とある場に囚われた高司舞、葛葉晶の二人が逃げ場もなく犯される。


緑が蝕むタワーの地下


 街が緑に覆われている。
 こう書くと自然豊かな街のように伝わりかねないが、沢芽市の置かれた実態は極めて深刻なものだ。
 ヘルヘイムの森と呼ばれる異世界から茨が伸びて、ユグドラシルタワーをはじめとした町中が植物に覆われたのだ。ビルの外壁、住宅など建物の屋根、アスファルトの表面やガードレールなど、街を歩けばあらゆる場所に緑は張り巡らされている。
 それら植物に実る果実は、どうやら食べると肉体が変異して、インベスという怪物に変わってしまうらしい。
 それにしても、異世界が実在するだけでも驚きなのに、その扉が開く方法といったら、空間にジッパーが開くのだ。そこからヘルヘイムの森とやらの景色が見えたかと思いきや、数々の化け物が飛び出したり、植物が侵攻してきたりするわけだが、おかげで今や世界中が大混乱だ。
 この事態を受けて、アメリカは沢芽市にミサイルを発射する真似をしたそうだが、何らかの方法で着弾地点を変更されたとニュースで聞いた。
 そんなことが可能なのは、きっと怪物の超能力だ。
 超常現象でもなければ説明のつかない事態など、異世界の連中が絡んでいるに決まっている。
「おい、出てったみたいだぜ?」
 助手席からの合図に、一人の男が車の外へ目を向ける。
「今なら女一人か」
「ああ、行くなら今しかない」
 運転席に座るその男と助手席の相棒は、それぞれドアを開いて道端に乗り出すなり、勢いよく店へと歩む。
『DrupeRs』
 と、看板に英字の書かれた店を、先ほどから二人して見張っていたのだ。そこを溜まり場としている厄介な男連中が出ていくタイミングを見計らい、ターゲットに指定された女を捕らえるために突入する。
 それが彼らの仕事であった。
 この世界的大混乱に乗じて女性誘拐を繰り返す犯罪稼業。それによって日銭を稼ぐ二人組の、上から受けた注文は、高司舞というチーム鎧武所属の少女であった。

     *

 そこはユグドラシルタワーの地下だった。
 中央に聳える柱を囲む形で、いくつものベッドが並ぶこの区画には、小学生から主婦にかけての、年齢様々な女性が集まっている。
 皆、誘拐されてきたのだ。
 ここ最近、女性が失踪する事件が立て続けに起こっており、これは世の中の混乱を利用した悪質な組織犯罪ではないかと、まことしやかに囁かれていた。
 脱走を考える者はいない。
 腹の底では誰もがここから出たいと願っているが、この区画のどこをどう探しても、通気口の一つも見つからない。唯一の出入り口は中央の柱、円柱状のエレベーターだけなのだが、カードキーがなければドアが開閉されない上、中のボタンも指紋認証をしないと反応しない。
 よしんばカードキーを奪い取り、それで脱走を試みても、今度は指紋という壁がある。どうにか力ずくで従わせ、指紋を利用できたとしても、地上には必ず見張りがいる。
 そもそも、奪うだの力ずくだの、それを男性相手に行うハードルの高さからして、女性の誰しもを萎縮させていた。
 十人も二十人もいれば、数の暴力で何とかなるのでは、という提案も、この囚われた者同士のあいだで出ているが、結局は実行に至っていない。
 葛葉晶は自分のベッドに腰を下ろし、ぴったりと膝を閉じ合わせて座り込む。俯くことで両膝に置いた拳に視線を落とし、諦めの思いで佇んでいた。
 諦め――といっても、一生をここで過ごすつもりはない。きっと助けが来るはずだと、最後の最後まで希望を胸に信じ抜く。そういう意味では諦めていないのだが、ある一面に関して諦観の念を抱いている。
 ――ザッ、と。
 一瞬だけ砂嵐の吹くような、放送機器に電気の通った音を聞いた途端、晶は直ちに身構えていた。
『チャッキーさん。チャッキーさん。ご指名入りました』
 アナウンスで呼ばれたのは、どうやら自分の名前ではなかったが、チーム鎧武のメンバーが呼ばれたのは複雑だ。
 エレベーターが開く。
 そして、ベッドから一人の女――チャッキーが、現れた男の元へ向かって行く。上階から降りて来た『客』は、指名した女性をこの階で招き寄せ、共にさらなる地下へ降りて行く。
 この下にあるいくつもの部屋で行われている行為は、つまりそういうことだ。
 チャッキーと一瞬目が合った。
 悲しげに会釈してくる彼女に向け、晶も軽い会釈で応じる。
 男と共にエレベーターの奥へと消える背中を見送って、晶はさらに複雑な顔を浮かべる。つい数時間前にはリカにも指名が入り、晶もここ数日で既に何人かの相手をしてきている。
 ……許せない。
 誘拐した女性を無理矢理こんな風に扱うなど、既に非人道的もいいところだが、見渡す限りのベッドには、小中学生の少女すら混ざっている。
 ただでさえ許せないのに、あんな年端もいかない少女すら被害に遭わせるなど、湧いてくる怒りは尚更だ。こんなことを考えた人物も、誘拐の実行犯も、実態を知っているはずの利用者のことも許せない。
 だがいくら許せなくとも、それをどうにかできるわけではない。ただ日々の扱いに耐え、いつか助けが来ることを信じ続ける。ここに集まる女性に許される戦い方は、たったのそれだけなのだ。
 その時――。
「嫌! 離して!」
 再びエレベーターが開いた時、二人組の男に両脇を掴まれながら、高司舞が連れ込まれた。
「そんな……!」
 見るに晶は戦慄する。
 チーム鎧武から消えたのは、最初はリカだった。次はチャッキーだった。その次は晶の勤務先の同僚で、さらにその次はニュースに顔の出された中学生、高校生と、続け様に女性が消え、ある日突然のように晶の順番が回って来た。
 紘汰たちも仲間を探して奔走しつつ、街に現れたインベスと戦っていたのだが、その成果もなく今度は舞まで、ここに連れて来られてしまったのだ。
 絶望感が胸に広がる。
(ううん、負けちゃ駄目)
 晶は自分にそう言い聞かせ、心を強く保ち抜こうと、決意を新たにするのであった。

