彼は義憤の持ち主だった。
かつて、鉄の化け物どもに親友を奪われ、生き残った友人も家族を失い似たような境遇になった時、まず真っ先に奪い取った連中に怒りを抱く。嘆き悲しみより先に、復讐の炎の方が燃え上がった。
ある時、連邦が身元の知れない少年少女を保護し、共和国の非道を知った時、やはり彼は怒った。
有色種を八五区の外へ追いやる? 有人式無人機?
悪魔の所業だ……!
その少年少女達が従軍し、もう戦いを強いられることなどないのに、なお戦場に立つと知った時、まず最初に複雑な気持ちになり、受け入れるには少し時間が必要だった。
そして、スピアヘッド戦隊と白銀の少女について知り、さらに共和国から客員士官がやって来たことを知った時、忌まわしい国籍を持つ白髪白肌の人間に対する、たまらない拒否感がまず湧いた。
関係は良好だったと、シン達自身が語っていたから、理性ではわかっていても、抑えきれない何かがあった。
同じ人種は連邦にも少しはいて、けれど共和国などというラベルは誰の背中にも付いていない。白銀種の指揮でエイティシックスが戦うなど、まるで迫害当時の構図だ。彼は直ちに不満と反対の意見を送りつけ、そして似たような意見を送ったのは決して一人きりではなくて、一度きりの〝報復〟という形で意見は通った。
それを落としどころとしたいのだろうし、自分にだって理性はある。これで溜飲が下がるはずと、自分でも思っていた。
白銀色の長い髪の、一房だけを真紅に染めた〝鮮血の女王〟の、喪の黒衣と共に濡れ鼠となった姿を見て、それで満足するはずだったのだ。
だが駄目だ、まだ足りない。胸の中から何かが晴れない。
もっと思い知るべきだ、その白銀の双眸と涼やかな声で指揮し、自分達はおろか、他ならぬエイティシックスまで駒と操るなら、その資格を得るための試練は、まだまだこんなもので終わってはならない。
だいたい、あのペンキさえもっと……〝鮮血の女王〟の歓迎の水に、こっそりとペンキを混ぜた者がせっかくいたのに、バレて懲罰を受けるなど、いまいち溜飲が下がりきらなかったのは、あれも理由の一つではないか。
どいつもこいつも、どうしてあれで納得する。シンですら、どうして受け入れている。どう関係が良好だったかは知らないが、安全な壁の内側から指揮をして、エイティシックスの扱いは非道であったことは変わらない。
足りていない、まだ駄目だ、もっともっとだ。
もっと何か――死ねとは言わない、指を切れとも言わないけれど、もっと何かがあってもいい。共和国という、その国籍を持つという罪は、あれくらいでは清算できない。
「うっ!」
彼――ライチェス・インディは、脳に走った痛烈な電気に頭を押さえ、突然の頭痛に目を見開く。確かにこの場所は、何ヶ月も前に戦場で負傷して、ひどく痛めたものだった。いくら痛んでもおかしくはない箇所だったけれど、もうとっくに治ったはずなのに。
頭が割れそうだ、どうして今更。
何故だ、この頭痛は何だ――ああ、そうか。
おれの異能か……。
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