭を突っ込んだようなカーブを成している。そのカーブ部分が前後に動き、棒状の物が真っ直ぐに出入りする。
「先端にはカメラも付いています。ライトで腸や膣内を照らし、出入りの様子を記録しています。そういった映像は、調理前の生肉にレンズを押しつけたような感じ、という風に例えるのがわかりやすいですかねぇ? なにせ、赤とかピンクの生々しい部分の映像ですから」
 男の長々とした解説が終わるなり、肛門からはディルドが引き抜かれる。
(本当に……最悪…………)
 それは男性器に酷似していた。
 人間の皮膚に合わせた色合いと、妙にリアルな形状のものが出て行くと、入れ変わるように現れた別の触手が、今度は別の物を肛門に押し当ててきた。
「アナルパールはご存じですか?」
「そんなの、知らないから」
「ではこの機会に覚えて下さい。そちらの映像にあります、そういったものがアナルパールです。アナルという名の通り、お尻に使用するのが主な用途です」
 それは棒状の器具だった。
 ビーズをいくつも繋げたスティックの、先端にある球が埋まり始めて、そのまま奥へ奥へと押し込まれる。そしてピストンが始まると、前後運動によって根元から半ばにかけての部分が見え隠れを繰り返した。
「んっ……んっ……んっ……んっ……んっ……」
 球と球の狭間、玉同士の間にある溝が、肛門の皺に上手いこと引っかかる。その感じが快楽となって、声を聞かせたくないのでホタルは歯を食い縛っていた。
「そちらのアナルパールも同様です。カメラ搭載、圧力検知。肛門に力を入れて、きゅっと締めたりすれば、そのたびに発揮された力が数値化されることになるのです」
 人のデータを本当にこと細かに、そんなものに一体何の需要があるのかがわからなかった。
 乳房が見たい、パンツが見たい。
 男の明快な欲求なら想像できるが、膣圧だの肛門の圧力だの、そんなデータにまで興味を示す人間がいるというのか。
「んぅ……くぅ……」
 ホタルにはそれが信じられずに、わけもわからないデータを取られる混乱と不快感の中に置かれていた。
「センサーがとても素晴らしい数字を検知しています。あなたのアソコは名器と言わざるを得ませんねぇ?」
「……なにそれ」
「名器は名器です。まあ、何も知らない無垢な乙女たるあなたには、この私がわざわざ、言葉を尽くして解説して差し上げましょう。つまりですね、男性が女性の中に挿入したら、男根の部分に快楽があるわけでしょう?」
 その瞬間、想像がついてしまった。
「……っ!」
 頬から恥じらいの炎が出た。
(それって……!)
 先ほど、この男は言っていた。
(嫌だ……嫌すぎる…………)
 膣や肛門の形状をデータ化して、ホタルの穴をまったく再現したものを製造可能であると。だとするなら、細かなざらつきや凹凸にかけて、全てが正確に読み取られているのだろう。
「内部形状ですよ。あなたの膣内はですね、リングをいくつも重ねて作った内側のような、まあそういう感じのですね? ザラつきのようなものがあるのです。そうした穴に挿入しますと、そのザラザラに撫でられて――とても、ええ、とっても、気持ち良くなるわけですよ」
 お前の性器はそのように気持ちいいのだと、こうも具体的に伝えられては、ますます恥ずかしくなる一方だ。それに男の、だから自分も是非、あなたに挿入してみたいものだという、いかにも下心を感じさせる声音が薄ら寒かった。
「んっ……んっ……んっ……んっ……んっ……」
 そして、この長々とした言葉を聞かされるあいだにも、ピストンは続いていた。膣にも、肛門にも、一瞬たりとも中断することのない、延々とした出入りが繰り返され、そしてホタルはその感覚に慣れてきていた。
 最初はまだ、痛みがあった。
 物が膣壁や腸壁に擦れてくるのは辛かったが、膣壁の方には保護粘膜が分泌されている。粘膜の力で痛みから膣は守られ、そして肛門への出入りがディルドからアナルパールに変わってから、物がだいぶ細くなったので、負担は大幅に軽減され、むしろ気持ち良くなっていた。
 さらに乳房にも器具が装着された。
 胸の形状をすっかり多い、吸盤が張りついているような、軽く引っ張られる感覚が、山なりである皮膚の部分にまんべんなくかかってくる。
 これは一体何なのか。
 どうせ、ろくなものではない。
「ところで言い忘れていましたが、実はあなたには薬を飲ませてあるのです」
「やっぱり……」
 予想通りであった。
 最初に目が覚めてから、体調や筋力の具合に違和感があった。本来の力を発揮できそうにない、妙な不調の感じの正体は薬ではないかと想像した。
 その予感が当たっていたと、男の言葉によって証明された。
 だが、しかしホタルはぎょっとする。