     *

 高司舞は戦慄した。
 店に一人残って過ごし、その最中に現れた見知らぬ男への恐怖といったらなく、車で連れ去られた先の、この地下に広がる光景にも驚愕していた。
 円柱状のエレベーターを中心に、それをぐるりと囲むベッドというベッドの数々に、同じように攫われた女性がいる。それらベッドは円を成す形で、二重にも三重にも曲線を重ね、広大な空間に実に三十人近い女性を揃えている。
 こんな場所で紘汰のお姉さんに会った驚きといったらない。
 リカやチャッキーすら捕まっている挙げ句、風俗嬢として扱われていると聞いた時、信じられない思いでいっぱいだった。
 こんなことが平然と行われているなど、衝撃に揺らされた胸が真実を受け止めきれない。
 そんな舞の名前が数時間後には呼ばれた時、エレベーターから現れたのは、誘拐時の実行犯、その二人組の片割れだった。

「……なんなのよ。ここ」

 エレベーターの中、険のある顔で舞は言う。
 自分を指名した客から距離を取り、少しでも離れていたいように寄りかかり、ボタン付近に立つ男の背中に視線をやる。
「ソープだよソープ」
「ソープって……」
「あ、そうそう。俺達みたいな実行犯は本名を使ってない。名前を呼ぶ時はスペードと呼んでくれ」
「名前なんか聞いてないから」
「ま、そう言うなって――舞ちゃん」
 馴れ馴れしいちゃん付けに悪寒が走り、露骨に顔を顰めた時、指定の階に到着したエレベーターが停止する。ドアの開いた先にあるのは、番号札の貼られたドアがいくつも並ぶ長い長い廊下であった。
「ほら、行くぞ」
「…………」
 行きたくない。
 舞は顔を背けるが、そんな反応を見ることで、一体何を喜んでか。男は妙にニヤニヤと片手をポケットに突っ込み迫ってくると、突如としてナイフを取りだし、切っ先を突きつけてくるのであった。
「やっ……!」
 舞は悲鳴を上げて青ざめる。
「ほーら、怖い怖い」
 首に触れる切っ先で、皮膚がチクチクと軽く痛んだ。玩具ではない、本物だ。スペードが気まぐれに押し込むだけで、刃は喉笛に埋まってくるのだ。
 背筋に寒気が走り、鳥肌が広がっていく。
「ちゃーんとついてこないと、怖いぞ?」
 楽しげな猫なで声の、むしろ笑顔こそが怖かった。ナイフそのものに対してより、それを脅しの道具として使うことに何の躊躇いもなく、人に生死の恐怖を与えて楽しんでいる様子に戦慄して、舞は身動きが取れなくなっていた。
 ナイフが首から離れることで、やっと呪縛が解けたようにして、肩や背中から力が抜ける。その無意識の脱力で、自分がどれだけ強張って、全身の筋肉を硬直させていたかについて初めて気づいた。
 そして筋肉の緊張が解けたところで、またナイフで脅しをやり、命を脅かしてくるかもしれない男への、心の緊張はちっとも解けない。
「さーて、指定の部屋指定の部屋っと」
 スペードは実に楽しみそうな顔をして、指定の部屋番号の部屋を見つけてドアを開いた。
 そこは確かにソープであった。
 風俗の知識などない舞だが、アダルト関連への好奇心は人並みに湧くために、だからネット検索で一般的なプレイのは知っている。
 ベッドがあり、ソープマットが置かれており、湯船が設置されている構造も漠然とは知っていた。それを生まれて初めて見た上に、自分自身がソープ嬢として働かされ、男に奉仕しなくてはいけないことへの、体中への緊張がまた走る。
「脱げ」
 スペードはわざとらしくポケットに手を突っ込み、ナイフの存在をアピールしながら命じてくる。