「力を少々弱らせつつ、その他にも――母乳の出る効果を」

 意味がわからなかった。
 何を言っているのかがわからなかった。
 一瞬では言葉を受け止めきれず、母乳という単語を脳が反射的に弾いていた。
「どうも我々の商売には、そういった需要の傾向にありまして、そのような薬を……っと、喋り過ぎましたか。これはこれは、私としたことが、つい、うっかり」
(……もっと喋ればよかったのに)
 組織と取引のある会社の名前でも出て来れば、それは立派な情報だった。脱走の役に立つ種類のものではないが、こうして自分に敵対した者の情報なら、知るだけは知っておきたかった。
 男は肝心なところで言葉を中断させている。
 母乳が出る薬とやらは、どこからかの取り寄せか、それとも自分達で製造しているのか、残念ながらそれがわからない。手に入った情報としては、あまりにも曖昧で、武器としては力に欠けたものである。
 きっと、曖昧なところで言葉を止めたのも、この男ならわざとなのだろう。
「これから、そちらの胸の器具からは、母乳の吸引が行われます。薬の効き具合、つまり出の具合がデータとして採取され、そして母乳はチューブを伝って、ある場所へと溜まります」
(どうやったら、そんなおかしなことを思いつくの?)
 ホタルにはこの男が、何よりも彼の顧客が信じられない。
「その、ある場所とは? さて、どこでしょう?」
 クイズのように言われても、知るわけがない。
「答えは……」
 それは口頭ではなく、触手の登場によって示された。
 目の前で細い二本のチューブが鎌首をもたげ、まるで蛇のように鎌首をもたげていた。