 刃物で人を脅すような男と二人きりという、もはやどうしようもない状況に、舞は実にたどたどしく、関節の可動を硬くしながら脱ぎ始める。
 シャツをたくし上げる動作は、カクカクとしか動けないロボットか人形のようであり、肌を晒すことの躊躇いから、その手は何度も止まったり、下着が見える直前に少しだけ服を戻そうとする仕草を繰り返した。
 それほど躊躇いながらの脱衣となれば、下着姿になるだけでも必要以上の時間がかかる。しかしスペードは急かしてくる様子もなく、ニヤニヤと人のストリップを楽しんでいた。
 舞の下着は白い。
 ブラジャーとショーツのそれぞれには、薄色のフルーツを刺繍によって象っている。薄らとした黄色でパイナップルが、同じく薄いピンクでイチゴが、薄いオレンジが、三つの果実が並んでいる。
 舞はそんなブラジャーを外すため、暗く強張った顔で両手を背中に回していた。
(やだ……)
 ホックを外す作業にも、やはり躊躇いと震えで手こずる。
(やだ……やだ…………)
 こんな男に従いたくない。まだ処女だというのに、初めてをこんな形にしたくない。この運命をどうにかして回避して、助かりたい思いがいくらでも溢れてくるが、スペードは依然としてポケットに手を突っ込み、ナイフの存在をアピールし続けていた。
 ホックを外す。
 助けは来ない、ナイフを持った男に逆らう力もない。
 ブラジャーを外しきり、実に躊躇いがちに、顔も赤く染め上げながら、羞恥にまみれた顔で薄らかな乳房を晒す。
 スペードも自分の衣服を脱ぎ始めた。
 時間のかかった舞に対して、男の脱衣の速さといったらない。トランクスを脱ぐにも躊躇いがなさそうだと予感して、思わず目を背けた舞の視線の先には、幾本ものディルドが並んでいた。
(あ、あんなの――入るわけ…………)
 見るにぞっとした。
 板をL字の金属で支える形の棚には、あらゆるサイズのディルドが揃っているばかりか、おぞましいイボを生やした凶悪なものまである。
 ダークピンクの極太で、生え揃ったイボのどれもが微妙に尖っているので、アダルトグッズというよりは、膣壁をトゲで傷つけるえげつない拷問器具に見えてしまい、まさかあれが使われはしないだろうかと本能的に恐怖した。
 あれは……あれだけは嫌だ……。
「始めるぜ?」
 その時、スペードがトランクスを勢いよく下ろし、大きな逸物を曝け出す。
「……っ!」
 あらゆる感情が一度に吹き荒れ、それら全てが表情に滲み出た。直視することの恥ずかしさ、それこそが自分の処女を奪う凶器なのだという予感、挿入時の痛みは一体どれほどなのかという不安に、初体験の相手がスペードだという無念さが渦巻いて、心の中にブレンドされる。
(ナイフ……)
 彼の脱ぎ散らかしたジャケットには、凶器が収まっていることだろう。それを手に入れ、逆に脅し返してやる作戦を思いつきこそするものの、実行に踏み切る勇気は出ない。
 刃物を人に向けるのは、普通は抵抗があって当然なのも大きいが、加えて言うなら達成できる予感がしない。よほどさりげなく、バレないようにやらなければ、下手な素振りを見せた途端に腕を掴まれ阻止される。
 隙を見せてくれなければ不可能なのだ。
 そんな余所見をしてくれる余地があるかというと、スペードはこれから舞を抱く。女体を楽しむことが目的なのに、何をどうしたら余所見をしてもらえて、ナイフを奪う隙ができるかなど、思いつくことは出来なかった。