 ホタルは開口器具を嵌められていた。
 まるで歯と歯のあいだに丈夫な柱が立っているように、支えの力で開口状態を維持させられ、口を閉ざすことが出来ない。
 男によって、無理にでもかけられたのだ。
 口を閉ざしたり、顔を振ったり、抵抗こそしたものの、身動きの取れない、逃げも隠れも出来ない身では、その抵抗にも限界がある。
 何より、後ろから責められていた。
 触手が行うピストンは、やがて快楽が生じるに至って、そのせいなのか声が出た。たまたま口が開いてしまい、その隙に咥えさせられ、ホタルは開口器具によって口を閉じることができなくなった。
 そんなホタルの口の中へと、細いチューブは入って来る。舌の上に先端が置かれるなり、奇妙な味が分泌され、ホタルは嫌でもそれを味わうこととなる。
(なんなの……これ……)
 その味に、ホタルは顔を歪めていた。
「あなた自身の母乳です」
 乳房には吸引力がかかっていた。
 まるで掃除機のようにして、風で吸い上げようとする力がかかっている。皮膚が微妙に伸ばされて、突起した乳首の先から出るものが、その吸引によってチューブ内部を伝っている。
 それがホタルの口に運ばれているという。
(意味が……わかんない……)
 ホタルに母乳の出る薬を投与して、さらにそれをホタル自身に飲ませることで、一体どこの誰の性癖を満たしているのか。どうしたら、こんなことを面白く感じられるのか。ホタルにはまるで理解できなかった。
 完全に、理解の外側の世界であった。
 それに屈辱も膨らむ一方だ。
 口にはチューブが入って来て、乳房に取り付けられた器具も触手と繋げられている。膣と肛門にも、ディルドやアナルパールの出入りが続いている。これだけ何本もの触手にたかられて、周りには無数のカメラがある状況など、かつて想像したことすらなかった。
 こうまでして、機械的な辱めを受けている。
 その屈辱でたまらずに、もしも脱走が出来たなら、この施設を後々破壊したい願望がホタルの中では切実だった。
「ああ、ちなみにですね? 愛液も採取します。あなたの股のあいだには器を置き、そしてその器もチューブと繋がっていますので、溜まったものを吸引して運びます。よく、よく、味わってみて下さい」
 三本目の触手が現れた。
 その先端が舌に置かれて、これでホタルは自分自身の愛液さえも味わう運命に置かれていた。
 後ろからの刺激が増す。
 アナルパールの出入りによって、肛門に甘い感覚が広がっている。何となく痺れるような、気持ちのいい刺激が走るたび、肛門括約筋に力が入り、無意識にきゅっと引き締めてしまう。
 アソコへの出入りによっても快楽が生じ始めた。
 ぬかるみの滑りに沿って、スムーズに行われるディルドの出入りで、膣壁が抉り抜かれるたび、内股まで痺れる電流が駆け抜ける。ピストンによる摩擦が下腹部を熱くして、いつしか汁気が滴るようになっていた。
 さらに乳房にも電気は走る。
「んっ……んっ……んっ……んっ……んっ……」
 吸盤にぴったりと覆われているような、皮膚にまんべんなく当たった素材を介して、比喩ではない本当の電気が流れている。そのピリっとした淡い電気は心地が良く、突起した乳首が良い具合に刺激を受け、そして母乳は分泌される。
 その搾られた分泌物がチューブを伝い、ホタル自身の口の中へとやって来るのだ。
「んっ、んぅ……んっ、んぅ……んっ…………」
 開口器具のため、まともに喘ぐことの出来ないホタルの、それでも出て来る声はどこか甘く、悩ましげなものだった。
「ここからは、どんどん、どんどん、気持ち良くなって頂きますよ? なにせ、調教なのですから。品質が仕上がる頃には、一体どれだけ感じやすい肉体になっているのか、今から楽しみではありませんか?」
 それは果たして、ホタルに向けての言葉なのか。視聴者に向けての言葉なのか。
「んぅ……んっ、んぅ……んぅ……んぅ……」
 ホタルの眼前には、相変わらずホロウィンドウが表示されている。その中の映像で、ホタルの尻には二本の触手がピストンを続けている。
「んっ、んぅ――んぅぅ――――んぅぅ――――――」
 愛液が出てきていた。
「んっ…………」
 感じさせられ、濡れてしまっているのは、もう感覚でわかっていることだったが、映像の中にも感じた証拠は現れていた。ディルドの前後運動に合わせる形で、急に引きずり出された一本の紐が、振り子のように一瞬だけ揺れ動き、そのまま滴を床に飛ばしていた。
 自分自身の感じた証拠を、快楽の証を、感覚だけではなく、視覚的にも突きつけられ、ホタルはますますの屈辱を覚えていた。
「んぅ……! んっ、んっ、んぅ――んぅぅ――――」
 それを契機に、ピストンが激しくなった。
 まるで膣内からクリトリスのポイントを狙い、裏側から責めて来ているような、そんな部分が集中的に擦られる。腹の中で角度が変わり、一点への刺激を意識しつつのピストンで、ただの出入り以上の快楽に襲われた。
「んぅぅ――んぅぅ――――んぅぅぅ――――――!」
 体が弾ける。
 膣内で蠢くディルドは、しかも単なるディルドではなかった。
 カメラが搭載されているのも、膣圧を検知するデータ採取の機能についても、男が最初に言っていたことだ。普通の器具でないこと自体はものの始めからわかっていたが、ホタルが想像していた以上に、これは特殊なものだった。
「んんっ!?」
 ホタルは驚愕した。
 ボコボコと、内側で膨らみ始めた。
 膣内に収まっているものの状態など、目で見て確かめることはできないが、おそらくは皮膚が急に膨張したように、針でも生やそうとしているように、急に突起物を生やしている。
(なに? いったい何が……!)
 ホタルは戦慄しつつあった。
「おっと、言い忘れていました」
 男はわざとらしく述べ、そして芝居がかった解説を始めた。
「そちらのディルドはですね? より細かな触手を生やす機能を搭載しています。内側に何本もの、細い細いチューブを内蔵して、それが飛び出るのです。人工皮膚の内側にはそれらが飛び出すための穴があり、ええそうですね。穴だらけの棒に皮膚を被せたのが、そちらの現在挿入されているディルドなのです」
 と、ここで男は一呼吸を置く。
 そして、解説を続けた。
「人工皮膚は伸縮自在のような作りで、とてつもなくよく伸びます。それはもう、十メートルは引っ張れるくらいです。内側から直径数ミリの触手が伸びることが可能で、そして変形する皮膚は触手の形状にフィットします。あたかも、人工皮膚そのものが変形して、触手と化して見えることでしょう」
 膣内に蠢くのは、そんな細やかな触手であった。
「んぅぅ――んぅぅ――――――」
 ホタルが味わっている感覚は、例えるなら棒状のイソギンチャクを突っ込まれ、その触手が膣内で蠢いているものである。そんな風に突起物が伸び出た上で、先端が内部で膣壁をくすぐっている。
「んっ、んぅ……んぅぅ…………」
 かなりの、特殊な刺激であった。
 男根を出入りさせての、実際のセックスでは味わう機会のない、高度な設備ならではの刺激によって、ホタルは本来ならとっくに喘ぎ声を出していた。
「んっ……んっ……んっ……んっ……んっ……!」
 だが開口器具のため、上手いこと声が出ない。
 おかげで声量は抑えられ、ホタルが出しているものは、喘ぐよりも呻き声に近かった。
「現在、Gスポットを責めているはずです。膣内でも、とても敏感な部分ですから、今までの単調なピストンに比べて、さぞかし刺激が増していることでしょう。それに触手の蠢く快感も合わさって、あなたはとても……ええ、それはもう本当に、本当の本当に、とっても貴重な快楽を味わっているのですよ?」
(そんなこと……望んでない……!)
 反抗的な意思をホタルは抱いた。
 好きで味わっている快楽ではない。
 誰もこんなことは頼んでいない。
 しかし、そんなホタルに対して、滅多に出来ない体験を男は押し売りしてきている。
「んっんっ……んっ……んっ……んっ……んっ……!」
 ホロウィンドウの中身が切り替わった。
 膣内の映像が映し出されて、その隣には視聴者の人数も表示されている。これが不特定多数の何者かに、他の何人もの男達にも見られているかと思っただけで、恥ずかしさや屈辱で頭がどうにかなりそうだった。
「んぅぅぅ…………!」
 触手蠢く責めにより、ホタルは下腹部に力を加えてしまう。ぎゅっと締め付けるような力を反射的にかけた途端、膣壁に細やかな群れの当たる感覚が強くなり、余計に気持ち良くなって、足腰が今にも震えそうなのだった。
 映像が切り替わる。
 今度は真後ろからお尻を撮ったものだった。
「んっ……んっ……んっ……んっ……んっ……」
 鎌首をもたげたチューブは、そのカーブの角度をそれぞれ横へずらしている。逆V字のようにして、二本がそれぞれの穴に頭部を埋め、ピストンを続けている。
「んぅ……んぅぅ……んぅぅ…………」
 その狭間、股の間に滴があった。
 膣壁から引きずり出され、垂れてきたものが糸を伸ばして、下へ下へと向かっていく。
 そして、置かれた器の上にぽたりと落ちる。
 最初はペースが緩かった。
 何分か、何十秒か、いくらかの時間をかけて、やっと一滴の滴が生まれる。それが重力に引かれて糸を伸ばし、器に垂れるまでの時間がかかっていた。
 そのスパンが徐々に短くなっている。
「んぅぅ……」
 まずは生まれる滴の質量が変わった。
 糸が伸びきり、千切れて器へ垂れるまで、毎回のようにかかった時間が縮んでいる。糸の伸びるペースが変わり、伸びるや否や落ちようになっていく。
「んっ、んっんぅ……んぅぅ…………」
 生まれる滴の重さが、時が経つにつれて増しているのだ。
 そして、糸が千切れて垂れた次には、もう次の糸が伸びようと、ワレメに玉が付着している。表皮に滴が生まれてから、実際に糸が伸びるまで、最初はまだ時間がかかっていたが、そのペースもまたしだいに縮む。
「んっ……んっ……んっ……んっ……んっ……」
 糸が伸び、それから次の糸が生まれるまで、だんだんと数秒もかからなくなっていた。
 前の糸が消えたなら、直ちに次の糸が伸びるようになる。
 それどころか、だんだんと糸の存在が継続するようになっていた。半ばで千切れ、性器から数センチは残った先端に、伝い流れてくる水分が次の滴を成長させる。
 そう、千切れてもなお、残った部分が股のあいだでぷらぷらと揺れているのだ。
 さらにスパンが短くなれば、もはや緩めた蛇口であるように、一滴ずつポタポタと、器に向かって愛液は垂れ続けた。

 ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、

 そうやって、器の中には溜まっていく。
 本当に最初の頃、この器がまだ置かれたばかりの時は、時間をかけてやっと一滴を受け止めていた。一滴ずつ、一滴ずつ、地道に滴を積み重ね、水溜まりと呼べるものが形成されることさえ遠い道のりのような状態だった。

 ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、

 だが、今やそんなペースで垂れている。
 こうなれば水溜まりは簡単に出来上がり、滴は水面にこそ落ちていた。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 滴が器の底を打つ音から、水面を打つ水音へと変化して、水溜まりが面積を広げていく。
 そして、そんな器には、チューブの触手が先端を置いている。それが中身を吸い上げて、せっかくの出来上がった水溜まりを薄めていくと――。

 ホタルの口の中へと、愛液は伝っていった。

 開口器具で無理にこじ開け、開口状態を維持したその口内、三本のチューブのうち、二本は母乳の分泌を続けている、一本はこうして器の中身を運搬して、ホタルに自分自身の愛液を与えている。
 ホタルの舌の表面では、母乳と愛液が混ざり続けた。
 その味わいたくもない味が、絶えず舌に広がり続けた。
 嫌なものを飲まされる屈辱感、不快感に、顔中を歪め尽くさんばかりのホタルだが、開口器具の存在が表情の変化を微妙に邪魔して、その顔つきを滑稽なものにしているのだった。




 愛撫が続く。
 アソコの中にある刺激は、棒状のイソギンチャクを挿入され、ピストンと共に細かな触手が踊っていることと同じだ。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 愛液は垂れ続ける。
 ディルドの表面、周囲の三六〇度に触手が伸び、亀頭からさえ細やかなものが踊っている。膣壁の本当に至る所がくすぐられ、その上でピストン運動はGスポットを狙っている。その特定の部位だけに、なるべく集中的に擦り付こうとする前後で、ホタルはビクビクと体を震わせていた。
「んぅぅ……んっ、んぅ……んっ、んぅぅ…………!」
 肛門にも刺激がある。
 アナルパールの出入りが続けば続くほど、玉の繋がりが肛門の皺に擦れての、穴の周りが気持ち良くてたまらずに、甘いものが足腰に蓄積される。快楽による電流が充満して、もはやお尻の筋肉にさえ、目には見えない気持ち良さの塊が漂い始め、今このタイミングで尻肌を撫でられれば、たったそれだけの刺激でビクビクと震えるかもしれなかった。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 愛液の垂れる水音が止まらない。
「んっ、んっ、んっ、んぅ……んぅ……んぅぅ…………」
 頭の中も、しだいに快楽で染まっていた。
 足腰ばかりか、思考の中にまで気持ち良さによる電気が走り、脳がどことなくピリピリする。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 乳房も痺れている。
 胸を包み込む器具の方には、実際に微細な電流が流れており、それによる乳首への刺激が行われている。その刺激によって、ホタルは母乳を出しているのだ。
 母乳の出る薬の力によって、白っぽいものが乳首の先端から滲み出て、それがチューブに吸引されている。チューブは床に置かれたタンクのようなものと繋がっており、そのタンクからまた別のチューブが伸びる形で、ホタルの舌には先端が置かれている。
 性能によるものか、ほんの数滴しかないものがタンクに落ちても、それを見事に吸い上げて、チューブからホタルの舌へと母乳は届く。
 量はほとんど薄れることなく、乳首から口内へと、直接届いているに近かった。
 本来、そのチューブは一本で済む。
 せっかく二本のチューブを乳房に取り付け、二本のチューブで吸引しているのだから、口に差し込むのもそれに合わせて二本にしよう。と、こんな設備を作った誰かの意向が反映されているのが本数の理由である。
 無論、ホタルにはそれを知る由もない。
 男もそれを解説する気配がないので、そのような豆知識がホタルの頭に入ることはない。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 全身に快楽が溜まっていた。
 痺れれば痺れるほど、その電流が蓄積を続けるようにして、下腹部には目には見えないものが溜まっている。内股にも、乳房の方にも、水音のリズムに合わせてだんだんと、快楽が膨らんでいる。
 体内で風船が膨らんでいるようなものだった。
 大きく大きく膨らんで、いつしか破裂するであろうそれが、しかしまだ破裂には遠いため、延々と蓄積を続けている。
「んっ、んぅ……んっ、んっ……んっ…………」
 ホタルの呼吸はとっくに荒っぽくなっていた。
 頬の染まった表情で、熱に浮かされた息を吐き出す今の彼女は、誰の目にも気持ちよさそうに見えることだろう。
 しかし、ふとした瞬間に、ホタルは反抗的な眼差しを取り戻している。
 彼女の目の前には、ホロウィンドウが浮かび続けているのだ。
 宙に浮遊させ、空間へと固定されている画面の中に、ホタル自身の映像と、その視聴人数の表示がある。
 映像部分は時間ごとに切り替わるようになっていた。
 お尻だけを横から映したもの、お尻を真後ろから撮ったもの。四つん這いである胴体の、垂れ下がった乳房を覗いたもの。その姿勢を遠巻きに見つめたアングルに、顔をアップにした映像など、それら数分おきの切り替わりで、ホタルは自分自身の表情を見てしまう。
(あたし……こんな顔……やだ…………)
 感じてしまっている。
 楽しんでしまっている。
 そう見えても仕方のない表情を目の当たりに、ホタルは目つきだけでも引き締めて、反抗の意思を取り戻すのだ。
(まだ……チャンスは…………)
 果たして、助けや脱出の隙はあるだろうか。
 チャンスが来るとして、それはいつになるだろうか。
 この拘束を破り、見事脱出できたなら、この男やこの設備はタダでは置かない。
(全部……壊す……んっ、んぅ…………)
 恨めしさのあまりに抱く、破壊の願望にも関わらず、やはり刺激が気持ちいいので、熱い息遣いによる呼吸音は色っぽく、頬の染まった横顔も、どうしてもいやらしいものである。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 器に溜まる愛液は、しかし直ちにチューブを通じてホタルの口へ送られるので、溜まるようで溜まらない。
 愛液と母乳の混ざった味が、舌には広がりきっていた。
(だ、駄目……気を確かに…………)
 時折、ホタルは自分に言い聞かせる。
 そうしなければ、頭にも快楽の電流が流れるので、どことなくぼーっとしてしまう。気持ち良さに脳が染まって、油断をすれば快楽を楽しみかねない自分がいる。
 それだけ快楽漬けとなった肉体だ。
 どんなに気を保とうとしていても、それがだんだんと緩んでいく。緩むたび、どこかのタイミングで気を引き締め直している。その一番のきっかけであり、引き締める力を強めるものが、ホロウィンドウに映るホタル自身の表情だ。
(みっともない……)
 そう、我ながら思わずにはいられない、快楽に少しでもとろけた眼差しを見ることで、こんな表情を晒してなるものかと、意地のようなものが湧いてくる。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 音が延々と続いていた。
 人体である以上、水分は必ず有限だ。出て来た愛液を、そして母乳を、直ちにホタルの口へ運び直しても、それを吸収するには時間がかかる。こんなことで、擬似的な永久機関になどなりはしない。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 だが、少なくとも今はまだまだ、ホタルの肉体には水分を流出する余裕がある。
 だから、音は続いている。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 無機質な水音は、機械のように一切のリズムを変えず、しかも男は先ほどから喋らなくなっている。あれほど饒舌だった彼の無言は、それはそれでかえって不気味だ。
 静寂の張り詰めた部屋の中、唯一、音と言えるものが同一のリズムを続けていれば、誰しも、それが永遠のものであるように錯覚するだろう。
 水音が耳を打つ。
 そうすると、たったそれだけの、本当に小さな音なのに、脳を打たれ続けている心地になる。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 リズム通りに、脳が水音を受け止める。
 それがある種の催眠状態をもたらすように、ホタルはまたしても目をとろっと、快楽の甘さに溶かしている。その上で呼吸も荒っぽいのでは、まさしく淫らな少女そのものだ。
 また、ホロウィンドウに淫らな自分が映る。
(し、しっかり……)
 ホタルは自分に言い聞かせる。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 また、永遠を錯覚する。
 だんだんと目がトロっと、表情が快楽によって乱れていき、それがホロウィンドウのおかげで引き締まる。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 その、繰り返し。
 このサイクルは、かれこれもはや、一体何十回続いているかもわからない。
 そんな時だった。
 それは本当に、ふとしたところへ突然起こった。

「――――――――――っ!」

 ホタルの頭が、胸や足腰が、全身がビクっと弾けた。思考が真っ白に染まり変わって、お尻は一瞬、高らかに跳ね上がっていた。
 潮が噴いていた。
 お尻がビクンと動くことで、箱型の拘束具ががたりと揺れ、器の中には何滴もの、何十滴もの、多量の滴が撒き散らされているのだった。