     *

 凶悪なディルドがベッドに転がる。
 柔らかいシーツに横たわり、背中を沈めた葛葉晶は、息の上がった呼吸で胸を大きく上下させながら天井を見つめている。汗がシーツに染み込んで、股の周囲には愛液が広がっていた。
「いやぁ最高だよ。葛葉さん」
 そんな晶の視界を塞ぎ、後頭部に照明を浴びての、逆境による暗い顔を近づける男は会社の同僚だ。普段は仕事上の会話しかせず、雑談に花を咲かせたのはたったの数回ほどの、仲が悪いわけでは決してないが、接点が濃いわけでもない男が、晶を指名した今日の客だ。
「太田さん……どうしてこんな…………」
「どうしてって、知り合いが風俗に働いているなんて知ったら、指名してみたくなるのが男ってもんだよ」
「そんなことじゃなくて……」
 晶が聞きたいのは、人を誘拐して働かせるような、犯罪行為で成り立つ店なんかを、どうして利用しているかだ。
 もちろん、もっと他にも複雑な感情を抱いている。太田は晶の存在を知った時、まず最初に喜びでもしたのだろうか。ここにいる女性はみんな恐怖や悲劇で嘆いているのに、彼は大喜びで知り合いを指名して、晶を抱きにやって来たのか。
 実態をわかっての利用なら失望しかない。
「それじゃあ、本番行こうか」
 太田はコンドームの包装を破き、その取り出した中身を肉棒に被せ始める。
「太田さん…………」
 深い仲だったわけでも何でもない。
 だが、真面目に働く彼の顔を知っていただけ、欲望を優先する姿は見ていて悲しい。
「よし、入れるよ? 入れるからね?」
 太田は逸る思いで腰を近づけ、呼吸を荒くしながら挿入を試みる。亀頭を何度も穴に押しつけ、慌てるあまりに何度か位置をずらしてしまった末に、その切っ先を収めてピストンを開始する。
「あっ、んぅ――――」
 晶はすぐに反応した。
 太田はここまで、実にねちっこく晶の全身を愛撫した上、凶悪なディルドまで使っている。大きなイボに膣壁を削られる感覚は、既に客を取っていての経験人数がなかったら、まず痛みしかなかったことだろう。
 突起が執拗に擦りついてきた余韻の今なお残る膣口に、ディルドよりは細い、しかし十分に大きな肉棒が出入りする。
「あっ、あぁ……あぁ…………!」
 せっせと腰を動かす太田の、鼻の下の伸びきった醜くもいやらしい表情は、見るに堪えないものだった。せめてそんな顔だけは見たくないと、晶はこの正常位で交わる間中、最後まで目を横に背け続けていた。