「イキましたねぇ?」

  男が久々に口を開いた。
「いやぁぁ! いい絶頂ぶりでしたよ! 全身のビクっと弾ける反応といい、潮吹きといい、まったくあなたのイキっぷりといったら、絶頂の鑑ではありませんか!」
 人の絶頂などに対して、男は無駄に称賛の言葉を送ってくる。
 その時のホタルの口には、まるで口内に直接撒き散らされたようにして、愛液がたっぷりと広がっていた。舌の表面がぬかるみにコーティングされ、その上にポタポタと母乳の白濁が垂れている様相となっていた。
 最初の数秒は頭が真っ白になるばかりで、男の口数の多さに対して、どんな反応を示すこともできなかった。
「視聴者の皆様! ご覧になりましたか? お尻がビクっと跳ね上がり、肩がきゅっと引き締まり、そして潮吹きを行う見事な絶頂ぶりを! このような調教を数日、あるいは一週間以上はかけて行います!」
 ホタルはしだいに放心から立ち戻る。
 空っぽだった頭に思考が戻り、自分の絶頂がいかにネタとして弄ばれているかと思った時、改めて反抗の意思を胸にして、ホタルは男を横目で睨んでいた。
「仕上がる頃には、ぐちょぐちょに濡れやすく、どんな愛撫でも簡単にイクような淫らな女になっていることでしょう!」
(誰がそんな淫らになんて……)
「さらに! そんなホタルさんのアソコや肛門を再現したリアルなオナホールも発売します! 我々の送り出す商品は、適切な手入れによって膣粘膜の感触を非常に高い再現度に致しますので、彼女を購入できずとも、この美貌に、可憐さに向け、挿入することは可能なのです!」
(本当に売り物扱い……とっても、不愉快な人達……)
 この場にはいない視聴者や客に対しても、ホタルは蔑むような思いを抱く。
 そんな時だった。
「ところで、ホタルさん?」
 男は急に人の顔を覗き込むなり、こんなことを尋ねてくる。
「一つ、気になることがあるのではないですか?」
(なんの話?)
 開口器具で口の開き具合が固定されているために、喋ろうと
思っても喋りにくい。
「私は知っているのですよ。あなたが元々、どうして私達に捕まることになったのか。もしやあなたにとって、あの少女は仲間だったのではないかと思うのですよ。ほら、そうしたら、こちらとしても気になりますよ? ホタルさんは今でもずーっと、あの少女を気にかけているのではないか、どうなのか、とね」
「……っ!」
 彼は星のことを言っている。
 やはり彼女も、ホタルと同じ目に遭っているのだ。
(許せない……)
 自分が受けた仕打ちだけでも、恨めしさはかなりのものだ。破壊的な復讐心すら抱いているところに、さらに星のことまで挙げられては、怒りはより一層のものとなっていた。
「気になりますねぇ! 気になりますよねぇ! ですから、優しい私が彼女の安否を特別に教えて差し上げましょう!」
 ホロウィンドウが切り替わった。
(星……!)
 そして、ホタルは大きく目を見開くのたった。




 星が自分と同じ目に遭っていた。
 箱型の拘束具で、丸裸の四つん這い。周囲にはカメラを並べられ、機械触手によるアナルパールとディルドが激しく出入りを繰り返している。
 状況はホタルとほとんど同じだった。
『んっ! あっ、あぁ! あぁ! あん! あぁ!』
 違いがあるとするならば、大声で喘いでることか。星には開口器具が付いていないので、声を出しにくいこともなく、そして下半身に対してはピストンがかなり激しく、強烈な刺激によって髪を随分と暴れさせていた。
 いくらでも振り乱し、汗ばんだ頬や額にいくらかの髪が張りついている。
(離して! 星を離して!)
 気づけばホタルは暴れていた。
 動かしようのない四肢に力を入れ、無理にでも動こうとするあまり、箱型の拘束具をガタガタと揺らしていた。
 そんなホタルに対してである。

 ぺちん!

 お尻への平手打ちが行われた。
「こらこら、いけませんよ?」
 いかにもわざとらしく、仕方のない子供を諫めるような、小さな子に対する声音を使ってくる。
「……っ!」
 ホタルは男を睨んでいた。
「高いんですよ? もう、とっても高価です。個人の働く収入では弁償など、とてもとても……そんな高価極まりない備品を壊してしまったら、一体あなたはどうなるのです?」
 鋭い目つきであるホタルと、ヘラヘラとした男の視線が重なり合い、しばしのあいだ見つめ合う。

『んぁ! あん! あぁん! あぁん! あぁん!』

 そのあいだにも聞こえてくるのが、星の激しい喘ぎ声なのだった。
「ちなみにこれは、彼女のものです」
 彼はポケットから、これみよがしに小瓶を取り出す。その蓋を開け、スポイトで取り出した中身をホタルの口内へ運んでくる。
 何を飲まされるのかと思いきや、先ほどからずっと、チューブを通して与えられているホタル自身の、愛液と母乳の混ざったものと、ほとんど同じ味がするのであった。
 星からも、同じ採取は行われたのだ。
『あっ、あん! あん! あん! あん! あぁん!』
 中継なのか、後から再生しているだけの映像なのか。
 ホロウィンドウの中での星は、今でこそ後ろからの挿入のみで責められて、胸や口には何の器具もないのだが、ホタルとまったく同じ状態には置かれていたのだろう。
 それを思うと、憤りが膨らんでいく。
(星……)
 脱出したい思いも、より大きくなっていた。
 自分だけではなく、彼女の状況についても突きつけられ、脱出のチャンスを望む心の上に、助けたい気持ちが重なっていた。
「ご感想は?」
 本当に苛立った。
 他者の体液をスポイトで垂らしてきて、その感想を尋ねてくる神経が理解できなかった。
「おっと、このままでは喋れませんねぇ?」
 思い出したように男は言う。
「さて皆様! 生配信はこのあたりで切り上げましょう。ここまでのご視聴、本当に、本当にありがとうございます。この私めはとても嬉しゅうございます。また次の配信でも、是非、是非、私のチャンネルをご視聴頂ければと願うばかりです。さあ、皆さんさようなら! また次の配信で!」
 大仰な身振り手振りを交え、大胆な演技を披露したところで、配信は終了したのだろう。
 改めて、男の顔が向いて来た。
 それから彼の手が頬へ伸びると、まずは開口器具が取り外される。やっとのことで口の開閉が自由になり、その途端にホタルは唾を吐き出した。
 普段のホタルなら、まず取らない行動だった。
 だが、散々に舌にチューブで垂らされて、星の体液まで面白半分まで飲まされた。その味が残っている状態で、男に対する気持ちも怒りや恨めしさばかりなのだ。普通以上に反抗的に、ぺっ、と吐き出したい思いにもなるわけだった。
 そして、それは男の頬にかかっていた。
 真正面から人の顔を覗き見るので、そもそもホタルは狙っていた。
「これはまた不良少女で」
 さして怒ってなどいない、面白がった表情だった。
「安心して、あなた以外にはやらないと思う。こういうはしたないことは」
「そうですか。これはまた、私だけが世界でも特別に嫌われているようですが、それもまた仕方のない話。私の仕事は、調教や配信であると同時に、捕らえた商品からの嫌われ役でもありますからねぇ」
(……そう。情報、ありがとう)
 嫌われ役、そういう分担。
 大きな情報とは言えず、あちらとしても知られて困るものではないものかもしれない。
 だが、わざわざ喋ってくれたのだ。
 ホタルはその情報をありがたく頭に叩き込んでいた。

「では、余計なものを取り払ったところで、調教の続きでもやりましょうか」

 男が邪悪な笑みを浮かべていた。
 これ以上なく楽しげな、鼻の下が伸びきってもいる、いやらしさの入り交じった表情で、ホタルは星の映像を思い出す。
 気づけば、ホロウィンドウは消えていた。
 彼の長々と喋るあいだに、役目を終えて閉じたのだろう。その内容、髪を激しく振り乱す星の、大きな喘ぎ声がホタルの耳には残っている。
 きっと自分は、今からそれと同じになる。
 そんな人の様子を見て、彼は楽しい気持ちに浸るのだろう。
(負けない……)
 必ずや耐え抜く覚悟を身に固め、ホタルはじっと構えていた。

     *

「んぁ! あぁぁ! ああぁぁぁ…………!」

 激しい快感だった。
 それから、男の操作によって機械触手の蠢きは活発となり、全身を駆ける快楽電流もおぞましいほど強烈となっていた。
「あっぐぁ! あっがっ、ぐっ、んぅ! んぁぁ!」
 膣や肛門へのピストンだけではない。
 乳房の今まで装着されていた器具は外され、代わりに行われている刺激は、触手の先端に筆を搭載しての、乳首やその周囲に対する筆責めだった。
「ぐっ! んぅっ、んぅぅぅ!」
 乳首が、乳輪が、膨らみの部分がくすぐられ、ホタルは激しく身をくねらす。乳房を責めるためだけに、幾本もの筆を差し向ける何本もの触手が群がっていた。
 筆責めは背中にも、肩にも、二の腕にも、一見して性感帯とは程遠そうな部位にまで行われ、その上で激しいピストンがどちらの穴も抉り抜く。

「んぅぅぅぅぅ――――――――!」

 ホタルの頭が真っ白になっていた。
「はーい、二回目ですねー」
 絶頂の回数を楽しそうにカウントする声は、ホタルの耳には届いていない。放心のあまり、そんな余計な声を聞き取る余裕もなく、ホタルはただひたすらに息を乱して、深呼吸を繰り返していた。

「んぁああああああああ――――――――――!」

 しばらくすれば、またイっていた。
「三回目ですよー!」
 そして、口頭によるカウントは行われた。
「あっ、あぁん! あっ、あっ、あっあぁ!」
 ホタルはもはや、快楽を苦痛にさえ感じていた。
 気持ち良くて、気持ち良くて、本当にたまらないことが、かえって息を苦しくする。途方もない大きさの感覚が神経を行き交うことで、快楽のはずなのに、どうしてか負担でもあるような感じがある。
 少しでも体を楽にしたくて、ホタルは無意識のうちに胴体を動かしたり、前後させたり、筆責めの刺激から体を逃がそうとしていたが、四方八方に触手はある。体が動いても、それについて触手も動く。
 刺激からの逃げ道はなく、それでも無意識の挙動は繰り返されるので、ホタルは自分でも気づかないうちに体を振りたくり、それが感じた素振りとなって男の目を楽しませる。

「くぅぅぅぅぅ――――――!」
「四回目」

「あぁぁぁ――――――!」
「五回目」

 何度も、何度も絶頂した。
 そのたびに潮を噴いたり、大量の愛液を垂れ流し、ホタルの体は水分不足に近づいていた。気持ちいいという理由によって、だんだんと水を飲みたくてたまらなくなっていた。

「……えーっと、あれ? 今のは何回目でしたっけ? いけませんねぇ、数えるのを忘れてしまうだなんて」

 しまいには、男がそんなことを言い出すまで、ホタルへの責めは続いていた。
 そして、ようやく触手が停止して、ディルドやアナルパールが引き抜かれる頃には、ホタルは本当にぐったりしていた。こんな体勢でさえなかったら、ベッドにでも飛び込んで、深い眠りに落ちてしまいたい、睡眠欲にもまた駆られていた。
 だが、ホタルは心に呟く。
(星……絶対、助ける……あたしも、ここを逃げ出す……)
 それから必ず、ここを破壊してみせる。
 その近いを胸に抱いて……。