     *

 ずにゅぅぅぅぅ――――。

 と、生まれて初めて男根を受け入れて、処女穴を拡張させてくる男の、嫌に勝ち誇った笑みから、高司舞は必死に顔を背けていた。恐ろしく強張った表情で、頬をどこまでも硬くする。嫌悪感から噴き出る脂汗が額を濡らし、前髪が張りついていた。
「おーし、処女はもらったぜ?」
 スペードがぐっと顔を迫らせて、ぺろりと耳を舐めてくる。
 ぞわぁぁ――と、その瞬間に鳥肌が広がって、舞はますます顔を引き攣らせた。
「いやぁ、感激だよなぁ? だってチーム鎧武のことは前から見てたんだぜ? 妙なゲームでバトってるところとか、ダンスとか色々よぉ」
 肉棒が根元まで収まった。
 破瓜の出血を伴う舞の股には、ずきずきとした痛みが走り、それもまた舞が顔を顰める要因の一つである。
 正常位だった。
 M字に開かれた股の右足にはショーツを引っかけ、そしてスペードはよだれすら垂らさんばかりの、欲望にまみれた猛獣の顔でピストンを開始する。
「んっ、んぅ――んっ――んっ――んっ――んっ――――」
 舞はもっぱら苦しみに喘いでいた。
 初体験で感じることなどなく、しかも好きでも何でもない、本名すらわからない男の一物が出入りしている状況は、心理的にも苦痛である。
「んっ、んぅ――んぅ――んぅぅ――――」
 だから舞の浮かべる表情は、終始耐え忍ぶものだった。
「気持ちいいねぇ?」
「んぅ――んっくっ、んぅぅ――――」
「そういや、最初にチーム鎧武を狙ったのはたまたまだったな」
「あっ、あっくっ、二人も……!」
 舞は横目でスペードを睨む。
「そして、お仲間を必死に探すところを見て、次は紘汰くんの姉とか、あんたとかを狙おうと思いついた。いい考えだろ?」
 スペードが饒舌に喋れば喋るだけ、自分は一体どんな相手に犯されて、快楽を与えてしまっているかを思い知る。
「最低……」
 と、そう小さく言い返す程度のことしか舞には出来ない。
 喧嘩で男を倒す力もなければ、脱出のプランを編み出したり、手立てを用意する能力もない、無力な自分が悔しくてたまらなくなってくる。
 舞はシーツを握り締めていた。
 その拳に力が入れば入るほど、皺は深く刻まれて、指のあいだに細く折り畳まれた山は高まる。
 やがてスペードは射精した。
 膣内でコンドームが膨らむなり、取り外したそれの片結びが腹に置かれる。それに対する嫌悪感で鳥肌が広がるも、ようやく解放されたと思った舞だったが――。
 スペードは次のコンドームを用意していた。
 まだ続くのだと、そうわかった瞬間から、舞の心は暗く沈んでいくのであった。

     *

 数日も経てば、高司舞はすっかり従順になっていた。
 心では何も納得していない。
 きっと助けは来るはずで、こんな生活が永遠と続くわけではない。いつかは解放されると信じる心は捨てていないが、いくら希望は捨てないからと、毎日のように入る客との性交までは、阻止のしようがなかった。
 どうやら、あまり逆らいすぎるとペナルティがあるらしい。言葉遣いや態度だけならまだいいが、客を殴ったり、怒鳴ったり、手段を選ばず性交を回避しようと躍起になると、見せしめとして実験台にさせられる。
 人が怪物に変貌する映像は、舞たちの前に大画面で放映されて、すっかり空気が凍りついたものだった。
 それ以来、逆らう気は失せている。
(絶対……必ず、ここから出られる日は来るから……)
 そう信じ続けることだけが、舞の行うなけなしの抵抗のようになっていた。諦めるしかないような環境下で、真には諦めてやらないことだけが、舞にできる唯一の戦いだった。
 そして、この日の指名は二人であった。
『高司舞、葛葉晶』
 たまによほどの大金を注ぎ込む客が現れ、二人の女性を同時に指名し、3Pを楽しもうとすることがあるらしい。
 紘汰の姉と共に、今回の客と三人で、今日もエレベーターからさらなる地下へ降りて行く。
 そして――。

 れろっ、れろぉ……。

 と、二人して肉棒に奉仕していた。
「いやぁ、最っ高だわー」
 いい気になって仁王立ちして、満面の笑みで快楽を味わうのは、舞のことを攫ったもう一人の実行犯、同じく本名は使っていない、ダイヤと名乗る男であった。
「王様気分。いいわー。マジいいわー」
(こっちは最悪……)
 舞と晶でそれぞれの側面に口を付け、先端に向かって舐め上げる。このダブルフェラによって相手を癒やし、満足させなくてはいけないことの、心理的な苦痛といったらない。
(晶さん……)
 彼女にも悲痛な何かが浮かんでいた。
 舞にとっては目と鼻の先にある表情は、嫌悪と哀しみを色濃く帯びて、いかに不本意であるかが見え隠れしていた。その嫌悪の滲み出た顔を見ることで、きっと自分も似たような顔をしているのだろうと、舞は感じているのであった。
「れちゅっ――れちゅぅ…………」
 舞は唇を亀頭に被せ、先端にキスの雨を降らせたり、チロチロと舐め込んだりといった具合に奉仕する。その一方で晶は玉を舐め、ちゅぱちゅぱと唇から音を鳴らしていた。
(やだ……もうやだ……)
 こんなこと、一体いつまで続ければいいのだろう。
 せめて、早く終わりたい。
 少しでも早く切り上げて、この男から離れたい。
「へへっ、そろそろ俺の方からも可愛がってやるか」
 だが、まだまだこの時間は始まったばかりなのだ。
 ダイヤが二人に出す指示は、ベッドの上で四つん這いに、尻を並べた状態で差し向けるものだった。これから犯してもらうため、挿入待ちのポーズを取らされる屈辱に、舞は唇を噛み締めている一方で、晶はシーツを握り締め、力んだ拳を悔しげに震わせていた。
「おおっと、そういや濡らす準備はしてねーな。ま、ローションもあるんだし、たまには準備無しでも構わないだろ」
 勝手なことを言いながらベッドに上がり、その体重によって軋む音が聞こえた時、最初に喘ぐのは晶であった。
「んぅぅ――――!」
 晶はすぐさま肩のあいだに首を落として、シーツに頭頂部を触れさせる直前までに、すっかり顔を下げていた。

 ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、

 スプリングや骨組みの軋んで聞こえる音から、ダイヤや晶の様子を拝むまでもなく、耳だけでピストンのリズムがわかる。実際に横目を向ければ、尻に腰を打ちつけられ、前後に揺らされている上半身の、乳房さえもが前後に揺れ動いている有様だった。
 さぞかし良い気分なのだろう。
 晶への挿入をひとしきり楽しんで、気まぐれに引き抜くダイヤは、次は舞とばかりに位置を変えて挿入する。
「お? お? こっとの味もなかなかじゃねーか」
「んっ、んぅ――――」
 舞はシーツを握り締め、強く歯を食い縛った。
 その言葉を聞くことで、ダイヤが一体どんな感覚で女体を楽しみ、味わっているかがよくわかった。テーブルに並んだ料理くらいの感覚で、どちらが美味しいかの食べ比べ気分なのだ。
(やだ……本当にやだ……)
 それほどのゲーム感覚で犯されて、たとえ生理的な反応で快楽があろうとも、心から楽しめるわけがない。
「んっ、くっ、んぅ――――」
 やはり、ぎしぎしと鳴り続けるベッドの音と、それにリズムの一致したピストンで、舞はしだいしだいに快楽を感じるが、かといって気持ちいい自覚などしていない。
 そのうち愛液が滴って、ローションで済ませる以上に滑りが良くなってこようとも、舞は恥辱ばかりを感じていた。
「あっ、あぁ……!」
 とうとう明確な快楽電流が足腰に行き渡り、喘ぎ声が出てでさえ、セックスの気持ち良さについてなど、舞は考えてすらいない。
「あっ、んっ、んぅ――――」
 声まで出れば、自覚がないとまではいかないが、心の中にあるものは、ただただ望みもしない性交で肉棒を入れられて、性処理道具として扱われることの恥辱感だ。
 自分が道具としてしか見做されていない、実に気分の悪い感覚についてばかりが、こうして喘いでいてもなお、舞の頭を占めているのだ。
「じゃあまた、こっちの面倒を見てやろっかなー」
 これだ、これだからだ。
 舞は一時的に解放され、その代わりに晶の方が犯される。
「んっくっ、んぅ――――」
 隣から喘ぎ声が聞こえても、晶が感じているなどとは思わない。感じてはいるのだろうが、舞と同じで恥辱だけが頭を占め、快楽に意識をやろうとする気持ちなど微塵もない。
 それは空気だけでひしひしと伝わってきた。

 いつまで続くんだろう…………。

 心の中にどんよりと広がるのは、一日でも早くこの生活から解放され、みんなの所に戻りたい思いばかりだ。

 いつまで……。

 きっと助けは来る。
 紘汰たちは必ずここを見つけてくれると信じているが、それは果たして、あと何日後か、何週間後か、それとも何ヶ月後の話だろうか。
 この生活の終わりが見えない。
 そのことが舞の心を暗く沈めて、晶の表情からもすっかり明るさを奪っている。

 いつまで――。
 早く、早く誰か助けてよ……。

 心の叫びを嘲笑うようにして、ダイヤが挿入先を入れ替える。料理の味見感覚でしかない男の肉棒で、舞は好きなように掻き回され、遊ばれ続けていくのであった。


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