     *

 ぽっかりと穴の空いた感覚がある。
 アソコに肛門、どちらも元から穴なのだが、今の今まで物が収まっていたおかげで、抜かれてすぐには中身が閉じない。しばし開いた感じが残り、肛門をきゅっと締めても、やはり余韻はなお残る。
「抜き取る瞬間は、押し出す感じがありましたねぇ?」
 またしても、ホロウィンドウが現れていた。
 そこに映る下腹部の様子は、ただ触手が後退していくだけではない、膣圧や肛門括約筋の締め付けで、強く押し出す拒絶の意思が表れていた。
「この映像の瞬間ですよ? ディルドやアナルパールが受けた圧力は、処女だった穴への挿入と同等です。いやぁ、これはこれは、偶然にも数値が近くて面白い」
「そんなことが面白いのはあなただけ」
 ホタルは反抗的にそう述べる。
「回復力もなかなかと見受けられます。あなたもしや、実はただの女の子ではありませんね? でなければ説明のつかない芯の強さ。ああ、それに、あなたの所持品であるあの奇妙なデバイスもありましたか」
 彼はそうして鉄騎の存在に触れるのだが、ホタルはそれによって表情を動かさない。
 ただ、睨み続けていた。
「いやぁ、感服しますねぇ? ではあなたの強靱なる意志に免じて、星さんと会わせて差し上げましょうか?」
 彼の言葉をただの親切と受け取るホタルではない。
「是非会わせて欲しいけど、何を企んでいるの?」
「趣味趣向ですよ。彼女の調教を受ける場面を、すぐ間近で見て頂くというのも、なかなか乙なものではないかと思いまして」
「……最低」
 それしか、感想は出て来なかった。
 男の言うことを、そのまま言葉通りに受け取っていいものか。どうにも相手の思考を読み切れず、だからその判断もつかなかった。

     *

(…………星)
 ホタルは歩く。
 元の衣服はハサミによって切り裂かれ、その代わりタオル一枚を巻いたのみの格好で、ホタルは男の隣を行く。
 会わせるなどと言い出してから、彼はホタルの拘束を解除したのだ。
 自由になったその瞬間に暴れたり、脱走したい気持ちはあった。
 だが、そうしようにも男に隙は見受けられない。彼もそれなりの手練れであり、何度も絶頂をさせられて、体力を削り抜かれた今の体で、しかも鉄騎を纏うデバイスも手元にないのでは戦いようがない。
 もっとも、彼はそんな計算だけで解放したわけではない。
 拘束が解かれる直前、彼は座薬を持って来て、それを指で挿入してきたのだ。肛門を触られる屈辱感、どんな効果かもわからない薬を入れられた不安感で、ホタルの心中はあまり穏やかなものではない。
(たぶん、今はまだ無理……)
 肛門に余韻があるため、バスタオルで歩くホタルの手は、無意識のうちに後ろへ回っている。
 きっと、抵抗を封じるための、何らかの効果がある。
 筋弛緩剤かもしれない。
 能力を封じる効果かもしれない。
 とにかく、ホタルにとって都合の悪い作用を持った薬だとしか考えられない。
 そんなものが肛門の中に収まり、腸で溶け出し、成分が肉体に回っている。
(最悪……)
 いい気分など、するはずがなかった。
「さあ、こちらです」
 廊下を歩いた末、ホタルはとあるドアの前まで連れて来られる。その向こうにこそ、どうやら星はいるらしい。
「あぁぁ! あっ、あぁぁあああ!」
「星……!」
 ホタルは驚愕した。
「あっ、あん! あぁん! あん! あん! あん!」
 ドアの向こうから、彼女の声が聞こえて来る。
 星は今なお、機械触手による陵辱を受けている最中なのだ。
(は、早く助けないと……!)
 なまじ手足は自由な状態で、星がすぐドアの向こうでそうした目に遭っているのだ。今すぐにでも飛び込んで、拘束を破壊して連れ去りたい。
 共にここを脱出したい。
 今すぐにでも、行動に移りたい衝動に駆られるが、ホタルにはその力がない。このタイミングで動いても、失敗は目に見えているだろうと、頭の冷静な部分が判断を下している。
 衝動的には動けなかった。
 失敗すれば、警戒はますます厳重になり、チャンスなど巡って来なくなるだろう。
 だから下手に動けない。
 かといって、いつまでも行動を起こさずにいても、運命を好転させることはできない。
(何か……何か…………)
 頭で焦る。
 何か良い手はないのか。
 すぐそこに、すぐ近くに星がいるのに、本当に何の手もないというのだろうか。

 その時、奇跡は起こった。

 いや、あるいはそれは、奇跡などとは言わないのだろう。
 仲間がホタルの状況に気づき、計画的に起こした行動と、それのもたらす結果とは、ただの必然なのかもしれない。

     *

「おやおや、逃げられてしまいましたか。これはまた、大きな損失になりそうです……」

 男は頭を抱えることとなった。
 この失態を誰にどう追求されるか、気が気でない焦燥感を誤魔化すためにこそ笑っていた。
「いやはや、私達もまだまだですよ。星穹列車と星核ハンターを同時に敵に回していたと、ギリギリまで気づかないだなんて、そりゃあ逃げられちゃいますよねぇ」
 どちらが先に行動を起こしたのか。
 果たして、両者のあいだに協力関係はあったのか。
 いずれにせよ、アジトの各所で爆発が起こった。混乱の隙に乗じて飛び込んで来た者達に見張りは倒され、男が焦っているうちに、ホタルのいたその場所にはカフカが現れる始末であった。
 そして彼女達によって星は連れ出され、今頃はどこへ行ってしまったのか。
 彼女の身柄は星核ハンターの手の中か。
 はたまた、星穹列車に返されているのか。
 それはもはや、男には預かり知れない話である。


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